<兄弟-BROTHERS->

2008・10・21

 「兄弟-BROTHERS-」は、ガンガンWINGで2008年3月号から始まった連載で、同年の12月号まで続きました。同誌が2008年になって開始した新連載攻勢のひとつであり、この前号の2月号で「戦國ストレイズ」、次号の4月号で「まじぴこる」、5月号で「おとして↓アプリガール」と続きます。

 作者は、成瀬芳貴で、ガンガンWINGのマンガ賞「天の翼賞」出身の新人です。この新連載攻勢の中では、この成瀬芳貴と「おとして↓アプリガール」の望月菓子が新人に相当しており、ここ最近のマンガ賞からの出身者が、少しずつ本誌で連載枠を獲得している状況となっています。最近の新人の中では、作画レベルではかなりのものがあり、その点では他とは一線を画するものも感じられます。ちなみに、ペンネームからは分かりにくいですが、女性の作家であり、バトルアクションものながら丁寧な作画姿勢にそれが表れているかもしれません。

 内容的には、ファンタジー系のバトルアクションもの、と言えるような作品で、このところWINGが積極的に採り入れようとしている「正統派バトル系ファンタジー」の路線を色濃く継いだものとなっています。さらには、キャラクターや作画的に女性に好まれやすい作風とも思われ、この点でもここ最近のWINGが採り入れようとしている女性向け作品の傾向をも強く受け継いだものとなっています。この双方の特徴を受け継いでいる点において、今のWINGの求める路線を最も忠実に表している作品かもしれません。
 さらには、ひどく独特の設定をも多数持っており、特に「ライト兄弟」や「グリム兄弟」など、歴史上で有名な兄弟をモデルにしたキャラクターが、ファンタジー世界で魔物退治役として登場する、という非常に尖ったキャラクター設定が特徴的です。その兄弟が、バトルにおいて役割分担を果たして強力して敵を倒す、という点でも、幾多の捻った設定が散見されます。

 しかし、これまでにWINGで登場したバトル系ファンタジーが、どれも今ひとつの結果に終わっているように、この「兄弟-BROTHERS-」もまた、現在のところは今ひとつ突出したところのない作品に留まっているように思えます。新人作品としては作画レベルはかなり高く、真面目にバトルファンタジーを描こうとする姿勢は感じられるのですが、それ以上に独創的なこの作品ならではの特長はまだ感じられず、独特の設定もややとっつきにくさを感じるもので、女性向けのイメージと合わせて、少々読者を選んでしまったようです。短期間で打ち切り的に終了してしまったのも、そのあたりのことが理由ではないでしょうか。


・とにかく設定の奇抜さが気になる。
 当初、「兄弟」というタイトル画面を目にした時は、一瞬どういうマンガなのか判断に迷ったのですが、ふたを開けてみれば、若干世界観の外見にくせがあるものの、比較的オーソドックスな異世界での魔物退治系ファンタジーだということが判明します。

 戦争もなく平和に暮らしていた世界。そこに、異世界から「ドラクル」という異形の化け物が現れるようになり、世界に恐怖を振りまくようになります。この「ドラクル」を倒すことができるのは、血を分けた兄弟のみ。兄弟のみが魔物を倒すエクソシストとしての奇跡の力を与えられる世界。主人公のローゼンスキー兄弟も、そんなエクソシストになることを夢見て、エクソシストを養成するという学園へとやってきて、そこで訓練を受け過酷な闘いへと身を投じることになります。

 ざっとこのような筋のマンガなのですが、この作品で一点気になるのは、とにかく設定に極端なまでの奇抜さを感じることです。魔物を倒せるのはなぜか兄弟のみ・・・まあここまでは許容範囲だと思うのですが、実際に登場する兄弟は、「ライト兄弟」や「グリム兄弟」など、なぜか実際の歴史で登場する有名な兄弟たちで、しかも彼らが自分たちの得意とする技で魔物を倒そうとします。例えば、「ライト兄弟」ならば、自らの発明した飛行機を武器にして魔物を制圧する、という描写が見られるのです。
 作品の世界はごく純粋な中世風ファンタジー世界なのに、一点このような実在の人物(をモチーフにしたキャラクター)が登場し、しかもその世界とはかけ離れたテクノロジーの描写まで出てくる。まずこのことに相当な違和感を覚えますし、少々無理が過ぎるような設定の気がします。「実在の有名な兄弟たちが出てくる」ことが、作品のひとつの売りなのかもしれませんが、それならば作品の世界を現実的なものに変えるとか、実在の人物が出てくる事情(タイムスリップとか?)を加えるとか、そういった無理を感じさせない設定にしてほしかった。今のままでは、作品を読んでいても違和感の方がつのります。

 そして、肝心の魔物とバトルの設定についても、あまりに捻りすぎて設定が分かりにくくなっているように思えます。兄弟2人が前衛と後衛に分かれ、前衛は体力を消費して魔物を追い詰める。ここまではまだいいのですが、その後、後衛がゲートを開いて異世界へと魔物を封印するが、その時精神力と引き換えに「J圧」なるものを体内に溜め込むという設定で、このJ圧は戦闘が終わっても消えることはなく、一定以上溜め込むと「バースト」して精神が崩壊するというような設定になっています。
 前衛や後衛の役割・能力ではさらに細かい設定描写があり、このような複雑な設定が重なることで、戦闘シーンの演出が少々分かりにくいものとなってしまい、設定を覚えるだけで時間がかかるような作品になってしまいました。兄弟が力を合わせて魔物を倒すという展開はいいと思うのですが、出来ればもう少し簡素な設定にして、とっつきやすさを重視した方がよかったのではないでしょうか。


・女性向け要素が強く感じられるビジュアルはどうか。
 そしてもうひとつ、見た目的に女性向け要素が少々強すぎるように思われるのも気になります。
 前述のように、このマンガは、明らかに女性向けを意識した作品になっているようで、ここ最近のWINGの新連載では、このような女性読者を引き込もうとする作品が頻繁に見られるようになっています。しかも、この作品は、これまでのものと比べても、さらに女性向けが強調されたような作風になっており、その点で多くの読者に抵抗を与えるのではないかと懸念されます。

 とにかく、キャラクターの比率が男性キャラに偏っており、しかも女性好みの美形キャラクターが多い。美形・美少年キャラクターのビジュアルが強く出た内容になっており、その点においてWINGの中でも最も極端な作風になっていたと感じます。このマンガ以外にも、WINGには比較的女性寄りだと思われる作品はあり、ここ最近ではそういった路線の作品を積極的に採り入れつつあるようです。しかし、これらの作品と比べても、この「兄弟」のビジュアルはさらに女性向けのイメージが強い。

 例えば、かつての人気マンガ「dear」などは、少女マンガ的要素の強い作品でもあり、美形キャラクターも何人も登場しましたが、一方でかわいい女の子のキャラクターも前面に出ており、何より絵柄が中性的で抵抗の少ないもので、男性読者のファンも多数見られました。同時期の「がんばらなくっチャ!」もそれに近いイメージがありました。
 最近になって登場した作品でも、ここまで女性寄りだと思える作品は多くありません。唯一、七海慎吾の「戦國ストレイズ」が、元々少女誌の連載作家だったこともあるのか、男性キャラが多くかなり女性読者に好まれる作風になっているようです。が、これとてかつての耽美的なビジュアルだった作品に比べれば、今回は随分とさっぱりした絵柄になっており、そこまで極端なビジュアルにはなっていないと思えます。

 一方で、この「兄弟」の場合、キャラクターが美形に偏っている上に、その描き方も「耽美的」とまでは言えないがひどく女性寄りだと思えるところがあり、多くの読者にとって抵抗が強かったのではないか。男性読者はもちろん、女性読者においても、ここまで大きく偏った作品を好む人は、WINGにおいては少ないのではないかと思えます。


・絵のレベルが高いことは評価できる。
 ただ、新人の作品の中では絵が極めて安定しており、高い作画レベルを維持していることは、かなり評価できました。
 キャラクターに多少偏りがあるとはいえ、キャラクターの絵そのものはすべて安定しており、子供から年配の大人までどれもしっかりと描けています。一定のキャラクターしか描けない(例えば年を取ったキャラクターが描けない)とか、そういったことは感じられません。男性の美形キャラクターが多い一方で、女性のキャラクターも問題なく描けており、この点でも好感が持てます。キャラクターの絵柄も、それ自体はWING的、スクエニ的な絵柄にほど近いもので、極端に雑誌の方向性と異なる絵柄というわけではなく、この点でも合格点が与えられます。その分、あまりにもキャラクターや容姿の偏りが見られるのが、少々残念に思えるのです。

