<ひぐらしのなく頃に 昼壊し編>

2009・1・16

 「ひぐらしのなく頃に 昼壊し編」は、ガンガンONLINEで2009年3月(3月26日更新分)から開始された連載で、以後9月まで全7回にわたって連載されました。その後コミックスが発売され、全1巻で完結しています。

 タイトルからも分かるとおり、スクエニでコミック版が大きな成功を収めたPC同人ゲーム「ひぐらしのなく頃に」の一編にあたる作品で、それも本編の後で発売されたファンディスク「ひぐらしのなく頃に 礼」に収録された、いわばファンサービス的な一編をコミック化した作品となっています。また、この「ひぐらしのなく頃に 礼」は、アニメ化もされており、そちらでもこの「昼壊し編」が放映されました。
 さらには、この「昼壊し編」、「ひぐらしのなく頃に」を元に作られた対戦格闘ゲーム「ひぐらしデイブレイク」の設定を元にしており、それからの派生作品という側面もあります。ただし、「ひぐらしデイブレイク」のストーリーとは異なった完全書下ろしとも言える内容で、基本的な設定のみが踏襲されているようです。

 このような形で作られた作品のため、本編とは大きく毛色の異なる言わば「お遊び的な外伝」とも言えるストーリーとなっていて、全体を通して暗さのない、明るいギャグコメディとなっているようです。本編は、ホラーやミステリー色を強調し、頻繁に残虐なシーンも入ってくる、暗い側面も随所に見られるストーリーでしたが、この「昼壊し編」には、そのような暗さは一切見られません。本編を終了した後に描かれた、制作者である竜騎士07自身も楽しんで書いた純粋なファンサービス作品であると言えます。

 とはいえ、本編でも明るいコメディシーンは頻繁に登場しており、そういった箇所と作風は一致していますし、「ひぐらし」本編を体験してきたユーザーならば、さほど抵抗なく楽しむことが出来るでしょう。逆に、本編を体験しきっていないユーザーにとっては、ストーリーの核心に触れる、いわゆる「ネタバレ」の部分もかなり大きいため、いきなりこの「昼壊し編」を読むのは、かなり厳しいものがあるかもしれません。本編を最低でもラスト付近まで体験したユーザー向きであると言えます。

 さらには、頻繁にパロディ要素が登場しているのも特徴で、自分の作品をネタにしたセルフパロディや、他のゲームやマンガ、アニメをネタにしたパロディが多数見られます。こういったパロディの元ネタを知っていれば、さらに楽しめる作品であると言えるでしょう。


・久々に登場した佳月玲茅がひぐらしをコミック化。
 そして、その「昼壊し編」のコミック版の作画を担当したのが、久々に連載で登場となった佳月玲茅(かづきれち)です。佳月さんは、かつてフレッシュガンガンで「ドクサイ某国プリンセス!」という読み切りでデビュー。当時から女の子の描き方がかわいかったなあという印象があるのですが、その予想がまったくその通りとなり、のちのスクエニではいわゆる萌え系の作家として扱われるようになり、そのような仕事を多数見ることになりました。

 まず、特定の萌え属性にテーマを絞った「萌えアンソロジー」コミックにおいて、毎回のように読み切りを掲載。裏表紙や巻頭での掲載も重ねるなど、アンソロジー内ではかなり大きな扱いを受けています。かわいい絵柄ながらも毎回女の子(男の子)のキャラクターがいじられる過激なネタが多く、一部の読者にちょっとした反響を呼んだようで(笑)、うちの近くの某書店では、過激なシーンを抜粋してポップにして展示していたところもありました。
 そして、この萌えアンソロジーの掲載と並行する形で、ガンガンパワードにおいてPS2ゲーム「キミキス」のコミカライズを担当。「キミキス after days」のタイトルで、2007年12月から5回にわたって短期連載されました。短期の連載ながら中々うまくまとまっていて、萌えアンソロジーのような過激な作風でもなく、ひとつの良作になっていたと思います。

 このような経緯を経た作家であり、最近までリリースされていた萌えアンソロジーでは活躍が続いていたのですが、一方で連載については、「キミキス after days」の終了後、次回作となる連載が長くありませんでした。しかし、ここにきてようやくあの「ひぐらし」のコミカライズという形で、抜擢されたようです。それも、新しく創刊されたガンガンONLINEにおいての掲載で、連載開始当時は告知ページで大きくピックアップされるなど、かなりの扱いとなっていました。

 肝心の作画においても、他の「ひぐらし」作家ほど重厚なイメージの絵ではありませんが、軽快な一種くだけた絵柄がこの一編のギャグコメディと合っていて、実にいい雰囲気の作画になっていると思います。相変わらずキャラクターがかわいらしく描けており、随所のギャグシーンでデフォルメされたキャラクターもよく描けていて、この「昼壊し編」の明るいイメージを良く再現した、優れた作画になっていると思います。


・とにかくギャグ、コメディシーンが本当に面白い。
 さて、肝心の内容ですが、「ひぐらし」本編のキャラクターのほとんどが登場し、「フワラズノ勾玉」なるアイテムを巡って大騒ぎを繰り広げるという、底抜けに明るい爆笑もののギャグコメディとなっています。元となったゲーム「ひぐらしデイブレイク」では、このアイテムを巡ってキャラクター同士が対戦するというストーリーなのですが、前述のように「昼壊し編」のストーリーは大きく異なっていて、キャラクターが対戦するといった要素はありません。

 騒ぎの中心となるのは、本編のヒロインのひとり・レナで、彼女が「フワラズノ勾玉」を期せずして飲み込んでしまったことから、大騒動が巻き起こります。この「フワラズノ勾玉」、赤い勾玉を持つ人は白い勾玉で対となっており、赤い勾玉を持つ人は白い勾玉を持つ人を好きになってしまうという秘宝でした。そして、赤の方を飲み込んでしまったレナは、一方で人から人へと渡り歩く白い勾玉に引かれて、持ち主に対して次々と恋心を抱いて強烈なアタックを繰り返すようになってしまうのです。

 そして、この勾玉の力で暴走したレナの行動と、本当に楽しく描かれています。レナは、本編でもかわいいもの好きのあまりに暴走することがありましたが、この「昼壊し編」では、勾玉の力を得たのかさらに暴走がパワーアップ。勾玉の力で好きになった人の為に、そんなことまでするのかというほど極端な行動を取るようになります。

 そして、そんなレナを助けようとする主人公の圭一を始めとする部活メンバーの奔走ぶりと、白い勾玉を持つがゆえにレナに迫られ、大いに振り回される人々のあわてぶりが、 また楽しいドタバタ騒ぎとなって描かれています。部活メンバーがこの騒ぎをある程度楽しみつつも追いかけていく一方で、普段は真面目な富竹や鷹野は大いに振り回され、逆に大石はこの状況を楽しんで麻雀勝負を挑んでくるなど、ひとりひとりの明るいリアクションが楽しく描かれています。本編では暗いところも多かったキャラクターたちですが、ここではその反動が出ているのか、一点の曇りもない底抜けに明るい作風となっています。

 一方で、今回の語り役ともなっている本編ヒロインの1人・梨花が、さりげに随所で黒い言動を取っているところも見逃せません。パートナーとなっている羽入に対する嫌がらせとも言えるおしおきの言葉がさりげなくひどい(笑)。これもまた本編では見られないギャグ要素となっています。


・制作者の趣味・お遊びが大量に盛り込まれたパロディネタの数々。
 そして、そんな楽しい作風をさらに倍加させているのが、大量に投入された数々のパロディでしょう。これまでのひぐらしの各編からネタを取ってきたセルフパロディもあり、あるいは他のゲーム・マンガ・アニメから取ってきたパロディもさらにたくさんあり、至る所にネタが盛り込まれています。、「ひぐらし」本編にもいくつかこういったネタはあるようですが、この「昼壊し編」は、本編から外れた完全なお遊び作品ということで、完全にたがが外れているのか、もう無数にあります。中には、制作者が単に自分の主張をぶつけるような箇所も見られ、ここでは書き手自身の暴走が見られます。

 このようなネタがよく表れているシーンの一例として、魅音がレナに対してモデルガンを撃つシーンがあります。ここで見ていた圭一がしゃべるセリフ「いつも私服の時、意味ありげに持ち歩きながら一度も抜かないばかりか、伏線そうに見えて何の使い道もなかったあのモデルガンだッ!!」というのが、本編に対するツッコミとも言えるセルフパロディ、そしてその後に続く「御魅音弾を喰らえーッ!!」という魅音のセリフ、これがかつての伝説のアニメ「MUSASHI -GUN道-」のセリフ「おんみょうだんをくらえー!」のパロディとなっています。このコミック版では、原作にあるネタすべてを織り込むことが出来なかったようで、数は少なくなっていますが、それでも各所に様々なネタが見られます。

 また、逆にコミック版で追加されたネタもあります。後半でレナら4人が麻雀対決をするシーンでは、レナと大石のふたりが某麻雀漫画そのままの絵柄で登場。これはあまりにも露骨過ぎるネタで、個人的にも爆笑してしまいました。コミック版ならではの、こちらでしか出来ないようなネタだと言えます。

 そんなネタの中でも最大の規模を誇るのが、圭一がレナを足止めするために延々としゃべりまくって自己主張を繰り広げるシーン(通称「固有結界」)でしょう。ここでは、圭一の口を借りる形で、制作者の竜騎士07がシューティングゲームに対する主張を延々と語りまくります。グラディウスを引き合いに出して残機制におけるその場復活の是非を問い、その場復活を否定しながら、「いや東○はいいんです。それだと妹様に会えないから。お願いですZ○Nさんエキストラステージでもコンティニューさせてください」などと某シューティングゲームへの個人的な主張を展開。「次の○方オンリーでは三魔女のサウンドノベルを書きたいいい」と叫んで終了するという、なんとも言えないほど破天荒な内容となっています。本編とは異なるファンサービスだからゆえのはっちゃけぶりが、このコミック版でも一字一句あますことなくきっちりと再現されています。


・しっとりとした心地よい終わり方も気持ちいい快作。
 そんな爆笑ギャグ・コメディ・パロディ要素全開で進む本作ですが、最後の最後でちょっとしっとりとしたシーンも見られます。

 勾玉の力で操られて、知らないうちに暴走してしまったレナですが、なんとか勾玉を回収して今から解呪の儀式を行う時になって、暴走した時のことを思い浮かべます。自らを必死で止めようとした圭一に感謝の言葉を述べ、さらには「あれだけ好きになった相手に自分を合わせられるのはすごい」という自分に向けられた言葉を思い返して、「誰だって好きな人ができたらその人に気に入られようと努力できる。それはわたしだけじゃない。誰もにだってある力なんだ」と、その時の気持ちを思い出すかのようにしっとりと語り始めます。そして最後に、勾玉の力がまだ残っているうちに、しかし真の思いを込めて圭一に「好きだ」と告白し、二人の間のいい雰囲気のままエンディングへと向かうことになります。

 このように、冒頭から読者を散々笑わせた上で、しかし最後にちょっとだけしんみりといい感じのシーンが入ることで、心地よい余韻を持ったままで読み終えることの出来る、いい作品になっています。本編ほど重厚な内容はない、ほんのお遊び的な外伝ではあるものの、「ああ読んできてよかったな」と思えるような、気持ちのいい読後感を持つ優れた一編になっていると思うのです。ファンサービス的な短い一編とは言え、きっちりとうまくまとまった快作になっているのではないでしょうか。

 ただ、あくまで本編後に制作された作品で、ストーリーの核心部分に触れる箇所もあり、さらには自己パロディも多分に投入されているなど、本編のストーリーを知った上で読む作品であることは、注意する必要があるでしょう。先に本編の方を読んでから楽しむ作品であると思いますし、原作のゲームをほぼ終えた方、あるいはスクエニのコミック版をここまでずっと追いかけてきた読者ならば十分ですが、そうでないならまずは本編を知ってから読んだ方が無難でしょう。それさえクリアすれば、これもまた他のシリーズと同様に楽しめる一編になっていると思います。

 さて、この「昼壊し編」で久しぶりに連載で登場した佳月玲茅さんですが、今回も短期連載で終わってしまいましたが、次回の登場はあるのでしょうか。そういえば、このところ萌えアンソロジーの続刊の話も聞きませんし(最後に出た3巻目で打ち止めか?)、これでまたしばらく消えてしまうようだと少々寂しいです。今回は「ひぐらし」の一編ということで、ONLINE連載とはいえ注目度も高かったのですが、これを契機に近いうちにまた登場してほしいものです。


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