<ドラゴンクエスト 幻の大地>

2010・2・6

 「ドラゴンクエスト 幻の大地」は、少年ガンガンで1997年N0.9から開始された連載で、のちに2001年1月号まで続く長期連載となりました。開始された当時のガンガンは、月2回刊の体制であり、No.9は1997年の中期(春頃)の開始となっています。その後、しばらくは月2回の連載ペースを維持しましたが、約1年後の1998年3月にガンガンは月刊に戻り、このマンガもその後は月刊となりました。総じて約5年の長期連載となり、コミックスは10巻を数えています。

 このマンガは、そのタイトルからも分かるとおり、SFCソフトにしてドラクエシリーズのひとつ「ドラゴンクエスト6 幻の大地」のコミカライズ作品となっており、ゲームのストーリーを基本にしつつも、随所にオリジナルの追加エピソードや解釈を盛り込んだ作品になっています。コミックのタイトルには、ナンバリングタイトルの「6」が付いていませんが、中身は純粋にドラクエ6のコミック化作品となっています。

 そして、このマンガは、ガンガン創刊時代から続いた一大人気連載にして、同じくドラクエのコミックだった「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」を継ぐ形で連載されています。「ロトの紋章」が終了したのが、1997年のNo.6ですから、まさにその終了直後から連載が始まったことになります。あらかじめ「ロトの紋章」の終了を予定して、その後にまたドラクエのマンガを連載することを計画していたことは間違いないでしょう。ガンガン編集部としては、創刊からの看板作品で雑誌を引っ張ってきたドラクエマンガだった「ロトの紋章」の力を重視して、ガンガンを維持するには同じくドラクエのマンガを連載させるべきだと考えたのではないでしょうか。

 そして、この「幻の大地」のコミカライズの作画担当に抜擢されたのが、神崎まさおみ(神崎将臣)で、「ロトの紋章」の作画担当・藤原カムイと同様に、他出版社で既に活躍していたベテラン作家を起用することになりました。ガンガンでのペンネームでは、名前が「まさおみ」とひらがなになっていますが、これは当時のガンガンの読者層を考慮して、低年齢の読者でも読みやすくした配慮ではないかと思われます。神崎将臣と完全に同一人物であり、彼の他のマンガと大きな作風の違いもありません。

 このようにして、「ロトの紋章」の後を継ぐべきドラクエコミックとして、他からベテランの作家も呼び、当初は大々的な扱いで始まりました。その後も長らく安定した連載を重ねたものの、しかし同時期の他のガンガンの連載や、あるいは先達とも言える「ロトの紋章」と比較すると、人気や評価ではいまひとつにとどまったところがあり、このマンガのことを特に覚えている人は少ないかもしれません。連載終了後もあまり印象に残らなかったようで、「ロトの紋章」がいまだに不動の人気を得て続編まで連載されているのと比較しても、こちらの方は急速に忘れられてしまいました。実際の内容は相当な力作と言えるだけに、この扱いは少々惜しいと思いました。


・力強い少年マンガ志向のドラクエマンガ。
 「ロトの紋章」の後を継ぐ候補のドラクエ原作としては、他にもドラクエ1から5までシリーズすべてが候補に挙がったのではないかと思われますが、連載されたのは、当時の最新作であった「ドラゴンクエスト6」でした。ドラゴンクエスト6(ドラクエ6)が発売されたのが、1995年の12月ですから、ほぼ直後からコミック化連載がはじまったことになります。ちょうどこの時期に「ロトの紋章」の終了とも重なり、ドラクエの最新作で最も話題性の高かった「6」がコミック化されることになったのは、やはり最も有力な選択だったのかもしれません。「ロトの紋章」と同様に再びロトシリーズのコミック化や、あるいはシリーズでも「3」と並んで人気の高い「5」のコミック化なども考えられたと思いますが、それは実現されませんでした。

 そして、実際に始まった「幻の大地」の連載は、ドラクエ3をベースとしながらも、それとは異なるオリジナルのアフターストーリーだった「ロトの紋章」とは異なり、基本的には原作ゲームのストーリーを再現したコミックになっています。「ロトの紋章」が半ばオリジナルとも言える作品だったのに対して、こちらは純粋な「ゲームコミック」になっている。これが最大の違いだと見ていいでしょう。

