<カラーメイル>

2011・4・21

 「カラーメイル(COLORMAIL)」は、少年ガンガンで1998年No.2から開始された連載で、同年の10月号で終了しています。少年ガンガンは、この年の初頭まで約2年ほど隔週刊体制でしたが、この連載開始直後のNo.5,6合併号を最後に月刊へと戻ってしまいました。この「カラーメイル」は、その隔週刊時代に連載を開始し、当初は隔週ペースだったわけですが、すぐに雑誌が月刊に戻ってしまったため、以後は月刊ペースでの連載となりました。隔週時代を含めて1年にも満たない連載期間で、あまり長い連載にはなりませんでした。コミックスも1巻で終了していますが、この1巻が非常な特別仕様となっています(詳しくは後述)。

 作者は、藤原カムイ。言わずと知れた大物のベテラン作家で、ガンガン的には、創刊時からの長期連載だった「ロトの紋章」の作者としてあまりにも有名でしょう。この「ロトの紋章」、97年初頭に最終回を迎えたのですが、その後しばらくして、藤原カムイの新しい挑戦として始まったのがこの「カラーメイル」でした。当時は、幻冬社のコミックバーズの方でも「雷火」という長期連載を完結させており、そんな大仕事から解放されたカムイさんが、旺盛な実験精神を大いに発揮し始め、この「カラーメイル」という意欲的な実験作に取り組むことになりました。

 そう、このマンガ、まさに「実験作」という言葉がふさわしい、斬新なアイデアと創作手法を取っており、コミックスを手に取った誰もが驚くような作品になっています。その理由は、ひとつにはPCを使った全面デジタルの作画があります。このマンガ、すべてPCを使ったデジタルな作画で、アナログのペンはまったく使われていません。もちろん、今となってはこんな風にマンガやイラストをPCで描くのは当たり前、むしろそちらの方が主流とすら言えますが、この当時はまだインターネットも黎明期で、PCやソフトのスペックもそれほどでもない時代でした。そんな中で、自分でPC制作の手法を編み出して、こんなマンガを描いたカムイさんの仕事は、まさに先駆者と言えるものでした。

 その上で、単にPCを使っただけの作品にもなっていません。真にこのマンガが実験作と言える理由、それはタイトルどおり、「色」を使った斬新なアイデアのビジュアルに尽きると言えるでしょう。この斬新なアイデアで、今見てもあっと驚くような作品となっています。


・2大長期連載を終えて実験精神が一気に開花!
 藤原カムイは、元々は80年代から盛んに活動を続けている作家で、当時はマニア向けの作家としてその実力が認められ「大御所」とも呼ばれていました。しかし、まだこの頃の知名度はあまり高くなく、知る人ぞ知るマニアックな作家でした。それが、91年から少年ガンガンで連載を開始したドラクエマンガ「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」が大ヒットとなり、これで一躍メジャーな作家となりました。これが、97年初頭まで続く長期連載となります。また、ほとんど同時期の長期連載として、コミックバーズで「雷火」という作品も手がけており、この2大長期連載で90年代前半はフルに仕事をこなすことになりました。とりわけ、「ロトの紋章」の末期の頃の仕事量は凄まじいものがあり、隔週時代に突入していたガンガンで、それでも連載ペースが上がるという状態で、その精力的な活動ぶりには感嘆するものがありました。コミックスの作者の前書きでも、この時期の過酷な、しかし充実した仕事の一端が窺える箇所が見られます。

 そして、ついに「ロトの紋章」と「雷火」という2大長期連載を終えた97年。この2つの大仕事を終えて解放されたカムイさんは、しかしマンガに対するさらなる実験精神を発揮し始め、これまでにない実験作と言える作品をいくつも発表し始めます。「ロトの紋章」と「雷火」は、いずれも王道バトル・ファンタジーと言える作品でした。しかし、これらの作品は、それらとは一線を画する奇抜さに満ち溢れており、作者のやりたかったことが全面に出たマンガとなっています。

 そんな作品のうち、ひとつがここで紹介する「カラーメイル」、そしてもうひとつが、これは集英社のウルトラジャンプで連載された「福神町奇譚」です。これは、「福神町」という、大正時代をモチーフにしたような、異界に存在する不思議な街を舞台にした連作で、読者からキャラクターや世界観、設定に関するアイデアを募集し、それをカムイさんが作品に反映させるという手法を採っていました。これを「インタラクティブコミック」と銘打ち、当時黎明期だったインターネット上で同好の読者を集め、コミュニティを開いて作品に対する意見交換を行い、関連商品としてCDを出したり、インターネットラジオを配信したりと、そういった活発な活動が目立ちました。今では、インターネット上でコミックやラジオを公開・配信する行為は当たり前に行われていますが、黎明期のこの時代において、ここまで積極的に活動を行ったのは貴重です。こちらでもまさに先駆者と言える活動だったのです。


・「色」を全面に押し出したストーリー、世界観が特徴的。
 さて、この「カラーメイル」ですが、タイトルどおり「色」をモチーフにした世界観、ストーリーに見るべきものがあります。この作者ならではの遊び、ユーモアのセンスも随所に見られ、カムイさんの個性が全面に出た作品となっています。