 アクションシーンの作画も良好で、動きのあるアクションや、大きくアップされた迫力あるコマ割など、こちらでも十分合格を与えられるものです。魔物のグロテスクな造形もきっちり描かれており、こちらでも印象深い。一応、まだまだ雑に思えるコマやシーン結構見られますが、それでもこれならば新人の作画レベルとしては十分なものだと感じられます。
 背景の作画も、おしなべて良好で、自然の光景から西洋風の建物まで、きっちりと隅々まで書き込まれたコマが目立ち、描き込みの少ない白い部分が目立たず、雰囲気のある世界をよく再現しているようです。個人的には、この点が一番好感が持てますね。お家騒動後のWINGの作品は、かつてのファンタジー色が減り中性的な日常ゆる萌え作品が増え、背景がさっぱりしてさほど描き込みを重視しない作品が多くなっていました。そんな中で、このような描き込みをする新人作家を、久々に見たような気がします。

 総じて、最近のWINGの連載マンガと比較しても、この作品が一番見映えがすると思いますし、この作画をもっと伸ばしてレベルを挙げていけば、より重厚なファンタジー作品も描けるのではないか、と期待できるところがあったのですが・・・。


・作品のクオリティ自体はさほど悪いとは思わないが・・・。
 この「兄弟」、今述べたように絵のレベルはかなり高く、新人としては十分合格ですし、ファンタジーバトルアクションものとして、一定のクオリティは有していると思います。きっちりした作画で描かれたバトルシーンや背景描写など、ビジュアルから受ける雰囲気は決して悪いものではありません。むしろ、WINGの新連載の中でもトップクラスにあったと言ってよいでしょう。

 しかし、このマンガ、それ以上に多くの読者にとって抵抗の強い作風となっており、実際にはまっている人もそう多くはなさそうでした。
 理由としては、まずあまりにも設定が奇抜で、素直に理解するのが難しいこと。歴史上実在の兄弟が平然とファンタジー世界に登場する点や、兄弟でないと魔物を退治できないという設定の上、役割分担とバトルの方法にもさらに複雑な設定があり、一気に理解するのが困難なこと。これがまず初見の読者を作品に馴染みにくくしています。
 そして何よりも、あまりにも女性寄りだと思えるキャラクターの偏重さが、さらに多くの読者の足を遠のかせていたと感じます。これまでのWINGにも、やや女性寄りに見えたり少女マンガ的だったりする作品は何本もありましたが、これほど強く感じる作品はあまりありません。それも、美形キャラクターによるバトル重視の少年マンガ的な作品を好む、マニア志向の女性読者の好みに合っているような作風で、これにはかなりの抵抗を覚えます。WINGのこれまでの読者層とは大きくずれがあり、男性読者のみならず女性読者にも抵抗を感じる人が多かったのではないか。

 そして、これが作者自身の描きたいマンガだというなら、それはまったく構わないと思うのですが、問題は、ここ最近のWINGが、このような女性に好まれるようなタイプのバトル系ファンタジーを、強く採り入れようとしていると感じることです。そのため、この作品も、「WINGの編集部主導の形で、このような作風になったのではないか?」と推測してしまうところがあります。実際にどこまでが作者の意志で、どこまでが編集部の主導なのかは分からないのですが、いずれにせよ今のWINGの路線である王道的・バトル系ファンタジーの起用、及び女性に好まれそうな作品の起用を、最も忠実に実行した作品になっていますし、それが本当に妥当な路線での作品作りなのかどうか、はなはだ疑問なのです。

 実際にも、最後まで大きな読者人気を得られたようには感じられませんでした。新人作品であるにもかかわらず、連載第1回でいきなり巻頭カラー、2回目もセンターカラーを獲得し、掲載ページ数も非常に多い状態で始まりました(とはいえ、これは最近のWINGの新連載によく見られることではありますが)。掲載ページ数の多さに合わせて、コミックスの刊行も早く、非常に早い段階で1巻・2巻までは刊行されました。しかし、これほど編集部に推進されているにも割には大きな動きはなく、逆に1年も経たないうちにあっさりと終了してしまいました。ストーリー的にもこれからというところでの終了で、おそらくは打ち切りなのではないかと思われます。編集部の強烈な推進にもかかわらず、このような結果に終わったことで、作品の内容のみならず、WINGの今の路線にも疑問符を付けた一作であると思います。


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