<学園ナイトメア>

2010・3・8

 「学園ナイトメア」は、ガンガンONLINEで2009年8月から開始された連載で、創刊以来多数の新連載を出し続けた同誌の中では、比較的後発の作品に入ります。先月の7月に初めてONLINEからコミックスが出され、人気マンガが一通り出揃った感のある雑誌でしたが、その後も新規作品の投入は続いており、このマンガもその中のひとつに入ると言えるでしょう。

 作者は、方條ゆとり。かつて、休刊したガンガンWINGにおいて長く活躍した作家で、とりわけ「ひぐらしのなく頃に 綿流し編」及び「目明し編」を連載したことで一躍有名になり、他の「ひぐらし」関連コミックと並んで、非常な人気を博しました。中でも、この方條さんの作品は、ひぐらしコミックの中でも評価の高い作品となり、さらには、当時質が落ちつつあったガンガンWINGの中でも数少ない安定した連載ともなりました。

 しかし、「ひぐらし」の担当する編の連載を一通り終えたのちは、再度WINGに登場することはなく、そのままWINGは休刊してしまいました。もし、WINGが健在ならば、もう一度 そこで連載の話もあったかもしれません。しかし、もう当時のWINGは完全に末期で、おそらくは休刊も視野に入っていた段階だったため、再度の連載は考えられなかったのではないかと思われます。
 しかし、その後休刊したWINGの後継雑誌として、新しく創刊されたウェブ雑誌「ガンガンONLINE」において、ようやく新しい作品が日の目を見ることになりました。後継となる雑誌としては、さらなる注目株である「ガンガンJOKER」も控えていましたが、こちらの方での連載はなかったようです。JOKERでは、創刊時から小島あきらや藤原ここあ、河内和泉、最近ではカザマアヤミなど、旧WINGの人気作家陣が多数連載を始めており、一方でこのONLINEの方でも、鳴見なるや宮条カルナのWING時代の連載が移籍して継続しているなど、かつてのWINGの作家がふたつの雑誌に分かれる形となりました。そして、この方條さんはONLINEの方へと選出される形になったようです。

 しかも、ONLINEの創刊からもうじき1年が過ぎようかという時期になって、ようやくの再登場です。しかも、今回はオリジナルのコミック。長らく「ひぐらし」のコミックを任され続けてきた方條さんだけに、オリジナルの連載は本当に久しぶりであり、それが今になってようやく読めるというのは、非常に感慨深いものがありました。


・方條ゆとり7年ぶりのオリジナル連載。
 元々、方條さんは、2001年にガンガンWINGのマンガ賞である「金の翼賞」で受賞した作家です。受賞作は「CAGE」。女の子が銃を撃つアクションマンガだったような気がするんですが、詳しい内容はわたしも覚えていません。この当時は、まだエニックスお家騒動が始まる直前であり、まだ新人のひとりに過ぎませんでした。

 しかし、まもなくエニックスお家騒動が起こり、主要な人気作家のほとんどが抜けてエニックスを去ってしまいます。そこで、多くの新人作家が急遽穴埋めとして連載を開始することになり、この方條さんもその時にいきなり連載を開始することになってしまいました。その連載のタイトルは、「迷想区閾(メイソウクイキ)」。2002年4月号からの連載で、前後に新連載が8つもある中の一つとして始まっています。これらの連載の多くは、ほとんどが数ヶ月程度の短期連載で終了となり、この「迷想区閾」も、やや長めの10回の連載となりましたが、それでも1年経たないうちに終了してしまいました。そんな経緯の連載ですから、これを覚えている人は多くないかもしれません。
 しかし、この「迷想区閾」、学園内でかつて起こった殺人事件の犯人を追う、シリアスなミステリーものとなっていて、非常に印象深いものがあったと思います。新人による穴埋め的な措置の連載ということで、最初から短い期間での終了が決まっていたようですが、できればもっとじっくりと読みたいと思える作品で、決して悪い作品ではなかったと思います。

 その後の方條さんは、長い間次回作の連載がなかったのですが、これが2005年になって、あの「ひぐらしのなく頃に」のコミック化担当という形で、再び連載に復帰します。そして、これが原作ゲームの人気・完成度と、コミック化自体の優秀さによって、大ヒットを記録します。方條ゆとりと言えば、ほとんどの人が知っているのはこの「ひぐらし」でしょう。その優秀なコミカライズの仕事ぶりは、めざましいものがありました。

 しかし、初の連載作品だった「迷想区閾」から、連載復帰までに長いブランクがあり、その後「ひぐらし」の連載に数年以上かかわってきたために、彼女のオリジナル作品の姿は、もう完全に薄くなってしまいました。「ひぐらし」のコミックの大ヒットで、そればかりが有名になってしまったというのも、理由としては大きいでしょう。それが、2009年のガンガンONLINEにおいて、ついにオリジナルの新作で再び連載開始。わたしとしては、かつての「迷想区閾」も大いに評価していたので、そこから数えて7年ぶりとも言えるこの久々のオリジナル連載には、大いに期するものがありました。