 主人公は、アイという名の活発な少女。優しい心を持つ弟のモエギと、気のいいおじいちゃんと3人で暮らしていましたが、ある時突然太陽が真っ黒になり、それにつれて世界中から色と言う色が失われていってしまいます。アイの弟のモエギも、謎の黒い怪物にさらわれていきました。そんな時テレビに登場したのが、色の神官アッシュグレイ。賢者である彼が言うには、世界から色が失われたのは、色泥棒のブラックレイブンという魔王が、ありとあらゆる色を奪ってしまったからだと。そして、それを取り戻すための戦士をひとり遣わした。その戦士こそが主人公のアイだったのです。アイは、世界から色を取り戻すため、そして弟のモエギを救い出すため、世界の色を司る精霊たちを解放する旅に出ることになります。

 全体的に、極めて王道というかスタンダードなファンタジー物語なのですが、とりわけこのマンガの場合、「ロトの紋章」のような少年マンガ作品、バトルファンタジーとはちょっとニュアンスが異なり、より素朴な童話的な物語となっているようです。主人公のアイが、色の精霊たちを救い出すという展開もそうですし、さらには、冒頭でアイ以外の人間がことごとく呪いで石となってしまい、代わって動物たちが人間の姿を取って活動するようになり、中でもアイと親しかった犬と猫がお供として旅についてくるというくだりは、いかにも動物と心を通わせる人間が主役という、童話的な設定だと思います。また、随所に見られる寓話的なエピソードも、童話の特徴だと言えるでしょう。

 それともうひとつ、このマンガは、作者の藤原カムイの独特のギャグやユーモアがいたるところに見られるのも、大きな特徴です。このマンガ、上で書いたようなあらすじだけを見れば、かなりシリアスなファンタジー物語だと思ってしまうかもしれませんが、実は決してそれだけではありません。むしろ、至るところで脱力するようなギャグやパロディネタが盛り込まれ、現れる敵もユーモラスな外見でどこか性格も抜けたものばかり、さらには主人公や仲間たちまでよく羽目を外してしまうような、かなりの部分でコメディに近いノリの作品となっています。シリアスなストーリーももちろんありますが、それと同じくらいギャグやコメディの比重が大きい作品ですね。


・「色」を使ったビジュアルのアイデアこそが最大の肝。
 しかし、このマンガは、単に色をモチーフにしたストーリーというわけではありません。その「色」が魔王によって消え失せ、そして主人公たちの手で復活していく様子が、フルカラーの画面でそのまま表現されている。これこそがこの「カラーメイル」最大の見所であり、このアイデアこそが作品のオリジナリティのすべてと言っても過言ではありません。

 まず、このマンガ、冒頭は普通のフルカラーコミックで始まります。「普通の」というとなんだかおかしな感じですが、すなわちすべてがコンピュータによる作画で描かれたフルカラーCGコミックで、この当時としてはこれ自体がまず画期的なものでした。しかし、あれから15年近くが経った今では、このようなマンガの存在はもはや当たり前になっています。これだけなら、今見てもそれほど珍しいものはないでしょう。

 しかし、冒頭から数ページ後に、色泥棒である魔王ブラックレイブンに世界中の色が奪われる展開となるのですが、ここから先は、まさに世界が色を失ったことをそのままビジュアルで再現し、画面の色がすべて褪せ、やがて白と黒だけのモノクロマンガになるのです。つまり、普通の雑誌に掲載されるモノクロのマンガとかなり近いビジュアルになるのですが(ただし色を表現するトーンは使われていない)、今までフルカラーだったマンガが、いきなりモノクロになるところがまず驚きです。

 そして、話が進んで、主人公のアイ一行が、魔王に捕われた色の精霊たちを一人ずつ解放していく展開となるのですが、ここからがこのマンガの真骨頂です。すなわち「赤」をつかさどる精霊を解放すると、画面に赤が、「橙」をつかさどる精霊を解放すると、今度は画面に橙が、「黄」をつかさどる精霊を解放すると、今度は画面に黄色が、と画面にその色が次々と復活してくるのです! 最初はモノクロの画面だったものが、まず赤だけが復活して、画面の一部が赤くなり(例えば、赤い花や服、壁の色だけが有色で描かれる)、次に橙が復活すると、赤に加えて橙の部分が有色になる。そして黄色が、さらには緑が、とひとつひとつ色が復活するたびに、画面の有色の部分がどんどん増えていき、元のフルカラーの世界がどんどん近づいてくる。これは、実際に見てみると、誰もがあっと思うような驚きがあります。

 近年では、PCで作画する時に、「レイヤー(層)」という描画用の透明なシートをいくつも使って描くようですが、このマンガの場合、そのレイヤーが、実際に画面の上で見えているようでとても面白い。つまり、基盤となるモノクロの画面の上に、「赤のレイヤー」「橙のレイヤー」「黄色のレイヤー」と、次々に新しい色のシートが積み重なっていくような感覚で、非常に鮮烈です。いや、実際にこのマンガを描く上で、そのような機能を使っているのかもしれません。これをPCなしの手作業の作画のみでやろうとしても、手間がかかりすぎて非常に困難でしょう。まさにPCでの作画ならではのマンガだと言えます。

