<ドラゴンクエストモンスターズ+>

2001・11・7
全面的に改訂2012・2・25

 「ドラゴンクエストモンスターズ+(プラス)」は、少年ガンガンで2000年4月号から連載が開始され、お家騒動を挟んで2003年2月号まで続きました。中期ガンガンの作品で比較的遅くに連載が始まり、しかしお家騒動で移籍や中断することなく、連載を続けた優良な作品だったのですが、しかし最後は打ち切りといっていいあっけない終わり方となってしまいました。コミックスは全5巻で終了しています。

 作者は、吉崎観音。80年代から活動を続ける、この当時からして既にベテランとも言える作家でしたが、99年に角川書店の「少年エース」で開始した「ケロロ軍曹」が大ヒット。これが最も知られた代表作となりました。しかし、それと同時期には、エニックスのガンガンでも執筆しており、かつて96年から98年の月2回刊行時代には「護衛神エイト」という作品を連載していました。こちらも読者の人気は非常に高く、名作と言っていい作品だったと思いますが、2年程度の比較的短い期間で終了。その後、約2年のブランクを経てガンガンに復帰し、この「ドラゴンクエストモンスターズ+」の連載を始めることになりました。

 作品の内容ですが、タイトルどおり、ドラクエシリーズの一作品「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド」を原作としたゲームコミックとなっていて、しかし原作の後日談を描くオリジナルストーリーとなっています。主人公も、ゲームの主人公であるテリーではなく、彼に憧れる少年・クリオとなっていて、彼の成長を丹念に描く良質の少年マンガとなっていました。また、ドラゴンクエストの世界観・ビジュアルを忠実に再現しており、ドラクエマンガとしても実によく出来ていて、作者のこのシリーズへの思い入れを存分に感じることが出来る作品ともなっています。

 連載の最後まで、作品の質が落ちることはありませんでしたが、しかし突如として明らかな打ち切りとして終了してしまいます。読者の評判もよかったように思いましたし、なぜ打ち切りになったのかいまだに分かりません。お家騒動で大きく揺らいでいたこの時期のガンガンにおいて、トップクラスの良作だったのにあまりにも惜しい唐突な終了でした。


・「護衛神エイト」も面白かったのだが・・・。
 上記で少し言及した、吉崎さんのガンガンでの前作「護衛神エイト」ですが、これは当時月2回刊行に移行した96年のガンガンの新連載のひとつで、その中でもかなりの良作で読者の支持も高かったと思います。この96年のガンガンは、「まもって守護月天!」や「刻の大地」「GOGO!ぷりん帝国」などの人気連載が次々と開始されていましたが、それらと比べても決して劣るものではありませんでした。

 その内容は、「ロボットもののヒーローもの」とでも言うべき少年マンガで、明るく力強いストーリーとのびやかな作画で、とても楽しい作品になっていました。一見して低年齢向けのビジュアルにも見えるマンガでしたが、卓越したストーリー展開・作者のゲーム好きが反映されたネーミング・ロボットものとしての凝った設定などで、高年齢のコアな読者でも十分に楽しめる作品となっていました。主人公のエイトを始めとするガーディアン(ロボット)たちのキャラクター人気も高く、「このマンガが好きだった」という読者の声を、その後数年間幾度となく聞いた記憶があります。紛れもなく、この当時のガンガンの主力連載のひとつでした。

 しかし、このマンガ、98年初頭にガンガンが月2回刊行から月刊へと戻る時に、連載が終了してしまうのです。一応物語は完結していたようですが、その後に続くような終わり方でもあり、ガンガンの体制の変更に際しての打ち切り的な終わりではなかったかと見ています。実際、作者には続編の構想があったようで、のちに同人誌でも執筆していたようですが(残念ながらわたしは見たことがありません)、結局連載が再開されることはありませんでした。そのため、その後かなり長い間、このマンガの早い終了を惜しみ、続編を望む熱心な読者の声を聞くことになりました。

 と、このように、かなり惜しい終了を迎えてしまった「護衛神エイト」ですが、このマンガで見せた吉崎さんの実力は確かなものがありました。そして、その約2年後に始まったこのゲームコミックである「ドラゴンクエストモンスターズ+」でも、まったく変わらぬ良質なマンガ作りを見せることになったのです。


