<ハーメルンのバイオリン弾き>

2008・11・18

 「ハーメルンのバイオリン弾き」は、少年ガンガンの創刊号である1991年4月号より連載が始まり、その後2001年2月号で最終回を迎えるまで、10年近くに及ぶ一大長期連載となった作品です。開始当初から一躍人気作品となり、以後ガンガンの看板作品として第一線でその存在を示し続けました。初期〜中期のガンガンの代表的作品であることは間違いなく、同じく初期の頃からの看板作「ロトの紋章」「南国少年パプワくん」「魔法陣グルグル」などと並んで、ガンガンのイメージを象徴する作品となりました。今でも、ガンガンと聞くと、この「ハーメルン」のようなマンガを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

 作者は渡辺道明。このガンガンの創刊に先立って行われた「エニックスファンタジーコミック大賞」で大賞を受賞した期待の新人であり、その大賞受賞作がそのまま連載化される形となりました。このマンガ賞、他にも西川秀明や松沢夏樹など、同じくガンガンで活躍する作家が幾人も受賞しており、ガンガンの母体のひとつとなっています。ちなみに、この3人の受賞者は、このマンガ賞が縁で非常に仲が良くなり、のちのちまでエニックスの雑誌を共に盛り上げていくことになります。

 作品の内容ですが、一応は異世界のファンタジーものと言えるジャンルかもしれませんが、のっけから斬新な設定と破天荒なギャグに加え、クラシック音楽の要素まであるという、極めて新感覚のコミックとして読者の目を惹き、いきなり大人気を集めます。その一方で、シリアスで力強いストーリーにも好感が集まり、ギャグやクラシック要素とのバランスも取れた優れた作品となっていました。
 しかし、中盤以降シリアスなストーリーの度合いがかなり強くなり、他の要素とのバランスが微妙になり、かつストーリーそのものも序盤ほどの勢いが薄れるなど、かなり面白さが衰えてきた感は否定できなくなります。そのため、この中盤以降の作品は、読者によって大きく好み、評価が割れることになりました。加えて、連載中盤で放映されたTVアニメも、原作とはかけ離れたテイストのもので、こちらから作品に入ってきた読者との間でさらに様々な評価が聞かれることになりました。最終的にはコミックス37巻を重ねる超大作となりますが、それをすべて手放しで評価できるかは難しいところでしょう。


・ファンタジーを逆手にとった設定とギャグが最高に面白かった。
 1991年に連載を開始した当時の「ハーメルン」は、のちの時代よりもずっとギャグ寄りのマンガとなっており、一応はファンタジーと言える作品ではあるものの、「勇者が外道」というゲーム的ファンタジーの常識を逆手に取ったような奇抜な設定と、そこから生じる爆笑ギャグの嵐で、一躍大人気を獲得します。主人公のハーメルが、勇者(と呼ばれる存在)でありながら性格がひねくれまくっており、行く先々で外道とも言える行為を繰り返し、同行するヒロインのフルートも毎回ひどい目に遭わされまくるという、なんとも言えないノリのマンガになっていました。

 特に印象的なのは、やはりその「狂騒的」ともよく表現される過激なギャグシーンで、凄まじい勢いでキャラクターたちが暴れまわるその異様なノリで、毎回読者に爆笑を巻き起こします。この連載初期のころのギャグシーンは特に大評判で、これでこの作品にはまった読者は非常に多かったと思われます。最初のうちは1話完結的なエピソードも多く、行く先々で敵であるモンスターはおろか、町や村の人々や同行する仲間まで、毎回ハーメルの外道ぶりに振り回されるその姿は、読者の大爆笑を誘うに十分でした。

 このような印象の作品だったので、最初期の頃の「ハーメルン」は、これまでにない新感覚のコミックとして、その存在感はかなりのものがあったと思います。ガンガンを購読する読者だけでなく、それ以外でもこのマンガの読者層は広がっており、いきなり幅広い人気と知名度を獲得することになります。後の時代になっても、「ガンガンと聞いて思い出す作品」として、「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」と並んでこの「ハーメルンのバイオリン弾き」の名前がよく挙がるのも、それだけ強いインパクトを残した作品だったからでしょう。新興の出版社から登場した新創刊雑誌らしい、実に新鮮な印象に満ちた連載マンガだったと思います。