・対照的な主人公ふたりを中心にしたコメディが面白い。
 さて、このマンガのストーリーですが、広島県の備北地方にあるという、石灰岩の秘境の中の中洲に浮かぶ「半崎学園」なる全寮制中高一貫性女子学園を舞台に、「ネットロア」なる怪異現象に立ち向かう生徒の活躍を描く、ホラーアクションとも言うべきジャンルのマンガになっています。

 広島県は作者の在住地で、自分の親しい場所を舞台に設定したように思われます。石灰岩のカルスト地形などは、実際に備北地方に存在するようですが、このマンガの舞台は、どちらかといえばかなりファンタジーが入っていて、隔絶した自然の中にある女子学園という舞台が強調されているようです。
 これは、むしろ、作者がこの前に手がけていた「ひぐらしのなく頃に 綿流し編/目明し編」で登場した、全寮制の女子高(聖ルチーア学院)あたりが、着想のヒントになっているような気がします。また、このマンガのホラー中心の構成も、一部で「ひぐらし」の雰囲気に近いものを思わせるところもあり、かつて手がけたコミックの影響を、多かれ少なかれ受け継いでいるのかもしれません。

 そんな風に、舞台はおどろおどろしさも感じる立地の学園で始まり、ホラー要素も濃い作風ではあるのですが、ストーリーは意外にも主人公を中心としたコメディシーンも多く、個性的なキャラクターたちが織り成す賑やかな学園生活の描写にも力が入っているようです。

 主人公のひとりは、学園では完璧少女として通っている北寮寮長の荊木鏡(いばらぎきょう)。厳しい性格ながら容姿や成績に優れ、学園女子から憧れを受けている真面目な少女なのですが、彼女が同じ寮に住む九十九坂クロエ(つくもざかクロエ)という生徒に出会ったことから、その生活は一変します。クロエは、そのかわいい容姿から生徒たちにかわいがられている生徒なのですが、一方で日々オカルト趣味に傾倒し、自分のことを「クロエちゃん」と呼ぶ不思議系の少女でした。オカルトを追いかけるクロエは、鏡が「こっくりさん」の儀式を途中で中断してしまったことに目をつけ、「寮長が呪われる現場を見に来ました」といってつきまとうようになるのです。

 その後は、ひたすら不思議少女のオカルト趣味に追われる日々が続き、自分の部屋にまでおしかけて怪しげなオカルトグッズを部屋中に展開するクロエにへきえきしつつ、周囲の女生徒からは妙な噂まで立てられることになります。この、堅物の寮長が不思議オカルト少女にほだされて繰り広げるコメディ、これが面白い。ホラーやオカルトが中心の作品ではありますが、作風は明るく、以前作者が手がけた「迷想区閾」や「ひぐらし」に比べると、随分と明るい印象を受けます。かつては厳しい作風のマンガを長く手がけてきた作者で、しかも「ひぐらし」という人気ゲームのコミック化で長く苦労してきたようですが、今作ではようやくその重圧から解放されたのか、自身も楽しくマンガを描いているように見受けられます。


・「ネットロア」をモチーフにしたのはいい着眼点だと思う。
 そんな風にクロエに付きまとわれる鏡ですが、そんな彼女の元についに悪霊が現れ、彼女に襲い掛かってきます。クロエは、そんな霊を持っていた長銃で軽々と打ち抜き、さらには自分は霊を集めて封じる「コレクター」であると宣言。鏡を襲う霊を封じようとしますが、しかし霊は鏡の中に入って取り付いてしまい、耳と尻尾が生える形となり、そのまま取れなくなってしまいます。クロエは、このままコレクターとして活動し幾多の霊を封じていけば、やがて身体の中から霊をはがせる除霊の能力を持つものも見つかるはずだといい、鏡に取り付いた霊を封じるまで、彼女と行動を共にすることになります。

 このあたりの、「霊能力を持つキャラクターが悪霊を退治する」「銃などの武器を駆使して霊を倒す」「カードなどに悪霊を封印してコレクションする」などの設定は、これまでもホラー系のアクションものではよく見られるようなもので、さほど目新しいものはないかもしれません。しかし、主人公が倒していく霊を「ネットロア」としたのは、中々面白い設定だと思います。

 「ネットロア」とは、このマンガの造語ではなく、実際にインターネットなどで流布されている言葉で、「主にネット上で広まっていく新手の都市伝説」のことを指すようです。都市伝説の内容は、従来の噂話と類するものも多いものの、主にネット上のチェーンメールを介して広まり、伝播の速度が速く、影響を与える範囲も時に非常に大きくなるのが特徴のようです。そんないまどきの流行であるネットロアを、ホラーの題材にしたのは面白いと思います。

 ただ、連載の序盤の頃は、ネットロアという設定とはいえ、実際に出てくるホラーは「こっくりさん」や「赤マント」などの定番のものが中心で、ホラーシーンの恐怖こそかなりよく描けているものの、題材の目新しさにはやや欠けます。さらには、秘境とも言える山奥にある全寮制高校という、ファンタジー的な場所が舞台に設定したのも、やや相性が悪いような気がします。このような、いまどきのネットを介して伝わるホラーならば、むしろIT化が著しい洗練された大都市の高校を舞台にした方が、ずっと相性が良かったのでは?とも感じました。
 まあ、舞台設定はこのままでもいいとして、まずは実際に今ネットで流布している新しいタイプの噂話をもっと取り入れれば、より面白くなったと思います。


・やや絵柄が雑に感じられるのは欠点か。
 このように、学園コメディ+ネットロアを題材にしたホラーアクション、という内容で、面白く読めるマンガになっていると思いますが、唯一、かつてに比べると、わずかながら作画で劣るように感じるかな?と思えるのがちょっと気がかりです。

 これまでの方條さんの作品は、キャラクターの描き方が老若男女問わず流麗で、少女マンガ的な絵柄とも言える整った作画が印象的でした。その上で、ホラーや残虐なシーンでのきつい描写もきっちりと濃く描くあたりで、作画のレベルの高さも同時に感じることが出来ました。特に「ひぐらし」のコミカライズにおける作画は高く評価され、ひぐらしのコミック化全作品の中でも1、2を争うほど人気が高かったと思います。

 それが今回の「学園ナイトメア」の場合、基本的な絵柄はほとんど以前と変わっていないものの、キャラクターの描き方がやや雑に感じられるところが散見されるようで、ちょっと前より見劣りしてしまうかな?と思えるのが気がかりです。ホラーマンガらしく、怖いシーンは相変わらずよく描けているのですが、随所のキャラクターの作画でちょっと質が下がっているかなという気はします。ひょっとすると、丁寧なコミカライズ作業を長く手がけてきた「ひぐらし」の連載を終えて、以前よりもやや気楽に描くことを心がけているのかもしれません。

 それともうひとつ、作画とはやや異なる話ですが、随所にいわゆる男性向けのお色気シーンが投入されているのも、ちょっと気がかりです。かつての「迷想区閾」は、少女マンガ寄りとも言える作品で、そのようなシーンはまったくなく、「ひぐらし」のコミックにおいても、そういったシーンはごく一部にとどまっていたと思います。それが今回は、最初から半裸やお風呂、パンチラなどのシーンが積極的に入っているようです。
 これは、最近のスクエニの、特に男性・少年向けと思われる作品ではよく見られる傾向で、出版社の方針としてこのような読者に合わせた要素を取り入れているのかもしれません。しかし、この作者のマンガにおいては、そういった要素をここまで求める必要はないと思いました。


・ガンガンONLINEで再登場できたことをありがたく思いたい。
 そういった作画面での不安定感や、あるいは最近のスクエニではよく見られる読者向けのシーンは気がかりなところですが、それを考慮しても中々面白く読めるマンガに仕上がっていて、久しぶりの方條さんの連載として申し分のない作品になっていると思いました。他のWING作家が次々とJOKERやONLINEで連載を再開される中、「ひぐらし」以降音沙汰がない状態が続き、もうこのままだともう次回作での再登場はないのかなと考えていただけに、喜びも大きいものがありました。

 これは、ガンガンONLINEというウェブ雑誌を創刊した功績も大きいと思います。主要な掲載先だったWINGが休刊してしまい、新雑誌のJOKERで採用されたのは一部の主要人気作品・作家のみ。このような状態ならば、方條さんの掲載場所が他にないことも十分に考えられましたが、しかし今のスクエニには、数多くの連載を載せることの出来るウェブ雑誌が存在しています。これならば、こういった少し前の作家を再登場させ、連載させる場を確保するのもたやすいでしょう。

 作品自体も、作者の以前のマンガに比べてずっと明るい、ホラーとはいえ同時にコメディライクな作品にもなっていて、それを作者が楽しんで描いているように思えるのがいいですね。特に、主人公の不思議少女・クロエの独特の個性が存分に描かれていて、作者によって愛着を持たれていることがよく分かります。不思議な言動で鏡を惑わしながら、いざという時には悪霊に対するアクションでかっちりと決める。そのどちらもが非常に魅力的で面白いキャラクターになっています。かつての作品では、ごく一部でしかこういった明るい作風を見ることは出来ませんでしたが、久しぶりのこの連載において、そんな一面が良く出てきたと思います。

 ガンガンONLINEは、数多い連載作品の中に他にも良作が多く、そんな充実したラインナップの中に、さらにもうひとつ有望な作品が加わることになりました。今後更なる発展に期待したいと思います。




「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります