<お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊>

2007・8・26

 「お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊」は、月刊少年ギャグ王において「1999年4月号」から開始された連載で、「1999年4月号」で終了した連載です。作者は、ガンガン創刊時代からの古株作家である松沢夏樹

 このマンガの連載開始当時のギャグ王は、極度の不振が数年来続いており、雑誌としては底辺に近い状態でした。極端な低年齢向け路線が完全に失敗し、どの年齢層から読まれておらず、エニックス好きな熱心なファン層ですら、当時のギャグ王を評価するものは決して多くありませんでした。そこで、編集部は、この状況を打破するために、1999年に入ってすぐに大規模なリニューアルを行います。雑誌のデザインを一新し、タイトルロゴも「ギャグ王」から「Gag oh!」に改め、そしてもちろん内容面でも、それまでとは異なるイメージの新連載を多数投入します。その多くは、それまでの行き過ぎた低年齢向け路線の作品とは一線を画するもので、比較的他のエニックス雑誌に載っているマンガに近い方向性の、ある程度高い年齢層向けの作品が中心でした。そんな新連載陣の中で、最後に目玉として打ち出されたのが、この「お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊」であり、作者に安定した人気を誇るベテラン作家の松沢夏樹を起用。作者のネームバリューも最大に利用した形の大型新連載で、リニューアル第3号目である1999年4月号から開始されたのです。

 しかし、なんと、あろうことか、このリニューアル3号目を持って、ギャグ王の休刊(廃刊)が決定してしまいます。そのため、この「お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊」も、なんと新連載の第1話を掲載した時点でいきなり終了となってしまい、新連載第一回が最終回という、前代未聞とも言える終わりを迎えてしまいました。こんな悲惨な例はあまり見ることもないでしょう。

 作者の松沢さんは、このマンガ以外にも多数の作品をエニックスで手がけており、それらの方がどれも有名なため、たった一回で終了したこの作品が思い出されることもほとんどありません。しかし、このマンガは、もし続いていたらかなりの凄まじいマンガになったかもしれない、ありえないほどの怪作だったのです。まさに、松沢夏樹の幻の一作だと言えます。


・エニックス、ギャグ王と松沢夏樹。
 ここで、作者の松沢夏樹がここで連載を始めた経緯について、もう少し詳しく解説してみます。
 松沢夏樹は、少年ガンガン創刊号から連載を始めた「突撃!パッパラ隊」でデビューした作家で、最初期からエニックスを支え続けた貴重な作家です。エニックスからの生え抜きの新人で、同じく生え抜きの新人である渡辺道明や、エニックスが実質的なデビューとなった西川秀明ら、初期のガンガンを支えた人気作家たちと並んで、いまだに古参ガンガン読者の評価は非常に高いと言えます。

 そんな松沢さんですが、彼が渡辺道明や西川秀明と大きく異なるのは、「ガンガン以外のエニックス雑誌でも積極的に執筆を行った」という点でしょう。最大人気の「突撃!パッパラ隊」をガンガンで長期に渡って連載しつつ、それと同時並行で、姉妹誌のGファンタジーやギャグ王でも連載をよく行いました。Gファンタジーでもギャグ王でも、創刊号から連載を行っており、どの雑誌でも重宝されていたことが分かります。時には、3つの雑誌で同時連載を行う時期もあり、加えて読み切り作品の執筆まで積極的に手がけているという、まさに大車輪の活躍でした。以下に、松沢さんのエニックスでの全連載作品を示します。

 このような作家ですから、当時のエニックスでは、どの雑誌の読者でも松沢夏樹を知っているような状態で、極めて安定した人気と知名度を確立していました。そこで、リニューアルで再起を図るギャグ王としても、ここまで安定した重鎮作家である松沢夏樹を再び採用し、それを新連載中で最大の目玉としたのです。そのため、当初から雑誌上で非常に強い宣伝・告知活動が行われ、連載開始前からテレカの全員サービスまで行われたほどです。それが、まさかこんな結末を迎えるとは、一体誰が想像したでしょうか。


・子供向け番組をパロディ化したあまりにも過激な内容。
 肝心の内容ですが、「NHK教育の子供向け番組をパロディ化した過激ギャグ」といったところでしょうか。「グレグリ探検隊」という、おねえさんとマスコット(グレグリ)の二人組みのキャラクターが、街で働いている人々の仕事を取材して子供たちに紹介するという、実際にテレビであったような番組を、そのままモチーフにしています。
 しかし、本来のテレビ番組が、子供向けに安心して見られる内容なのに対して、このマンガは、それを逆手にとったかのような過激な展開の連続で、元ネタの番組を徹底的に茶化したような、悪ノリ全開の内容になっています。はっきりいってとてつもなく不謹慎極まりない内容で、よくこんなマンガを、低年齢向け雑誌のギャグ王で連載しようと思ったものです。この作品ひとつとっても、リニューアルしたギャグ王が、従来の低年齢向け路線から脱却しようとした形跡がありありと窺えます。

 まず、このマンガは、主人公のおねえさんが見開きのカラーページでヤクザにぶっ刺されるシーンから始まります。これだけで、作者の松沢さんの悪ノリのひどさが窺えるというものです。これほどインパクトのある新連載の見開きは、そう滅多に見られるものではありません(笑)。

 そして、肝心の本編もまたひどいものです。おねえさんは、子供向け番組の司会とは思えないような悪ノリ全開のキャラクターで、ことあるごとにふざけた言動を繰り返し、周囲を引っ掻き回します。冒頭のヤクザにやられた傷も直そうとせず、腹から血をどくどく流し続け、口からは吐血しながらも、平然と笑顔で飛び回るギャップもなんとも言えません。連載第一回での取材は「警察官のお仕事」ですが、取材先の警察で平気でうそをついて捜査を撹乱しまくり、警察署の署長にも過激で暴力的なツッコミを繰り返しまくるその姿は、傍若無人の一言に尽きます。そして、そんなおねえさんに好意的なツッコミを入れて煽りまくるマスコットのグレグリ。見た目がかわいいだけにムカつき度は倍増です(笑)。

 そして、最後の最後で、実は刺されたのは完全な狂言で、おもちゃのナイフと作りものの血で刺されたように見せかけただけだったことが判明し、「つかみはOっK〜!」というしょうもなさすぎるボケを放ち、怒った警察官たちに今度は本当に銃で撃たれまくって全身から血を吹き出して終了という、身もふたもないオチが待ち構えています。最後の最後までひどすぎる内容のマンガでした。

 はっきりいってこのマンガ、ガンガンでの松沢さんの人気作「突撃!パッパラ隊」をさらに凌ぐかのような、過激すぎるネタのオンパレードです。「パッパラ隊」も相当過激なマンガだと思うのですが、それよりもさらに過激なマンガを松沢さんはいくつか手がけており、そのひとつにしておそらく最も過激と言えるのがこの作品なのです。もし、この作品がそのまま連載が続いていたら、松沢夏樹最大の怪作になったことは間違いないと思われます。


・全プレのテレカもひどすぎる。
 そして、連載に先駆けて企画された、応募者全員サービスのテレカの内容も、これまた悪ノリに満ち溢れたもので、ある意味では非常に貴重なテレカとなっています。
 この全員サービスは、リニューアル第1号から第3号にかけて連続して行われ、各号でもらえるテレカ3枚を集めることで、ひとつの大きな組み合わせになるという、よくあるタイプのテレカ企画です。しかし、そのテレカの内容がまたしてもあまりにも笑えるもので、連載開始前からこの作品の内容をモロに暗示させるようなものでした。それは、3枚でひとつの ストーリーになっているテレカで、1枚目の続きが2枚目で、2枚目のテレカの続きが3枚目のテレカで見られるというものです。1枚目こそまともなのですが、2枚目でいきなり犯罪行為に走り、3枚目ではあっさり警察に捕まるという、これまたありえない内容になっています。このテレカを持っている人は、あるイミでは非常に貴重な存在ではないでしょうか(笑)。


・これは松沢夏樹最大の怪作にして未完の名作。1話打ち切りが本当に惜しまれる。
 このように、連載第1話からして作者の過激な作風が惜しげもなく曝け出されたこのマンガ、もし続いていたら相当な凄まじい作品になったことは容易に想像できますが、残念ながらあっさりと雑誌自体が廃刊となり、第1話にして最終回という前代未聞のマンガとなってしまいました。作者の松沢さんも、この事態はまったく予想していなかったようで、第1話の最後でとってつけたような終わり方となっており、到底最終回には見えません。編集者による煽り文も混乱しきっており、雑誌の廃刊があまりにも急な出来事だったことが見るからに想像できるような、壮絶な終わり方となっています(笑)。

 しかし、このマンガ、1話にして打ち切り仕様で終わらせるには、あまりにももったいない作品ではなかったかと思われます。実は、当時の松沢さんは、連載作品のいずれもがあまり芳しくなく、ガンガンの「突撃!パッパラ隊」は、長期連載の末期で完全なマンネリに入ったのか、面白さは大幅に減じており、Gファンタジーで新連載を開始していた「無敵戦艦ワルキューレ」も正直いまいちな感は拭えず、どれもぱっとしない状態でした。そんな中で始まったこの「お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊」は、過激すぎる内容ながら確かな面白さがあり、「これは松沢夏樹の久々のヒットかもしれない」と予感させるものがありました。それが雑誌の都合であっさりと立ち消えになってしまったのは、あまりにも不運だったと言わざるを得ません。

 このギャグ王の廃刊に際しては、多くのギャグ王作家が活躍の場を失い、以後連載を持つことが出来ない作家が多数出てしまい、中にはエニックスから離れる作家も幾人も出てくるなど、あまりにも悲惨な事態を招きます。この松沢さんに関しては、他にも連載を複数持っていたベテラン作家だけあって、さすがにその存在が揺らぐことはありませんでしたが、それでも、これから新連載で久々にいけるかもしれないというマンガが消えたのは、作者にとって決していいことではなかったでしょう。どんな連載でも、その前に数カ月以上の準備を必要としますし、そんな準備期間が完全に無駄になってしまったわけですから。

 それにしても、このマンガの存在は、1話だけでも凄まじいものです。いや、1話だけだからこそ、さらにその凄まじさが凝縮されて、強烈な印象ばかりが残っている感もあります。子供向け教育テレビをパロディ化した不謹慎な内容、見開きカラーページでヤクザにぶっ刺されるという過激なオープニング、悪ノリ全開のおねえさんが吐血しながらふざけた言動を繰り返すあまりにもな内容、「つかみはOっK〜!」というしょうもないボケで終了する身もふたもないオチ・・・。そして、なんといっても、1話で強引に終了させた壮絶なラスト。これほどの作品は、もう二度と見ることはないかもしれません。まさに松沢夏樹の黒歴史とも言えるこのマンガ、作者のマンガ史に残る怪作として、永久に伝えるべき作品ではないかと思われます(笑)。


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