<激闘!!一番>

2008・9・16

 「激闘!!一番」は、少年ガンガンで1991年4月号(創刊号)から開始された連載で、翌1992年6月号まで、約1年余りほど連載された作品です。創刊号からの連載のひとつなのですが、当初からガンガンは「ロトの紋章」や「南国少年パプワくん」「ハーメルンのバイオリン弾き」など、他にかなりの人気マンガを抱えていたため、あまり注目されることのなかった作品と言えます。

 作者は、峰岸とおる。このガンガンでの連載の前に、少年誌でいくつものスポーツ・格闘ものを連載してきた作家で、典型的な少年マンガ家と言えます。個人的には、80年代のコロコロコミックで連載された伝説の魔球マンガ「あばれ!隼」が印象に残っています。劇画調の絵柄ながら迫力のある画力は整ったものがあり、のちには青年マンガでも執筆していたようです。

 内容的には、荒くれの格闘家たちが集う「激闘学園」なる高校を舞台にした格闘バトルもの、でしょうか。創刊当初のガンガンは、このような少年向けのスポーツや格闘ものが数多く見られましたが、このマンガもそのひとつだと言えるでしょう。実に荒々しいイメージの男くさいマンガとも言え、当時のガンガンはこのようなスタンダードな少年向けマンガを数多く揃えようとしていた印象があります。しかし、こういったタイプのマンガはほとんど成功せず、1年も経たないうちにほとんどの作品が連載終了となってしまいます。残念ながら、このマンガもその中に含まれてしまうかもしれません。

 しかし、このマンガ、当初は確かに典型的な格闘バトル系マンガだったのですが、連載中盤あたりからギャグシーンが増加して異様なノリのマンガに変化していき、そのバカバカしすぎるギャグで一世を風靡するようになります。純粋な格闘マンガから「格闘+ギャグ」というようなマンガへと進化していったのです。しかも、連載終盤の最後のエピソードは、超展開とも言えるような凄まじいストーリーを展開していき、もはやまともな格闘マンガとは思えないような凄まじいエンディングを迎えます。ガンガンの長い連載の中でも、これほどいかれた終わり方をしたマンガはほとんどないでしょう。

 しかし、創刊当初のガンガンは、このような妙なノリの作品がかなり多く見られ、独特の雰囲気を持っていたように思います。そんな当時のガンガンを象徴する一作品として、これは極めて重要であり、語り継ぐべき作品であると思われます。


・連載前半はまじめな格闘バトルマンガだった。
 しかし、このマンガは、連載の前半のうちは、かなりまじめに格闘バトルマンガをやっていました。コミックスは全4巻が出ていますが、うち前半の2巻までは、たまにちょっとしたのギャグシーンが見られるものの、それ以外はごく普通の格闘バトルが中心の、何の変哲も無い少年マンガだったと思います。この当時しか知らない人は、このマンガを普通の少年マンガだと思っているかもしれません。

 主人公は、無双流空手なる古武術の達人・一番丈太郎。彼は、「関東の一番」と呼ばれるほどの猛者で、強い相手を求めて「激闘学園」なる格闘家養成高校に入学することになります。そこは、先生も先輩も暴力的な連中ばかりの、荒くれ者が集うヤンキー系とも言える高校で、しかも一番と同じクラスの同級生にも多数の強者がおり、入学早々彼らと格闘バトルを繰り広げることになります。特に強いライバルとして、「関西の牛嶋」と呼ばれる空手を使う巨漢・牛嶋、「沖縄の都賀城」と呼ばれる米軍仕込みのマーシャルアーツを使う金髪男・都賀城、そして「東北の冬木」と呼ばれる最上小西流なる古武術を使う双子の格闘家・冬木兄弟などが登場し、のっけから一番と死闘を演じることになります。そして、一番が彼らに勝利した後は、今度は他クラスの強者たちと「クラス最強対抗試合」なる大会で勝利を目指して闘うことになります。

 ある程度実在の格闘技をモチーフにした格闘技マンガであり、激しいバトルの様子もかなりよく描けており、ひとつの「ヤンキー学園バトルもの」としても中々読めるものになっていました。実際の格闘技の知識(薀蓄)もふんだんに登場し、それらを活かした駆け引きの描写も見られるなど、中々に本格的な内容だったと思います。わたしは格闘技の知識はあまりないので、このマンガに描かれる格闘技バトルがどれだけ正しいのかはよく分かりませんが、それでもここまで実在の格闘技の要素を盛り込んだ内容は、決して悪いものではないと思いました。いずれにせよ、極めて正統派の格闘技マンガ、バトルマンガになっていたと思います。

 以上のように、「連載の前半に関しては」さほどおかしなところは少ない、むしろ普通のバトル系少年マンガだったのですが、これが連載の中盤から後半に差し掛かるあたりから、次第に雲行きが怪しくなってきます。


・「ゲロ!!ゲロ!!ゲロの海だあーーーっ!!」
 まず、2巻の終わりで宴会を開くあたりから、少々作品のノリがおかしくなりはじめ、次第にギャグ要素が強くなっていきます。宴会において、あの冬木兄弟が、突然アイドル歌手の歌を熱唱し始めるノリが異様で、この作品がおかしくなっていく端緒だったように思います。この冬木兄弟、この後で次第にイロモノキャラへと変化していきます。そして、この宴会でほとんどのキャラが二日酔いになってしまうのですが、これがのちの展開への偉大なる伏線となります。

 その後、本格的にこのマンガがギャグへと基調を変えていく最初のエピソードが、前述の「クラス最強対抗試合」の第二回戦です。第一回戦はまともな格闘マンガだったのですが、この第二回戦は異様なイロモノ的展開が押し寄せます。
 まず、一番の相手となる「墓内」というライバルキャラが異様で、「北家五指活殺術」なる技を使うのですが、常に病人服で青白い顔をして倒れそうな様子の男で、そんな男が妙なポーズで変な技を使うバトルスタイルは、あまりにもイロモノ的すぎる雰囲気で、これまでのバトルとはまったく異なるノリに満ちていました。

 そして、問題なのは肝心のバトルシーンです。墓内の不可解な攻撃を食らった一番は、首が傾いて元に戻らなくなり、無理矢理強引に戻すとなぜか手が胸を叩く動作がとまらなくなり、大阪名物パチパチパンチをリング上で繰り広げます。

 これだけでも既に異様な展開ですが、真の問題はこの後です。さらなる墓内の攻撃に追い詰められた一番は、突然ゲロを吐きまくり、しかもそのゲロの匂いで、セコンドをやっていた一番の友人たちの二日酔いが復活し、セコンド陣が揃いも揃ってゲロを吐きまくるという凄まじい展開に突入します。その時の実況のコメントがまた凄まじいもので、

 「な・・・なんと汚い光景!!一番選手ゲロを吐いております!!
  それにつられたセコンド陣のもらいゲロ!!
  リングの周囲はゲロ!!ゲロ!!ゲロの海だあーーーっ!!」

という悲惨な光景に発展します。これほど凄まじい展開は、まず普通の格闘マンガでは見られないでしょう。これが、このマンガが本格的におかしくなる最初のエピソードでした。

 とはいえ、この後のバトルの展開は、消極的で闘いを嫌がる墓内が、一番の男気に触れて自ら闘うことを決意し、双方が全力で闘うというすがすがしいものへと変わっていき、このエピソード自体はまだそれなりに真面目な終わり方をします。ここで思いとどまっていればよかったのですが、しかしその後、さらに妙なノリのギャグが次々と登場することになります。


・ディスコで大乱闘、そして珍入。
 墓内とのバトルが終わった直後、決勝戦を3日後に控えた一番は、都賀城のアドバイスに従って、リズム感覚を磨くためになぜか六本木のディスコに行くことになります。ディスコというネタからして、ガンガン初期の90年代初頭、ジュリアナ東京が流行っていた時代を思い起こさせるものがありますが、しかしここでもとんでもないギャグ展開が待ち受けています。

 一番と共に向かったのは、都賀城以外に牛嶋や安川(一番につきまとう格闘技オタク)などのいつもの仲間たちなのですが、唯一例の冬木兄弟のみが置いていかれることになります。自分たちが知らないうちに出かけていく気づいた冬木兄弟は、「なにか秘密の特訓でもやるのではないか」と思い込み、サングラスにトレンチコート、黒装束という異様ないでたちで後を付けていきます。しかし、この兄弟、あまりにも格闘に対してばかり真面目すぎるのが、妙に幼稚で子供じみたところがあり、一番たちが自分たちが入ったことのないディスコに入るのを見て、入るのを大いにためらい、入り口で「お前が先に行け」と互いに言い合いをし始めます。

 そんなことは知らない一番たちは、ディスコの中で思い思いにダンスやナンパを始めるのですが、最初のうちはダンスの踊り方も知らなかった一番が、その卓越した運動神経で瞬く間にダンスが上達させ、華麗なアクロバットを見せて店内の女性の視線を独り占めにします。それでナンパ相手の女性を取られた仲間たちが大激怒、腹いせに一番を殴りまくり、それに腹を立てた一番も殴り返し、止めに来た店員まで巻き込んで、ディスコの中で大乱闘を繰り広け、やがては警察を呼ぶ騒ぎにまで発展します。

 一方その頃、相変わらずディスコの入り口で足踏みをしていた冬木兄弟は、店内から騒ぎの音がするのを聞きつけ、「一番たちがなにか事件に巻き込まれたのではないか」と思い立ち、救出するべく店内に入ることを決意、そのままサングラスにトレンチコート、黒装束という怪しすぎる外見で乱入し、一番たちに荒らされたディスコの中で笑えるポーズを取ることになります。一番たちは警察が来るのを見て逃げてしまいますが、ここで冬木兄弟だけがたまたま警察に出くわしてつかまってしまいます。このときの警察との会話がやたら面白く、

 「は、はなせっ われわれは怪しい者ではないっ!!」
 「誰がみても怪しいわっ!!」

という会話シーンは、もう本当に大笑いしてしまいました。ガンガンのマンガでこれほどバカバカしいシーンも、そう多くはないでしょう。


・終盤からラストにかけての超展開が凄まじい。
 しかし、ここまではまた序の口です。この後の決勝戦からラストまでの展開が凄まじいのです。

 「クラス最強対抗試合」の決勝戦で一番と闘う相手は、大玄寺鉄太郎という男なのですが、この男は、神秘力発掘セミナーなるセミナーの主催をしており、その主旨が「正しい心を持ってすれば自己のパワーを大きく向上できる」とするもので、自分に暗示をかけて強くなるというものでした。こうした精神修業自体は、それなりに合理性もあるとは思いますが、このセミナーの場合、その思い込みが凄まじく、3巻ラストで大玄寺鉄太郎が見せる「正しい心」の連続コマは、あまりに異様なノリに満ちています。

 そして、いよいよ一番とバトルに入るわけですが、その激闘の最中に、暗示の効果で強くなった鉄太郎に手も足も出ない一番は、突然「お前は父と母から生まれた普通の人間だ」といい始め、「かあさんがよなべをして〜」と歌い始めます。その効果で暗示が薄れますが、鉄太郎の支持者が「正しい心」を連呼するとまた暗示の効果が強まり、今度は一番の仲間たちが「かあさんがよなべをして〜」と歌うと暗示の効果が薄れるという具合で、双方の応援者が「正しい心」「かあさんがよなべをして〜」を連呼しまくるという異様なバトルに発展します。

 しかし、ここからさらなる超展開を迎えます。突然、鉄太郎の下に激闘学園の校長が登場し、「おまえは特別な人間だ。選ばれし戦士なのだ」と呼びかけ始めます。その場はなんとか一番が勝利を迎えますが、敗れた鉄太郎の頭にかつての思い出がよぎり始めます。実は、鉄太郎は、校長の野望のために、最強の戦士となるために拉致され、生体改造を受けて洗脳されていたことが判明します。拉致される前の鉄太郎は、普通の家族の一員として暮らし、レスリングにも取り組むがファミコンも好きなごく明るい少年でした。そんなある日、苦労して手に入れたドラクエを自室でやろうとしたまさにその時に、いきなり拉致され、生体改造を受けてしまったのです。

 そのことを完全に思い出した鉄太郎は、立ち上がるやいなや、「ドラクエをやりたかったんだーーーーーっ!!」と絶叫し、そのまま虎へと変身してしまいます。そして完全に狂った鉄太郎は、周りの生徒を襲い始めます。

 そして、その様子を見た校長は、鉄太郎を止めようとしますが止まらず、しかもその校長の元に、実は潜入した特捜刑事だった学校の先生が、逮捕しにくるというありえない超展開を迎えます。校長はひたすら逃げ出し、一番たちと刑事がそれを追っていく展開になりますが、ここで学内の校長専用トイレが実は脱出路になっており、トイレの便器に乗って校長を追うというさらに凄まじい展開へと突入します。激闘学園の下は超巨大な秘密研究所となっており、そこには虎と化した鉄太郎と同じような獣人たちが大勢いました。

