<ジャングルはいつもハレのちグゥ(ハレグゥ)>

2001・11・7
全面的に改訂・画像追加2007・1・22
一部改訂・画像追加2009・11・22

 「ジャングルはいつもハレのちグゥ」は、少年ガンガンの隔週刊行時代である1997年第4号から連載を開始した長期連載で、最終的には10年を優に超える連載となり、2009年10月号で終了しました。比較的早めに連載が終わる傾向にあるガンガン系マンガの中では、非常な長期連載であり、今では、これまでガンガン系で最長連載だった「ハーメルンのバイオリン弾き」の連載期間をも上回っています。ただし、2003年の段階で100話に達した時点で、「ハレグゥ」とタイトルを変えて再スタートの形を採り、単行本も10巻で一旦終了、以後「ハレグゥ」のタイトルで1巻から単行本が発売され、こちらも10巻で最終巻を迎えました。このふたつの作品は、タイトルこそ違えど、内容的にはほとんど同一であり、連載途中で作品のマンネリ化を防ぐ目的で、一旦タイトルを切り替えたにすぎないとも言える措置でした。よって、この記事では、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」と「ハレグゥ」は、完全に同じものとして扱います。

 作者は、金田一蓮十郎。元々は、ガンガンの隔月刊行時代(1996〜1997頃)の新人であり、当時は数多くいた優れた新人の中の一角として、その中でもさらに実力派の作家として一気に頭角を現してきた作家です。そして、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」こそが、この金田一蓮十郎の投稿作品にして、「第3回エニックス21世紀マンガ大賞」において準大賞を受賞した作品であり、これが読み切りとして載ることでガンガンにデビューすることになったのです。そして、そのデビュー作がいきなり連載化されて人気を集め、その後長きに渡ってガンガンの看板作品となるという、非常な成功を収めました。投稿作の段階でその面白さは顕著であり、すでに読者の話題を呼んでいたため、その高い評価のままにほとんどそのままの形で連載化されたのです。当時のエニックスでは、このように作者のデビュー作がそのまま連載化されて成功する、あるいはデビュー作ならずとも作者自身の持っていた作品で成功する、そのような作家が常によく見られました。作者自身の個性を重視した作品作りが顕著だった、優れた時代だったと言えます。

 この投稿作版の「ジャングルはいつもハレのちグゥ」、絵的には連載版よりもはるかに拙いものの、シュールなギャグの切れ味はすでに健在でした。この作品は、のちに、当時の4人の新人作家の投稿受賞作を集めた「エニックス21世紀漫画大賞セレクション」という単行本に収録されますが、その中でも最大の目玉がこの「ジャングルはいつもハレのちグゥ」だったことは言うまでもありません。いや、この単行本自体、半ば「ジャングルはいつもハレのちグゥ」を載せるために刊行されたようなところがありました。

 そして連載版においても、そのギャグの面白さにはさらに磨きがかかり、普段ガンガン系を読まないマンガ読者の間でも一様に高い評価を集めました。そして、のちに晴れてTVアニメ化もされ、こちらも大ヒット。ガンガン系のマンガの中でも、最も一般的な人気を得た作品のひとつと言えるでしょう。しかし、連載が長期化するにつれ、特に「ハレグゥ」とタイトルが変わった後期においては、マンネリ化と作風の変化によって、初期の頃ほどの圧倒的な面白さはなくなってしまった感が強く、最後の頃はあまりいい連載ではなかったような気がします。総合的には非常に面白いマンガだっただけに、後期での質の低下が惜しまれます。


・シュールなギャグが面白すぎる。
 さて、このマンガは、典型的なギャグマンガであり、それも、非常識な設定やキャラクターを売りにした「シュール系のギャグ」として、その面白さは突出していました。元々、ガンガンは、「ギャグマンガが面白い雑誌」という定評があったのですが、その中でもこの「ハレグゥ」の面白さは抜きん出たものがありました。

 そのギャグの内容ですが、ジャングルに住む10歳の少年・ハレが、突然やってきた謎の少女・グゥの不可解な行動にいじられまくり、それに対して全力でツッコミを入れまくるというスタイルです。グゥの特異なキャラクター性が非常に印象的ですが、他のジャングルの住人たちも一様に個性的で、唯一の常識人であるハレが、一人でツッコミ役をこなすのが基本的なギャグパターンです。このような、主人公がツッコミ役というギャグマンガは、昔からガンガン系には多く、ガンガン系ギャグマンガのひとつの定番とも言えるでしょう。

 そして、とにかくグゥのキャラクター性がすさまじい。投稿作の読み切り版から異彩を放っていたキャラクターですが、連載版ではそのいやらしさがさらにパワーアップ(笑)。人間とは思えない奇怪な行動を取り、そしてあらゆる物を飲み込む事ができ、体内に広大な四次元空間を持っているという異様なキャラクター性が、幅広い読者に大いに受けました。
 そして、グゥ以外にも、このようなシュールな設定が多数見られます。その最たるものが、「ポクテ」と呼ばれる謎の生物でしょう。一応はウサギ(のような生物)らしいのですが、その異様な外見と、「実は食べるとうまい」「集団で謎の生活を送る」「突然自害する」などというシュールな設定を持ち、これも読者の間でバカ受けしました。

 それも、男性読者だけでなく、女性読者にもこれらのシュールなキャラクターが受けたのが印象的でした。ポクテなどは、一見するとシュールすぎて気持ち悪いとも取れる外見なので、女の子には抵抗があるかと思えますが、実際の反応はまったく逆であり、女性読者に絶大な人気を集めたのです。当時のガンガン系は、女性読者の比率が高く、女性の支持を集めた作品も多かったのですが、これはその顕著な例と言えるでしょう。


・キャラクターも高い人気を獲得。
 そして、そんなグゥのようなシュールなキャラクターだけでなく、それ以外の個性的なキャラクターの大勢が大人気を獲得した作品でもあります。典型的なギャグマンガでありながら、個性的なキャラクターにマニアックな人気がついたマンガでもあり、シュールな作風で、絵的にも必ずしも萌え系の絵と言えないのですが、それにもかかわらずコアな人気を得ました。

 主人公とヒロインであるハレとグゥはもちろん、ジャングルでハレと学校生活を送る子供たちもみな個性的で面白いキャラクターばかりで、それぞれがみな大きな人気を獲得しました。加えて、前述の「ポクテ」のような、ジャングル(やグゥの体内)に住む人外の生物たちももちろん大人気。ギャグマンガでありながら、ガンガン系に特有の中性的な作風で、くせが少ない作画だったのが、人気を得た大きな要因でしょう。さらに初期の頃は、全体的に絵柄がかわいらしいもので、ハレやグゥのような子供のかわいさが良く出ていたのも、大きな人気の秘密でしょう。シュール系のギャグマンガではありますが、決してアクの強い人を選ぶ絵柄ではなく、むしろかわいらしく親しみやすい絵柄であり、これもまた当時のガンガンのイメージをよく表していました。

 その一方で、意外にもシビアでシリアスな設定のキャラクターも多く、例えばハレの母親であるウェダと父親であるクライヴは、共に過去に大きなトラウマを持っていたりしますが、現在の性格は双方ともに毒が抜けており、そのあたりのギャップにも面白さがあります。そして、このようなシビアでシリアスな設定は、のちの金田一蓮十郎作品に受け継がれ、より青年誌的な、大人向けとも言える作風へと進化する端緒となりました。


・エニックス系以外の読者にも幅広く評価された作品。
 しかし、そのようにガンガン読者に対してコアなキャラクター人気を得る一方で、普段ガンガン系、エニックス系マンガを読まないような読者に対しても、実に幅広く人気を得た作品でもあるのです。あまりマンガを読まない一般層の読者から、より内容重視の本格的なマンガを好む「マンガ読み」な読者まで、多くの人に極めて高い評価をされました。実際、この金田一蓮十郎の作品は、同時期のガンガン系作品では、「浅野りん」の作品と並んで、エニックス外の読者に対してもよく読まれ、評価も高かったと記憶しています。とりわけ、ネット上でマンガのレビューサイトを持っているような、コアなマンガ読みの方たちの評価が一様に高かったのです。

 なぜ、この金田一蓮十郎(あるいは浅野りん)の作品だけが、あそこまで幅広く読まれ、マンガ読みの評価も高かったのか。これは、普段からエニックス系マンガのほとんどを読んでいたわたしには、少々不思議に思える現象でした。このふたりの作品が、特に他のエニックス作品と大きな違いがあるようには思えなかったからです。

 しかし、実際には、エニックス系のマンガというものは、コアなマンガ読みにとっては注目度の低いジャンルであり、普段はさほど目立つ評価もされていないところがありました。そんな中で、この金田一作品(あるいは浅野作品)は、エニックス系では数少ない、マンガ読みの好む作風を持つマンガだったのです。ファンタジー系の作品が多くを占めていた他のエニックスのマンガと異なり、一見してマニアックな読者向けの要素が薄く、むしろ作者のマンガに対するセンスの良さが感じられることが、その最大の要因ではなかったかと思います。
 さらに、この「ハレグゥ」は、ガンガン初期の頃のギャグマンガ、特に「魔法陣グルグル」とイメージが似ているところがあり、そのあたりもとっつきやすい理由だったのでしょう。一方で、浅野りんの作品は、メジャー誌のサンデー系に近いイメージがあり、それが一般層に幅広く受けた大きな要因となっていました。そのため、当時のエニックスマンガの中でも、特にこのふたりの作品を高く評価する人が、実際にかなり多くいたようなのです。


・TVアニメも抜群の人気と評価を獲得。
 そして、そんな幅広い人気に応える形で、2001年にTVアニメ化もされました。そして、これもまた実に幅広い人気を得ることに成功します。もともと原作が幅広く一般層に受ける優秀な作品であったことに加え、それ以上に制作者たちの実力と熱意も顕著に表れており、そのクオリティには見るべきものがありました。実力派のアニメ監督である水島努の元に多数の有能なスタッフが集い、意欲的に新しいギャグ表現を追求し、本当に楽しく作っていたと感じました。下請けに今の京都アニメーションが参加していたこともあり、作画のクオリティも一様に高かった。

 そのため、原作ファンだけでなく、アニメで初めて「ハレグゥ」を知ったアニメファンや一般の視聴者にも大いに楽しまれ、ビデオも非常に好調な売れ行きを示しました。あまりにも人気があったために、TVアニメ終了後も2回にわたって大規模なOVAシリーズが制作されました。そしてこちらの方もTVアニメシリーズと変わらぬクオリティを発揮。今でも、この一連のアニメ版ハレグゥ作品は、よく出来た優秀なギャグアニメとして高い評価を維持しています。

 この当時までのエニックス系アニメ作品は、原作をうまく再現していなかったり、作画のクオリティが低かったりと、一様に評価が芳しくないものが多く、エニックス系アニメはあまりいい目では期待されていないところがありました(最近は必ずしもそうではありません)。しかし、この「ハレグゥ」のTVアニメは、そんなエニックス系アニメの中では例外中の例外で、いい意味で周囲の予想を裏切ってくれた数少ない作品となったのです。


・連載後半でののマンネリ化は疑問。優秀な作品だけにここだけが惜しまれる。
 しかし、そのTVアニメの終了と前後して、あの「エニックスお家騒動」が起きてしまい、ガンガンの誌面が様変わりしたことで、「ハレグゥ」の勢いも多分に失われた感は否定できませんでした。元々、騒動前のガンガンでは、他の連載作品と並んで、エニックス的で中性的な作風が映えていたのに対し、騒動後のガンガンでは、誌面での存在感もひどく薄れてしまいました。多くの作家と人気連載が抜けてしまった中で、なんとかガンガンに残ったことは評価できるのですが、以降は初期の頃ほどの注目度はなくなってしまいました。

 加えて、作品自体の長期連載化に伴い、マンネリ化の波が押し寄せてきた感も顕著です。そもそも「ジャングルはいつもハレのちグゥ」から「ハレグゥ」へとタイトルを変更したのも、タイトルを一新することでマンネリ化を防ごうとする意図が明白でした。しかし、その効果はほとんど上がりませんでした。以前と同じようなネタ、同じようなストーリーを繰り返すようになり、ハレが普段住むジャングルと、親の実家がある都会との間を何度も行き来するようになりました。都会での話は、最初の頃は目新しさもあり、「都会編」と呼ばれて読者に喜ばれたのですが、何度もそれをやられては新鮮味はなくなってしまいます。もう、以前ほどの新鮮味には欠けてきたことは明白な状態でした。

 また、作者の金田一さん自身の趣向の変化が、作風に影響を与えてきた感も否定できませんでした。実は、ハレグゥ連載初期の頃から、大人向けのストーリーへの志向は端々で見えていました。それが、マンガ家として作品を重ねるごとに次第に大きくなっていき、やがてはより大人向けの作品を手がけるようになりました。ヤングガンガンでの2004年からの連載である「ニコイチ」は、その顕著であり、純粋に大人の恋愛を描いた作品になっています。そして、そのような大人向けの作風が、「ハレグゥ」にも顕著に見られるようになったのです。大人のキャラクターにスポットが当たる話が増えたり、生々しい人間関係の描写が増えたり、果てはハレ自身が大人になったという想定の話が出てきたりと、明らかに作風が変わってしまった。加えて、絵柄も随分と頭身が伸びて大人びたものになり、初期の頃のかわいらしい絵柄とは若干異なるものとなりました。  しかし、この作風の変化は、作品の面白さにはあまりいい影響を与えなかったようで、さらにはこちらでも似たようなエピソードが続き、マンネリ化はより一層顕著になりました。 むしろ、前述の「ニコイチ」の方が、マンネリ化が著しい「ハレグゥ」よりもずっと面白いと感じられ、あちらの連載の方が評価が高くなってしまいました。

 実際のところ、ここまで連載を長続きさせるよりは、もう少し早い時期にすっきりと終わらせるべきだったと思います。この時代のガンガンは、かつてのような「早い時期にすっきり終わらせ、作者の次回作を積極的に打ち出す」という姿勢が影を潜め、勢いのないままでだらだらと続く連載が目立つ誌面になりました。そして「ハレグゥ」も、まさにその典型とも言える一作品になってしまった。これは、かつての優れた名作にとって、決してよい続き方ではなかったと思います。ガンガンにおいて10年以上の長期連載という功績は、それはそれで素晴らしいものがあるのですが、それよりも勢いが落ちないうちに有終の美を飾った方が、より評価は高くなったと思います。


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