<機工魔術士-enchanter->

2003・10・1
全面的に改訂・画像追加2007・1・15
一部改訂・画像追加2008・11・11

 「機工魔術士-enchanter-」は、ガンガンWINGで2002年10月号より連載を開始した、のちのWINGを代表する長期連載となった作品です。作者は河内和泉。初期の頃は主にゲームアンソロジーで活躍していた作家で、のちにWINGで何度か読み切り作品を残した後、ついにこの「機工魔術士」で連載を獲得します。

 この連載が始まった当時のWINGは、あの「エニックスお家騒動」で主要作家のほとんどが抜けた痛手からまったく立ち直っておらず、騒動直後に穴埋め的に開始された新連載もことごとくふるわずに短期で終了してしまい、人気のある連載は「まほらば」を始めほんの数作品程度という状態でした。しかし、この「機工魔術士」は、これより前の新連載とは打って変わって確かな実力のある新連載で、WINGにとって貴重な戦力となるに十分な作品でした。

 そして、このような実力のある連載が、この時期に他にも多数始まり、ようやくWINGは立ち直っていくことになります。そのような新連載としては、他に「dear」「瀬戸の花嫁」「ショショリカ」「BEHIND MASTER」「がんばらなくっチャ!」「天眷御伽草子」などがあり、これらがすべて成功して長期連載化、のちのWINGの誌面の基礎が一気に固まります。そして、これらの作品の中でも、この「機工魔術士」の完成度、安定感は一歩抜きん出たところがあり、連載ペースも高速かつ安定しており、単行本も最も多くの巻数を重ねることになりました。WINGの中心作品のひとつとなったと見てよいでしょう。

 なお、このマンガのタイトルは、「機工魔術」であって、「機工魔術師」ではありません。非常に間違えやすいタイトルなので、これには注意する必要があります。


・最初から実力の高かった作者。
 さて、このマンガの作者である河内和泉さんですが、彼女は、このマンガ以前の作品からしてかなりレベルが高く、この「機工魔術士」も、序盤のうちから卒なく完成されていたところがあります。

 元々は、ゲームのアンソロジーで見かけた作家だったのですが、当時から「ひとりだけ絵のうまい作家がいるなあ」という印象で、とにかくこなれた絵の描き方をしていました。単に一枚絵のイラストがうまいといったものではなく、マンガの絵としてうまくまとまっているというか、とにかく「マンガの描き方をよく分かっている」という印象がありました。これは、WINGでの読み切り作品、そしてこの「機工魔術士」の連載でも同様で、新人らしい「素人くささ」がなく、最初から他の連載作品と同等の絵のレベルを確立していたように思います。

 そして、ストーリー等の内容面でもそれは該当します。毎回毎回きっちりとまとまったストーリーを提供するのに慣れているといった感じで、最初期から一個のマンガ作品として確立されていました。スクエニ系の新人作家では、最初のうちはさほどレベルが高くなく、読み切りや連載を重ねるにつれ次第に上達する作家の方が多いのですが、この河内和泉さんは例外的な存在であると言えます。

 そしてもうひとつ、最初期からとにかく「量」をこなす作家であったことも評価に値します。毎回の「機工魔術士」の連載ページも多く、単行本の発刊ペースもかなり速い上に、同時に他の連載や読み切りの仕事をこなしているケースも珍しくありませんでした。同じWING誌上で「賽ドリル」という連載を同時並行していた時期もありましたし、これはスクエニの雑誌では(あるいは他の雑誌でも)非常に珍しい、ひどく精力的な執筆体制だったと思います。


・WINGでは珍しいエロ(お色気)系コメディ。
 さて、では肝心の「機工魔術士」の内容紹介に入ります。
 この「機工魔術士」は、現代を舞台にしたバトル+ラブコメといったイメージの作品で、WINGの連載の中でも、比較的少年マンガ的要素の強い作風でした。とりわけ、他のWINGの作品ではあまり見られない「エロ」「お色気」の要素が非常に強かったのが最大の特徴です。

 その「エロ」「お色気」を一手に引き受けるのが、主人公の高校生・叶晴彦の下にやってくる女悪魔・ユウカナリアと、晴彦の想う相手である幼馴染で学校の先生・藤原優香(ユウカネエ)ですね。このふたりは、まったく同じ外見を持つお姉さん系のキャラクターで、現実で、あるいは晴彦の妄想内で、エロい姿を徹底的に見せる存在として、このマンガのエロ・お色気路線の中心となる存在となっています。一種の萌えマンガとも言える作品ですが、他の萌えマンガとは異なり、このような「お姉さん」キャラクターへの萌え・エロを強調した作品は、昨今のロリキャラクター中心の萌えマンガの中ではかなり珍しいもので、まずその点でかなりの注目を集めました。今でも中々に少数派の存在ではないでしょうか。

 ラブコメ的な面白さも十分で、おしかけてきた悪魔であるユウカナリアに体を狙われつつ、本当に自分が好きな優香姉さんには中々振り向いてもらえないという、ラブコメの三角パターンの王道を行くような展開です。少年マンガ系のラブコメが好きな人が、もっともはまれるマンガではなかったでしょうか。


・錬金術をモチーフにした、バトルとアイテム作りが特徴的。
 しかし、単なるエロ系のラブコメ要素だけではなく、少年誌的なバトルやファンタジーの要素もふんだんに盛り込まれています。

 「機工魔術士」とは、錬金術と機械技術を駆使して「魔具」と呼ばれるマジックアイテムを作り出す者たちのことで、主人公の晴彦も、かつての偉大な機工魔術士・フルカネルリの力を継いで機工魔術士となり、元々強かった物理や機械の知識を駆使して、日々苦闘してアイテムを作り出すことで成長していきます。フルカネルリは、かつて実在した錬金術師(と言われる人物)で、それ以外にも、パラケルススやカリオストロのような、歴史上で錬金術師と呼ばれた人物たちが次々と登場します。このような、実在の錬金術の設定を採り入れた点はかなり面白く、目の付け所がよいと感じます。なにげに、スクエニでは「鋼の錬金術師」と並ぶ、もうひとつの「錬金術マンガ」だったりします。

 そして、作り出した魔具を使って、襲い来る悪魔たちと繰り広げるバトルシーンも、非常に見ごたえがあります。河内和泉さんは、バトルシーンの作画も文句なくうまく、迫力あるバトルの描写を卒なくこなしています。エロやラブコメだけでなく、バトルという硬派な少年誌的要素も楽しめるあたり、実にふところが広いマンガであると言えます。
 また、単にバトル一辺倒のマンガでもなく、「魔具というアイテムを作り出す」というモノづくりの面白さが描かれているのもよい点でしょう。実は、魔具を作ることに焦点を当てた「アイテムクリエーション」マンガでもあるのです。モノづくりの面白さ、奥の深さが描かれた作品としても、評価に値するのではないでしょうか。


・連載中盤から、一気にシリアスな展開に。
 そして、機工魔術士としての主人公の成長を描くストーリーも面白く、特に中盤以降、一気にシリアスな展開が続くようになりました。
 実は、連載序盤から、このようなストーリーもあるにはあったのですが、それ以上にエロとラブコメの要素が強く、基本的にはコメディ色の強い作風でした。しかし、これが中盤のいくつかのエピソードを境に、かなりの重さ、時に暗さも感じるシリアスなストーリーに移行し、ストーリー面でも読み応えのあるマンガに脱皮していきました。

 その契機となったのが、連載の中盤、単行本では7巻あたりから始まった「メルクーリオ編」と呼ばれる一連のエピソードです。これは、メルクーリオという、人間の機工魔術士の中に悪魔が宿って乗っ取ってしまった女の子にまつわるエピソードで、最後には悪魔の方の存在が消え去ってしまうという、非常にシビアな話でした。この出来事を通じて、主人公の晴彦も大きく成長し、以後、このような主人公の成長を促すような重みのあるエピソードが続くようになります。そして、代わってエロやラブコメの要素は控えめになり、機工魔術士同士の駆け引きやバトルにも重点を置いたストーリーが中心になっていきました。この一連の路線変更によって、単なるライト感覚のラブコメに留まらない、ずっと本格的なマンガとして読めるようになり、WINGの中でも安定した長期連載として完全に定着した感があります。これ以降の連載をもって、このマンガは、完全に「名作」の域に達したと見てよいでしょう。

 もっとも、初期の頃のエロやラブコメ中心の作風も、それはそれで十分に面白いものであり、その要素が薄くなってしまったのは少々惜しい気もします。初期の頃からはやや読者層にも変化が起こってしまったかもしれません。


・WINGを支える随一の実力派連載。見事に完結後の外伝の掲載でも読ませる。
 とはいえ、中盤以後の「機工魔術士」が、WINGでも非常に優秀な連載へと成長したことは疑いないところで、同時期WINGの長期連載陣の中でも、最大の実力派連載だったと見てよいでしょう。連載ペースも最後まで極めて安定し、毎回のページ数の多さ、単行本の発刊ペースの速さも特筆すべきものがあります。特に、連載後期のWINGは、「まほらば」を始めとするかつての定番連載の多くが次々に終了を迎え、後を受けて始まった新連載攻勢もぱっとせず、誌面の安定感が失われてきていた状態なのですが、そんな中で、この長期連載の一角にして最大の実力を持つ作品の存在は、ますます貴重なものとなり、雑誌の数少ない安定長期連載として、誌面への貢献ぶりはあまりにも大きいものがありました。

 そして、連載終了後も、さらにその存在を惜しまれたのか、外伝(「SEQUEL」)の連載が決定し、こちらでもさらに面白いエピソードを見せてくれています。やはりその実力は並大抵のものではありませんでした。そして、この外伝の連載を契機に、TVアニメ化を行ってもよいのではないかと思うのです。
 2007年以降のスクエニは、アニメ化企画を積極的に行うようになり、中には原作がかなりの早期のうちにアニメ化に踏み切るケースも増えてしまっています。このような場合、原作のストックがアニメ放映途中で尽きてしまい、下手にオリジナルの展開が入ったり、中途半端な形で終了を迎えてしまっているケースも珍しくありません。元々、原作が終了する前にTVアニメ化されるのは通例でもあり、原作が終わった後にアニメ化する方が珍しいのですが、それにしてもこのところの早急すぎるアニメ化はあまりいい傾向とは思えません。
 原作が終わった後のアニメ化が難しいのは、原作が連載終了で大幅に勢い、人気が落ちてしまい、アニメ化でも注目度を保つのが難しいというのが最大の理由ですが、連載終了後に外伝が掲載される「機工魔術士」ならば、その点をカバーできるかもしれません。外伝の掲載で勢いが落ちないままでアニメ化を達成でき、かつ本編が終了しているためにオリジナルの展開を入れたりせずに、最後まできっちりと終わらせることが出来ます。これは非常にいい状態であり、これこそアニメ化を進めるべき作品ではないでしょうか。

 WINGでは、奇しくも「機工魔術士」と同時期に連載開始した長期連載「瀬戸の花嫁」の方が先にアニメ化を達成し、その後は「夏のあらし!」がアニメ化を達成しました。しかし、作品全体の完成度を見れば、この「機工魔術士」を優先的にアニメ化しても良かったように思えます。昨今のアニメの主流である萌えアニメとしての要素も完備しており、なおかつそれ以上に深いストーリー、テーマも見られるなど、実に安定したアニメ化作品が期待できたのではないでしょうか。連載中にアニメ化しなかったのは、「中途半端な状態でアニメ化してほしくない」という原作者の河内さんの意向でもあったと聞いていますが、連載が終了した時点ならば、まったく問題なくアニメ化を達成できますし、それを是非実現してほしいと思います。


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