<花みちおとめ>

2011・11・16

 「花みちおとめ」は、ガンガンONLINEで2010年11月から開始された連載で、2011年11月をもって終了しました。月1回の更新で休載もあって全部で12回、約1年間の連載で終わりました。比較的短期間の連載だったと言えるでしょう。ガンガンONLINEは、掲載本数が多いからか、他の雑誌よりも短めで終わる連載が多いような気がします。

 作者は、はましん。以前ガンガンWINGでいくつかの読み切りを掲載したのち、2007年より「ネクロマンシア」というファンタジーマンガを連載していました。王道ファンタジー作品で、そこそこの出来ではあったと思うのですが、あまり大きな反響はなかったようにも思いました。その当時のWINGは、末期の混乱期で連載の質がかなり落ちており、これもそんな中であまり目立たずに終わってしまったように思えます。当時、これ以外にも王道系のバトル作品、ファンタジー作品をいくつも打ち出していましたが、そのほとんどは成功しませんでした。

 その後の2009年、ついにWINGは休刊となり、はましんさんの次回作も長く登場しないままになりました。それが、2010年も末になって、このONLINEで連載開始となりました。このONLINE、他のWING作家も多数移籍する形で連載を行っており、はましんさんもここでようやく掲載場所を得られたと言ってよいでしょう。個人的には好きな作家だっただけに、この再登場はうれしくもありました。

 作品の内容ですが、今回は一転して現代の学園を舞台にしたコメディとなっており、華道の家元の少年が、学校の女の子たちを華道の演出でプロデュースしていき、ひいては彼女たちの悩みを解決するというストーリーになっています。人の抱える悩みを明るく解決するというよき話となっていて、非常に好感の持てる作品だと思います。また、放課後の楽しい部活動の姿を描いているところも大きなポイントでしょう。


・はましんさんにしては意外な?連載。
 かつてのWING時代のはましんさんの作品は、いずれも異世界ファンタジー作品となっていて、それも一昔前の王道ファンタジーを思わせるものがほとんどで、それが作者の最大の個性となっていたように思えます。

 最初に掲載された読み切り「サナとルイン」が特によく出来ていて、女の子がユニコーンを自分のパートナーにするために誠意を持って接していき、ついには打ち解けてふたりで旅を始めるという、優しいファンタジー作品となっていました。この読み切りは素晴らしく、今でも印象に残っています。

 その後の読み切り2作「NIGHT★KNIGHT」「ネクロマンシア(NecromanciA)」は、ネクロマンサー(死霊使い)をモチーフにした同一の世界観の作品で、これがのちの連載「ネクロマンシア」へとつながっています。これらの作品は、王道バトルが中心となっていて、ややオーソドックスすぎて「サナとルイン」に比べるとちょっと見劣りするかな?とも感じていました。結果的にこれが連載化されるわけですが、個人的にはちょっと不満でもあり、悪くはないもののいまひとつに終わったように思います。

 このように、読み切りも連載もファンタジーで占められていたはましん作品ですが、WING最後の休刊号に掲載された「ミライドロイド」だけはちょっと違いました。女の子のロボット(アンドロイド)をヒロインにした作品で、萌え要素も比較的強い美少女+SFものコメディになっていたように思います。今回の「花みちおとめ」も、美少女キャラクターが多数登場するあたりで、このような作品からつながっているのかもしれません。ファンタジー作品中心だったWING時代から見ると意外ではありますが、このような作品を描く素地も持ち合わせていたということでしょう。


・いじめられていたヒロインをプロデュースすることで救う1話が秀逸。
 この物語のヒロイン・葉月命(みこと)は、「根暗で孤独な少女」と紹介されているように、学校では一人誰とも会話することなく過ごしています。しかし、それには理由がありました。彼女は、植物と会話出来る特殊な力を持ち、さらには身体中の肌に植物のつるのような紋様があり、それをかつて幼い頃に指摘されていじめられた記憶から、それを隠して生きていたのです。しかも、この学校でもそのことが原因で陰湿ないじめを受けており、日々耐えながら過ごしていました。

 そんな彼女の元にやってきたのが、蒼桜勇二という転校生。彼は、「根明で不思議な転校生」と紹介されていますが、実は蒼桜流という華道の家元であり、花と乙女(女の子)を組み合わせて作品を作ろうという試みをもってこの学校にやってきたのです。命に会った勇二は、彼女が陰湿ないじめにあって耐えながら過ごしていることを知り、「そんなことに慣れちゃだめだ」と強く指摘し、彼女を変えるべくプロデュースを試みることになります。

 勇二は、彼女の身体に特殊な紋様(”華紋”)があることを知り、それを隠そうとする彼女を止め、自分の身体にも同じ紋様があることを示します。そして、今まではそれを隠すために長袖・長ズボンで過ごしていた彼女を着替えさせ、華紋を露出させるかわいい制服を着せ、そんな彼女と花と絡めてデザインした美しいポスターを作りだすのです。このポスターによって、一躍学園の人気者となった彼女は、勇二が設立した華道部に入ることになり、そこで彼と共に今までとは打って変わって明るい学園生活を送ることになります。

 このエピソードは、実際本当によく出来ていて、

1.命が、人とは違う能力や身体的な特徴(華紋)でいじめられているという状況をまず提示。
2.勇二が、それと同じ華紋を持っていることを命に見せることで、他にもそんな人がいることを示し、それは決していじめられるようなものではないことを示す。
3.さらに、その華紋を見せる形で命をプロデュースし、むしろ誇るべき美しい特徴であることを存分にアピールする。

と、このように、他人とは違うことで引け目を感じていた特徴が、実は本当は素晴らしい個性であって、それを巧みにプロデュースしてみせることで、それが誇るべき長所であることを思い切りアピールするという、とても明るくすがすがしい話になっています。命と花を絡めたポスターのデザインがまたよく出来ていて、これも素晴らしい。陰湿ないじめに苦しめられていた暗い物語冒頭から一転、明るく華やかな展開で救われるこの1話が、まず秀逸なエピソードだったと思います。


・女の子をプロデュースすることで悩みを解決するというストーリー、それを花と絡めたコンセプトがいい。
 その後の話も、勇二が学校の女の子たちを花と共にデザインしてプロデュースすることで、彼女たちの悩みを解決する展開が続くことになります。
 かつて華道部から部員が去り、廃部にせざるを得なかった生徒会長には、華道への思い入れを我慢することはないといい、自分たちの華道部へと招き入れます。恋愛に対して不器用なひなたという女の子には、君は十分相手を思いやる優しい女の子だといい、自信を持って相手の想いに応えればいいとアドバイスします。かつて自分をいじめていた同級生の双子と、命に味方するクラスメイトたちが対立して喧嘩を始めた時には、今度は命から進んで喧嘩を止め、みんな仲良くするように全力で訴えます。このように、どれも明るく前向きで非常にいい話になっているのです。

 さらには、このような展開の中で、女の子たちを花と絡めてデザインすることで場を華やかにするシーンが織り込まれます。ビジュアル的にも美しく、読んでいてとても気持ちのいい作品になっています。

 このような「女の子(女性)をプロデュースすることで悩みを解決する」という作品は、過去にもいくつか例はありました。そして、このマンガの場合、そのプロデュースを華道の花と絡めることで、女の子と花という、どちらも美しい素材を織り交ぜたとても華やかな作品になっています。これは非常にいいコンセプトだと思いますね。単なる美少女もの、萌えマンガにとどまらない、優れた物語になっていると思います。


・唯一、男性向けとも言えるエロ表現は気になる。
 と、このように基本的には非常によい作品になっているとは思うのですが、唯一、このマンガには、どうにも気になって仕方のない箇所があります。それは、男性向けとも言えるエロ表現がかなり強く出た絵柄や一部展開です。

 まず、誰もが真っ先に気付くと思われるのが、女の子の胸、平たく言えば乳の表現。メインヒロインの命はあまり胸がないので目立たないのですが、それ以外の女の子の何人もが、極端なまでの胸の大きさを持っていて、もはや巨乳を通り越して爆乳といってもいい(笑)キャラクターまで何人も登場しています。これは、さすがに相当な違和感を覚えましたし、女性読者ならさらに大きな抵抗を感じる人も多いのではないでしょうか。また、そんな乳を女の子が揉みあうようなシーンも時にあったり、エロを強調したコスチュームも時に散見されたりと、いわゆる「男性向け」の要素を端々で強く感じるのです。これは、作者のはましんさんが男性作家であることも、大きな理由になっているかもしれません。

 元々、このマンガ自体、男性読者をメインターゲットにしている点はあると思います。コミックスの表紙も美少女ヒロインの姿が全面に出ていますし、スクエニが目指す売れ線のひとつ「萌え」を意識していることは想像に固くありません。
 しかし、このマンガのストーリー自体は、むしろ女性に好まれるものではないかとも思えます。勇二は顔立ちのいい男子、いわばイケメンキャラクターで、かつ女の子を大事にするフェミニストですし、そんな彼が女の子たちを巧みにプロデュースして華麗に変身させ、悩みから救うというストーリーは、むしろ女性読者にこそ好まれそうな内容ではないでしょうか? 少女マンガ的な雰囲気も感じられますし、こういったストーリーだけなら、女性読者にこそむしろ読んでほしい作品になっていると思います。

 しかし、その一方で、ビジュアル面においては、極端な巨乳だったりエッチさを感じるコスチュームやシーンが随所に織り込まれたりと、男性向けの要素を感じずにはいられない見た目になってしまっている。このあたりがひどくアンバランスで、ある種の抵抗を感じる作りになっていて、少しもったいないなと感じてしまいました。


・やや人を選びそうだが良作。1年で終わったのは少々残念だった。
 このマンガ、そういった点で確かに人を選ぶところはあると思います。美少女キャラクターが全面に押し出されたコミックスの表紙や、男性向けとも言える要素が随所に感じられる絵を見ただけでは、男性向けの萌えマンガだと思ってしまってもおかしくはなく、むしろ作り手の側も、そういった読者をある程度想定している点は否定できないでしょう。スクエニの求める売れ線の中でも「萌え」に分類されるマンガではないかと推測できます。

 しかし、この「花みちおとめ」、決してそれにとどまる内容ではありません。「明るく前向きな少年が、悩みをかかえる女の子たちを、持ち前の華道の精神で華やかにプロデュースして救う」というストーリーは、すがすがしい気持ちよさに満ちています。人道的な、人が人を救う善き話になっているんですね。冒頭1話のヒロインをいじめから救う話などは、その最たるもので、本気で感動してしまいましたし、連載全体を通してそのような優しい話に満ちていてとても好感が持てます。

 ただ、連載中はそれほどの反響を得られなかったのか、それとも最初からこの期間での終了が決まっていたのか、1年12話で終了してしまったのは惜しかったと思います。かつてのWINGの連載「ネクロマンシア」が、2年ほど続いてコミックスも5巻まで出たことを考えると、こちらは1年でコミックスも2巻どまり。これはちょっと寂しい。ガンガンONLINEの連載の中でも、それほど注目度の高い作品ではなかったようですが、しかしもっと人気が出てほしかったですね。

 連載最終回、「華の道は人を活かす道」「華の道は人と人を繋ぐ道」という言葉がありますが、これはまさにこの作品の善きテーマを最もよく表していると思います。ラストエピソードは、勇二と命がついに結ばれる最高のハッピーエンドで、ビジュアル的にも圧巻の素晴らしいエンディングになっています。これだけでも是非とも読んでほしいですね。


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