<破天荒遊戯>

2001・11・10
全面的に改訂・画像追加2007・6・24

 「破天荒遊戯」は、Gファンタジーで1999年12月号より開始された連載で、あの「最遊記」が大きな人気を獲得していた時代のGファンタジーにおいて、こちらもかなりの人気を獲得し、雑誌の中でも中心的な人気作品となったマンガのひとつです。作者は、遠藤海成(えんどうみなり)で、当時雑誌上で定期的に行われていた、新人による読み切り競作掲載において、見事に人気投票でトップを獲得し、連載への足がかりを掴みました。
 この時の読み切りでも、すでにかなりの実力が見られ、その後の連載でもそれは如何なく発揮され、連載開始してすぐに雑誌読者の高い人気を得て、一気に連載は軌道に乗っていきます。当時のGファンタジーは、「最遊記」以外にも人気・実力のある連載が揃っており、全盛期の様相を呈していましたが、そんな連載陣の中でも、まったくひけをとらないほどの存在へと成長していきます。

 しかし、連載開始の約2年後、あの「エニックスお家騒動」に巻き込まれてしまい、この作品も中断を余儀なくされ、2002年1月号にて連載終了してしまいます。コミックスも、3巻で一旦終了となってしまいます。そして、以後の遠藤さんは、エニックスを離れて一迅社へと移籍していき、そこでの新創刊雑誌「ZERO-SUM(ゼロサム)」に活躍の場を移すことになります。

 「ゼロサム」以降の経緯ですが、2002年8月号より、「破天荒遊戯」の連載は再開され、以後紆余曲折ありながらも、現在も連載は続いており、コミックスも9巻まで数えています。また、エニックス時代のコミックス3巻については、一迅社より新装版も発売されており、現在ではこちらの方が流通しているようです。さらには、2007年にアニメ化も告知されており、今後もさらに発展が期待できるであろう作品になっています。


・主人公ラゼルたちのふざけた破天荒ぶりが最高に受ける。
 肝心の内容ですが、近代的なファンタジー世界を舞台にして、主人公の14歳の少女・ラゼル(ラゼンシア・ローズ)が、ふざけた父親から家を放り出されて旅に駆り出され、成り行きから偶然にも旅の連れとなったふたりの青年・アルゼイドとバロックヒートと共に、破天荒なノリの旅道中を繰り広げるというもの。絵的に、あるいは設定的に、あの「最遊記」を彷彿とさせるところがあり、当時「最遊記」目当てでGファンタジーを購読していた女性読者に対して、特に大きな人気を獲得しました。キャラクターの軽妙かつ深い性格、およびその掛け合いにも、「最遊記」的なところが感じられ、確かに近い作風を感じることがあります。

 しかし、このマンガの場合、作者である遠藤海成の悪ノリの精神が、非常に強く発揮されており、特に主人公ラゼルの、周囲をバカにしきったかのような破天荒な言動には、思わず笑ってしまうところがあります。また、旅の連れであるバロックヒートというキャラクターも、女好きでナンパやセクハラまがいの行為を繰り返すふざけたノリの性格で、ラゼル同様の言動を繰り返し、かつラゼルとの間で笑える掛け合いを散々繰り広げます。そして、3人の中では唯一比較的まともなアルゼイドですが、彼も時にはぶち切れたかのような、異様に乱暴なノリの言動を見せるなど、とにかく人を思いっきりなめたかのような言動の数々、それがこのマンガの基本パターンです。

 中でも、そんな破天荒な言動を象徴するシーンが、ラゼルによる「人とォ いう字はァ 明らかに左側の奴が楽をしている!」という、身も蓋もない見立てでしょう。「人という字は互いに支えあって出来」という、本来ならば美しい助け合いの精神を象徴するような話が、ラゼルから見れば、どう見ても左側の奴が楽をしているとしか見えない。というか、よく見れば誰が見てもそうとしか見えない(笑)。連載当時も、このシーンは読者に大いに受けまくり、作中でも屈指の名セリフとして、今でもこれを挙げる人は大勢いるほどです。

