<はつきあい>

2012・10・3

 「はつきあい」は、ガンガンJOKERで2010年1月号から2011年1月号まで1年間ほど続いた連載で、1話(もしくは2話)の読み切りを重ねたオムニバス形式の作品となっています。まだ若い男女の恋愛をテーマにした作品で、タイトルの「はつきあい」とは「はじめてのおつきあい」のこと。このタイトルどおり、まさに初々しい恋愛の姿を描いた作品となっています。

 作者は、カザマアヤミ。JOKERの前身であるガンガンWING出身の作家で、そこでの初連載「ちょこっとヒメ」で大きな人気を博しました。「ヒメ」は、猫や犬のペットのかわいさ、それと飼い主との交流を描いた作品ですが、作品の後半では人間キャラクター同士の恋愛描写も見られました。この作品は、そこからさらに恋愛色を一気に強めており、これはここ最近のカザマアヤミ作品の傾向でもあるようです。

 ひとつひとつの読み切りで、男の子と女の子との恋愛、それも初々しい恋愛によく見られるシチュエーションを丹念に描いており、その甘く切ない数々の描写は、読者の間で大きな反響を呼んだようです。一部では、「こそばゆい」「ニヤニヤが止まらない」などとの感想も見られ(笑)、確かにそのような楽しい作品となっていると思います。

 この連載は、1年という比較的短い期間で終わってしまいましたが、その後にこの連載と同じコンセプトで、ストーリー的にも同一の世界観で続編とも言える「ひとりみ葉月さんと。」という連載を開始。この「はつきあい」とセットで読むとさらに楽しめると思います。さらに、このスクエニではないですが、芳文社の雑誌でも男女の恋愛・交流をテーマにした作品をよく出すようになっています。


・より恋愛をストレートに描くようになったカザマアヤミ。
 カザマさんのデビューは2003年にまで遡りますが、そのデビュー作となったのが、当時のマンガ賞で佳作を受賞した「かさぶたさん」という作品で、ガンガンWINGに掲載されました。これは、同じマイナーなくせを持つ男の子を電車の中で見つけた女の子が、なんとか交流を持ちたいと奮闘する物語で、女の子と男の子の間で、恋愛らしき雰囲気も感じられる作品でした。しかし、この頃は、まだ強く恋愛を強調した作品とはなっておらず、むしろ同じ感性を持つもの同士の交流を主軸に描いていたように感じられました。
 その後、2004年になって、もうひとつWINGで「その島のお話。」という読み切りを残しますが、こちらには特に恋愛要素は感じられず、ある小さな島で暮らす女の子と、彼女の周囲を取り巻く個性的な島の住人たちを描いた物語となっていて、にぎやかな楽しさの中で最後にちょっとしんみりした終わり方で余韻を残す名作になっていたと思います。

 さらにその後、2006年になって、今度は初となる連載「ちょこっとヒメ」が始まります。これは、ペットの猫や犬のかわいさで一躍人気を博し、作者の代表作となりました。そして、これも、ペットたちと飼い主たちの心を通わせる交流がメインテーマとなっていて、やはり恋愛が中心というわけではありませんでした。しかし、後半になって、主人公の人間の男の子と、ペットを通じて交流することになった女の子の間の恋愛模様が見られ、これがのちの恋愛作品につながっているような気がします。
 また、この「ちょこっとヒメ」と同時期に、ソフトバンクの新雑誌コミックブラッドにおいて、「幻燈師シリーズ」と呼ばれるシリーズ読み切り連載を残し、こちらは幻燈師という職業を目指す少年少女の物語となっていました。そして、こちらは、どの読み切りも男の子と女の子のカップルが主役となっていて、恋愛色の強い物語が見られました。このあたりが、カザマアヤミの恋愛マンガの端緒だと感じられます。

 そして、2008年に今度は芳文社のきららフォワードで「なきむしステップ」を、「ちょこっとヒメ」が終了した後の2010年になって、この「はつきあい」の連載を開始。この2作は、いよいよどちらも恋愛がメインとなっていて、ここに来てついにカザマさんは、恋愛をメインテーマに据えて、それをストレートに描く作品を手がけるようになったと見ています。


・電話での甘い会話を描いた第一話「ユルライン」が秀逸。
 さて、この「はつきあい」ですが、この連載以前に、そのベースとなったと思われる作品があります。コミティアか何かで発行された同人誌で、そのタイトルが「ユルライン」。それが、この連載の最初の話のタイトルにもなっていて、すなわちこの連載第一話が同人誌の話のリメイクとなっています。そして、この話が、まず秀逸の出来となっているのです。

 「ユルライン」とは「ゆるく糸でつながった男女(の恋愛)」といったような意味で、同人誌版では、「糸電話」を使った恋人同士の交流の姿が描かれていました。あえて離れた部屋で糸電話で会話をすることで、その息遣いを感じて赤くなってしまうという、見ている方が恥ずかしくなるような初々しい恋愛の姿だったと思います。わたしも、この同人誌版にはえらく感動した記憶があり、コミティアで得られた本の中でもいまだに貴重な一冊となっています。

