<英雄ノススメ>

2006・9・23

 「英雄ノススメ」は、ガンガンWINGで2002年3月号より連載を開始した短期連載です。全9回というかなりの短期間の連載で2002年11月号には終了し、コミックスは2巻で完結しています。作者は、現在同誌で「ラジアータストーリーズ」のゲームコミックを連載している宮条カルナ

 もともと、この作品は、あの「エニックスお家騒動(ブレイド組の離脱騒動)」で、当時のWINGから主要連載陣のほとんどが抜けた後の穴埋めとして、急遽組まれた連載のひとつです。この「穴埋め」として使われた連載陣は、その多くが連載経験を持たない新人による作品であり、ほとんどがまだ実力不足の感が否めないものでした。そのため、ほとんどが短期の連載で打ち切りとなるか、あるいは元から短期のシリーズ連載しか意図しておらず、早い時期に次々と終了していってしまいました。この「英雄ノススメ」も、その中のひとつとなってしまった作品です。

 なお、これ以外の同時期の短期穴埋め連載で、早期に終了した作品としては、「JINX」(冬季ねあ)「ディシーブ・テンプル」(甘露まろん)「姫様忍法帖 天下☆無双」(佐々木あかね)「迷想区閾」(方條ゆとり)「蒼太のみち」(瀬尾真由子)があります。


・「近未来ポリスストーリー」
 この作品は、紹介文で「近未来ポリスストーリー」と銘打たれており、その名のとおり、近未来で警察機構に所属する若者たちの物語です。それも、主人公たちがみな超能力者であり、超能力を使って、「パルス」と呼ばれる、人や物に寄生する正体不明の化け物を退治するというストーリーです。このような「近未来」「超能力」「警察もの」「化け物退治」といったキーワードで構成される作品は、類似のものもかなり見られるため、これだけならばさほど新鮮味はないかもしれません。一方で、新人の作品としてはそれなりにまとまった完成度はあったと思うのですが、初見ではさほどの目を引く独創性がなかった点は少々問題だったかもしれず、これが短期連載でさほどの注目を集めずに終了した一因となっているようにも思えます。

 なお、このような「超能力者による警察もの」というジャンルに属すると思われる作品としては、のちのガンガンWINGで「セツリ」という連載もあり、こちらの方は基本的な設定もかなり捻ってあり、ストーリーも最後までよく出来た佳作だったと思えるのですが、この「英雄ノススメ」については、まずそのあたりの設定で目を引くところが少なく、ストーリーも後半で大きく崩れるなど(後述)、その域に達していなかった感があります。


・警察機構の雑用係の個性的なメンバー。
 この物語の主人公は、新人として対パルス組織の超能力部隊(「ESP.P」)に勤めることになった兵堂主税(18)という少年です。彼は、小さい頃に、近所に住む兄ちゃんで「英雄」と呼ばれて崇拝されていた因幡という青年から、ESP.Pの記章を受け取り、それを契機に、英雄である因幡を越えようと熱意に燃えて職場に入ってきます。

 しかし、彼が配属されたのは、超能力部隊の中でも末端のお荷物、雑用係である「キラ」という部署でした。そこに配属されていたのは、どこか別の部署から寄せ集められたかのような変人ばかりでした。
 具体的には、天然系でかなりずれたところのあるヒロイン・橘紀依(18)、ほとんど仕事をしないマイペースなお姉さんである温川(ぬるかわ)千歳(23)、同じくまるで仕事をする気のない飄々とした青年である緒方一重(21、女性的な名前だが男)、そして無口な長身で何を考えているのか分からない男の高良津進(32)、なぜかトイレの中に個室を設け、日々競馬の予想に熱意を燃やす芝田哲郎(40)といった面々です。ほとんど誰もやる気がないことは明白の部署で、その中でもひとりだけ熱意に燃えて主人公は頑張ることになります。

 そして、彼らとは別に、こちらは超能力部隊の中でもエリート部隊である「ティム」に所属する陣内(陣内高太郎、32)という男がいて、ちょっとしたきっかけで兵堂は彼に一方的なライバル心を燃やすようになります。実は、陣内は橘紀依の兄でもあり、彼らに主人公の兵堂を含めた3人が、主に物語の中心となっています。


・超能力者としての葛藤も見られるシリアスなエピソード。
 そして、序盤のうちは、エリート部隊であるティム(特に陣内)にほとんど仕事を奪われつつも、かろうじて与えられた仕事に精一杯取り組む兵堂の奮闘が続きます。中には、キラの個性的なメンバーのしょうもない雑用に駆られるシーンもあり、このようなコメディ的な部分も面白いところです。

 しかし、それに加えて、主人公と共に行動するヒロインである紀依(きいちゃん)の、超能力者としての葛藤という、シリアスなエピソードも見られます。
 きいちゃんは、テレパスの能力を持つ超能力者として、幼いころに周囲から恐れられたトラウマから抜けられず、能力を抑えるリミッターを装着して日々を過ごしているのですが、現場の仕事でテレパスの能力を使って欲しいと兵堂に頼まれ、迷いつつもリミッターを外して任務に当たります。結果としてそれは最悪の事態となり、兵堂の決死の救出でようやく救われるのですが、そのあたりで超能力者としての必死の葛藤が描かれていた点はかなり面白く、物語前半のエピソードではかなり優れた印象でした。

 実は、作品の前半のうちは、このような面白いエピソードがほどよく続いていたのですが、それもつかの間のことで、実際にはそれを楽しむ間もない短期連載となり、あっという間に終盤のクライマックスに達し、ほどなく連載終了になってしまったのが残念なところです。もうちょっと最初から長期連載を意図していれば内容も変わったのでしょうが・・・。


・コメディシーンもかなり面白い。
 そして、前述のとおり、頻繁に見られるコメディ的なシーンもかなり面白かったのも高ポイントです。キラの個性的な変人メンバーたちとの掛け合いがまず面白く、さらに兵堂が一方的に対抗心を燃やす陣内との掛け合いも面白い。
 中でも最高に面白かったのが、兵堂がきいちゃんの家を訪問するエピソードで、そこで兄である陣内と思いがけない遭遇を果たし、兵堂が無意味に対抗心を燃やしまくるシーンが笑えます。陣内は、妹であるきいちゃんと同様のテレパスで、相手の思考を読む力があるのですが、それを知らない兵堂は、心の中で悪口を全開で飛ばしまくり、あとで気づいて大騒ぎするという顛末で、このシーンだけは本当に何度読んでも笑えます。なにげに、このマンガの中で一番面白いシーンかもしれません。



・新人らしい拙さもあるが、堅実にまとまった絵柄。
 次に、絵的な部分も見てみると、まだまだ新人らしく高いレベルの絵には達してはいませんが、それでも全体的に丁寧な作画できっちりと各要素が描けている点は好感が持てます。特に、キャラクターの描線が太く硬質で、キャラクターの存在感が強く感じられるのは良い点だと言えます。キャラクターの造形もしっかりとして作画の崩れが少なく、読んでいて安心できますね。
 ただ、一方で、肝心のバトル・アクションシーンでは、硬質で動きの無さが目立ち、必ずしも魅力的なアクションにはなっていない点も否定できません。「パルス」という不定形で正体不明の化け物が相手の割には、ごく普通に銃を撃って倒すのみのシーンが多く、しかもその動きにも躍動感が感じられないため、あまり見栄えがしません。このあたりいまいち地味な感は拭えないでしょう。

 もっとも、全体を通して見れば、新人の作画としてはかなり手堅くまとまっており、合格点を与えてもよさそうです。むしろ、この太い描線で描かれた硬質な絵柄は、同誌の新人の絵の中ではかなり個性的で、かなりの存在感もあったように記憶しています。


・後半のよく分からない展開は一体なんなのか。
 このように、内容的にはシリアスとコメディがバランスよく配分され、キャラクターもひとりひとり個性的であり、作画的にも手堅くまとまった絵柄と、雑誌の穴埋め的に起用された新人連載でありながらも、中々に読めるマンガだったと思うのです。
 しかし、このマンガは、わずか9話で終了する短期連載を余儀なくされ、ほどなくしてすぐに終盤のクライマックスを迎えてしまいます。しかも、その肝心のクライマックスのエピソードが強引かつ性急で、短期の強引な終了が明白なほどの状態でした。

 はっきりいえば、この終盤のエピソード、何がなんだかさっぱり分かりません。コミックスで何度か読み返してもよく分からないのです。というか、これ雑誌の連載で読んで意味が分かった人はいるのでしょうか。数話のうちに一気に超能力者部隊の組織の内幕が暴露され、クライマックスへとなだれ込むのですが、あまりにも性急すぎて説明不足の感は否めません。
 特に、このエピソードでは、キラのメンバーである緒方一重と、その父親に焦点が当たっているのですが、最後のほぼ一話で隠された設定が一気に放出され、しかもその設定が複雑で分かりにくいため、正直そこだけ浮いている感は拭えませんでした。なぜいきなりそんな展開になるのか。

この力は結局なんだったのか?  そしてもうひとつ、最終的には兵堂が「英雄」の後継者として選ばれ、ラスボス(?)を破壊することになるのですが、なぜ主人公が英雄として選ばれたのか、その理由が良く分かりません(笑)。単に、むかし英雄の兄ちゃんに会ったことがあるという理由でしょうか。このあたりもうまく読解することが出来ませんでした。

 さらには、前述のきいちゃんを救うエピソードにおいて、兵堂が超越的な力を発揮して助かる場面があるのですが、一体なぜそんな力を発揮できたのか、その理由が最後まで分かりません。もう伏線の回収をきれいに忘れたとしか思えません。このあたり、全体を通してみても完成度が高いとは言えない物語になってしまいました。


・地道に長期連載でエピソードを重ねればよかったのではないか。
 正直、このマンガは、「無理矢理短期で終わらせた」感の強いもので、打ち切りに近い感もあります。もっとも、実際のところは、最初から短期での連載だったのか、それとも人気がなくて打ち切りだったのかはよく分からないのですが、どちらにしても展開が性急すぎて作品の完成度を大いに損ねたことは間違いありません。
 というか、そもそもたったの9話では、いくら短期連載でもあまりにも短すぎました。もちろん、同時期に平行して始まった短期連載群も、すべてコミックス2巻以内の短い連載ばかりなのですが、この「英雄のススメ」の場合、序盤のうちは独立したエピソードを繰り返すなど、ある程度中長期の連載を意図した構成であったように思えます。それが、5〜6話を超えたあたりから一気に展開が進み、そのままクライマックスから最終回へとなだれ込んでしまい、あまりにも唐突かつ不自然な性急さで終了してしまいました。ラストの後日譚も、とってつけたような「キャラクターたちのその後」のシーンを見せられるのみで、不満が残ります。

 その上、このマンガは、同期の短期連載の中でも、比較的手堅くまとまって描けていた方で、ほかの連載よりも優先的に連載を継続した方が良かったように思えます。それが、実際には、他の短期連載と一緒にまとめてあっさり捨てられた感は否めませんでした(笑)。個人的には、前半に見られたシリアスとコメディのバランスが取れた優れたエピソードをもっと読みたかったような気がしますし、主人公たち超能力部隊の日々の活躍をもっと見てみたかったような気もするのです。


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