<Ark>

2007・9・29

 「Ark(アーク)」は、ガンガンWINGで2006年3月号より始まった連載で、雑誌で2006年を通して行われた「1年間連続新連載」のひとつとして開始されました。その後、2007年7月号にて終了を迎えます。1年と少しの連載期間ということで、長めの短期連載か、あるいは中期連載といったところでしょうか。コミックスは3巻で完結しています。作者は、WINGではかなり長く執筆を続ける作家のひとり・冬季ねあ

 この1年間連続新連載は、それまでWINGを支えてきた長期連載が次第に終了を迎えるために、その穴埋めとして新規の戦力となる連載を大量に投入しようという企画でした。しかし、実際に始まったこの連載には、あっという間に終了を迎える短期連載ばかりで、正直期待はずれの感は否めませんでした。成功して雑誌に根付いた長期連載は、わずかに3作品程度で、全体的には失敗だったことは明白でした。

 そんな中で、この「Ark」は、決してすぐ終わる短期連載ではなく、かなりのクオリティを有する作品であり、長期連載となった3作品に次ぐほどの成功作と見てもよい作品でした。しかし、元から中期で終わる連載と決まっていたのか、長期連載にはなりえず、しかも、作品自体も、総じて地味な作風で大きな人気を得られる作品ではなかったため、最後まで目立たない扱いに終始してしまいました。内容的には地味ながらも堅実な面白さを有する良作だったため、最後までほとんど話題にならずに終わってしまったのは、少々残念でした。
 作者である冬季ねあさんにも同じことは言えており、これまでにも何度も堅実な良作をWINGで残しながら、今ひとつ表に出られなかった作者ですが、今回もまた、非常に地味な扱いに終始してしまいました。ひどく不遇な作家であると言えます。


・冬季ねあとは?
 この冬季ねあという作家は、ガンガンWINGでは今や古参中の古参と言える作家であり、その登場は、あのエニックスお家騒動よりもはるかに前に遡ります。今のWINGで、お家騒動以前からの連載作家となると、小島あきらさんが「まほらば」を終了させて以来、あとは「dear」を連載中の藤原ここあさんしかいません。しかし、冬季さんは、このふたりよりもはるか以前からWINGで執筆を続けており、今や最古参の作家であると言えます。

 まず、最初の連載だったのが、これはゲームコミックである「ファイアーエムブレム-光をつぐもの-」。「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」の第二部をコミック化した作品であり、原作の知名度の高さもあって、この作者の作品の中では最も知られている作品となっています。連載が開始されたのは1998年7月号ですが、これは、ガンガンWINGがそれまでの新人育成雑誌からリニューアルし、通常の雑誌(当時は隔月刊)となった第一号にあたります。つまり、今の形のWINGが創刊した時から、連載を開始していた作家だったのです。同時期の新連載作家としては、藤野もやむや箱田真紀、戸土野正内郎、綱島志朗などのメンバーが名を連ねていますが、彼らはすべてWINGから去ってしまっています。
 また、この当時の冬季さんは、ガンガンWINGが発行していたゲームアンソロジーでの執筆も行っており、そちらでの活躍も顕著でした。
 そして、「光をつぐもの」も、お家騒動直前まで続く長期連載となりますが、最後はファイアーエムブレムコミックの例に洩れず、完結しないままで終わっています。お家騒動の余波を受けて終わった可能性もあり、もしそうだとすれば随分と残念なことです。

 その後、お家騒動で大量の作家が抜けた直後から、おそらくはその穴埋めのために、急遽新しい連載を開始します。これが、「JINX」で、作者初のオリジナル連載となります。この連載は、お家騒動直後の2001年12月号より開始されますが、2002年の4月号には終了した短期連載であり、コミックスも一巻で完結してしまいます。騒動の際に急遽決まった短期の連載であったことは間違いないところでしょう。極めてダークなストーリーの作品でもあり、これが以後この作者に一貫した作風となります。

 そして、しばらくおいて2002年10月号から、こちらはかなりの長期連載となる「天眷御伽草子」を開始。以後、2005年4月号まで続く一大連載となり、同時期に連載を開始した「dear」「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」「ショショリカ」などと並んで、のちのWINGを支える作品の一角となります。しかし、これらの作品と比べると、一段劣った地味な扱いに終始した感は否めず、雑誌の表に出ることは多くありませんでした。作品自体は、これまでの作者の連載の中でも最も優れた良作だと思われたため、この扱いはひどく不遇だったと言えます。

 そして、この連載が終了してしばらくのち、ついにこの「Ark」の連載を開始します。これも、かなりの良作でありながら、雑誌内で地味な扱いに終始し、中期の連載で終わっているという点では、「天眷御伽草子」と共通しています。ここまで長くWINGで執筆を続けてきた作家であるにもかかわらず、さほど注目されない状態に終始しているというのは、あまりにも不遇であると言わざるを得ません。


・ホラーとしてひどく怖い作品ではないが、古城の雰囲気は良く出ている。
 前作「天眷御伽草子」は和風のファンタジーだったのですが、この「Ark」は、打って変わってヨーロッパの古城が舞台のホラー作品で、新連載当初からそのことが大きく採り上げられていました。両親や使用人と共に城で暮らす貴族の少女エレナが主人公。境遇では恵まれたものがありながら、両親との関係がうまくいかず、孤独を抱えつつ過ごしています。しかし、ある一夜を境に、城中のほとんどの人が消えうせてしまい、代わって不可解な現象がエレナを襲い、とりわけ3人の女の幽霊が執拗に付きまとい、その背後からはさらなる存在までが少女を狙うようになります。エレナは、城で残った数少ない人間である二人の男性と共に、城からの脱出を目指して恐怖に駆られつつ探索を行うことになります。

 西洋の古城が舞台ということで、ホラーとしては定番の舞台設定とも言えますし、得体の知れない存在が飛び掛ってきたり、人形の首が飛んできたりといったホラーシーンも散見されます。しかし、とてつもなく怖いという作品ではなく、むしろ古城の雰囲気を重視した作風であるようにも思われます。
 人物たちの華美な服装や室内の細やかな調度品など、華やかな生活を思わせる描写と、それとは正反対に、厚い壁と大きな窓、広い廊下に見られる寂寞とした古城の雰囲気とが効果的に表現され、実に雰囲気溢れるホラーファンタジーとなっています。たまに登場する城の外のシーンで、穏やかで広々としてどこか寂しい田舎の光景も惹かれるものがあります。ホラーシーンでも、エレナの夢に出たぶ厚い檻に閉じ込められるシーンが特に鮮烈で、これと古城の静まり返った光景とを合わせて、あの名作ゲーム「ICO」を思い出した人もいたようです(ストーリーなど、内容的には全く異なりますが)。作者の後発の作品で、絵のレベルが上がっている点も、これらのシーンの見ごたえに拍車を掛けています。


・極めてダークなキャラクター描写で見せる。
 そして、ストーリーですが、この作者の過去の連載と同様、人間の負の側面が強く出たキャラクターたちの描写が非常に顕著で、なんとも暗いストーリーとなっています。
 主人公のエレナも、貴族の娘として両親と共に大きな城で暮らし、大勢の使用人に世話される境遇でありながら、決して楽しい毎日を送っているわけではなく、引っ込み思案な性格が災いして、両親との間でまともな交流が出来ず、むしろ完全に疎まれています。そんな両親になんとか近づきたいと、母親がなくした指輪を広い草原の中でただひとり必死に探す姿は、その華やかな外見・服装とのギャップの間で、実に哀れをさそいます。

 しかし、このストーリーの中では、エレナはまだましな方だと言えるでしょう。この後に現れるキャラクターの境遇には、さらにさらに暗いものがあります。
 まず、エレナにつきまとう女幽霊の三人組であるワンド・オカリナ・ダイナです。この3人の娘は、かつての城の住人で、エレナ同様に城に閉じ込められ、そして朽ちて死んでしまった存在なのですが、その生前の思い出で語られる彼女たちの体験は、どれもこれもひどく陰惨なものばかりです。疎んでいた父親に怒られるのが恐ろしくて、付き合っていた少年に罪をかぶせて逃げたり(ワンド)、あるいは自分がまともな人格を持つものとして認められず、無残にも捨てられてしまったり(オカリナ)と、立場や境遇はそれぞれ違いますが、どれもひどくつらい過去を持っており、その妄執に突き動かされてエレナを襲ってきます。

 そして、最後に、その3人の背後にいる、この一連の事件の黒幕、首謀者である男の境遇が、やはりこの中でも最もひどいものであるかもしれません。無残に殺された後もその妄執が残り、この城に来る者を取り込むようになったこの男の顛末は、大いに同情する余地もあります。

 こう見てくると、後の方に登場するキャラクターほど、より陰惨でダークな境涯を持っているように思えるのですが、これは意図的にそういうストーリーになっているのでしょう。次第に闇の中心へと落ち込んでいくかのようなストーリーは、最初の頃こそややスロースタートですが、中盤以降は加速度的に引き込まれるものがあります。


・ストレートな萌えとはやや異なる絵柄。
 そして、この作者については、絵柄についてもかなり独特なものがあります。
 ガンガンWINGの作者だけあって、一応は雑誌のカラーである中性的な萌え絵柄と言えますが、ほかの作品とはかなり雰囲気が異なり、やや女性的で少女マンガ的とも言える作風を帯びています。「少女マンガ的」という点では「dear」もそうなのですが、こちらのマンガが、かなりストレートな萌え絵となっているのに対し、この冬季さんの作品は、それとは一線を画するものがあります。やや人を選ぶところは否めないところで、WINGの中でも今ひとつの人気で地味な扱いに終始している原因のひとつとなっています。

 しかし、この絵はこの絵でひどく魅力的なものがあります。なんというか、人物の描き方にひどく色気を感じるところがあり(萌えとはちょっと違う)、それがなんとも言えません。特にこの「Ark」では、主人公のエレナの描き方に非常に力が入っており、人形のように整った顔立ちと服装の少女でありながら、やはり微妙な色気のようなものが感じられます。このあたりは、萌えの影響をあまり受けていない女性作家ならではの作風と言えるでしょう。

 そして、キャラクター以外でも、背景の描写もよく出来ています。かつての「ファイアーエムブレム-光をつぐもの-」の頃は、背景に白い部分が目立ち、今回もまだそのようなところが残ってはいますが、それでもずっとレベルは上がっています。この美しい背景描写は、古城とその周辺の広々として寂寥とした世界をよく表しています。ここでも、決して派手なビジュアルではないため、地味であまり人気を得られていない点は否定できませんが、それでも他の連載と比べて決して劣るものではなく、洗練された美しさがあります。


・注目度の高い連載ではなかったが、確かな内容を持つ良作だった。
 以上のように、この「Ark」、この作者ならではのキャラクターの負の側面が強く出たストーリーと、西欧の古城を舞台にした雰囲気溢れる描写が優れており、内容的にはひどく充実していました。「1年間連続新連載」の中でも良作と言えるもので、決して悪い連載ではありませんでした。

 しかし、この作品は、最後まで地味な扱いに終始し、誌面で注目を集めることは多くありませんでした。極めて落ち着いた地味な作風と、1年半という比較的早期に終了した連載期間も併せて、このマンガに注目していた人は少数派かもしれません。他の1年間連続新連載の多くが、短期連載であっという間に終了してしまい、内容的にも不十分だったのですが、このマンガまでこれら短期連載と同列にして扱われてしまい、ますますその存在が埋没されてしまったように思います。
 しかし、実際には、このマンガは確かな良作であり、他の短期終了マンガと同列に扱うべきではありません。この1年間連続新連載では、長期連載化した成功作「ちょこっとヒメ」「東京☆イノセント」「夏のあらし!」の3作品のみが誌面に残り、特によく評価されていますが、それに加えてもうひとつだけ、この「Ark」も、確かな良作として大いに評価したいところです。

 そして、お家騒動以前、ガンガンWING創刊時代から連載を続ける唯一の作家である冬季さんの連載ということで、その点でも評価したいところです。これまでも、幾度となくWINGで連載を行ってきましたが、いずれのマンガもかなりの良作であるにもかかわらず、雑誌内では注目度の低いままでした。そして、この「Ark」も、全く同様に地味な存在に終始し、最後まで注目されずに終わってしまいました。だからこそ、この作品をきちんと評価して、強くその存在をのちに伝えるべきだと思ったのです。


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