 そして、その内容は、力強い作画と明快なテーマ、それも主人公である少年の成長を大きな主軸とした、少年マンガ的な作品となっています。当時のガンガンは、これ以降、このような作品は少数派となり、より中性的な作画と内容の作品が主流となっていくのですが、これは例外と言えます。同じく同時期のゲームコミックで、こちらはガンガン初期からの作家・西川英明が手がけた「アークザラッド2 炎のエルク」も、極めて少年マンガ色の強い内容となっており、この時期のガンガンでは、ゲームコミックにおいて少年マンガ的作風が残っていたのが興味深いところです。

 神崎まさおみの力強い描線の作画に、それが最も強く表れており、ベテランの作家だけあって、作画レベルも決して悪くありません。緻密なタイプの作画ではありませんが、ダイナミックな作画で動きのあるバトルシーンもよく描けており、時折見せる壮観な建物や自然などの背景描写も見るべきものがあります。内容的にも、ひとつひとつのエピソードに力強いものが多く、少年の肉体的・精神的な成長や、「大切な人を守る」「弱者をいじめてはならない」などの明快なテーマがストレートに語られています。


・ゲームのストーリーがベースだが、オリジナルの追加要素も多い。
 そして、その内容では、基本的なストーリーラインはゲームに忠実ではあるものの、エピソードごとにさらに深い解釈が見られることも多く、あるいはゲームにないオリジナルのエピソード、それも特定のキャラクターにスポットを当てた「外伝」が何度か挿入されたことも特徴的でした。ゲームのエピソードをさらに掘り下げようという、精力的な創作活動が見られたことは大いに評価されるべきだと思います。

 個々のキャラクターにおいても、ゲームより一歩踏み込んだ解釈が見られます。主人公は、このコミック版ではボッツという名前が与えられていますが、走ることが大好きでそのはるか向こうになにがあるか夢を抱く素直で明朗な少年として描かれています。主人公と最初に出会う仲間のハッサンは、強面で力に頼る性格で主人公とは最初反発しあうものの、一旦打ち解けてからは頼りがいのある仲間に。このハッサンは、序盤から非常に強い豪傑として描かれ、めざましい活躍を見せます。中盤で魔王ムドーを倒したのもコミック版では彼になっています。世にゲームマンガ、ファンタジーマンガは数あれど、魔王を正拳突きで粉砕するマンガは、他ではあまり見られないでしょう(笑)。次に出会うミレーユは、きれいな外見の女性で落ち着いた性格のチームのまとめ役。このふたりはゲームから受ける印象と大きく変わらないようです。
 一方で、ゲームとは初期の印象が大きく変わっているのが、チャモロです。癒しの力を持つ《ゲント族》の長老の孫という設定ですが、主人公たちと出会ったばかりの頃は、生意気な少年として描かれていて、主人公とリーダーの座をかけて争うような描写も見られました。この性格は、物語を進めるうちに成長に合わせて次第に改善されていきます。
 魔法使いの家出少女・バーバラは、性格などは比較的原作に近いようですが、より初期の頃から登場し、主人公と結びつく描写が原作以上に見られるなど、より大きな扱いになっているようです。原作でも重要な役どころであるがゆえに、これはコミック版ならではのいい配慮だったと言えるでしょう。

 そして、彼ら以上に非常に大きく描かれているのが、孤高の剣士・テリーです。そもそも原作ゲームの時から高い人気を誇っていましたが、しかしゲームでは終盤の遅い頃にならないと仲間にならず、それまでは端々で断片的に登場するにとどまっていました。それがこのコミック版では、序盤の頃から積極的に登場。彼を主人公にした外伝が何度も掲載されるなど、突出した扱いになっています。コミックスでも2巻という早い段階で単独の表紙になっていますし、これからもその扱いの大きさが分かります。

 総じて、原作では登場の遅い者でも序盤から出番が用意され、さらには個別のキャラクターを主役に当てた外伝も見られるなど(上記のテリーのほかに、チャモロの外伝も)、主要なキャラクターすべてを満遍なく扱おうという配慮が感じられ、これは好感が持てました。ゲームでは他のキャラクターほど人気のなかった、チャモロの外伝をあえて描いたことも、評価すべきではないでしょうか。


