<EBE(イーバ)>

2006・1・24

 ガンガン最初期、それも創刊号から連載された作品のひとつで、異色の「UFOドキュメンタリー」です。タイトルの「EBE(イーバ)」とは、アメリカの極秘文書に登場する用語で、宇宙人のことを指します。1991年4月号(創刊号)から翌92年の2月号まで、約1年の間連載されました。最初から1年程度の連載と決まっていたようで、最後はきれいに完結しています。

 このマンガは、あの「矢追純一」監修のUFOマンガということで、当初からガンガンの中で異色扱いされ、連載終了して長く経過した今となってもなお、かなりのキワモノ的な扱いをされているようです。創刊当時のガンガンは、ある種混沌としたところがあり、幾多の個性的すぎる連載が軒を連ねていた印象があるのですが、このマンガもそんな混沌の誌面の象徴のように扱われているところもあります。「創刊した頃のガンガンでは、あの矢追純一がUFOマンガを連載してたんだぜ」とか、そのような言われ方をしているわけです。

 このように、作品の内容以前に、まず「UFO」「矢追純一」というキーワードだけで異色扱いされている本作ですが、では肝心の内容はどうだったのでしょうか。これもマンガ作品である以上、「異色」という外面のイメージだけで評するのではなく、実際にマンガの内容できちんと評価する必要があります。ガンガンの創刊時代ということで、もはやこの作品を知っている人はほとんどいないと思いますが、ここで改めて内容を吟味してみたいと思います。


・矢追純一のUFO巨編。
 「矢追純一」と聞くと、ほとんどの人が「UFOの人」「UFO研究家」などと答えると思います(あるいは、20歳以下の若い人だともう知らないかもしれません)。しかし、彼の本職は日本テレビのディレクターです(現在は退職)。元は深夜番組の「11PM」(今の若い人は知っているのか?)のディレクターで、その番組の企画でUFOを採り上げたのがそもそものきっかけで、その後UFOの研究にどっぷりとはまりこみ、以後「木曜スペシャル」などでUFOを扱ったスペシャル番組を数多く手がけることになります。これこそがあの有名な「矢追純一のUFO特番」であり、日テレの定番シリーズとして当時の視聴者を何度も何度も楽しませてくれました。

 しかし、まさかその矢追純一が、よりによってガンガンで連載するなどと一体誰が想像したでしょうか。創刊当時のガンガンは、かなり破天荒で混沌とした一面があり、編集者の個性がにじみ出ているような誌面だったのですが、この企画はその最たるものだったと言えるでしょう。そしてその内容も、まさに矢追純一のUFO研究の成果がふんだんに投入されたもので、「矢追純一のUFOドキュメンタリー」の看板にうそ偽りはありませんでした。

 とにかく当時の特番や、あるいは矢追氏の著書に書かれたUFO関連の事件や場所、人物、写真、用語などがそっくりそのまま登場します。矢追氏の知り合いであるUFO研究家やUFOの目撃者までが実名で登場するという念の入れようで、矢追純一フリークにはたまらない一品だと言えます。ざっと作品を見渡すだけで、次のようなUFO研究ではおなじみの語句や写真がふんだんに登場します。

  • ロズウェル事件
  • ライトパターソン空軍基地第18格納庫
  • リトルグレイ
  • MJ-12(マジェスティックトウェルブ)
  • ロスコー・ヒレンカーター提督
  • ジョージ・フォレスタル国防長官
  • バンネバー・ブッシュ博士
  • イルミナティ
  • MIB(メン・イン・ブラック)
  • マリーナ・ポポビッチ女史
  • リチャード・ドウティ大佐
  • 南アフリカUFO墜落事件
  • アブダクション
  • インプラント
  • キャトルミューティレイション
  • ロバートソン査問会
  • ディバンキングプロジェクト
  • キャッシュ&ランドラム事件
  • ガルフブリーズ
  • エド・ウォルター氏
  • リンダ・ハウ女史
  • ゲーブ・バルデス保安官
  • カントリークラブ
  • アルバカーキ
  • アルチラータ・メサ
  • エリア51
  • グルームレイク地区
  • S-4
  • 地球製UFO

 このように、大量の関連用語や写真が作中に取り入れられており、しかもそれがストーリーの中で無理なく紹介されているのです。矢追純一やUFOをよく知らない人ならば、上記の用語を見てもさっぱり意味が分からないでしょう。しかし、一度このマンガを読めば、これらの用語はすべて完璧に理解できます(笑)。その点において、このマンガはUFO問題の理解の上では多いに役に立つ作品であり、まさに矢追純一入門として最適の書物であると言えるでしょう。


・マンガとしての面白さはどうか。
 上記の通り、矢追純一/UFO研究の入門用素材としては申し分のない本作ですが、では肝心のマンガとしての出来はどうでしょうか。いくらUFO研究に役に立っても、マンガとして面白くなければ片手落ちです。それではUFOに興味のある人には役立っても、一般のマンガ読者の支持を得ることは出来ません。UFO関連のモチーフは抜きにして、純粋にマンガとして読んだ場合の評価はどうなのか?

