<皇帝の花嫁>

2011・1・17

 「皇帝の花嫁」は、ガンガンJOKERで2010年4月号から7月号まで、ほんの短期間掲載された作品で、コミックスも1巻で完結しています。しかし、この作品、最後は完全な打ち切りで、なんらかの理由で突然終了したことは明らかな、ひどく不自然な終わり方となっていました。

 作者は、作画担当はCHuN、原作がAntikim、Avraの両氏となっています。このうち、作画担当のCHuNさんについては、以前ガンガンWINGの方で「魔王様の勇者討伐記」というこれも短期連載を掲載したことがあり、その当時から「台湾の作家」だと書かれていました。原作のふたりについてはよく知らないのですが、ひょっとするとこちらも台湾の作家なのかもしれません。
 この「魔王様の勇者討伐記」、割とオーソドックスなファンタジーコメディとなっていて、そちらはそちらで中々の好評だったようですが、2作目にあたる「皇帝の花嫁」は、それとはまったく異なるタイプの作品になっていました。同じく中世風のファンタジー世界が舞台ではあるのですが、魔王とのバトルとかそういった内容ではなく、皇帝の花嫁の選抜試験を勝ち抜くために、知力を尽くしてキャラクターたちが闘う作品になっていたのです。しかも、対決の中身もかなり面白く興味をそそられるもので、同系の対決もの、サバイバルものと比べてもさほど遜色ない出来となっていました。CHuNによる作画がシンプルでおとなしいタイプなので、ほかの対決もののように見た目では激しい対決の印象を受けないのですが、一度読んでみると引きこまれるものがあります。

 しかし、そんな見るべきところの多かったこのマンガ、どういうわけかわずか4ヶ月であっさり打ち切りになってしまいます。最後は第一次選抜試験の途中でいきなりストーリーが中断し、そのままとってつけたようなエンディングへと強引につながっており、まさに典型的な打ち切り仕様でした。スクエニでは、当初は短期連載の予定で、評判がよければ長期連載に移行するといった予定の作品がかなりあるようですが、このマンガの場合、そのあまりにも強引な終わり方から、短期連載で予定通り終了したものではなく、やはり何かの理由で強引に連載が打ち切られたものだと思われます。

 そのように、あまりの短期間であっさりと終了してしまったことから、ガンガンJOKERの読者ですらあまり印象に残ってはいないのではと思われますが、しかしこの作品は、そのまま連載が続けば、非常な良作になる可能性もあったと思うのです。あっさり打ち切りで消えさせるにはひどく惜しい一作でした。


・韓国だけでなく、台湾や中国の作家の活躍も目立つ。
 さて、このマンガの作画担当者はCHuNさんですが、台湾の作家であることは間違いないようです。同じ台湾の作家数名と共に「Friendly Sky」という作家サークルを構成しており(これはコミックスの奥付にも書いてあります)、同人で活動を盛んに行っているようです。また、メンバーの一人であるSDwingさんは、ガンガンONLINEのライトノベル競作企画で挿絵を担当したことがあるようです。

 【Friendly Sky】

 以前から、日本での韓国の作家の活躍は目立っており、特にスクエニではヤングガンガンの「黒神」の初めとして、いくつもの韓国作家の作品を発表しています。そして、最近では、その韓国同様に、台湾や中国のこの方面での活躍も見られるようになりました。
 韓国で日本のマンガやアニメ、ゲームが大きな人気を得ているのはよく知られた事実ですが、台湾や中国もそれに匹敵するほど日本の作品は人気であり、各国のオンラインゲームでも日本的なかわいい世界観、キャラクターの作品は多くなりました。同人イベントなども開かれているようで、PIXIVを見てもそちらから参加している作家はかなり多く見かけます。台湾では、ここで紹介したFriendly Skyのメンバー以外に、主に東方で活躍しているCapula.Lさんの活動は顕著ですし、中国出身だとエロゲー会社に入るために日本に来たというsayoriさんを始め、やはり多くの作家を見かけるようになりました。

 これらの台湾・中国(・韓国)作家の特徴として、作画に関しては日本の作家と比べてもまったく遜色ないことが挙げられます。一応、若干ながらそちらの作家ならではの絵柄はあるようですが、それでも極めて日本の作家の絵と近く、ほとんど見分けがつきません。この「皇帝の花嫁」の絵柄も、スクエニらしいシンプルで中性的な絵柄となっていて、WINGやJOKERの連載としてもふさわしいものがあったと思います。


・前作とは打って変わった意欲作。
 以前CHuNさんがWINGで連載していた「魔王様の勇者討伐記」、これはファンタジー世界で魔王が女の子の勇者に予期せぬエッチなことをしてしまうという、そんな萌えコメというかエロコメというか、そんなライトタッチの作品になっていました。これはこれでそれなりに面白く、読者の評判も悪くなかったようですが、個人的にはいまひとつはまれずに読み過ごしていました。WINGの誌面が、元々は中性的な「ゆる萌え」的な作品を中心とするものだったので、それとはコンセプトが外れるこの作品には、あまり興味を持てなかったというのもありました。(末期のWINGは、売り上げ不振からかそれまでの路線から外れた、男性向けや女性向けと思われる作品を取り入れる方針へと変わっていました。)

 そんなわけで、CHuNさんのJOKERでの新作であるこの「皇帝の花嫁」も、また同じような作品なのかと予想していたところもあったのですが、いざ読んでみるとまったく違っていました。同じファンタジー世界の物語ではあるものの、こちらはかなりシビアな設定の下で、シリアスな駆け引きのゲームを繰り広げる作品になっていて、これはひどく意外に受け止めました。今回は原作担当が別の方だったので、そちらの作者の作風が強く出ているのかもしれません。

 肝心のストーリーですが、大陸全土を制圧した帝国の皇帝が、自分の花嫁を決める「皇后選抜戦」なる催しを開きます。全土の女性を立候補対象者として、希望者は帝都に集まるように告知、これに応えて膨大な数の女性が帝都へと集まろうとします。この皇后選抜戦に対して、かつて皇帝に滅ぼされた国の王女・クリスが、繰り出される数々の選抜戦(ゲームやクイズでの対決)に挑み、絶大な権力を持つ皇帝に知力で挑戦するという話になっていました。
 しかし、連載開始時は、まず辺境の地方都市から始まり、そこで帝都行きの列車のチケットを買い占めた富豪の娘に対決を挑むという形で、ここでもゲームでの対決が行われました。その後、反逆者として護送された帝都でかつての親友だった大法官と対決、それに勝って無罪放免となり、その後ようやく皇后選抜戦が始まるという流れになっていました。しかし、実際には、最初の皇后選抜戦の最中に、突如として打ち切りとなり、その結果すら分からずにいきなり連載が中断してしまいます。

 そのため、連載が本番に差し掛かる前に立ち消えとなってしまった感も否めないのですが、それでも、最初に出てきた3つのゲームだけでもかなり面白いものがありました。オーソドックスなコメディだった前作と異なり、意欲作として大いに評価できるものだったと思います。


・面白かったゲーム対決のコンセプト。
 対決の内容ですが、まず最初の富豪の娘との対決は、銀貨がたくさん入った袋の中から1枚の金貨を引き当てるゲームでした。互いの順番で1枚〜3枚の枚数を宣言してその数だけ袋の中から銀貨を取り出し、最後の1枚の金貨を引いたものが勝ちというルールでした。これだけならよくあるゲームで、必勝法もよく知られているのですが(作中でもそれはあらかじめ語られています)、問題は「袋の中の銀貨の枚数が分からない」という点でした。これならばいくら必勝法を知っていてもどうにもならない。単なる運のゲームなのかとも思えるのですが、実は双方とも枚数を知るための一計を案じており、互いにその手の内を披露するところが非常に面白く描けていました。

 次の大法官とのゲームは、100万以上の条文のある帝国法の中からひとつの条文を当てるというゲーム。そのために出題者に「はい」か「いいえ」で答える20の質問を許すというルールでした。これもまたよく知られたゲームですが(「二十の質問」)、実際には大法官は意外な奥の手を用意していて、その奥の手をさらにクリスが読み切って正解を引き当てるという、これも見事な展開でした。またこのエピソードでは、この帝国法にまつわる設定上の大きな意味も語られています。

 そして、打ち切り前の最後のエピソードとなる、皇后選抜戦の一回戦。これは、予選監督官の元で○×で答えるクイズが出題され、正解だと思う方のスペースへと移動するというもの。何千何万もの候補者たちがスペースに向かって移動する大掛かりなもので、これもまたテレビのクイズ番組で見慣れた形式でしょう。しかし、このクイズ対決が非常に面白いものだった(面白いものになるはずだった)のです。
 最初のうちは、知識さえ持っていれば簡単に答えられる質問ばかりで、しかも絶対正解を引き当てるという優等生の女の子まで登場し、ほとんどのものが脱落せずに正解を選び続けます。しかし、最後の10問目で、それまでとは毛色の全く違う、答えがまるで分からないような出題がなされ、ここで一気に候補者たちの間で動揺が巻き起こります。もちろんクリスは見事にその正解を導き出すのですが・・・残念ながら、このゲームの顛末が語られる前にいきなり話は中断され、とってつけたようなエンディングと共に打ち切りとなってしまうのです。


・これを打ち切りにしたのはあまりに惜しすぎる。その後の選抜戦も見たかった。
 実は、そのゲームの顛末については、コミックスのカバー裏で文章といくつかのイラストで補足されているのですが、それを見て思った以上の出来のよさに感心しました。なるほどと納得できる展開で、是非ともこれをそのままマンガで読んでみたかったものです。なぜこれほど面白いエピソードの途中で打ち切りにしてしまったのか・・・。それほどまでに読者の評価が芳しくなかったのか、それとも作者の側でやむにやまれぬ事情があったのか、その辺りのことは分かりませんが、いずれにしても残念でなりません。

 設定では、この最初の試験を皮切りに、全部で13の選抜戦があったようのですが、それらもまったく語られないままになってしまいました。エンディングの内容は悪くありませんでしたが、こんな風にとってつけたような形で見せられても、まったく思い入れを抱くことはできませんでした。きちんとストーリーを最後まで語って、選抜戦を乗り越えて皇帝と対決した上でエンディングを見たかった。

 ゲーム対決以外でも見るべきところが多かったのも、打ち切られて残念なところでした。帝国法という絶対的な力を持つ帝国皇帝の存在感と、それに対抗する個性的なキャラクターたちという構図に、特に惹かれるところがありました。特に主人公であるクリスは、知的で常に冷静にゲームに勝利していくかたわら、常に人を気遣う優しさをも持ち合わせた魅力的な人物として描かれています。こういった対決ものでは、ゲームの強者は知的な切れ者でシビアな性格な者がよく見られますが、それとは対照的にいつも柔らかい性格で、しかし知的に冷静にゲームに立ち向かう姿には、非常に好感が持てました。

 CHuNさんの絵柄も、シンプルでありながらしっかりとしたラインで描かれていて、こちらでも好感が持てました。女の子たちも素直にかわいかったですし、前作のようなエロコメよりも、こういったシリアスな作品でかわいいキャラクターの活躍を見るのも面白いと思いました。丁寧に綺麗な絵を仕上げてくる、台湾出身の有望な新人作家だと思っていただけに、このような形で連載が中断されてしまったのは、あまりに惜しかったですね。


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