 その真っ只中に叩き落された一番たちは、追ってきた鉄太郎にも襲われ窮地に追い込まれますが、ここで壊れた実験施設から薬品と電気を浴びまくったことで、一番たちも獣人に変身、周りの獣人たちと大バトルを繰り広げ、中でもライオンに変身した一番は、ついに鉄太郎を撃破することに成功するのです。

 しかし校長はヘリコプターで逃亡し、「ここでは失敗したがまだわたしの獣人たちは全世界にいる。必ず帰ってくる。」と捨てゼリフを吐いて去っていきます。一番たちは、いつでも校長に立ち向かうことを誓い、ここでようやくエンディングを迎えます。あの普通に格闘バトルを繰り返していたマンガが、まさかこのような超展開を迎え、このような終わり方をするとは、一体誰が予想したでしょうか。


・ガンガンの歴史に残る怪作。これは是非とも続けてほしかった。
 以上のように、この「激闘!!一番」、初期ガンガンにおける屈指の怪作と化しており、あれから17年以上が経とうかというエニックスマンガの歴史においても、いまだにこれほどの凄まじい内容を示したマンガは、ほとんどないのではないかと思います。
 しかし、このマンガは、これほどのインパクトのある内容にもかかわらず、ほとんどのちに伝えられることはありませんでした。当時のガンガンをリアルタイムで知っている人でも、このマンガのことを覚えている人はそう多くはないと思います。なぜなら、ガンガンには他にも「ロトの紋章」を始めとするファンタジー系の人気マンガの存在感が非常に強く、このようなごく普通の(普通に見える)スポーツ・格闘系の少年マンガは、ほとんど成功することなく、短期間のうちにことごとく連載を終了してしまったからです。そのため、このようなマンガは雑誌内ではあまり目立つことなく、ガンガンをちょっと立ち読みするくらいの人では、あえて覚えていることも少ないのではないかと思われます。

 しかし、このマンガは、決してそのような目立たない扱いを受けるべきマンガではないと考えます。他のスポーツ・格闘系のマンガが、ごく普通のオーソドックスな少年マンガだったのに対して、このマンガの中盤以降の凄まじい怪作ぶりは、あまりにも強烈なものがあり、わたしのようなコアなガンガン読者の心には凄まじい思い出を残しました。「ゲロ!!ゲロ!!ゲロの海だあーーーっ!!」「誰が見ても怪しいわっ!!」などのセリフは、17年経った今まで忘れることができません(笑)。なぜこんなマンガになってしまったのかは謎ですが、中盤以降の妙なギャグが気に入った作者と編集者が、 最後に悪ノリの限りを尽くして終わらせたかったのかもしれません。

 そして、この異様なノリに満ちたマンガは、実はこの当時のガンガンの、雑誌の雰囲気を象徴する一面もあったのです。今でこそ、創刊当初の初期ガンガンは、「王道的な少年マンガ誌」として扱われることが多いのですが、当時リアルタイムでわたしが読んでいた時には、必ずしもそういう風には思っていませんでした。むしろ、「ちょっと変わった妙なノリのマンガも載っている、一風変わった少年誌」だと思っていました。これは、「南国少年パプワくん」や「突撃!パッパラ隊」のような新しいタイプのギャグマンガや、勇者なのに外道という異色主人公を全面に押し出した「ハーメルンのバイオリン弾き」、RPGのお約束を爆笑ギャグに仕立てた「魔法陣グルグル」、あるいは矢追純一の異色UFOマンガ「EBE」などの、一風変わったタイプのマンガが多かったためなのですが、その中にこの「激闘!!一番」の存在も、大きく関係していることは言うまでもありません。そういう意味で、まさに初期ガンガンのちょっと変わったカオスな誌面を象徴するような作品だと言えるのではないでしょうか。

 そして、ここまで異様なほどにオモシロいマンガだったのだから、このマンガだけは是非とももっと続けてほしかったところです。他のスポーツ・格闘系マンガにはない何かが、このマンガにはあった(笑)。もし、このマンガが1年程度の短い連載期間で終わらず、この凄まじいギャグと超展開で長期連載を続けたならば、エニックス史上に燦然と輝く超怪作になったのではないでしょうか。いまだにそれが残念に思えてならないのです。


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