・とにかく絵が達者。ドラクエの雰囲気をよく再現している。
 まずこのマンガ、とにかく作者の吉崎さんの絵が、非常に見ごたえがあります。極めて整ったレベルの高い絵柄で、のびのびとしたキャラクターのアクションと、そして何よりモンスターや背景世界を描いた迫力の描写に惹かれます。

 吉崎さんは、女の子のキャラクターのかわいさでも定評があり、よりマニア向けな作品も多数見られますが、この「ドラゴンクエストモンスターズ+」は、あくまで少年向けで低年齢の読者も視野に入れた少年マンガとなっており、のびやかで屈託のない少年少女のキャラクターたちの姿にまず惹かれます。この作者のマンガの中では、とりわけ健全な作品になっていますね(笑)。

 さらには、ドラクエらしいモンスターの姿、そして壮大なファンタジー世界の背景描写が本当に魅力的。とにかく大ゴマを使った迫力の構図が多い。例えば、物語冒頭で程なくして見られる、巨大なドラゴンが2ページぶち抜きの大迫力で登場するシーン。これ、原作ゲームのパッケージイラストを再現していて、ゲームのファンであるわたしは大いに感動してしまいました。

 そして、世界の壮大さを見せる広大なパノラマも、このマンガ最大の見所です。これも冒頭の一シーンですが、クリオがやってきた「タイジュの国」の、巨大な樹の上から周囲に見渡す限り広がる壮大なパノラマは、読むものを圧倒するに十分でした。連載が始まっていきなりこんな素晴らしいシーンを見ることが出来るとは・・・と本当にうれしく思ったことを思い出します。


・少年の成長と冒険を描く良質の少年マンガ。
 ビジュアルだけではありません。内容でも素晴らしく、少年マンガとして非常に面白く出来ています。それも、主人公クリオの成長と冒険を描く、古きよき少年マンガの趣が随所に感じられるのです。

 クリオは、まだ幼い少年ですが、明るく前向きな(あるいはお気楽な)性格で、テリーに憧れてモンスターマスターを目指すべく、導かれてタイジュの国へとやってきます。最初のうちは、そのお気楽な性格が災いして、モンスターマスターの道を甘く見ていたところもあったのですが、しかし一旦厳しい現実に触れてからは、本気で道を究めるべく努力する良き少年へと成長していきます。この「少年の成長」というテーマは、少年マンガの王道であり、かつ他のガンガンのドラクエマンガにも共通するテーマでした。「ロトの紋章」や「ドラゴンクエスト 幻の大地」「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」なども、みな主人公たち少年(あるいは少女)の成長を真正面から描いていました。これは、この「ドラゴンクエストモンスターズ+」でもきっちりと踏襲されています。

 そして、もう1つ古きよき少年マンガらしいテーマとして、「冒険」があります。クリオが導かれてやってきた「タイジュの国」は、巨大な一本の樹が聳え立ち、その周囲にすばらしい眺望が続く壮大なファンタジー世界。この世界の姿に感動を覚えたクリオは、勇んで世界をまたにかける冒険の旅に出ることになるのです。

 この「冒険」というテーマ、確かに少年マンガの王道のひとつではありますが、しかし昨今の少年マンガの多くは、もっぱら「バトル」の方を主体にしていて、こちらを全面に出すマンガはあまり見かけないような気がします。同じドラクエマンガである「ロトの紋章」も、もちろん世界各地を巡る冒険の要素はあるものの、それ以上に壮大な大規模バトルの方が作品最大の売りとなっていたと思います。それに対して、この「ドラゴンクエストモンスターズ+」、バトルの要素もしっかりと押さえつつ、それ以上に世界をまたにかける冒険の姿の方が強く出ているようで、個人的にこういうテーマが好きな自分としては、大変にうれしく思いました。


・ドラクエマンガとしても非常に面白い。ドラクエファン必見の出来。
 そしてもうひとつ、少年マンガとして読めることに加えて、ドラクエの世界を描く「ドラクエマンガ」としても、非常に読み応えのあるものとなっています。原作ゲームの世界を忠実に再現していて、ゲームのファンならばより楽しめるマンガになっているのです。

 吉崎さんの描くビジュアルからして、ドラゴンクエストを本当によく再現しているのですが、それ以上にこれはと思ったのが、クリオが旅の扉を抜けて冒険する先の世界が、ドラゴンクエストシリーズの各世界をそのまま再現した世界になっていること。原作ゲームでも、ダンジョンで他のドラクエシリーズの名場面を再現するようなイベントがあるのですが、このコミック版では、それをさらに推し進めて、主人公が旅をする世界そのものが、「ドラクエシリーズによく似た世界」という設定になっています。そして、ゲームのドラクエを知っているプレイヤーならば、思わずにやりとするようなエピソードが本当に多い。

 まず、クリオが冒険の中盤で訪れた「ドラゴンクエスト1に似た世界」では、「勇者のパーティーは1人」「登場するモンスターも1体ずつ」という設定となっていて、まさにドラゴンクエスト1のシステムを忠実に再現しているところが面白い。さらには、その世界の主人公であった勇者ももちろん登場、最後には宿敵の竜王も登場し、その堂々たる強さを見せるなど、原作ゲームのファンを喜ばせるようなエピソードになっていて、これにはドラクエ1のプレイヤーだったわたしも、思わず喜んでしまいました。

 さらに、作中で最も面白かったのが、その後に登場する「ドラゴンクエスト2の世界」でしょう。こちらも原作ゲームと似た世界という設定なのですが、既にシドーが倒されたエンディング後の世界ということになっています。しかも、そのシドーを倒したローレシアの王子は、英雄として崇められる存在のはずが、その強すぎる力を人々に恐れられて国を逃げ出し、王子のいなくなった国も滅亡してしまっているという、驚くほどシビアで暗い世界になっています。
 さらには、その王子が主人公と出会った極寒のロンダルキアの大地では、かつて王子が倒した悪魔・パズズが、誰かの陰謀で復活し、王子に対して憎悪の限りの攻撃を仕掛けてくるという、非常に重々しいエピソードとなっていて、これが作中で最も読ませるシーンだったと思います。原作ゲームの世界観をあますことなく再現し、そこから読ませるストーリーを作り出した点は、このマンガの最も評価できるポイントだと思います。


・この打ち切りはあまりにも惜しい。続いていればもっといい名作になったはず。
 しかし、その優れたエピソードの最後で、作品はいきなり打ち切りになってしまいます。これは本当に唐突の出来事で、なぜこんないいところで打ち切りになったのか、まったく理由が分かりませんでした。当時のガンガンの連載の中でも、読者の評価はおしなべて高い一作で、少年マンガ好きの読者には特に支持されていました。そんな作品をいきなり終わらせてしまうとは。

 しかも、この当時のガンガンは、直後に「B壱」(大久保篤)という、これまた優秀すぎる少年マンガ作品をも打ち切りにしています。こちらもなぜ終わったのかまったく分からず、読者の間で疑問の声が渦巻いていたことを思い出します。
 ただ、この「B壱」の場合、作者の大久保さんの次回作である「ソウルイーター」が程なくして始まったことから、このより有望な新しい作品に切り替えるために、あえて打ち切ったとも思える節がありました。しかし、この「ドラゴンクエストモンスターズ+」には、その後にそのような動きはまったくなく、作者の吉崎さんも、以後ガンガンで再び連載することはありませんでした。事実上、このマンガが吉崎さんのエニックスでの最後の作品になっています。

 もし、このマンガが続いていたら、さらに新しいドラクエの世界を見ることが出来たはずなのです。既にドラゴンクエスト3の世界からのキャラクターは登場していましたし、さらに長く連載が続けば、天空シリーズである4・5・6の世界での冒険まで見られたかもしれない。シリーズの中でもとりわけ人気の高い4や5の世界が見られるとは、想像するだけでも夢が膨らみます。もしそこまで続いていたら、もっとすごい名作になっていたことは間違いないでしょう。しかし、結局それは実現することなく、最終的には3年に満たない比較的短い連載となり、コミックスも5巻で終わってしまいました。これは、あまりにも残念な結末だと、今になっても改めて思ってしまうのです。


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