<dear>

2007・3・29
一部改訂・画像追加2008・12・13

 「dear」は、ガンガンWINGで2002年8月号より連載を開始した作品で、2008年1月号まで続く一大長期連載となりました。同誌の中でも最大の人気を誇った作品のひとつで、紛れもなく雑誌の中心的な存在のひとつでした。また、同時にガンガンWING掲載作品のカラーをよく体現しており、その点でもまさに雑誌の中核作品であると言えます。作者は藤原ここあ

 この作品の連載開始当時のWINGは、あの「エニックスお家騒動」で大量の主要連載陣が抜けてからしばらくが経過していましたが、まだまだ主要連載が抜けたダメージからはまるで立ち直っていませんでした。穴埋め的に急遽開始された新連載陣もほとんどがふるわず、雑誌内で安定した人気のあるのは、騒動以前からのほぼ唯一の人気連載「まほらば」のみであり、あとは穴埋め新連載の中で唯一成功した「天正やおよろず」がかろうじてある程度という状態でした。
 そんな中で、まずこの「dear」が登場し、ようやくしっかりした人気と実力のある連載がひとつ確保されます。そして、この「dear」に続いて、「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」「ショショリカ」「天眷御伽草子」「がんばらなくっチャ!」「BEHIND MASTER」等、実力のある安定した新連載が次々と登場し、これらすべてが長期連載化、ようやくWINGは立ち直っていくことになります。

 しかし、この「dear」は、これら同時期に始まった連載陣の中でも、やはり一歩抜け出した存在感があり、WINGの中でも「まほらば」に次ぐ人気作品として定着します。その人気は、昨今アニメ化を達成した「瀬戸の花嫁」や、最も刊行ペースの速い実力派連載「機工魔術士」をも上回るところがあり、極めて熱心な読者層が多数存在する別格的な作品となりました。


・「わたしの狼さん。」から「dear」に至る流れ。
 さて、この「dear」というマンガ、これに繋がる前編とも言えるマンガが存在します。「わたしの狼さん。」です。
 これは、3回で終了した短期連載作品で、お家騒動直前の2001年に、ガンガンWINGで掲載されました。これが作者の連載デビュー作にあたります。当時のガンガンWINGは、のちのお家騒動で抜ける主要連載陣が揃って健在であり、このマンガも、まだ短期のシリーズ連載でかろうじて載ったという趣きが強く、かなりの読者人気は獲得したものの、作者の本格的な連載はまだまだ先になるかと思われていました。

 ところが、この連載の終了直後に、その「エニックスお家騒動」が勃発してしまい、ほとんどの主要連載が軒並み離脱してしまいます。そのため、藤原さんも急遽穴埋めのための新連載に抜擢され、「わたしの狼さん。」の新シリーズである「わたしの狼さん。THE OTHER SIDE OF LYCANTHROPE」の連載を開始。これはわずか3話の短期連載で終了してしまいますが、その後ほどなくして、今度こそ長期の本格連載作品であるこの「dear」の連載を開始。現在に至ります。その点では、「エニックスお家騒動」のために、幸いにも本格デビューが早まった作者であると言えます。これは、お家騒動で得た数少ない成果だと言えるかもしれません。

 そして、この先行するふたつの短期連載「わたしの狼さん。」シリーズは、「dear」と直接的な繋がりがあります。「わたしの狼さん。」の主人公(小桃)、「わたしの狼さん。 THE OTHER SIDE OF LYCANTHROPE」の主人公(プリノ)が、揃って「dear」で登場し、「dear」の主人公である散葉(ちるは)とほぼ同等の主要キャラクターとして扱われています。作者自身も、「3人共に主人公だと考えて良い」というような発言をしています。また、ストーリーも前2作から繋がる形となっています。そのため、「dear」から読み始めても話を理解して楽しむことは出来ますが、個人的には「『dear』の前に『わたしの狼さん。』シリーズを読んだほうが絶対によい」と考えています。今からこのマンガを読む方は、是非この前作からチェックすることをお奨めします。



・少女マンガ的で女性的な作品で、細やかな心情描写が最大の魅力。
 掲載誌のガンガンWINGは、比較的少年マンガに近い作品(「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」など)と、少女マンガ的な作品(「がんばらなくっチャ!」「東京☆イノセント」など)が並存していますが、この「dear」は、間違いなく少女マンガに近い女性的な作品で、特に女性読者には絶大な人気があります。この手の中性的で「女の子がかわいい」作品を好む読者への人気が非常に高く、特に初期の頃は、同時代のガンガンの連載だった「魔探偵ロキ」や「スパイラル〜推理の絆〜」あたりの作品と同様に非常な人気を獲得しました。その一方で、少女マンガ的な作品に抵抗の少ない男性読者の人気も強いものがあり、キャラクターの萌え人気も非常に高い。いかにもガンガンWINGらしい、あるいはスクエニらしい中性的な作風であると言えるでしょう。

 そして、そんな女性的な作品であるがゆえに、キャラクターの心情描写が細やかで、かつ重く深い描写まで垣間見え、心にひどく強く訴えるものがありました。「感動する」という点では、WINGの連載作品の中でも「まほらば」と並んで屈指の存在で、多くの読者をひきつける最大の要因となっています。
 この物語に登場する3人の主人公と、彼女たちの同伴者たちそれぞれが、みな何か重い状況を背負っており、その解決に向けて、互いに心を通わせて進んでいくさまには、非常に感じ入るものがあります。特に、メインとなる主人公である散葉と、彼女の幼馴染にして「不死の呪い」を受けてしまったきさらとの心のつながりは、深く細やかに描かれており、真に心に響くできるものとなっています。これこそが、このマンガの持つ最大の魅力だと見てよいでしょう。

 また、これらの心情の中に、「恋愛」の要素が非常に強いのも特徴です。WINGの連載には、全体的にラブコメや恋愛ものが結構見られると思いますが、その中でもこのマンガの持つ恋愛要素は強く、女性読者の人気が高い大きな要因となっています。


・ゆるやかな日常の描写が続く癒し系の要素も強い。
 しかし、このマンガは、そのような重苦しい描写がある一方で、ゆったりまったりした日常の描写を見て心を和ませる、いわば「日常癒し系」の要素が強く出た作品でもあります。

 確かに、このマンガは、基本的には大きな一本のストーリーがあるのですが、中盤になって主要なメンバーが揃ったあたりから、話の展開が非常に遅くなり、代わって日常のほのぼのしたエピソードが続くようになりました。普通の作品ならば、こういった展開では進まないストーリーに飽きられてしまうケースが多いと思われますが、この「dear」の場合、そんな日常のエピソードの繰り返しでも、それはそれでのんびりと楽しんでしまえるようなおおらかさがあります。主人公の散葉をはじめとする、純粋で素朴なキャラクターたちがおだやかに過ごす日常には、大いなる居心地のよさが感じられるのです。
 また、このようなおだやかな日常の裏では、やはり相変わらず重い状況を抱えていることは事実であり、そういった不穏な要素を裏に含みつつ、「束の間の楽しい日常を楽しむ」という描写には、ひどくいとおしいものがありました。

 そして、このような日常癒し系の作品は、WINGでの同時期の主要連載であった「まほらば」「天正やおよろず」でも顕著であり、このような連載が雑誌の中心を占めたことで、以後のWINGの持つ方向性・雑誌のカラーというものが定まってきた感があります。以後のWINGでは、このような日常のゆるやかな描写を楽しむ「ゆる萌え」系の作品が中心となっていくのです。


・この萌えとエロの素晴らしい融合。
 そして、同時にWING連載マンガの最大の特徴である萌え要素に関しては、まったく素晴らしい出来となっています。
 元々、前作である「わたしの狼さん。」シリーズからして、主人公の女の子(小桃・プリノ)に果てしない人気が集まっていたのですが、今回はそれに黒髪着物少女である散葉が加わり、およそ萌えに関してはまったく申し分ない状態となりました(笑)。
 とにかく、藤原ここあさんの描く女の子は、性格といい外見といいとてつもなくかわいく、WINGの、あるいはエニックス雑誌の錚々たる萌えマンガラインナップの中でも、トップクラスの萌えレベルを持っていることは間違いありません。基本的に少女マンガ的で女性的な作品であるのに、男性読者まで幅広く人気を集めているのは、この素晴らしい萌え要素がある点が非常に大きかったからでしょう。

 また、このマンガは、単なる萌えだけでなく、実は微妙なエロ要素まで含んでいます。同じWINGのマンガでも、例えば「機工魔術士」では、露骨なエロ・お色気要素が見られますし、あるいは「瀬戸の花嫁」でも、時に過激なエロに走ったギャグが見られます。しかし、この「dear」の場合、そこまで露骨で過激なものではないのですが、しかしよく見ると微妙にエロいというか、いわゆる微エロに賭ける作者の意気込みに並々ならぬものを感じるのです。

 とにかく、女の子を描くアングルが微妙にエロいものが多く、パンチラそのものはないんですが、パンチラ寸前はやたら目立つような感じで、この絶妙なアングルには狙ったものを感じずにはいられません(笑)。他にも、萌えやエロに満ちたコスチュームがよく登場したり、たまに半裸のシーンが挿入されたりと、明らかにエロを意識した箇所がたくさん見られます。どうも、作者の藤原さん自体、萌えに関してはえらく研究しているところもあるようで、そのあたりで萌え要素の追求にはこなれたところすら感じられます。これは、同系の連載である「まほらば」や「天正やおよろず」にはほとんど見られない要素で、このマンガのオリジナリティ(?)に一役買うものとなっています。


・最後はシリアスなストーリーで大いに盛り上がった。
 しかし、そんなゆるやかな日常描写と萌えと微エロの展開は、終盤に突如として押し寄せたシリアスな展開の前に掻き消え、それ以後は極めて重い展開が長く続く、読み応えのある物語となりました。

 とりわけ、「わたしの狼さん。」の時代から小桃を溺愛してやまなかったパートナーの昴(魔王)が、突如皆を裏切り、魔王城に帰還して敵対するようになるという展開は、読者に大きな衝撃を与え、以後この魔王の動向が大きな鍵となりました。さらには、散葉を追い求めるもうひとりの魔狼・シグマも登場し、彼の異様で不穏な行動に散葉が翻弄される様も、読者に大きな不安を呼び起こし、以後はそんな敵対者に翻弄される仲間たちの、内面的な葛藤の描写が作品の主軸となりました。

 このラストまで続く一連のストーリーは、最後に大きなどんでん返しを迎え、一気に波乱の終局へと向かいます。最後はまだ解決していない問題を残しつつも、それに向かって頑張っていこうとするキャラクターたちの姿勢と、辛い境遇を通じて強くなった心の結びつきが丹念に描かれ、素晴らしいハッピーエンドで終了します。コミックスで12巻(「わたしの狼さん。」から数えれば14巻)という、作者唯一にして最大の長期連載の最後にふさわしい、実に晴れやかなエンディングとなりました。

 また、この終盤の連載に差し掛かった当時のWINGは、「まほらば」を始めとする主要人気連載が一気に終了し、後に続くはずの新規連載陣もまるで奮わず、雑誌のクオリティが大きく揺らいでいくのですが、そんな中でこの「dear」の連載は、数少ない安定して読める優れた連載として、WINGを最後まで支え続ける作品のひとつとなりました。同時期に開始された人気連載で、これを超えて長く続いたのは「機工魔術士」と「瀬戸の花嫁」のみであり、そんな中でこの「dear」が終了を迎えてしまったことで、さらにWINGは厳しい状況を迎えることになりました。どんな良作でもいつかは終わるのは当然とは言え、この作品はなんらかの形で続いてほしかったな・・・とも思ってしまいました。


・騒動以前の雰囲気の残る、最もスクエニ的カラーに満ちた作品だった。
 このように、中性的でゆるやかな日常を描く萌えに満ち、一方でシリアスで読み応えのある展開も見せてくれたこの「dear」、まさにWING的な作品の典型とも言える存在で、これまで同誌の中心連載として、非常に強固な人気を維持してきました。しかも、前作である「わたしの狼さん。」から考えれば、あのエニックスお家騒動以前から続く連載であり、騒動後の雑誌においてかつてのエニックス的なカラーを残す貴重な作品となったのです。
 そして、同時期から続くWINGの人気連載作品だった「まほらば」「天正やおよろず」が先に終了した後は、唯一お家騒動前後から続くWING作品となり、あるいは「dear」の連載開始時から考えても、WINGでも最長の連載作品としての地位を長く維持し続けました。

 しかし、ここまで確固たる人気を確保している長期連載でありながら、最後までアニメ化などの話は全く聞かれず、数少ないメディア展開としてせいぜいドラマCDがふたつほど出た程度で、結局のところ大きな展開を迎えることが出来ず、そのまま終了してしまいました。元々、掲載誌のWINGがスクエニの中でも最もマイナーで発行部数が少ない雑誌であり、知名度や注目度も低く、そんな中で突出した人気マンガだった「まほらば」のみが、ようやくアニメ化にまで漕ぎ着けたような状況だったので、「まほらば」以外の連載が、未だ雑誌外ではさほど知られないままで来ている感は否定できません。これは、雑誌内でほぼ2番目の人気作品であった「dear」ですら例外ではなく、他のスクエニ系作品、特に中心となるガンガンや、新創刊雑誌でより一般的に幅広く読まれているヤングガンガンの作品と比べても、その扱いの低さは目立つものがありました。

 しかし、このマンガは、そんな中でもコンスタントに連載を維持してきた作品で、かつお家騒動直後からWINGを支え続けた作品としても、非常に重要でした。本来ならば、とっくの昔にアニメ化の話があってもよいくらいの安定した人気を誇っており、これがそのような展開を迎えることが出来なかったのは、あまりにも惜しいことだったと思います。そのため、最後までさほど知名度が高くないままで終了してしまったのですが、これはもっと多くの読者に知って読んでもらいたかった。それほどの作品であり、WINGでも屈指の名作だったと思うのです。


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