・シリアスなストーリー、クラシック音楽の要素なども見るべきものがあった。
 しかし、「ハーメルン」の魅力は、決して奇抜な設定とギャグだけではありません。
 まず、賑やかなギャグとは正反対の、シリアスで重いストーリーでも存分に見せてくれました。キャラクターごとにシビアな過去の設定が作りこまれ、連載が進むにつれ非常にシビアなエピソードが見られるようになります。個々のエピソードもたっぷりと回を取って描かれ、次第に「大作」の様相を帯びてきます。
 しかし、そんなシリアスな展開の中で入ってくる、爆笑ギャグシーンとのバランスが取れていたのもポイントです。まったく雰囲気の異なる二つの要素なのですが、不思議とそのふたつを両方とも楽しめる感覚がありました。シリアスな雰囲気の展開が続いたと思ったら、それを壊すかのような狂騒ギャグが入り、読者を大爆笑させる。しかし、肝心なところではシリアスな展開に戻り、重厚な人間ドラマを見せてくれる。かと思えば、再びのギャグシーンですべてをひっくり返す。 そんな独特の面白さがあったのです。

 加えて、最初期のころから、クラシック音楽の要素がふんだんに盛り込まれていたのも魅力的でした。「ハーメルンのバイオリン弾き」のタイトルどおり、主人公のハーメルは超特大のバイオリンで「魔曲」と呼ばれる曲を奏で、モンスター(や仲間)を操り翻弄していきます。この「音楽の演奏」で敵を操り倒すというシーンが、実に斬新かつ独創的で、作品最大の見所になっていました。
 加えて、クラシック曲の知識(薀蓄)もよく登場し、クラシックが好きな読者、実際に音楽をやっている読者には特に喜ばれました。連載序盤の読者からのハガキで「このマンガを先生に薦められた」という話があったのですが、確かにそんな微笑ましいエピソードも見られるような作品だったと思います。


・しかし、中盤以降の内容は素直に褒められない。
 このように、様々な斬新な要素で確かな面白さを確立していた「ハーメルン」ですが、その圧倒的な面白さは連載の序盤までは確かに存在したものの、中盤以降次第に雲行きが怪しくなり、面白さに陰りが見え始めます。具体的には、序盤では大きく盛り上がった最大のエピソードである「スフォルツェンド編」を過ぎたあたりから、少しずつ連載に勢いがなくなってしまいます。

 連載が衰えてきた最大の理由は、シリアスなストーリーに極端に偏重しすぎたことでしょう。このため、序盤で見られたシリアスのギャグのバランスが崩れ、時折思い出したように入るギャグシーンが、逆にシリアスな展開の雰囲気を壊すようになってしまい、まったくの逆効果になってしまうのです。その上、ストーリーそのものの面白さにも疑問があり、とにかく同じようなエピソード、同じようなシーンが何度も見られるようになり、大きく展開が間延びしてしまいます。そのため、コミックスの巻数こそこの時期からどんどん飛躍的に伸びていきますが、読者の熱狂度は逆に薄れ、序盤ほど熱心に付いていく読者は少なくなってしまいます。この時期の「ハーメルン」を表したある読者の言葉として、「コミックスで11巻、長く見ても14巻くらいまではまだ面白かったが、それ以降はもう面白いとは言えなくなった」というものがありましたが、これは多くの読者に共通する認識だったと思います。

 加えて、クラシック音楽の要素がなくなってしまったのも、非常に痛かったと思います。序盤のうちは、あれほど魔曲を何度も奏で、そのたびにクラシック曲の薀蓄もふんだんに入ってきたのに、中盤以降はそのような要素が見られなくなってしまうのです。つまり、中盤以降、ハーメルがバイオリンを弾かなくなった。そのようなシーンがほとんどなくなってしまうのです。むしろ、肉弾戦で闘うバトルが中心になり、よりバトル系の少年マンガ的な要素が目立ち始めます。さきほど挙げた連載序盤の頃のエピソードで、「このマンガを先生に薦められた」という話を紹介しましたが、残念ながら中盤以降は、そのようなエピソードが見られるようなマンガではなくなってしまいました。


・TVアニメも賛否両論を巻き起こした。
 このように、中盤以降はかなり面白さが薄れた微妙な作品となり、読者の間でもかなり評価が割れる作品となったのですが、そんな評価をさらに大きく揺るがすことになったのが、連載中盤、96年になって放映されたTVアニメです。このアニメ、原作とは打って変わって完全にシリアス要素のみの作品となっており、原作とはまったく異なるテイストの作品となってしまいました。アニメ化に際して大きくアレンジされる作品はいくらでもありますが、ここまで大きく180度激変した作品も珍しいでしょう。

 そして、これはさすがに原作ファンの間ではあまりにも好みが割れる結果を生み、ここでも大きく評価が分かれることになりました。ただ、さすがに原作ファンの間では否定的な意見の方が多数を占めてしまったようです。シリアスな要素のみになってしまったため、多くのキャラクターの性格まで変わってしまう結果を生み、これは原作ファンから見ればさすがに違和感が強すぎました。加えて、アニメの完成度にも少々疑問が寄せられ、とりわけ止め絵を多用した作画には否定的な意見が多く、「アニメなのに動かない」といった批判が多数聞かれました(笑)。

 その一方で、アニメから入ってきて、原作を知らなかったファンの間では、素直にこのアニメを評価する声も見られ、ここでもまた様々な評価が見られることになりました。一個のシリアスなストーリーとしては、これはこれでひとつに完成しているところもあり、ここで原作とは別のアニメ方面での新たなファン層を生むことになったのです。

 さらに、このアニメの放映は、原作の評価にも多かれ少なかれ影響を与えてしまったようで、序盤で見られたギャグ要素の強い作風がいいのか、中盤以降のシリアス重視の展開がいいのか、そのあたりでまた様々な意見が出される契機となりました。

 なお、このアニメと時期を同じくして、劇場版のアニメも放映されたのですが、こちらは原作のギャグテイストをふんだんに採り入れた、原作どおりの作風になっていました。こちらの方がもちろん原作ファンには好評であり、TVアニメと同時期の作品であるにもかかわらず、全く対照的な存在となってしまいました。


・最終回でらしさが感じられたものの、全体的には微妙な連載となった。
 そんな風に原作とはかけ離れたTVアニメだったため、終了後もあまり原作の展開に影響が及ぶことはなく、中盤以降一貫してほぼ同じ作風を保つことになりました。すなわち、よりシリアスで力強いストーリーと、直接的なバトル中心の作風であり、より少年マンガ的な要素が強まったと言えます。そのため、この時期の「ハーメルン」は、少年マンガ読者の支持がかなり高くなり、あるいは「ハーメルン」という作品自身も、王道的な少年マンガとして扱われることが目立つようになりました。その一方で、当初見られた斬新な設定と爆笑ギャグで構成される独特のテイストや、あるいは魔曲の演奏を中心としたクラシック音楽の要素 などは、長い間影を潜めることになりました。

 そんな中で、最終回は久々に良かったと言える内容でした。最後の最終決戦において、ハーメルが久々にバイオリンを弾き(!)、それで一気に活気を得た仲間たちが一斉に奮い立ち、素晴らしい活躍をして一気に大魔王を倒すという、爽快で歓喜に満ちた実に「ハーメルン」らしい勇姿が見られました。加えて、かつての爆笑ギャグも久々に復活し、最後の最後で実にバカバカしい展開で終わりを迎えるなど、こちらもいかにもらしい展開が久しぶりに見られたのです。初期の頃のキャラクターまでいきなり参戦する有り様で、最後で今までのすべてを取り返したような気にもなりました。

 しかし、そんな最終回こそ大いに評価できるのですが、それまでの展開は、長らく微妙な状態のままで終始し、必ずしもすべてが良かったとは言い切れない連載になりました。中盤以降は、熱心に追いかけていく読者がいる一方で、初期の頃の熱が冷めてしまった読者も多く、雑誌内でも微妙な立ち位置が続いたように思えます。少なくとも、新感覚の面白さが強く出ていた初期の頃に比べると、大きく作風が変化したことは間違いないところであり、間延びするストーリーやシリアスな雰囲気を壊すようになったギャグ、失われたクラシック要素など、あまり魅力的ではない変化も多数見られたと思います。

 それでも、10年に渡るガンガンの長期連載として、雑誌の看板として引っ張ってきた功績は非常に大きく、やはり偉大な作品であることは間違いないと思います。決して悪い作品ではないでしょう。しかし、それでも、中盤以降は明らかに評価しづらい点も見られる、微妙な連載作品になってしまったと思うのです。


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