<スターオーシャン ブルースフィア>

2008・2・1

 「スターオーシャン ブルースフィア」は、少年ガンガンで2002年3月号から2005年4月号まで連載された作品で、同名のゲームボーイソフトのコミック化作品です。ガンガン系では毎回のごとくコミック化されるトライエースのゲームで、その中でも大人気を博した「スターオーシャン セカンドストーリー」の続編に当たります。作者は新人の水城葵(みずきあおい)。

 そして、その「スターオーシャン セカンドストーリー」のコミック化作品も、この作品の直前まで連載されており、この「ブルースフィア」のコミック化作品は、その後を引き継いで連載が開始されたという経緯をもっています。「スターオーシャン セカンドストーリー」は、こちらのコミック化担当は東まゆみですが、彼女も含めて大多数の作家・編集者が一斉にガンガン、エニックスを去るという事件(エニックスお家騒動)が起きたため、ほとんど打ち切りといってもよい中断の仕方で、前年の後期に唐突に終了してしまいます。その後、残ったガンガンの編集部が、ガンガンを引き継いで抜けた連載の穴を立て直していくわけですが、おそらくはその時に「中断した『スターオーシャン セカンドストーリー』の代わりに、『スターオーシャン ブルースフィア』の連載を始めよう」という運びになったのだと思われます。

 つまり、このマンガは、最初からお家騒動で抜けたマンガに対する「穴埋め」的な措置で急遽始められた側面の強い作品であり、さほど綿密な計画に沿って企画された作品ではありませんでした。そのためか、中断した前作である「スターオーシャン セカンドストーリー」に比べると明らかに劣る点が多く、決して完成度の高い作品とは言えなくなってしまいました。特に、この作品が初連載となる新人・水城葵の未熟さが強く出た形となっており、とりわけ序盤の頃は決して出来のいい作品ではありませんでした。人気の上でも、ガンガンの看板だった「スターオーシャン セカンドストーリー」とは比べるべくもなく、雑誌内でも平凡な一連載に終始する結果となりました。
 その後、終盤の頃には作者の実力が上がり、それなりに読める作品になった点は評価できますが、全体的に見ればやはり今ひとつの連載で、平凡なゲームコミックとしてのイメージは変わりませんでした。この当時から、ガンガンではゲームコミックでも平凡な作品が相次ぎ、かつての質の高さが見られなくなりますが、これはそのような作品の端緒となった感があります。

 なお、作者の水城さんは、同時期からWINGで連載を行っている稀捺かのとさんとは実の双子であり(水城さんが姉)、近い関係からか絵柄がよく似ています。ただ、やはり違いもあり、水城さんの方がややシャープで鋭角的な描線なのに対して、稀捺さんはまるく柔らかい描線なのが特徴となっています。


・お家騒動が生んだいびつな連載。
 そもそも、このマンガにおいては、「スターオーシャン ブルースフィア」のコミック化担当を新人にやらせること自体が、非常に問題のある企画であり、最初から誰もが(特に原作ゲームのファンが)「おかしい」と感じていたことでもありました。

 お家騒動以前に「スターオーシャン セカンドストーリー」のコミックを担当していた東まゆみさんですが、このコミックが非常な人気を集め、原作ゲームのファンからも高い支持が寄せられたため、続編の「ブルースフィア」においては、ついにゲームのキャラクターデザインに抜擢されます。当初は別の人がキャラクターデザインを行っていたのですが、それを変更した上での大抜擢でした。これは、コミックを読んでいた原作ゲームのファンからも実に好評で、キャラクターデザインに決定が決まった時には、多くの喜びの声が聞かれました。

 しかし、ゲームの発売(2001年6月28日に発売されました)の直後、前述のように「エニックスお家騒動」が起きてしまい、たった今「ブルースフィア」のキャラクターデザインを行ったばかりの東さんも、いきなりエニックスを離れるという異常事態に見舞われます。 「セカンドストーリー」のコミック連載も、ほぼ打ち切りのような形で中途半端なところで終了し、これは多くの読者を愕然とさせました。お家騒動に伴うコミック連載の中断は他にも多数あり、どの連載も人気のあるものばかりで、至る所でショックの声が聞かれましたが、その中でもこの「セカンドストーリー」の打ち切り終了が読者に与えたショックは、どれよりも大きいものであったと記憶しています。

 その後、残ったガンガンの編集部は、中断した「セカンドストーリー」の穴埋めとして「ブルースフィア」の連載を開始します。こうして、原作ゲームでキャラクターデザインを行った東さんが去ったガンガンで、別の作家がコミック化を行うという、極めていびつな形での連載となってしまったのです。これは、お家騒動の事情を知らない読者にとっては、到底理解し難いものでした。なぜ「セカンドストーリー」の連載がいきなり終わった上で、この「ブルースフィア」の連載が、当のキャラクターデザイナーを差し置いて他の作家によって始まってしまうのか、まったくわけが分からず、そのことに対する疑問の声が各所で聞かれることとなってしまいました。


・前任者よりも明らかに魅力に欠ける絵柄。
 この「ブルースフィア」が、「セカンドストーリー」に比べて劣る点は、マンガの各所に及んでしまいますが、まず真っ先に誰もが気づく点として、「絵のレベルの低さ」があることは間違いないでしょう。全体的な絵のレベルの違いは明らかで、キャラクターから背景まで全般に及ぶことになってしまいました。

 まず、肝心のキャラクターの絵の力に欠けます。水城さんの絵は、基本的に「かわいい」系の絵柄で、キャラクターのかわいさはよく描けているかもしれませんが、反面とにかく体のラインが細く、ひどく不安定な印象を受けます。キャラクターのデッサンに力がなく、見た目から受ける印象があまりに弱い。前任者の東さんの絵が、かわいさに加えて肉感的なエロさを持ち(笑)、男女読者問わず非常に好評だったのとは対照的で、決して多くの読者を惹きつけることが出来ませんでした。

 加えて、時折織り込まれるギャグシーンで見られる、デフォルメされた絵もよくありませんでした。キャラクターの見た目が大きく崩れており、ともすれば雑に見える描き方であり、まったく魅力に欠けることになりました。これも前任者の東さんが、デフォルメシーンでもきっちりと魅力的なちびキャラを描き切ったのとは対照的なところです。実際、このギャグシーンでの崩れた絵は、作品全体の印象を著しく悪くしており、この作画がなければまだずっと見られた絵のマンガになっていたかもしれません。

 さらには、背景の描き込みやアクションシーンの構図でも見るべき点がなく、ここでもうまさに欠けます。アクションシーンなどは、単に派手なエフェクトや爆発で済ませているシーンが多く、ゲームコミックのアクションとしてはひどく魅力に欠けることになってしまいました。これは、これ以後のガンガンのゲームコミックで何度も見られることになり、お家騒動後のゲームコミックの低レベル化のひとつの特徴となりました。さらに、これはマンガ全体の構図の問題になりますが、小さいコマ割りと多用されるエフェクトが目立つページが多く、マンガの読みづらさでもいい評価を与えることができませんでした。

 とはいえ、単純に新人の初連載作品として考えれば、中々のレベルの作画ではあり、そこまで悪い評価の作品ではないかもしれません。しかし、これは大人気だった「セカンドストーリー」の代わりとして登場した作品です。となると、どうしても前作との明らかなレベルの違いが、読者の目には嫌でも強く映ってしまい、明らかに劣ってしまった絵を実感せざるをえなかったのです。


・内容も決して面白いとは言えない。
 そして、肝心のストーリーにおいても、決して面白いとは言い切れない作品となりました。
 序盤の頃は、とにかくキャラクター感の恋愛の要素が強く、加えてドタバタのギャグコメディシーンも多く、未開の惑星の探索というシリアスな設定が、あまり強く感じられなかったのです。恋愛要素があるのは原作ゲームもそうですし、「セカンドストーリー」のコミック化でも、キャラクター同士の恋愛は要所要素でよく織り込まれています。しかし、このコミックでは、最初からそのようなシーンがあまりに多く、ストーリーの腰を大幅に折ってしまっているように思えるのです。

 そのドタバタに満ちたギャグコメディシーンも好ましくありません。前述のように、絵そのものが雑で魅力に欠ける上に、一回の連載で何度もそのようなシーンが見られ、これでストーリーの緊張感が大きく欠ける結果となりました。前半のうちは、「ラドル」というスターオーシャンシリーズでは毎回出てくる迷子キャラクターが登場し、その軽いノリで毎回色々な騒ぎを起こすため、これも個人的にはかなり不快でした。本筋とは関係のないキャラクターが、毎回のごとくストーリーの腰を折って乱すのは、あまりいいことだとは思えませんでした。

 ストーリーそのものも、RPGでは定番で平凡とも言える「世界を滅ぼそうとする大いなる存在と戦う」というもので、こちらでも今ひとつ盛り上がりに欠けます。前作で登場した10人(原作では12人だが、このマンガでは後述する理由で10人)の仲間たちが、次第に集まって協力していく流れは面白いのですが、肝心のストーリーそのものには工夫が乏しい。もっとも、これは原作のストーリーがそもそもそこまで凝ったものではないため、コミック版のみを責めるのも酷かもしれません。

 追記として、若干ながら原作とは異なる部分もあります。コミック版では、原作の12人の主人公のうち、ノエルとチサトのふたりがほとんど登場しません。これは、前作「セカンドストーリー」のコミック版で、このふたりが登場する前に連載が中断してしまったため、その後を継いで始まったこの連載でも、前からの読者を考慮して出すことが出来なかったためと思われます。これは、前述のようにいびつな形で始まった連載の、不都合な点が出てしまったものだと言えます。


・終盤でのレベルアップと盛り上がりは評価できる。
 このように、当初から作画面でも内容面でもレベルがおしなべて低く、ゲームコミックとして決して評価できない作品となってしまいました。読者の人気も高いとは言えず、エニックス(スクエニ)が毎年恒例で出すコミックカレンダーのラインナップに加わった時も、多くが売れ残る結果となったことを覚えています。前作「セカンドストーリー」と同様の人気を期待して出しても、肝心の内容がいまいちでは読者もついてこないでしょう。

 しかし、全体的にはやはり評価できませんが、連載の終盤の内容については、これまでとは一段異なる作者のレベルアップが見られ、かつ適度にオリジナルを盛り込んだストーリーにも力が出て面白くなり、このあたりはかなり評価できるかも知れません。
 まず、終盤のあたり(コミックス全7巻のうちラスト2巻あたり)では、作者の絵のレベルが格段に向上しており、絵に力が出てきたのが顕著になりました。問題だったキャラクターの作画がよくなったのが好印象で、体のラインがよく描けるようになり、ようやく絵に肉感的な描写が見られるようになりました。加えて、キャラクターが大人びた雰囲気を持つようにもなったのも大きい。これらの要素は、主人公たちに敵対する最大の敵「アクマ」の描写に、特によく表れています。のちに、作者の水城さんは、よりエロに満ちた読み切りを残すようになりますが(笑)、この「ブルースフィア」終盤の作画で、その端緒を見ることが出来ます。

 さらに、終盤ではストーリーでも、中々の盛り上がりを見せました。ここに来て大きく加わったオリジナルの展開が活きており、アクマと主人公側のキャラクターの間で、単なる敵同士ではない強いつながり、葛藤を見ることができました。このマンガの最も盛り上がった見せ場であったと言えます。
 加えて、主人公たちの二年後を描く後日譚で終わる最終回も、とても後味の良いものでした。最後の最後でうまくまとまって終わったのは僥倖だったと言えるでしょう。


・全体的な評価は高くないが、お家騒動後のガンガンゲームコミックの中ではある程度評価できる。
 以上のように、お家騒動で抜けた作品の穴埋めのために急遽始まったという、いびつな要素を持ち合わせてしまったこの作品、新人作家の未熟さも強く出た内容となり、決していい作品とは言えないマンガとなってしまいました。お家騒動後のガンガンゲームコミックは、かつてに比べると明らかに面白さに欠け、平凡な作品ばかりが出るようになってしまいましたが、この「ブルースフィア」のコミック化連載は、その先駆けとなったと言えるかもしれません。

 ただ、一新人の作品としてみれば、中々に頑張ったところもあり、致命的に低レベルという作品というわけではないかもしれません。ただ、やはり偉大なる前作のコミック版との比較では、どうしても劣ると言わざるを得ません。また、それ以外にも、お家騒動以前には、優れたゲームコミックが非常に多かったため、この程度の平均的な作品でも、どうしても見劣りがしてしまうのです。

 とはいえ、同時期にガンガンで連載された「スターオーシャン3」のコミック版に比べれば、まだ安定して楽しめる作品でもあり、とりわけ終盤での作者の技術向上、ストーリーの盛り上がりは中々のもので、このあたりでは読めるものとして評価できます。この当時の作風は、作者ののちの作品にも影響を与えているところもあり、のちのさらにハイレベルな読み切りのきっかけとなった点でも、よかったと言えるかもしれません。かつてのレベルの高かった時代のゲームコミックには明らかに劣りますが、お家騒動後の混乱で急遽始まってしまった点と、完全な新人の初連載である点を考慮すれば、まだ健闘したと言えると思います。

 ただ、このマンガの企画そのものには、少々疑問も残ります。そもそも、お家騒動で「スターオーシャン」の連載が抜けたからといって、どうしても代わりの連載をさせる必要があったとは思えません。作者の水城さんが読み切りでは中々の作品を残していること、双子の妹の稀捺さんが、こちらはガンガンWINGでのオリジナル連載(「天正やおよろず」)が、ひどく面白かった連載だったことを見ると、水城さんにもオリジナルの作品を描かせていれば、もっと成功できていたかもしれません。絶対に必要と思えるゲームコミックでもなく、全体的には平凡な連載に終わったことを考えると、このような「お家騒動で抜けた連載の代わりを立てよう」などという、安易な企画を行う必要は無かったと思えるのです。


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