 ちなみに、コミックスでは、色が一色復活するたびにページの外枠の部分がその色に染められ、外からページの背を見ると、きれいな色のグラデーションが出来上がっています。また、ページの下部にカラーチャートのようなものも用意され、その時点で復活した色が表示されるという、粋な演出が成されています。


・しかし、連載当時の反応は芳しくなかった。
 ただ、これだけ斬新なアイデアに満ちた作品ではあったのですが、このマンガの連載当時の反応は、あまり芳しいものではなかったと思います。致命的に悪い評価ではないのですが、思ったほどには話題には上りませんでした。
 実験作としてのアイデアが評価されなかったわけではありません。むしろ、この「色」のモチーフを駆使した斬新なビジュアルのアイデアに関しては、ほとんどの人に文句なく評価されていました。問題は、それ以外の部分、すなわち肝心のストーリーやテーマに関してです。

 前述のとおり、このマンガは、主人公が魔王に立ち向かって精霊たちを解放するという、話自体は非常にストレートな定番王道展開のファンタジーです。すなわち、アイデアは良くても話自体は平凡だと受け止められ、思ったほどはまった人は少なかったようなのです。それも、このマンガの場合、前述のように「童話」(もしくは児童文学)的なところがあり、低年齢向けのおとぎ話だとも受け止められてしまったため、そこでもガンガン読者の好みには合わなかったようです。
 このマンガが童話的だと思われるひとつの要因として、いくつも教訓となるような寓話的エピソードが見られることがあります。例えば、緑がまだ失われた状態の草原で、草食動物が肉食になってシカがライオンを食べようとするくだりがあります。このあたり、自然の調和が崩れた姿を読者に提示する、まさに寓話的な話となっていて、わたしなどは大変面白いエピソードだなと思ったのですが、しかしこのような話は、少年少女向けのマンガ誌の連載としては、地味すぎて読者には受けなかったのかもしれません。

 そしてもうひとつ、藤原カムイ独特のギャグ、ユーモアに満ちた作風も、読者に受けなかった可能性があります。これも先ほど書いたとおり、このマンガ、思った以上にギャグやパロディネタが多く、必ずしもシリアスな話にはなっていません。むしろ、読者が思いっ切り脱力してしまうような展開が本当に多く、ラスボスの魔王ブラックレイブンでさえ、最後は非常に情けないやられ方をして終わってしまいます。このあたりで、シリアスなファンタジーを求めていた読者には腰砕けの印象で、あまりはまれなかったのではないかと思うのです。


・今となってはあまり知られていない作品だが、これは語り継ぐべき偉大な先駆作。
 このような理由もあってか、連載期間中から意外にも注目度は高くなかったこの作品、連載期間自体も1年弱と短かったこともあり、連載終了後は、さらに急速に忘れ去られた感すらありました。また、この当時のガンガンは、隔月刊から月刊に戻った時期にあたり、売り上げ不振から月刊に戻ったことからも分かるように、一時的に読者が減少していた時期でもあり、そのためにさらにこのマンガを覚えている読者は少ないのではないかと思われます。

 さらには、このマンガに関しては、コミックスの売り上げも芳しくありませんでした。全面フルカラーコミックで、しかもページごとに使われている色が異なるという特殊仕様から、単行本の価格が極度に跳ね上がり、定価1800円という高額なものとなりました。そのため、購入に二の足を踏む読者がとても多かったのです。また、特殊なコミックスだけあってどこの書店でも入荷数自体が少なく、ほとんど入荷されないところも珍しくありませんでした。そのため、この「カラーメイル」のコミックスを購入した人は、非常に少なかったのではないかと思われるのです。わたしも、このコミックスを持っている読者に出会ったことは、(ネット上でも)ほとんどありません。わたし自身は、発売直後に買ったのですが・・・すぐそのまま絶版になったようです。

 そんなわけで、ほとんどの人には知られていない、あるいは忘れ去られた作品になってしまったのですが、しかしこのマンガに込められた藤原カムイの実験精神は、やはり偉大であることは間違いありません。まだマンガをPCで描くこと自体が珍しい時代で、ここまで実験的で斬新な作品を早くも手がけていた。これは本当に素晴らしい、讃えられるべき試みであり、のちのCGコミックの隆盛につながる先駆的な作品になったと思うのです。

 思えば、この藤原カムイさんほど、マンガに対する思い入れが強い作家はほとんどいません。彼よりも絵がうまい作家はいるでしょうし、また彼よりも面白いストーリーを手がける作家、高い売り上げを達成する作家もいると思います。しかし、毎回ここまでマンガの手法を追求し、あくなき実直な努力を見せる作家は、そう多くはない。そんなカムイさんのマンガに対するあくなき思い入れが最も強く表れた作品が、この「カラーメイル」ではないでしょうか。


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