・しかし、他の連載ほど高い人気・評価は得られなかった。
 このように、原作ゲームのストーリーを基本にしながらも、随所で深い解釈が感じられ、精力的な制作ぶりが感じられる力作だったと思うのですが、しかしこの「幻の大地」、当初思っていたほどには大きな人気・評価は得られなかったと思います。決して劣っていたわけではなく、否定的な評価も見られませんでしたが、それでも当初編集部が想定していたであろう「ロトの紋章」を継ぐほどの大きな人気、それには恵まれませんでした。加えて、同時期のガンガンの人気連載の中でも、決して目立つ存在ではなかったと思います。このマンガの連載時期は、ちょうどお家騒動前の中期ガンガンと完全に重なっていますが、この当時の数ある人気マンガ「刻の大地」「まもって守護月天!」「TWINSIGNAL」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「PON!とキマイラ」「東京アンダーグラウンド」「魔探偵ロキ」「スパイラル〜推理の絆〜」などの影に隠れ、このマンガは雑誌の中堅にとどまっていました。ゲームコミックとしても「スターオーシャン セカンドストーリー」や「アークザラッド2 炎のエルク」には人気や評価で劣っていたと思います。

 なぜ思ったほど人気や評価が得られなかったのか。理由はいろいろ考えられます。
 まず思いつく理由としては、神崎まさおみの絵柄が、全体的に少年マンガ的な無骨な絵柄で、端正な人気を得られるような絵柄、のちでいう萌え絵ではなかったことは大きいと思います。そのため、キャラクター人気の高かった同時期のガンガンのマンガにはどうしてもかなわなかった。また、先達である「ロトの紋章」と比較してもそれは言えます。確かに「ロトの紋章」も萌え系の絵柄ではありませんが、しかし藤原カムイの描くキャラクターは男女問わず端正な趣があり、かつては女の子がかわいいという定評もあった作者だけあって、キャラクターの人気は高かったと思います。この「ロトの紋章」については、女性読者の人気も侮れません。それに対して、この「幻の大地」のキャラクター人気には限界がありました。

 さらには、その「ロトの紋章」と比較すると、あちらがオリジナルのストーリーで、原作ゲームを体験した読者、あるいは原作を知らない読者でも興味深く読めたのに対して、こちらはあくまで「ドラクエ6」のストーリーがベースのゲームコミック。以前に比べればスケールダウンした感は否めません。壮大なオリジナルストーリーを見せた「ロトの紋章」ほどの注目度は得られなかったのではないか。

 さらには、その「ドラクエ6」という原作自体の注目度にも原因がありそうです。この「ドラクエ6」、今でこそDSでリメイク版も出て再評価されていますが、発売してしばらくの頃は、あまり突出した評価は聞かれませんでした。シリーズのこの回から導入された転職システム、スキルシステムに対する評価があまり芳しくなく、多くのプレイヤーに楽しまれた「ドラクエ3」の転職システムとは対照的でした。キャラクターの人気やストーリーへの評価も(この当時は)あまり芳しくなかったと思います。そんな原作ゆえに、そのコミック版であったガンガンの連載も、さほど関心を持つ人は少なかったのではないか。そう思えるのです。


・しかし、決して悪い作品ではない。読ませるエピソードは本当に多い。
 このように、あまり芳しい扱いを受けなかったこの「幻の大地」なのですが、しかし、わたしは決してこのマンガは悪くはないと思うのです。むしろ、作家が相当な精力を込めた力作であり、随所で読ませるエピソードは本当に多かったと思います。

 まず、物語冒頭の、主人公ボッツが旅立つシーン。このコミック版での主人公は、「走ることが大好きな少年」という設定が与えられています。それは大変明快な少年的な性格なのですが、しかしそれだけでは、ただ夢を見て毎日村で楽しく暮らしている少年に過ぎませんでした。そんな彼が、初めてのちょっとした冒険ののち、精霊の啓示を受けるという形で旅立つことになるのですが、その時にも村の人たちは特別な見送りなど何もしようとしません。しかし、それは「旅立つボッツに普段の生活を見せて、お前がいなくてもやっていける」ことを示す配慮でした。最後に、ボッツは、村の人の手で山腹に大きな「ガンバレ」の文字が書かれているのを目撃します。それを見て、村の人たちの本当の心を知った彼は、大切な人を残していく痛みを心に刻みつつも、それでもなお真に自分を見つけ出すために旅に出ることになるのです。これは、少年の成長の第一歩を飾るエピソードとして、本当に優れていると思いました。

 物語の中盤でもいろいろと面白いエピソードは多い。一つ挙げるとすれば、魔王ジャミラスが登場する「幸せの国」の話でしょうか。カルカドという貧しい街から、たくさんの人が「幸せになれる」という誘いを受け、魔王の城へ導かれて餌食になってしまうというエピソードなのですが、ここで主人公たちが街の人を助け出そうとすると、逆に街の人の反発に遭い、石まで投げられます。最初は魔王の呪文の効果で人間たちは操られていると思っていたのですが、実際にはそうではなかった。魔王の言葉「彼らは望んでここに来た。民衆はジャミラスを選んだのだ」「わたしは最初から特別な呪文も薬もなにも使ってはいない たった一言の言葉をかけただけだ ここにくればもっと幸せになれる」という言葉が、人間の弱さをよく表していたと思います。そして、彼らを救ったのが、小さな少女の素朴な一言、ささやかな幸せを望む言葉だったというのも、実に良く出来たエピソードになっていました。これも原作をより深く解釈して描いた名エピソードでしょう。

 さらに、物語の最終盤、絶望の街という場所で、打ちひしがれていた城の兵士長ソルディ(トム)に出会った話も良かった。不手際を咎められ城から追い出され、生きがいと誇りをすべて失い、ついにはこの絶望の街で無気力に生きていた彼に対して、主人公は強い言葉で戒め、書簡を差し出し力強く命令を下します。その言葉にかつての自分を取り戻した彼は、涙を流して立ち直っていきます。かつては村の人に支えられて暮らしていた主人公の少年が、ついには他の人を助け導く存在となった。それを端的に表したエピソードだったと思います。


・思ったほどの人気と評価は得られなかったが、しかしこれは紛れもない力作だった。
 さらには、そんなエピソードの中でも最たるものとして、特筆して語られているのは、やはりテリーの姿でしょう。主人公とは長らく別行動で、孤高の旅を続けている彼は、かつて大切な姉を守れなかったことを後々までひどく悔やみ、それを克服するためにひたすら力を求めます。最後にはその心につけ込まれて魔族の手先となってしまいますが、主人公と剣を交え、姉の必死の訴えを聞いて本来の心を取り戻し、そして姉と出会い彼女の訴えを聞くことで、ついに救われることになる。このテリーの旅を描く一連のエピソードは、たびたびの外伝を通して大きく語られ、原作ゲームの設定を深く掘り下げた一つの優秀な物語となっていたと思います。

 このように、随所で積極的なエピソード作りが見られたこの作品、確かに連載時の人気と評価はいまひとつで、終了後もあまり印象に残らなかったことは否めませんが、しかし決して劣った作品ではなかったと思います。相当な力作、良作だったと見てよいでしょう。偉大なる大人気ドラクエコミック「ロトの紋章」と比べればまったく印象が薄く、さらにはこのマンガの終了後にやはり藤原カムイの手で始まった「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」と比較しても、こちらをあえて思い出す人は多くないでしょう。エニックスでドラクエコミックといえば、まず藤原カムイが思い出される中で、しかしこの神崎まさおみ版のドラクエを、今一度再評価してもよいのではないか。

 あるいは、中期のガンガンの人気マンガの一角としても再評価したいところです。この当時、他に絶対的な人気と評価を得た良作が本当に多かった一方で、この「ドラゴンクエスト 幻の大地」にあえて注目して、特に楽しみにして読む読者は多くはなかったと思います。しかし、それでも雑誌の中堅として安定した連載のひとつであり、雑誌の読者には他のマンガと同様に読んでいた人も少なからずいたのではないか。この当時の数少ない少年マンガ的な作風のマンガとしても意義があり、少年マンガとしても面白かったのではないか。今改めて読んでみると、お家騒動後のガンガンの少年マンガより、ずっとしっかりしたストーリーとテーマを持っていたと感じます。西川アークこと「アークザラッド2 炎のエルク」といい、この当時の方が少年マンガも面白かったのではないか。

 のちに、ドラゴンクエスト6の原作ゲームの方も再評価され、システムやストーリーもよかったという意見が多くなりました。そして、DSで14年ぶりにリメイク版も発売されて盛り上がりを見せている今、このコミック版「ドラゴンクエスト 幻の大地」も今一度注目され、再評価されてもよいと思うのです。これも、紛れもなく、ガンガンの全盛期を中堅で支えた良作ラインナップの一角でした。


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