<B壱>

2006・11・7

 「B壱」は、少年ガンガンで2001年11月号より開始した連載です。これは、あの「エニックスお家騒動」直後に始まった連載であり、騒動で大量に離脱した連載を補うために組まれた、いわば「穴埋め」的な連載のひとつです。作者は新人の大久保篤で、この連載の原点となる同名の読み切りをしばらく前に残しており、それが騒動のために急遽連載化されたという状況でした。しかし、このマンガは、急な連載化でありながらも、内容は非常に面白いもので、活きのいい新人の個性が全面に出た良作だったのです。

 しかし、このマンガは、それだけの良作でありながら、2年にも満たない短期間で打ち切られた悲運の作品でもあります。2003年6月号で終了し、単行本も4巻までしか出せませんでした。ラストの展開も完全な打ち切り仕様であり、誰が読んでも一目で打ち切りと分かる有り様でした。
 実際、この打ち切りは、ガンガンの長い歴史の中でも極めて不可解な打ち切りであり、当時は読者の間からも疑問の声が殺到しました。そして、この打ち切りの前後に、他にもいくつも不可解な打ち切りや移転が次々と起こり、ガンガンの質の低下は致命的なものとなった感があります。
 もっとも、この「B壱」の作者である大久保篤さんに関しては、幸いにものちに「ソウルイーター」という新しい連載をガンガンで開始し、しかもかなりの人気連載となりました。しかし、この「B壱」も、決して「ソウルイーター」に劣らない良作であり、断じて打ち切りになるような連載ではなかったのです。


・少年マンガと呼ぶにはあまりに異質。
 前述の通り、このマンガは、お家騒動で離脱した連載の穴埋めのひとつとして始まったのですが、この穴埋めの連載群には、当初から露骨に少年マンガを意識した作品が多数含まれていました。当時のガンガン編集部は、お家騒動前の雑誌の路線を変更し、王道少年マンガを志向する路線へと方向転換したのです。この「B壱」もその中のひとつであり、編集部より少年マンガ的な内容を求められての連載起用だったと思われます。しかし、実際に始まったマンガの内容は、確かに少年+バトルという、王道少年マンガ的な作りではあるのですが、それ以上に作者の個性が顕著に出た「異質な内容」の方が目に付きました。
 次のコメントは、単行本2巻の巻末で作者が残したものですが、それがこのマンガの尖った異質な方向性を端的に表しています。

僕の一番嫌いなコトは「努力」。
なんとナンセンスで理解に苦しむ行為だろうか・・・。
でも「根性」は好きだ。役者根性、助平根性・・・、なんだっていい。
だから僕は努力せずに 根性でおもしろいマンガを描こうと努力する。 ・・・あれ?

 このマンガは、確かに少年の活躍を描く王道アクションバトル的な要素も持ち合わせています。しかし、このコメントからも透けて見えるように、実は作者の感性は王道マンガのそれではなく、むしろかなりウィアードな(ひねくれた)ものではないかと推測できるのです。


・凝ったビジュアルと言葉遊びによる独特の世界観。
 その異質さが顕著に窺える要素にして、このマンガの最大の特徴と言えるのが、その凝りに凝りまくった世界観です。特に、極めて尖った感性で描かれた建築物のデザイン、そしてそんな建築物が画面一杯にひしめき合う雑多な街の描写は、あまりにも異質で特徴的であり、多くの読者の目を真っ先に引く要素となりました。

 そして、その建築物の壁や垂れ幕、電柱などに描かれた妙な言葉遊びに満ちた数々の文句。これががまた、あまりにも作者の歪んだ感性が露骨に出たもので、このマンガの尖った方向性を印象づけるものとなったように思います。単行本から適当に拾っただけでも、「のんだら死ぬな 死ぬならのむな」「HIGH気ガス」「脳死脳殺脳税の義務」「シニカル ケミカル コミカル 首狩る」「暗雲(くらうん)」「今進まずに何時止まる」「工臓改革」などなど、意味はよく分からないが作者の歪んだ感性を感じまくることは出来るでしょう。しかも、中にはかなり過激な文言も目立ちます。少年マンガとはいえ、内にはかなりの毒が仕込まれているように感じます。

 そして、この凝った建築物の数々と言葉遊びに満ちた文句が多数詰め込まれた画面構成は、あの名作マンガ「王ドロボウJING」を彷彿とさせるところがあり、実際に読者の間からも、「JINGのような独特の世界観がいい」という評価も聞かれました。
 もっとも、実際にはまだまだ新人の作品らしく絵には荒いところが多く、さすがにあの「JING」の緻密な世界には及ばないと思いますが、それでもこの作者の感性が垂れ流された世界観は実に魅力的であり、ガンガンの同時期の少年マンガの中でも、特に個性が際立つ存在でした。同誌の新連載の中でも、一風変わった連載として、読者の間でも一目置かれた存在だったと思います。


・この個性的なキャラクター。
 そして、世界観だけでなく、キャラクターも異彩を放っています。この個性的なキャラクターの存在は見逃せません。

 まず、主人公にして「道化師」という特殊能力者である将太郎。数ある道化師の中でも、生物の骨から元の生物の身体能力を得る「狂骨」の持ち主にして、道化師の宿命としてひとつの制約「一日一善」を課されています(骨(BONE)+一日一善(壱)で「B壱」のタイトルになります)。この世界では、道化師は普通の人間からすれば異端の存在で、露骨に差別されているのですが、将太郎自体は明るく前向きに生きており、自分を差別する人間をも「一日一善」で救おうとします。
 しかし、実は過去にひどい差別を受け、道化師の友達を失ったという経歴を持ち、明るく気楽に生きているようにみえて、時にその過去を感じさせる言動を取ります。この「キャラクターが重い過去を持つ」というのは、「B壱」の最大の特徴であり、これがキャラクターに思った以上の深みを与えています。

 そして、将太郎の仲間である檜真夏(ひのきまな)と七海陽平(ななみようへい)。このふたりは、道化師ではないのですが、やはりどちらも過去にかなりひどい目にあっており、それがいまだにトラウマとなっています。過去の弱い自分からの脱却というのは、少年マンガでは定番のストーリーではあるのですが、それでもこのマンガは、キャラクターのひどい過去の描写にひどく力が入っているようです。

 中でも、後者の陽平というキャラクターは、主人公以上の個性と深い人間性を持ち、その存在感は際立っていたように思います。ビジュアル的にも言動的にも非常にカッコいいキャラクターで、その点でも読者の人気を集めました。ストーリー的にも序盤から中核に位置するような役回りで、完全に主役を食っていたような活躍ぶりでした。この陽平こそが、「B壱」の隠れた主役と言っても過言ではありません。


・敵キャラクターの個性こそが光る。
 主人公たちだけではありません。主人公と対決する敵キャラクターの個性も光るものがあります。いや、主人公たち以上に個性があったと言ってもよいでしょう。

 それも、強敵であるボスクラスの敵だけでなく、他のマンガならば単なるやられ役に過ぎないであろう、ザコ敵まで個性が際立っています。全身コードだらけの作業服を着て、ガスボンベの銃を乱射しまくるガスマスク男(ソレンス隊長)などはその最たるもので、その異様な姿と、「ガスガス狙って ガスガス撃てぇー」という独特のセリフ回しが強烈で、単なる三下のザコとは思えないほどの個性に満ちていました。上司に使われる中間管理職として、ストレスのあまり最後に一暴れして主人公に倒される姿にも、哀れを誘うものがありました。決して使い捨てのザコのような描かれ方ではなかったと思います。

 しかし、突出して凄まじい存在感を示したのは、なんといっても陽平の宿敵である「回転王」ノフィックスです。あらゆる回転を自在に使いこなすという男で、その狂気に満ちた言動には大いに惹かれるものがありました。回転を使いこなすことを象徴する、グルグルと狂気に満ちた目つきが印象的で、このマンガの異質さを象徴するようなキャラクターでした。個人的にも、このキャラクターにはひどく惹かれました。やはり回転は男のロマンでしょう(謎)。

 そして、この男が陽平の宿敵として、ストーリー中盤で陽平と共に中心に躍り出るのも、このマンガの真の主役を象徴していると言えます。というか、はっきりいってこのマンガ、もう陽平(とノフィックス)が主役ということでいいんじゃないでしょうか(笑)。個性的なキャラクターばかりの中で、彼らふたりの存在感がとりわけ突出していたような気がします。


・作者の後発作品と比べて、毒と重みがある。
 そして、もちろん肝心のストーリーも面白い。それも、作者の後発作品である「ソウルイーター」と比べても、こちらの方が勝っている部分が多いような気がします。
 まず、このマンガは、確かに勧善懲悪のバトル系少年マンガとしても読めますし、それだけでも十分面白いのですが、それ以上に、作者の尖った思想が顕著に出ているところに魅力があります。それも、露骨な差別描写があり、あるいは明確な社会批判に属するテーマもあり、反体制・反権力的な思想も垣間見え、あるいはアクションシーンでも鮮血がほとばしるような過激で残虐な描写が見られ、あるいは前述のように言葉遊びにも過激な文言が随所に見られるなど、どうも全体的に、作者の持つ「毒」が目立つ作りになっていると感じるのです。

 そして、個々のキャラクターの描き方にも力が入っていて、それぞれが過去にトラウマを持っていたり、道化師としての制約に苦しめられていたり、下っ端として満足のいく扱いを成されていなかったりと、誰もがひどく厳しい立場にあります。そして、そうした彼らのバックボーンに裏打ちされた言動や思想には重みがある。後発の作品と比べても、この「B壱」の方が、ストーリーに重みがあるように思えるのは、決して気のせいではないでしょう。


・なぜこのマンガは打ち切られたのか。
 以上のように、このマンガは、作者の尖った感性が全面に出た異質な内容に加え、ストーリー的にも十分な重みがある、非常に個性的かつ読み応えのある作品だったと記憶しています。編集部の求める少年マンガとしての用件も満たしており、その点でも優秀でした。
 しかし、それだけの完成度を持つ作品のはずなのに、なぜかこのマンガは、早期にあっさりと打ち切られてしまうのです。これは、どう考えても納得いかないもので、当時のネット上のファンサイトや掲示板では、編集部の決定に疑問と批判の声が飛び交いました。

 それにしても、なぜこうもあっさりと打ち切りにしたのか。
 まず、やはり単純にアンケートでの人気が悪かったと推測は出来ます。エニックス、特にガンガンは、実はかなりアンケートを重視しているらしく、「単純に人気がなくて打ち切りになった」と聞くケースはかなりあります。
 そしてこのマンガの場合、あまりにも作者の尖った「毒」とも言える感性が全面に出ていたのも、人気の面で悪い方向に働いたのかもしれません。これは、マンガを愛読する高年齢の読者、いわゆるマンガマニアにはひどく喜ばれたものの、果たして低年齢の子供の読者に受け入れられたかどうかは分かりません。むしろ、露骨に差別描写や社会批判が強く出ているような作風は、子供には敬遠された可能性もあります。ネットで積極的に活動するマンガマニアにとっては優秀なマンガでも、編集部が求める子供の読者(本来の少年マンガの読者)には抵抗が強すぎて受けなかったのかもしれないのです。

 これは、作者の後発作品である「ソウルイーター」との比較でも推測できます。この「ソウルイーター」、「B壱」と同様に作者の個性的なビジュアルや言葉遊びは健在ですが、完全に少年向けの娯楽要素に特化した内容となっており、社会批判や過激な文言は見られなくなっています。このあたりで、なにか「毒を抜かれた」印象の作品になっている点は否定できません。これは、「B壱」が受け入れられなかった反省から、次回作ではこのような方向性の転換を図ったのではないか?と推測できるのです。


・ガンガンの質の低下が決定的になった打ち切り。
 しかし、そのような理由を鑑みたところで、この打ち切りが明らかな誤りであったことは疑いないように思います。
 確かに異質すぎる作風は読者を選んだかもしれませんが、それにしても、これだけの優秀な連載を打ち切りにしていいわけはありません。作風は異質とは言え、編集部の求める少年マンガとしての要素は十分に満たしており、そんなマンガまで受け入れずに打ち切るようでは、一体ガンガン編集部の求めるものはなんなのかと言う気にもなります。読者の批判はもっともであり、これでガンガンに対して冷めていった読者もかなりいたように思われます。

 しかも、この打ち切りを前後して、ガンガンは、他にも優秀な連載の打ち切りや他雑誌の移転を相次いで行い、一気にクオリティが低下した感があります。特に、「B壱」の打ち切りと並んで衝撃的だったのが、同じく優秀な少年マンガだった「ドラクエモンスターズ+」の打ち切りで、これもガンガンの読者に激しいショックを与えました。加えて、「B壱」と同時期に始まった個性派連載である「妖幻の血」「ドームチルドレン」もパワードへと移転し、長期連載に入っていた「ARTIFACT;RED」もWINGへと移転させるなど、良作が次々とガンガンから消えていきました。そして、どう見ても平凡な、あるいはつまらない連載ばかりがいたずらに継続し、あるいはそのような新連載が始まるなど、雑誌のクオリティが完全に崩壊してしまいます。

 実は、かつてのガンガンは、お家騒動でいきなりクオリティが崩壊したわけではありません。むしろ、騒動の直後では、残った編集部が必死に個性的な新連載を投入し、誌面にはかなりの活気がありました。しかし、それがこの時期になって、本当に崩壊してしまうのです。
 そして、お家騒動の混乱にもかろうじて耐え、ここまでガンガンを読み進めていた古参読者も、この時期の惨状に直面して完全に編集部に愛想を尽かしてしまい、読むのをやめた人をかなり見かけました。実は、この時期にガンガンをやめた古参読者もかなり多かったのです。


 このように、この「B壱」というマンガ、確かな面白さを持つ優秀なマンガでありながら、理不尽な打ち切りによって、当時のガンガンの質の低下の象徴になってしまうという、極めて悲運の作品であったと言えます。個人的には、後発の「ソウルイーター」よりも優れていたと思われる連載だったがために、このマンガの打ち切りは本当に無念としか言い様がありません。


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