 結論から言えば、面白いの一言に尽きます。とにかくこの作品のスタッフたちが最高にいい仕事をしています。
 矢追純一さんは、TVのディレクターにしてUFOの研究家であり、もちろんマンガ家ではありません。したがって、彼はあくまで原作・監修の立場であり、マンガの作業は別のスタッフが手がけています。具体的には、脚本を須釜重美、作画をこやま拓という方が担当しています。
 まず、この須釜さんの脚本が実に素晴らしい。とにかくストーリーが最高に面白いのです。

 このマンガのストーリーは、主人公であるテレビのディレクターが、とあることからUFO絡みの事件に巻きこまれて、調査を進めるうちに次第に事件の核心に迫り、UFOと宇宙人の存在とアメリカ政府の陰謀を知っていくというものです。主人公のテレビディレクターからして矢追純一自身をモチーフにしたことは明白で、UFOとアメリカ政府の陰謀というのも矢追純一のUFO研究の中心と言えるものです。したがって、矢追純一原作・監修の作品としては、誰もが予測できる定番のストーリーと言えるかもしれません。
 しかし、それでもこのストーリーは抜群に面白い。ストーリーのテンポが非常によく、次から次へと新たな事件が起こり、UFOと宇宙人に関する真相にどんどん迫っていくというもので、読者を全く飽きさせません。場面の展開もうまく、異なるふたつの場所の話が互いに関連しながら同時に進んでいくなど、ストーリー上での工夫も存分に感じられます。須釜さんは、テレビドラマやビデオシリーズの脚本を手がけるプロの脚本家らしいのですが、まさに「プロの仕事」を見たような気がしました。

 登場するキャラクターに無駄な人物がいない点も評価が高い。主人公のテレビディレクターで熱血漢の矢神譲二を始め、アナウンサーにして主人公をサポートする名パートナーである杏里、UFO研究家の郷原、環境保護活動家の大地みどり、純真な少年でUFO事件に巻き込まれる星野守、アメリカの子供で環境保護活動に熱心なアース、とそれぞれ立ち位置がしっかりしていて、無駄なキャラクターがひとりもいません。実名で登場するアメリカのUFO研究家であるリンダ・ハウ女史や、独自にUFO調査を続けるゲーブ・バルデス保安官もいい味を出しています。
 個人的には、環境保護の活動家である大地みどりが面白いと感じました。環境問題に熱心なあまりに、ごり押しで保護活動へ協力を迫るその姿勢は、「融通の効かない環境家」という、環境保護活動家によく見られる一面をそのまま描写しています。

 一方で、作画担当のこやまさんもいい仕事をしています。こやまさんは、当時青年誌で活躍していたマンガ家らしく、その絵柄はまさに青年誌特有の「劇画」的なものです。このような青年誌の劇画作品は、全体的にクオリティが安定して高いものが多く、もちろんこやまさんもその例外ではなく、実に卒のない仕事をしています。厳しい青年誌で活躍できるだけの安定した作画レベルを維持しており、劇画調そのものの絵柄でオリジナリティこそ低いものの、それ以上に高いクオリティと劇画独特の迫力を常に提供してくれました。これもまた「プロの仕事」だと言えるでしょう。

 それともうひとつ、原作・監修の立場だった矢追純一も、これまたいい仕事をしています。主人公がテレビマンということで、テレビ局で働くシーンがよく登場するのですが、ここで監修の矢追純一が本職のテレビディレクターであった点が活きており、テレビ局内部の描写に細かいリアリティが感じられ、これには大いに感心しました。物語の主人公をテレビマンにすることで、監修者の矢追純一自身の経験が活きた形になっています。

 このように、このマンガは脚本、作画、そして監修とそれぞれが優れた仕事ぶりを発揮しており、純粋にマンガ作品として見ても相当に完成度の高い作品です。「UFOマンガ」というオカルト的なモチーフから、キワモノ的な扱いばかりが目立つ本作ですが、実はとても面白いマンガだったのです。当時のガンガンでも、他の人気マンガに混じって雑誌の前の方に掲載されるケースが珍しくなく、純粋に面白さが認められていたことがわかります。「異色のキワモノ的UFOマンガ」という見方だけでこの作品を捉えるのは、あまりにも不当であると言わざるを得ません。この「マンガとして純粋に面白い」という点をまず第一に評価すべきでしょう。

・極めて質の高い「SFファンタジー」だ。
 それだけではありません。このマンガでは、単に矢追さんの研究するUFO情報をそのまま載せるだけでなく、マンガ独自のオリジナルの設定も目立ちます。
 例えば、「EBE(宇宙人)の次の標的は日本だ。来年は日本が危ない」とか「リトルグレイ(宇宙人の一種)は人間の感情を理解できず、激しい感情を目の当たりにすると混乱する」とか、さらには「主人公とその仲間たちは地球を守るために選ばれた戦士だ」という設定まで登場し、最後には常識では考えられない壮大なストーリーを見せてくれます(笑)。
 元々矢追純一のUFO情報からして眉唾ものの上に、このような現実の研究とはかけ離れた設定まで登場するため、さらにこのマンガがキワモノ扱いされてしまうわけですが、しかしひとつのマンガ作品として考えれば、これはよく出来ています。

 そもそも、単純にUFOのようなオカルト情報を忠実にマンガに登場させるだけでは、それは単にオカルト情報の宣伝にすぎず、さほど面白いとは言えません。このようなオカルトネタを扱ったマンガは結構あり、ひとつのジャンルを形成していますが、その中にはオカルト雑誌や書籍などで書かれたものをそのままマンガ化したようなものが多く、単なるオカルト情報の再生産に終わっているケースが少なくありません。
 しかし、このマンガの場合、矢追純一さんのUFO研究をひとつの中核としながらも、それにオリジナルの設定をふんだんに取り入れ、これ単体でも十分に独創性を持つ作品として提供していることが非常に大きいのです。つまり、このマンガは、矢追さんのUFO研究に独自の解釈を加えて作り上げたSFファンタジーとも言える作品であり、単なるオカルト情報の垂れ流しではない、ひとつのマンガ作品として完成している点が非常に大きいのです。


・環境問題へのアプローチも魅力。
 このように、UFO研究を中核としたSFファンタジーとしても十分に面白い本作ですが、加えて環境問題を積極的に扱っている点も評価が高いですね。
 矢追純一さんは、とにかくUFO絡みの研究が有名で「UFOの人」というイメージばかりが強いですが、実際には環境問題への関心も強く、彼の著書には地球環境を扱った記事がたくさん見られます。そしてこのマンガも例外ではなく、先にキャラクターの説明の箇所でも触れた通り、環境問題に熱心なキャラクターが頻繁に登場し、UFO問題と平行して環境問題がこのマンガのもうひとつの主軸となっています。
 このマンガで扱われる環境問題は、ゴミの不法投棄や農薬による汚染などのスタンダードなものから、連載当時(1991年頃)に世界的な問題として浮上してきたオゾン層の破壊地球温暖化まで幅広く、特にこの地球規模の環境破壊についてはさらに大きく取り上げています。単に絵による描写だけでなく、図表や新聞記事まで作品に取り込む力の入れようでした。

 このように、環境問題をもうひとつのテーマとした点が素晴らしく、単なるUFOマンガではなく、環境破壊まで考えさせる多層的な作品になっています。UFOやオカルトに興味のない人でも、こちらの観点からこの作品を楽しむことは十分に可能でしょう。

 ところで、このマンガは1991年に連載された作品であり、15年が過ぎた今(2006年)となっては作中で扱われるUFO情報はかなり古いものとなり、色褪せた印象は拭えません。しかし、この環境問題については、15年経った今でもそのまま通用します。というか、15年も過ぎているのにオゾン層の破壊も地球温暖化もまったく改善されていない今の状況には愕然としますね。地球温暖化などは、改善するどころかさらに悪化しています。上記の新聞記事を見ても、とても15年前の新聞とは思えません。


・作中のメッセージ性が素晴らしい。
 しかし、個人的にこの作品で最も評価しているのは、人の心を強く打つメッセージ性の高さですね。
 上記の環境問題もそうなんですが、この作品は実は非常にメッセージ性が強い作品です。矢追純一氏の思想が随所に盛り込まれており、特に終盤においてのメッセージ性の高まりは特筆すべきものがあります。その内容は、「UFOや宇宙人との遭遇を経て、最終的にはわたしたち地球人が宇宙へのアプローチに目覚める」というもので、最終回の盛り上がりが特に素晴らしいものでした。物語の最後の最後で、「現れた宇宙人に対して、地球人がためらいがちに、しかししっかりと握手を交わす」シーンがあるのですが、これこそがこの作品の肝と言えるでしょう。わたしは、このシーンを見て本気で感動しました。原作者・矢追純一の思想がストレートに打ち出された、気持ちのいい快作です。

 「宇宙へようこそ地球人!」「今 まさに地球開国だ!」


・少年ガンガン最初期の「悲運の名作」
 以上のように、この「EBE(イーバ)」という作品は、マンガとしては絶対に面白いと断言できるもので、実に素晴らしい完成度を誇る作品です。どう低く見ても決して凡作ではなく、秀作、あるいは名作とすら言えるものです。
 しかし、その完成度とは反比例に、このマンガは世間では全く注目されることなく、たまにその異色さのみが強調されてキワモノ扱いされる程度で、その存在はほとんど忘れ去られています。ガンガン初期の頃の読者でも、この作品をはっきりと覚えている人は多くないのではないでしょうか。

 なぜ、そこまで認められなかったのか。これにははっきりとした理由があります。
 まず、第一の理由として、これまでも散々述べてきたように「矢追純一」「UFO」というオカルト的で怪しいモチーフの作品であったため、多くの読者がキワモノ扱いしてしまい、まともに作品に接しなかった点が挙げられます。近年の「トンデモ本」のヒットに代表されるように、多くの日本人にとって、UFOのようなオカルト情報は「非常識」で「非科学的」なものであり、まともな人間が接するものではないという一般常識があります。そのため、最初からこのマンガをバカにして無視する読者は多かったのです。これは非常に残念なことでした。

 そしてもうひとつ、これまた無視できない第二の理由があります。それは、このマンガが、実はかなり青年向きで高い年齢層の読者に好まれる内容であると思われる点です。
 作画担当が青年誌執筆のマンガ家で、絵柄が青年誌の劇画そのものであり、内容的にも「UFO問題」に「環境問題」と、むしろ大人の読者が好みそうな内容であることは否定できません。子供にとって、矢追純一だとかUFOとアメリカの陰謀だとかいう話は縁遠いものでしょうし、環境問題も大人の方が関心が高いでしょう。
 創刊初期のガンガンは、今以上に読者の年齢層が低く、小中学生が中心で、とりわけ小学生向け、低年齢向けのイメージで見られていました。このような状況で、「EBE(イーバ)」のような高い年齢層にシフトしたマンガを連載しても、中心読者である子供はほとんど関心を示さなかったのです。子供にとっては、このような劇画調の濃い絵で、UFOのような「バカバカしいもの」を真面目に扱い、あるいは説教くさく環境問題を熱心に扱うマンガはさほど魅力的ではないでしょう。むしろ、当時の低年齢層の読者は、まず「ロトの紋章」や「ZMAN」「ナーガス」のような分かりやすい少年マンガや、「パプワくん」「ハーメルン」「パッパラ隊」「ドラクエ4コマ」のような爆笑ギャグマンガにまず惹かれてしまい、「EBE(イーバ)」など最初から眼中に無かったのです。
 このような点から、連載当時から印象が薄かった点は否定できず、連載が終了するやそのまま消え去るように存在が抹消され、そのまま完全に読者の心から忘れ去られてしまったのです。ガンガンの編集部自体も、連載後に「EBE(イーバ)」をさほど積極的に扱わなかった点も否定できません。実は、連載終了後に出た単行本にはかなり力が入っていたのですが、発行部数と売れ行き自体はまるで芳しくなかったようで、それで完全に諦めてしまったのか、もうそれ以降この作品を取り上げることはなくなってしまいました。

 しかし、これは間違いなく名作です。このマンガは高い年齢層にシフトした青年マンガ寄りの作品だと思われますが、エニックスはこれ以後も、このような青年マンガ寄りの異色作品を積極的に雑誌に取り入れ、あるいは青年誌の作家を盛んに招聘する路線を継続します。その中には、あの「夢幻街」(水沢勇介)や「GOGO!ぷりん帝国」(くぼたまこと)のような成功例も登場しています。これらの成功作が出る頃のガンガンは、すでに読者層がかなり変わっており、このような青年マンガ寄りの異色作をも受け入れる土壌が備わっていました。
 逆に、この「EBE(イーバ)」が連載された創刊最初期のガンガンは、今以上に低年齢向けの誌面で、まだこのようなマンガを受け入れる土壌が無かったのです。その意味では、このマンガは「早すぎた異色作」とも言える存在で、完成度は高いにもかかわらずまったく注目されなかった悲運の作品であったのです。

 もはや「EBE(イーバ)」が連載終了して15年近くが経過してしまいましたが、わたしは今こそこのマンガを再評価したい。このマンガは、まだまだ定番の少年マンガ主体であった初期のガンガンにおいて、早くも見られた個性的な企画作品であり、完成度も文句なしの名作でありました。このような個性的な作品こそが、のちのガンガンの個性的な誌面の先駆けとなったのではないでしょうか。のちのガンガンにつながる個性派の名作「EBE(イーバ)」。その存在を、今改めて思い出したいものです。


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