 聞くところによれば、作者の遠藤さんの性格は、このラゼルそのままだそうで、そんな作者の歪んだ腹黒い性格が露骨に表れた、すばらしく破天荒なノリのマンガになっているのです。総じて、比較される「最遊記」と比べてもコミカルなノリが強く、笑える掛け合いを楽しむことが作品の中心となっています。


・シリアスで重いストーリーが根底にはある。
 しかし、基本的には笑えるコミカルなノリで満たされている一方で、シリアスに進むストーリーも根底にはあり、そこで繰り広げられる実は深いテーマには、毎回考えさせるものがあります。

 前述の「人という字は 明らかに左側の奴が楽をしている」というセリフも、単に笑えるふざけただけのものではありません。そのあとに「なに寝呆けてんの 長さが違うのに対等なわけないじゃない」「同じ高さにいなきゃ支え合えないんだったら とことん登って登って登りつめてやる」と続きます。実は、これは、未だ年齢も若く未熟だと自覚するラゼルが、他の人と対等な立場まで到達してみせるという決意表明であり、その強い生き方にはかなり惹かれるものがあるのです。

 このマンガ、よくよく見れば、毎回破天荒なノリの掛け合いを繰り広げながらも、その裏ではこのような確固たる主張や、時にかなり重苦しいテーマも語られることも少なくなく、決して悪ノリで笑えるだけの作品ではありません。
 中でもとりわけ印象に残っているのは、医療ミス(執刀ミス)で自分の妻を殺してしまい、その苦しみを抱え続けている元医者に対して、ラゼルが「まあトコトンくるしみまくるしかないんじゃない?」と言うシーンですね。そして「人の命を請け負う仕事だから失敗は許されない だけど人間完璧じゃないしどこかでミスをする そのたび後悔しながら続けるしかない」というセリフに続きます。非常にえげつないセリフですが、同時に核心を付いたセリフでもあり、乱暴な物言いに見えて実は深いキャラクターの見識には、非常に考えさせられます。

 そして、中にはかなり陰惨な内容のエピソードもあります。ララウェルという殺人衝動を抑えられない少女が、最後には自殺して果てる話なども、まさにそれですが、その中で、深い傷を負ったラゼルが、もう助からないララウェルを助けようとして止められるシーンがあります。そして、その時のアルゼイドのセリフなども、またかなり考えさせるものがあります。「他の誰かが痛い思いをしてるからってお前が痛くないって理由があるか 本当に平気ならそのままくたばれ!」という言葉です。


・女性受けしやすい絵柄だが、ラゼルはかわいい。
 次に、絵的な面で作品を見てみると、「最遊記」読者の女性に人気だったのも頷けるような、確かに女性向けと言える作風で、エニックス雑誌の中でも女性寄りの要素の強い、Gファンタジーの作品らしい絵柄であると見ることもできます。とりわけ、男性キャラのアルゼイドとバロックヒート、中でも「ひーちゃん」の愛称で親しまれた(?)バロックヒートについては、「最遊記」の沙悟浄を思わせるような軽妙な性格もあって、女性にはかなりの人気を集めました。

 しかし、単に男性キャラばかりが人気を集めたわけでもなく、主人公のラゼルもそれ以上に大人気でした。破天荒な性格も大いに受けたばかりか、絵柄から来る見た目でもかなりのかわいさで、活発で垢抜けた魅力があり、単に女性主人公である理由以上に、かなりの人気を集めました。頻繁に髪型を変えたり服装を変えたり(後述)するんですが、これもかなり受けがよく、それも女性読者だけでなく、実は男性読者に対するキャラクター人気でも高いものがありました。

 作者の遠藤さんは、はるかのちに、コミックアライブという雑誌で「まりあ†ほりっく」という百合少女をネタにしたような萌え要素の強いマンガを手がけ、こちらはこちらで大人気となるのですが、これを見ても、男性読者にも受けやすい作風であることが分かります。女性寄りな作品に見えて、実は女性キャラの萌え的な要素も確かに持ち合わせており、実は幅広い読者にキャラクター人気を集められたというのは、当時のエニックス作家ならではの特徴だと言えます。


・このファッションセンスは一見以上の価値あり。
 しかし、単なる萌え系の絵柄とは、やはり異なる特徴もあります。それは、なんといっても、多彩な服装に見るファッションセンスでしょう。
 元々、萌え系の美少女を描くイラストレーターやマンガ家は、女性であることも珍しくなく、一見して作者が男性なのか女性なのか分からない場合もよくあります。しかし、この「破天荒遊戯」と遠藤さんに関しては、作者が女性であることは一目瞭然です。理由は、なんといってもラゼルに着せる服装、その確かなファッションセンスにあります。

 実は、これこそが男性作家と女性作家の最大の違いで、男性が描く美少女の服装には、あまり凝ったものが多くなく、むしろ明らかに不自然なものも珍しくありません。それも、学校制服やらメイド服やら巫女服ならば、男性が描いてもさほど違いがなくて済むのですが、こと「私服」ということになると、明らかに「これは普通なら着ないだろう」という絵を描いてしまうことも珍しくないのです。
 しかし、女性作家ならば、そのあたりの服装の描写には抜かりのないケースが圧倒的。さすがに、このような服装のファッションに関しては、女性作家の方が格段にリアリティがあり、女性読者が見て「着てみたい」と思うような絵を描いてくれます。

 中でも、この遠藤さんのファッションセンスは、とりわけレベルの高いもので、毎回のように変わるラゼルの凝りに凝った服装の数々は、大きな注目を集め、特に女性読者には非常に大きな支持を集めました。マンガを読んだ最初の感想で、「服がかわいい」という意見が見られることも珍しくありません。実際、ここまで凝りに凝った服が毎回のように見られるマンガは、女性作家のマンガでも多くはなく、とりわけそれを余すことなく見せるラゼルのコスチュームは、このマンガの最大の見所のひとつとなっています。特に、カラーで見られるコミックス表紙の服装は、毎巻素晴らしいの一言に尽きます。


・紆余曲折あったがアニメ化まで到達。エニックス離脱後もかろうじて成功した数少ない作品。
 以上のように、ビジュアル的なセンスの良さと、それとは対照的なえげつない破天荒ぶりに満ちたキャラクターの掛け合い、そして実はかなりシリアスなストーリーと、新人の作品にもかかわらずかなりの見所のある良作で、Gファンタジーでも屈指の人気作品となったこの作品。しかし、あろうことかこのマンガも、あの「エニックスお家騒動」の影響をまともに受けてしまい、連載は途中で中断、以後エニックスを離れて一迅社の「ゼロサム」での連載再開となってしまいました。「ゼロサム」の方の連載も、大勢には変化ありませんが、連載ペースはかつてほどの安定感を維持できず、ここ最近は出版社側との事情で連載が長らく中断し、コミックスの発売も滞るなど、かつてほどのスムーズな連載にはならなかったようです。

 しかし、それでも連載は続いており、遅まきながらついにはアニメ化まで達成することが出来ました。元からかなり実力のあった連載だけに、アニメ化まで行ったのはむしろ当然の感もありますが、それでも、お家騒動から続く災難を思えば、よくやったと言えるのではないでしょうか。特に、お家騒動で中断・移籍を余儀なくされた他の連載マンガ、特にブレイドへと移籍していった作品の多くが、まるで成功できずに、多くは立ち消えとなってしまったことを考えれば、この作品はまだまだ幸運だったと言えるでしょう。

 今となっては、Gファンタジーでの連載時代が懐かしく感じられるこの作品ですが、その独特の作風は今でも映えるものがあり、作者のアクの強い感性がにじみ出た独創的な作風は健在です。そして、その当時からすでに絵的にも内容的にも完成されており、最近の作者の連載と比較しても、決して見劣りするものでもありません。エニックス時代の連載のみを抜き出して考えても、極めて優秀な連載だったと言えます。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります