<もしブレイド騒動が起きなかったら>

2004・10・6

 かつて、エニックス出版の編集者の一部が離反し、「マッグガーデン」という新会社を興し、 エニックス系のマンガ家(WING、ガンガン中心)を集めて「コミックブレイド」という雑誌を創刊させたことは、このサイトを閲覧している皆さんの多くが御存知の筈です。
 この一連の騒動により、ブレイドに移籍した作家の多くが旧連載作品の中断を余儀なくされ、ある作家はブレイドで新しい連載を起ち上げ、またある作家は一旦中断した作品を(タイトルの一部を変えて)連載を再開しました。そして、残されたエニックス側の雑誌でも、抜けた作家の穴埋めをすべく、多くの新人マンガ家による新連載が始まりました。
 しかし、もしここで、この一連の騒動が起きなかったら、上記の連載群はどうなっていたでしょうか? ここでは、あえてその状況をシミュレートしてみました。


・連載を中断した作品はどうなっていたのか。
 まず、最初に気になるのは、「移籍の際に中断された連載がもし続いていたら」どうなっていたか、という問題です。
 ブレイド移籍の際に、中断を余儀なくされた連載としては、ガンガンでは「スターオーシャン セカンドストーリー」(東まゆみ)、「里見☆八犬伝」(よしむらなつき)、WINGでは「パンゲア」(浅野りん)、「ワールドエンド・フェアリーテイル」(箱田真紀)、Gファンタジーでは「tactics」(木下さくら+東山和子)、ステンシルでは「南国動物楽園綺談」(斎藤カズサ)等が挙げられます。

 これらの作品には、時間を置いてようやく復活した作品もかなり含まれますが、その中でも、未だに復活できず、今後も復活できないであろう作品がひとつ存在します。「スターオーシャン セカンドストーリー」です。
 この連載は、ゲームを原作にもつゲームマンガですが、「ゲームではこれから面白くなる」という正にその時に中断させられ、しかも原作がエニックスのゲームという関係上、ブレイドに移ってからは絶対に復帰は望めないだろうという、極めて無念な終わり方をした作品です。もし、これが続いていたらどうなっていたでしょうか。連載当時もガンガンの看板的な人気があったマンガですが、それがきちんと完結まで連載していれば、さらに相当な盛り上がり方をしたに違いありません。個人的には、今のブレイドの東さんの連載は、この連載ほどには面白くないと感じているので、ますますもって残念です。

 ステンシルでの連載であった「南国動物楽園綺談」は、これも中々いい連載だったのですが、これも中断を余儀なくされ、しかも今となっては、作者の斎藤カズサさんが連載そのものを持っていない状態にまで落ち込んでおり、こちらも非常に悔やまれます。斎藤さんは、天野こずえさんとは親密な友人関係らしく、同じくステンシルで連載していた天野さんと共に、ステンシルを支えていた連載だけに、この二人の連載中断がなければ、ステンシルの廃刊自体なかったかも知れません。

 それ以外の連載は、ほとんどが幸いにも時間を置いてようやく復帰してきましたが、それでもかつての連載ペースは保てず、「tactics」以外は一旦落ち込んだ人気を回復することはできないでいます。
 特に、かつてのWINGの看板であった「パンゲア」「ワールドエンド・フェアリーテイル」 のふたつの作品はかなり深刻で、ようやく復帰だけはしたものの、かつての連載ペースはもはや保てず、勢いはまったくありません。さらには、作者の浅野さんと箱田さんの新規連載も、このふたつの連載に比べれば劣るのではないかと思われ、そう考えるとますますもってこのふたつの連載中断が惜しくなってきます。「ワールドエンド・フェアリーテイル」などはかつては何度もWINGの表紙を飾り、まさにWINGのイメージ的存在であったがために、もしあのまま連載が続いていればと考えてしまいます。作品そのものだけでなく、雑誌であるWINGに与えた影響も計り知れないでしょう。


・連載が続いた作品について。
 次に、ブレイドに移籍後も、そこで連載を続けることができた作品について見てみます。
 この種の作品としては、ガンガンでは「魔探偵ロキ」(木下さくら)、「新選組異聞PEACEMAKER」(黒乃奈々絵)、「まもって守護月天!」(桜野みねね)、WINGでは「悪魔狩り」(戸土野正内郎)、「ジンキ」(綱島士朗)、「陽炎ノスタルジア」(久保聡美)、ステンシルでは「AQUA」(天野こずえ)等、かなりあります。

 これらの作品は、騒動の中でも掲載誌(とタイトルの一部)を変えただけで済み、その点では幸運だったと言えます。しかし、どういうわけか連載継続後も盛り上がった例は多くありません。
 移籍後はテンションが下がってしまったのか、移籍前より面白くなった、クオリティが上がったと思われる連載があまり見られません。そんな中で、なんとかクオリティを維持しているのが「AQUA」(移籍後は「ARIA」)「悪魔狩り」あたりでしょうか。
 そして、それ以外の作品は、全体的にクオリティが落ち、かつてほどの勢いがありません。特に、「ジンキ」などは移籍後は作品の方向性が全く変わってしまい、かつてほどのオリジナリティは感じられず、「陽炎ノスタルジア」は不定期で休載続き、「守護月天」に至っては作者の面影すら感じられない(笑)など、決してうまくいってないようです。

 なぜ、かつてのクオリティが維持できないのか。まずは、やはり掲載誌の移転によって、作家のテンションが維持できないという問題が考えられます。エニックス内の雑誌移転でも、移転後はあまりうまくいかないケースが多いことから、そもそも移転自体が作家にとっていい影響を与えないのではないでしょうか。
 そして、最大の問題として、ブレイドという雑誌自体の問題が大きい。ブレイドの目指す、マニア向け娯楽要素全開の誌面作りについていけないケースが多いのではないか? そんな気がします。

 そして、もし移籍騒動が起きず、これらの作品がエニックスで連載を続けていたらどうなっていたか? 少なくとも、全部が全部クオリティが落ちるようなことはなかっただろうし、今よりはずっと安定した連載を続けられたのではないでしょうか? 実際「ジンキ」などはあのまま連載が続いていたらどうなったのか非常に気になりますし、「AQUA」の連載もそのまま続いていれば、ステンシルの廃刊自体なかったかも知れません。これらの連載が無事続いていたら、今ごろは作家自体もかなりの大物になっていた可能性があります。これは、前述の、連載中断を余儀なくされた作家についても言えることで、もし彼らが安定して連載を続けていたら、今よりは遥かに優れた評価を得ていただろうと容易に想像できます。そう考えると残念でなりません。


・作家移籍により、元の雑誌で始まった新連載。
 ・・・と、暗い話題ばかりを話しても仕方ないので、ここでひとつ「よかった」点も挙げてみようと思います。
 移籍組が去ってしまった後、エニックス側の元の雑誌では、その穴埋めのために新連載を始めざるを得なかったわけですが、その新連載組の新人作家の中に、優れた人がいたかもしれません。彼らは、いわば移籍組の代役的な存在であり、移籍騒動が起きなければ連載デビュー出来なかったであろう方々です。彼らがデビューできて、優れた作品を残すことが出来ていれば、それは結果的に幸運な成果だと言えるでしょう。

 まず、ガンガンにおける新連載ですが、これはなんといっても「スターオーシャン セカンドストーリー」(東まゆみ)の連載終了を受けて始まった、その続編ゲームのマンガ化である「スターオーシャン ブルースフィア」(水城葵)でしょう。このマンガは、正直に言えば前任者の東さんの作品には劣るところが多く、人気自体もいまひとつと、完全な成功ではありません。しかし、完全な新人に対して、いきなりガンガンで連載の機会が与えられたのは大きかったのではないでしょうか。マンガ自体も決して悪い内容ではありません。

 次に、ステンシルについてはどうか。こちらは、より大きな誌面の刷新がみられます。
 「BUS GAMER」や「AQUA」などの看板作品を失ったステンシルは、今までとは異なる方向性の新連載を始めました。その最たるものが「灰色の乙女たち」(加藤理絵)で、派手な要素は何もない、落ち着いた雰囲気の文学的とも言える作品で、派手な要素に頼らない、内容重視の方向性を打ち出しました。さらには、個性派ギャグの「パパムパ」(もち)、大正時代物ですがすがしい作風の「東京流星」(林ふみの)と、どれも地味ながら優れた作品揃い。この当時のステンシルは、私的にはかなり面白かったと思うのですが、残念ながら雑誌の人気は回復できず、廃刊になったのは本当に残念で、いまだに納得できません。しかし、移籍騒動後のステンシルで、これだけの新連載が打ち出せたという事実は非常に大きかったと思うのです。

 しかし、移籍後の新連載といえば、やはりガンガンよりもステンシルよりも、WINGのそれが最も大規模に始まりました。移籍騒動で最も甚大な被害を受けた雑誌はまぎれもなくWINGであり、そのためにWING編集部は大量の新連載を急遽立ち上げねばなりませんでした。
 しかし、移籍直後に始まった大量の新連載は、その多くが未熟であった点が否めず、ほとんどが失敗、ほぼすべてが一年以内に連載終了してしまいました。しかし、その中でわずかに成功した新連載が「わたしの狼さん(dear)」(藤原ここあ)と「天正やおよろず」(稀捺かのと)です。このふたつは、今でもWINGの看板になっています。
 このように、移籍騒動直後の新連載群は失敗に終わりましたが、それでもWING編集部は、約1年後に2回目の新連載攻勢を始めました。そして、こちらの方は見事にうまくいったのです。「瀬戸の花嫁」(木村太彦)、「機工魔術士−enchanter−」(河内和泉)、「天眷御伽草子」(冬季ねあ)、「BEHIND MASTER」(坂本あきら)、「がんばらなくっチャ!」(仲尾ひとみ)、「ショショリカ」(上杉匠)等々、まさにこの当時の新連載群が今のWINGの中核となっています。
 これらのWINGの作品群は、「もしブレイド騒動が起きなかったら」その多くがいまだに連載されていないことが予想されます。これらの作品・作家が日の目を見たのは、皮肉にもブレイド騒動のおかげであるとも言えるのです。

 そして、これはガンガンやステンシルに於いても言えるわけで、確かにブレイド騒動はひどすぎる被害をエニックス系雑誌にもたらしましたが、しかし、その瓦礫の中で新たな作品・作家が連載を持つ機会を得たことは、実に幸運な成果であり、さらには、編集部と作家の努力の成果であるとも言えるのではないでしょうか。


(余談)
 余談ですが、移籍騒動直後に、ガンガンで「スターオーシャン ブルースフィア」の連載を始めた水城葵さんと、ほとんど同時期にWINGで「天正やおよろず」を始めた稀捺かのとさんは、実は双子の姉妹であります。つまり、エニックスは、移籍騒動後の代役に双子の姉妹ふたりをあてがったのであって、すなわち、この双子の萌え作家がデビューできたのはブレイド騒動のおかげであり、個人的にはこの騒動に感謝しないといけないのです(笑)。


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