 そして、リメイクされたこの「はつきあい」でのユルラインは、糸電話ではなく、普通の電話での交流の姿を描くものとなっています。ただ、電話といっても携帯電話ではありません。家に設置された固定電話で、夜、家族が寝静まるのを待って、離れた家をつないで恋人同士が電話でこっそりと会話を交わす。その姿はひどく愛らしくいとおしいものがありました。中でも、女の子の方が、思わず「好き・・・」とささやくシーンでは、男の子の方がまるで吐息がかかるような至近距離でささやかれたように錯覚してしまい、思わず真っ赤になってしまうのですが、ここは読者の方もあまりに甘甘な雰囲気に赤くなってしまうような名シーンだと思います(笑)。

 この「ユルライン」こそが、「はつきあい」のメインテーマである「甘く初々しい恋愛」をどこまでもよく表していることは間違いないでしょう。そして、この後に続く読み切りも、これに負けず劣らずの甘い恋愛の姿を見せてくれることになるのです。


・どの話も甘い初恋の姿に身もだえする。
 まず、「ユルライン」のすぐ後に来る2つ目の話「雪の日の手のひら」。これは、男の子が女の子と「初めて手をつなごうとする」試みを描いた話で、まさに恋愛の中でも最も初々しい姿を描いてくれました。特に、このストーリーの男の子は、恋愛には奥手の男子で、対して女の子は明るくてちょっと変な女の子。ちょっと変わってるけどお似合いのカップルだったと思います。

 同じく、やはり恋愛の中でも最上級に初々しい姿を描いているのが、「紅白名前合戦」。これは、恋人同士が「初めて名前で呼び合う」姿を丹念に描いていて、双方が思いっきり赤面しながらその難関に挑もうとする姿がとてつもなく微笑ましい。まさに読んでいる読者の方が悶絶ものとも言える素晴らしいラブコメでした(笑)。同じく、女の子がひとりで男の子との付き合いの「反省会」を行う「無期限彼女」も、やはり読んでいる方がニヤついてしまう甘いストーリーとなっています。

 「はじめてのおつきあい」という設定上、未成年の学生同士の恋愛がストーリーの多くを占める中で、数少ない大人の社会人同士の恋愛を描いたのが「遅咲きの白い花」。25歳と27歳というカップリングながら、はじめてのおつきあいということで初々しさ全開。初々しいピュアな恋愛を繰り広げつつ、他の話にはない大人の落ち着いた雰囲気をも端々で感じる名エピソードになっていたと思います。

 そして、そんな数多いエピソードの中でも、最も印象的だと思ったのが、「上諏訪」と名づけられたエピソード。タイトルどおり上諏訪が舞台で、制服の学生のカップルが、諏訪にある足湯に通うエピソードになっています。ふたりで足湯にのんびりと入ってほっこりする雰囲気が素晴らしく、さらには舞台となった諏訪への取材をしっかりと行っていたようで、実在の風景が随所に登場します。この自然豊かな諏訪の光景にはいたく感動してしまいました。足湯から見られる諏訪湖の眺めが最高だったと思います。

 (参考)足湯と聞いて飛んできました。蜃気楼


・カザマさんにはご結婚を機にさらに活躍を期待したい。
 以上のように、この「はつきあい」、全編を通して初々しい恋愛を描く姿勢が好印象で、読者としてはとにかくニヤニヤかつ身もだえするような作品になっています。連載期間は1年と短めで、コミックスも2巻で完結してしまいましたが、それでもしっかりと読者の心に強い印象を残す名作になっていたと思うのです。
 さらに、この作品の終了直後から始まった次回作「ひとりみ葉月さんと。」が、社会人の女性と高校生男子の年の差カップルが主役の恋愛ものとなっていて、やはり双方が初めての恋愛で初々しさ全開の作品になっています。実質的な続編とも言える作品で、この「はつきあい」と合わせてふたつでひとつの作品と考えてもよいでしょう。

 さらに、芳文社の「まんがタイムきららフォワード」の同時期の連載「なきむしステップ」と「せなかぐらし」、このふたつも恋愛色の強いラブコメディとなっていて、このところのカザマさんの作品は、恋愛やラブコメをメインに据える作品が本当に増えています。作者の恋愛というテーマに対する傾倒が強く感じられますね。

 そして、この2012年になって、そのカザマさんが、なんと同じマンガ家の紺野あずれさんとご結婚されるという、衝撃のニュースが飛び込んできました。これは本当に予想外の嬉しいニュースで、カザマさんのファンを中心にマンガレビュー界隈が一気に盛り上がった記憶があります。恋愛を熱心に描いてきたマンガ家が、ここで自分自身が恋愛のゴールインをされるとは、まさにフィクションが現実になったようで、これ以上の喜ばしいニュースもなかったと思います。

 ここは、このご結婚を契機に、これからもさらに創作活動で見せてほしいと思います。現在では、「ひとりみ葉月さんと。」も最終回を迎え、スクエニでの次回作の情報は入っていませんが、またJOKERかどこかで連載が始まってくれたら幸いですね。


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