<灰色の乙女たち>

2003・7・31

 ついに廃刊に追いやられたステンシルですが、その末期のステンシルにおいて地味ながらも大変に面白かったマンガです。まさにステンシル最後の遺産。

 単行本表紙の「センチメンタル漫画文学作品」のコピーがやたら目に付くんですが(笑)、確かに「文学」という表現を使いたくなるような、極めて現実的な設定と内容をもつ作品です。
 主人公は父親と二人で暮らしている(父子家庭)女子高生のミサキ。母親は亡くなり、父親は失職して娘のバイトで養ってもらっているというシビアな境遇です。そんな中でもミサキは日々バイトと家事に奮闘し、高校でも生徒会長として頑張っています。
 しかしそんな中で、ミサキの父親が今の境遇を恥じて密かに出ていってしまいます。そしてミサキの心の支えのひとつが消え、そのままくじけそうになるところを、幼馴染の男の子のアキラちゃんや高校の友達、教師をやっている叔父といったまわりの人々に支えられ、あるいは自分から心に整理をつけてなんとか立ち直りつつ高校生活を送っていくという、いかにも文学っぽい内容です(笑)。

 このように重厚な内容を持つマンガで、実際にストーリーも大変よろしいのですが、見るべきはそれだけではありませんでした。まず、キャラクターのセリフ回しや主人公の心理描写がとても面白い。リズミカルな言い回しで読み進めるのが楽しいです。「文学」というものは常に斬新で独創的な文章表現が求められますが、その意味で確かにこのマンガは文学的な面白さがあります。
 さらに、絵的にもシンプルながら味わいがある絵柄で好印象です。わたしはあまりにも描きこみまくったマンガは好きではないんですが、このマンガはシンプルな絵ながらもきちんと描くべきところは描いており、マンガらしい絵で実によろしい。作者の優れたセンスを感じました。

 そして、このマンガはステンシル全連載作品の中でも突出した雰囲気を持つ存在でした。いや、ステンシルだけでなくエニックス雑誌全部を見渡してもこのようなマンガはない。というか、ステンシル以外でこのような地味なマンガを連載するのは極めて難しいでしょう。ステンシルは例のブレイド組の移籍以来、非常に地味な誌面になってしまったんですが、地味だからこそこのような現実的で内容重視の作品が載る余地が出来たと思います。実際、移籍組が移ってしまったブレイドの方で、このようなマンガが載ることはないのではないか。その意味で、このマンガは今のステンシルだからこそ生まれた貴重な作品といえます。

 このように、今のステンシルの誌面で強烈な存在感を持っていた「灰色の乙女たち」ですが、実は大きな欠点がひとつあります。それは連載の途中でステンシルが廃刊してしまったこと。そのために予定された連載が中断されたようで、ラストは雑誌の終了に合わせて強引に終わらせた感が強いです。ラストの展開が急すぎる割に詳しい描写がなく、消化不良気味でかなり不満が残ります。これまでの連載が最高によかっただけに非常に残念な結末でした。

 ステンシルが廃刊した以上、このラストが補完される、あるいは連載の続編が出る、といったことはほぼないでしょう。また、このような作品が今後エニックスの他の雑誌で連載されることも難しい。まさにブレイド組移籍後のステンシルだからこそ今まで存在が許された「ステンシル最後の遺産」ともいえるマンガでした。このマンガを連載できただけでステンシルを今まで存続してきた意味があったというものです。


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