<FRONT MISSION 〜THE DRIVE〜>

2007・8・6

 「FRONT MISSION 〜THE DRIVE〜(フロントミッション〜ザ ドライブ〜)」は、ヤングガンガンで2005年23号より連載を開始し、2006年の8号で終了した、短期連載とも言える作品です。タイトルの通り、スクウェア・エニックス(旧スクウェア)のゲームソフトである「フロントミッション」シリーズを原作とするゲームコミックであり、「初のコミック化作品」ということが大々的に宣伝されました。作者は、原作に太田垣康男、作画にstudio SEEDの名前が挙がっています。原作者は実力派作家として著名な作家ですが、作画の方は名前を耳にしたことがなく、「studio」という名前からして、ひょっとすると複数人による制作グループなのかもしれません。

 このマンガは、連載当初の雑誌での扱われ方からして、編集部もかなり力を入れていることは明白で、長く続く大型連載になるかとも思われました。しかし、意外にも最初のエピソードが終わった時点で終了となり、しかもその後、同じフロントミッションを原作とする新シリーズ「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」の連載が始まりました。こちらの方も原作は太田垣康男が担当しています。最初から新シリーズに移行する予定だったのか、それともこの「THE DRIVE」の方が不評だったか、あるいは何らかの理由のために中断となり新シリーズに移行したのか、それはよく分かりません。いずれにせよ、予想外の早い終了と新シリーズへの移行は、少々意外な展開ではありました。

 ヤングガンガンでは、これ以外にもいくつかスクエニゲームを原作とするコミックが見られましたが、その中でも、確かな完成度を持つ作品となると、やはりこのコミックが挙げられます。無名の作画担当者の仕事ながら極めて高い作画レベルと、実力派作家・太田垣康男による重厚なストーリーが噛み合って、骨太なイメージの優秀な戦争ものロボットアクションに仕上がっています。原作のイメージをよく再現していながら、同時にひとつの戦争もの作品としてもよく描けており、とりわけ戦争を通して人間の生き方を問う重厚なテーマには、大いに見るべきものがありました。


・素晴らしい作画レベル。
 まず、このマンガを見て誰もが思うのは、どこまでも緻密に徹底的に描き込まれた、圧倒的な作画レベルの高さですね。「フロントミッション」は、「ヴァンツァー」という巨大人人型兵器(ロボット)が主役の戦争シミュレーションですが、そのヴァンツァーの細部まできめ細やかに描き込まれたビジュアルが素晴らしい。ロボットもの作品では、このようなロボットのビジュアル的魅力が、まず何よりも重視されますし、実際にこのような徹底的に細部までの造形にこだわった作品は、もちろん数多く見られます。しかし、この「FRONT MISSION 〜THE DRIVE〜」は、それら既存の作品と比べても、実に抜きん出たビジュアルレベルを達成しています。とりわけ、飛び散る薬莢や敵の攻撃を受けたパーツが粉々に飛散する、その微細な表現には圧倒されます。

 そして、それと同様のレベルで、これまた徹底的に緻密に描き込まれた市街地、ビル、ジャングルなどの背景描写もよく出来ています。作品冒頭、ビル街でのヴァンツァーバトルでは、飛び散るパーツの破片に加えて、さらに散乱するビル街の窓ガラスや跳ね上がる地面の土くれなど、すべてがひとつひとつ丹念に描き込まれており、その緻密な作画への作者のこだわりには、並々ならぬものが感じられます。

 もちろん、肝心のキャラクターの描写もよく出来ていて、その重厚なタッチからは、人物たちが醸し出す確かな存在感が感じられます。全体的に非常に「濃い」タイプの人物描写で、幅広い読者に受ける絵ではないと思いますが、それでもこの重厚で骨太なストーリー、イメージを重視したこのマンガには、この絵はぴったりと当てはまっています。


・パイロットの過酷な環境、緊張感もよく描けている。
 ヴァンツァーの外見の描写に加えて、そのコクピットに乗り込むパイロットの様子、とりわけそこでの過酷な環境がよく描けています。ヴァンツァーは、戦力としては非常に優秀ですが、搭乗するパイロットの環境までは、必ずしも優秀には出来ていないようです。
 特に、冒頭の戦闘シーン、主人公である新兵のアルベルトが絶望的な戦いに挑むシーン、そこでの描写がまず過激です。激しく攻撃を受けるたびに嘔吐を繰り返し、ギリギリの精神状態でなんとか戦いを継続していくが、最後には力尽きて倒れていく。その過酷な描写には、思わず目を背けたくなるようなところもあります。このフロントミッションという作品が、極めてリアルさを重視した戦争ロボットアクションであることを痛感するシーンです。

 しばらくのちには、ヴァンツァーのコクピットのエアコンの修理が遅れたままで、灼熱のジャングルを行軍するシーンもあります。百戦錬磨の精鋭たちでも、熱帯のジャングルでのコクピットの暑さには耐え難いものがあるようです。

 そして、そのような窮屈なコクピット内部での、緊迫した戦闘シーンでの緊張感、これもよく描けています。奇襲攻撃のためにジャングルの中を潜行し、思わぬ敵ヴァンツァーとの遭遇に驚き、一気に込み上げる緊張の中、それをやり過ごそうとじっと耐え続ける。このあたりの極限までの緊張感、それが重厚なタッチで徹底的に描かれています。コクピット内部の描写そのものも緻密に描かれ、コクピット内のモニターに浮かび上がる周囲の画像がいい味を出しています。


・魅力的なキャラクターたち。
 そして、作品を中心となるキャラクターたち、とりわけヴァンツァーを駆るパイロットたちの個性もよく描けていて、どれも魅力的な造形に仕上がっています。原作で見られるキャラクターのイメージにも程近いものがあり、かつ原作者の色も強く出ているように感じられます。

 主人公のアルベルトは、まだまだ技量も精神も未熟な若い青年としての姿が強く強調されていますが、彼の危機を救った最強の遊撃部隊である「暁愚連隊」の面々は、ひとりひとりが相当な食わせ物で、その徹底的に濃い人物描写には、強く引き込まれます。
 隊長の愛人で、彼を崇拝するあまりに危うい行動を取る若い女軍曹のリュン、冷静沈着なアタッカーで、メガネのイケメン青年マークス、がたいのいい中年女性で、肝っ玉かあさんの呼び名がふさわしいと思えるサラ、ヒゲの黒人で、片言の言葉でしゃべる純朴で憎めない男のキンボールと、フロントミッションのイメージをよく体現した魅力的なキャラクターたちが並んでいます。

 そして、何と言っても、彼らをまとめる豪腕の隊長・暁蓮司(あかつきれんじ)が素晴らしい。日本人の少佐で、その圧倒的な戦闘力と、破天荒に満ちた言動の数々で、自らの小隊を敵味方すべてに恐れられる最強の遊撃部隊にのしあげています。見た目の重厚な顔立ちにも大いに惹かれるものがあり、まさに歴戦の豪腕戦士のイメージを強く体現しています。作中での活躍ぶりも凄まじいものがあり、このマンガの実質的な主役であると言っても過言ではありません。この暁隊長というキャラクターの魅力こそが、この作品の中心を成していると見てよいでしょう。


・戦争を通して人間の生き方を丹念に描く。
 そして、何と言っても、原作者である太田垣康男の実力が存分に出た、極めて重みのあるストーリーに、まず何よりも惹かれるものがあります。

 主人公のアルベルトは、作品の舞台であるハフマン島に移住してきた入植者であり、自分ら移民たちが植え育ててきた島の森の木々を、なによりも大切に思っています。加えて、故郷には恋人や家族が待っており、彼らを守るという使命を強く感じつつ、新兵として激しい戦場に来ることになります。
 しかし、やってきた戦場は、自分がかつて体験したものよりもさらに過酷なものでした。最強の遊軍として恐れられる暁愚連隊に編入されたアルベルトは、暁隊長の森を燃やすことも辞さない強引な敵殲滅戦に激しい抵抗を覚えますが、まだまだ無力な自分では何もすることもできず、結局当初のもくろみどおりに、かつて自分たち入植者たちが植えた木々を激しく燃やされた上に、しかもその暁隊長に絶体絶命の危機を救われる形で、ようやく作戦を完了することになります。

 しかし、暁隊長は、決して粗暴なだけの男ではありませんでした。自らの強引な方針に対して何も言い訳はせず、ただ部下たちを生かして返すことに全精力を注ぎ、そのうえ実は被害を出来るだけとどめ、自然を回復させるようなさりげない努力まで惜しまずにする。そのような男であったのです。アルベルトは、その生き方を見て心を動かされます。そして、隊長が撒いた野菜の種があたりに雪のように散る光景を見て、かつて自分をこの地まで導いてきた父親の姿まで思い出し、自分を見つめ直しもっと強くなることを決意するのです。

 このような、人間の生をどこまでも強く見つめたその作風は、原作者・太田垣康男の持ち味が非常に強く出たもので、「さすが実力派作家の描くストーリーは、ゲームコミックにおいても一味違う」と、ここでも感嘆できるものとなっています。


・新シリーズである「DOG LIFE & DOG STYLE」との比較。
 このように、作画・内容共にかなりのハイレベルだったこの連載、原作ゲームファンのみならず、重厚な作風の戦争ものとして一般の読者にも薦められる、優れた作品であったことは間違いありません。
 しかし、これが、どういうわけか1エピソードが終了した時点で、いきなり連載が終了してしまったのです。その上、1年近くのかなりの間をおいて、同じ「フロントミッション」を原作とする新シリーズ作品である「DOG LIFE & DOG STYLE」の連載が開始されます。これは、かなり意外な展開であり、なぜこのような不定期でのシリーズ連載形式を採用することになったのか、よく分かりません。新シリーズでは、原作者は引き続き太田垣康男が担当していますが、作画は「C.H.LINE」という人に変わっています。

 そして、「THE DRIVE」と「DOG LIFE & DOG STYLE」を比較した場合、「THE DRIVE」の方が、戦場での戦闘描写が重視されているのに対し、「DOG LIFE & DOG STYLE」の方は、戦争に巻き込まれた周辺の人々、戦争の背景を丹念に描いている点がポイントです。この場合、「THE DRIVE」の方がオーソドックスなロボットものに近い方向性で、「DOG LIFE & DOG STYLE」の方には、やや異色の趣きがあります。戦場ではなく、より大きな「戦争」を描いているという点で、より社会派の要素が強まったと見るべきかもしれません。
 しかし、方向性が変わったとはいえ、こちらでも太田垣康男の重厚なストーリー作りは健在で、戦争の非道さとそれに巻き込まれる人々の姿をより露骨に描くようになり、さらに深みが増した感もあります。後発の作品ながら、決して劣ってはいません。
 作画レベルも、両者まったく引けをとりません。「THE DRIVE」の作画が非常なハイレベルだったため、それには及ばないのではないかと当初は思っていたのですが、実際に「DOG LIFE & DOG STYLE」を読んでみると、こちらはこちらでまったく引けをとらない高い画力を見ることができました。
 総じて、どちらも非常に優秀な作品であることは、間違いないところでしょう。

 ただ、先行するこの「THE DRIVE」は、あまりにも短い連載期間で終わってしまったことで、ほとんどの読者の印象に残らず、そのまま忘れ去られてしまった感があります。加えて、このマンガの作風が、決して幅広い読者に受けるようなものではなく、しかもヤングガンガンのコアな読者にはあまり人気の出ないタイプの作品であったことも大きい。極めて濃いイメージが強調され、とりわけ萌え要素の全くない作品では、ヤングガンガンの中心読者にはあまり好まれなかったことは、容易に推測できます。さらには、原作ゲームの「フロントミッション」シリーズも、スクエニの他のゲームほど大々的な人気を獲得しているシリーズではなく、コアなファン層に支えられているゲームであることも、大きな人気を得にくい要素となっています。

 しかし、この作品は、本当に優秀な良作でした。1エピソードの短期連載、コミックス1巻で終わらせるには惜しい連載であったと思うのです。今では、新シリーズである「DOG LIFE & DOG STYLE」が始まっており、こちらはこちらで負けず劣らず優秀な作品で、まったく文句はないのですが、それでも、かつて先行する「THE DRIVE」という秀作があったことは、心に留めておくべきではないかと切に思うのです。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります