<ハザマノウタ>

2008・3・18
一部改訂・画像追加2009・3・7

 「ハザマノウタ」は、ガンガンパワードで2007年NO.6より始まった連載作品で、ガンガンで「円盤皇女ワるきゅーレ」を連載していた介錯による新連載でした。「円盤皇女ワるきゅーレ」は、2002年より開始された長期連載ではありましたが、元々は外部からのメディアミックス作品であり、ガンガン・スクエニとの繋がりは薄い作品でした。そのため、この連載の終了後は、作者の新しい作品がこれ以上ガンガン系で連載されることはないと思っていましたが、意外にも直後から姉妹誌であるこのパワードでの新企画が持ち上がり、すぐに連載が開始されました。現在では、ガンガン本誌でももうひとつの新連載が企画されており、どうやらこの「ワるきゅーレ」の連載を通じて、最近では主にスクエニ系雑誌で活動することになったようです。

 連載開始当時のガンガンパワードは、2006年の新装リニューアル後にまだまだ連載ラインナップが充実しておらず、その補強のための新しい連載として、この「ハザマノウタ」も企画された側面があります。このマンガの連載開始と同時に、もうひとつ「天真愛譚 ANGELIC BULLET」なる連載も開始されており、両者とも人間界で生きる天使や悪魔(魔族)の少年を主人公にした、「天使・悪魔修業もの」に近いイメージの作品となっていました。そのため、「このようなありふれた作品をふたつも連載するのはどうなのか」と危惧していたのですが、それでもこの「ハザマノウタ」については、意外なほど手堅く良質な作品に仕上がっており、ひとつの連載として遜色ない作品になりました。「円盤皇女ワるきゅーレ」と比べても、こちらの方が内容・ビジュアル双方に於いて良質だと思われ、「ワるきゅーレ」が長い連載を通して平凡な作品にとどまってしまったことを考えれば、これは意外な僥倖だったと言えそうです。

 従来の介錯作品は、どれもこれも美少女キャラクターを全面に押し出したイメージが強く、前作の「ワるきゅーレ」もまさにその典型的な作品でした。しかし、この「ハザマノウタ」については、一応そのような要素も散見されるものの、それ以上に少年の主人公を核にしたシリアスなストーリーにより大きな比重が置かれており、コミックスの表紙にもそのことがよく表れています。これは、個人的にもかなり好印象であり、これまでの介錯作品とは大きく異なるイメージを打ち出したこの姿勢には、見るべきところがあると思われます。

 しかし、その後も堅実に連載を続けたきたこのマンガですが、2009年のガンガンパワードの休刊に伴い、他の連載マンガの多くが他の雑誌へと移籍する中、このマンガは打ち切り的な終了となってしまいました。決して悪い作品とは思えませんでしたが、堅実すぎてあまり大きな人気を得たとは言えず、しかも作者がガンガンの方でも同時に連載を抱えていることもあり、そんな事情から連載を継続しないことに決まったようです。これはひどく残念な結末であり、これまでの介錯作品にはない面白さを持つこの作品を、是非とも続けてほしかったと思いました。


・「円盤皇女ワるきゅーレ」と介錯作品。
 作者の前作である「円盤皇女ワるきゅーレ」は、美少女キャラクターを全面に押し出したラブコメ的作品で、しかも典型的なメディアミックス作品でもありました。アニメの企画が中心にあり、そのコミック版をガンガンが引き受ける形で連載されることになったようです。そして、このアニメについてはそれなりの評価があるみたいですが、ガンガンのコミック版については、当初から平凡なラブコメ作品に終始し、読者の間でも大きな注目を集めるようなことは一度もなく、長い連載期間の割にはまったく話題にならずに終了してしまいました。これは、個人的にも大いに不満であり、ガンガンの平凡化のひとつの原因となった連載だったと考えています。

 他の介錯作品と比べても、少々扱いに劣るところがあり、特に連載の後期では、他の作品の影に隠れることも多くなりました。具体的には、角川系のエースや電撃大王、ドラゴンエイジなどで掲載され、テレビアニメ化もされた「鍵姫物語 永久アリス輪舞曲」「神無月の巫女」「京四郎と永遠の空」などの方が大きな話題を集め(特に「神無月の巫女」)、一方で「円盤皇女ワるきゅーレ」は、アニメ放映も次第に行われなくなり、そんな中でコミック版だけはひたすら長く掲載され、しかし内容的には決して芳しくなく、大いに盛り上がりに欠けた感は明白でした。

 そのため、この「ワるきゅーレ」の終了後、この「ハザマノウタ」の新連載告知を見たときにも、まったく期待することが出来ませんでした。まして、この作品はメディアミックスが行われる気配もなく(もちろん、メディアミックスに頼らない姿勢はいいことではあるのですが)、他の介錯作品と比べてもさらに盛り上がりに欠けるのではないかとの不安しかありませんでした。

 しかし、いざ始まった連載は、確かにこれまでの作品と比べると地味で、あまり大きな人気、メディアミックス展開までは期待できない作品ではあるものの、その分内容は良質なものとなっており、これまでとはかなり印象の異なる作品となっているようです。


・予想以上にシリアスな展開を見せる。
 このマンガの大まかな内容は、アマンド(魔族)の血を引く少年・ハザマが、その異種族の血の衝動に突き動かされつつ、人間の世界で日々を悩みつつ過ごしていく、といったもので、基本的には学園コメディのスタイルを踏襲しています。アマンドに対立する種族であるロッシェ(天使)のヒロインも、ライバル的な存在として登場し、ハザマの思い人である委員長のハルカとの間でもラブコメのエピソードが頻繁に挿入されるなど、そういった点では従来の介錯作品同様、美少女キャラクターを押し出した要素が出ています。

 しかし、そのようなシーンはあくまで一部であり、それ以上に、主人公の異種族としての境遇を巡るシリアスな展開が目立ちます。アマンド(魔族)の血を引くハザマは、日々そこから湧き上がる破壊衝動に耐えつつ生きており、かつ時に邂逅する他のアマンドたちとの緊張した関係も目につきます。彼らとバトルになるシーンも多く、それがこの作品のもうひとつの見せ場となっています。さらには、ハザマは過去において、異種族として平穏に暮らしていた日々を打ち砕かれ、異種族としての境遇に狂った母親には暴力をふるわれ、最愛の姉も見知らぬ同族の手によって失うという悪夢を体験しており、それが彼に大きく影を落としています。

 そして、このようなひどい過去を経験し、さらには異種族として緊張した日々を生き抜いているためか、主人公のハザマにあまり浮ついたところがなく、言動がしっかりしているところに好感が持てます。従来のラブコメ作品の主人公のように、優柔不断ではっきりしない性格ではなく、むしろ自分からうまく気を利かせて問題を解決に導いたり、バトルにおいても優れた力を発揮して果敢に敵を撃破したりと、そういったアクティブな性格がよく見られるのです。これは、最初にこの作品を目にした時とはまったく異なる印象であり、大いに好感を持って受け入れることができました。

 毎回のエピソードもよく考えられており、特にバトルにおいてハザマとあいまみえる同族のアマンドとの関係が面白く、共に人間界に潜んで暮らす仲間同士でありながら、それぞれの価値観の違いから完全には打ち解けられないという、微妙な関係がよく描けています。今後、ハザマの姉を手にかけた同族の男を追っていくストーリーにも期待が持てるところだったのですが、最終的には打ち切りとなり、肝心のストーリーがうやむやのままで終わってしまったのはひどく残念に思いました。。


・学園の日常シーンもよく描かれている。
 その一方で、前述のような学園でのラブコメ等のエピソードもよく描かれています。
 同系の少年誌でのラブコメ作品のように、ギャグやドタバタ中心で見せるラブコメではなく(もちろんそういった要素もありますが)、むしろより真面目に主人公の恋愛を描こうとしているようで、意外にもじっくりと主人公やヒロインの心理を描くシーンが多く、実はこちらでもシリアスな展開が目立ちます。総じて、単なる学園コメディにはなっておらず、キャラクターの心理や生き方を丹念に追っていく真面目な話となっており、こちらでも随分と読めるものになっています。

 また、一部美少女キャラの描き方に、この作家らしいエロ的な描写が見られますが、それでもかつての介錯作品に比べればひどく内容があり、やはり読めるものとなっています。具体的には、「主人公の血による抑えきれない衝動、欲望」を描くための性描写として使われており、そのようなシーンがあることに納得がいくものとなっています。一応サービスシーン的な目的もあるのでしょうが、それ以上に主人公の持つ負の衝動と、それを必死に抑え込もうとする葛藤を描くことに重点が置かれており、しかも単なる読者サービスだけの描写でもなく、純粋に「性の描写」として描こうとしている姿勢には、ひどく好感が持てました。

 また、ラブコメや恋愛エピソードだけでなく、それ以外の学園を舞台としたエピソードも頻繁に登場します。特に、ハザマの男友達である学園の男子生徒たちも、ひとりひとりきっちりとした個性を持って描かれており、決してぞんざいな扱いにはなっていません。これまでのように萌え美少女が強く押し出されてきた作品とは異なり、しっかりと主人公の周囲の仲間たちを描こうとしている姿勢にも好感が持てます。

 個々のエピソードの内容も面白く、ハザマの仲間たち皆が揃って行動するシーンもよく出てきます。主人公の置かれているシビアな状況の中で、信頼できる仲間たちの明るい行動をじっくりと描き出すスタイルは、そこに束の間の安堵を感じることが出来ます。決して一部の美少女キャラクターが中心になって強く描かれる作品にはなっていないようで、これまでの作者の作品と比べても、大きく優れた点として評価したいところです。


・絵が読みやすくきれいになったのも評価できる。
 加えて、「ワるきゅーレ」と比較して、明らかに絵が良くなった点も大きいです。
 昔から、この作者は絵のきれいさ、描き込みの密度にはかなりのものがあり、絵のレベル自体は高かったと思うのですが、「ワるきゅーレ」ではそれ以上に絵が見づらく、描線が薄くごちゃごちゃした描き込みの中に埋没しているような感覚で、読みづらい印象の方が先に立っていました。しかし、この「ハザマノウタ」では、明らかに絵柄の質が変化しており、非常に読みやすくなり、この点でも好印象です。

 具体的には、明らかに描線がくっきりとした濃いものに変わっており、とても綺麗な絵柄になっています。緻密な描き込みの中でもキャラクターが埋没することはなくなり、その存在が際立つようになりました。加えて、要所要所の黒ベタの使い方が印象的で、一気に絵が締まってきた感があります。「ワるきゅーレ」の連載からそれほど日が経っていないのに、この絵柄の変化は非常に目立ちます。どうも、この作品から作画の手法を変えたらしいのですが、その効果は明らかで、ビジュアル面でも優れた良質の作品となりました。描線が濃くはっきりとした分かりやすいものになった分、絵が読者に与える印象力が上がっています。

 加えて、アクションシーンの出来栄えもかなりよく、こちらでも見せる力が上がっています。元々この作者は作画のレベル自体高かったのですが、今回の作画の変化で、アクションシーンも鮮烈なものとなり、さらに映えるようになりました。夜の街でのバトルシーンでも、ベタで描かれた黒い部分が際立って見えます。パワードの連載陣は、ガンガン本誌と比べてもきれいで安定した作画レベルの作品が多かったのですが、この「ハザマノウタ」もそのひとつとなったようです。


・「ワるきゅーレ」や「月彩のノエル」よりも明らかに良質。地味ながら評価できる作品だったのだが・・・。
 以上のように、この「ハザマノウタ」、ガンガンでの長期連載だった「円盤皇女ワるきゅーレ」に比べても、様々な点で優れており、純粋に読ませる作品に仕上がっていました。当初はあまり期待していなかったのですが、この完成度の高さは嬉しい誤算であり、優良な連載の多かったパワードの中に、またひとつ良質なラインナップが加わる形となったことは、非常に喜ばしいことでした。

 個人的には、これまでの介錯作品と比べて、萌え系の美少女ばかりが表に出た作品になっておらず、純粋に主人公の少年の生き方に主軸が置かれている点を、特に評価したいところです。コミックス1巻の表紙も、介錯作品としては珍しく美少女が表に出ておらず、主人公の少年・ハザマの姿を大きく写したデザイン要素の強いもので、その点でも好印象でした。というか、介錯の作品で、このような表紙のコミックスは、これが初めてではないでしょうか。一見してこれが介錯の新コミックスとは気づかない人もいるかもしれません。

 しかしその反面、これまでの作者の作品とは異なり、メディアミックス展開とは無縁の作品で、かつ掲載誌がスクエニ系でも最もマイナーなパワードということで、最後までひどく知名度の低い作品に終始してしまいました。これまでの介錯作品の多くは、ことごとく早期にアニメ化され、あるいは最初からアニメ中心の企画で、少なからずマニアの間で話題になるような展開を見せていたのに対し、今回の作品はパワード単独でひっそりと始まった感が強く、あまり知られていないのも無理はありません。「円盤皇女ワるきゅーレ」と比べても、その知名度の違いははっきりとしています。
 加えて、これまでのように美少女の萌え要素があまり強くなく、コミックスの表紙にもそれがまったく見られないことも、残念ながら注目度の低い原因のひとつとなったことは間違いありません。かつてのガンガンでの連載である「ワるきゅーレ」や、この作品と同時期にガンガンで連載が開始された「月彩のノエル」よりも、こちらの方が明らかに良質なのに、これはひどく残念なところでした。

 結果として、パワードの休刊とその後の再編では、連載陣の移籍の中に加わることができず、無念の打ち切り的な終了を余儀なくされました。前述のように、派手さがなく堅実な作風で、かつマイナー誌の掲載で大きな人気が期待できなかった感は否めず、その上でガンガンでの並行連載「月彩のノエル」の方が、まだ注目度は高いと思われるため、そちらの方を優先する形でこちらは終了することになったのでしょう。
 しかし、このマンガは、決して打ち切りになるようなマンガとは思えませんでした。パワードはこれ以外にも堅実に優れた連載が多かったのですが、その中の一角にこのマンガも確かに存在していました。隔月刊の雑誌の中でも掲載量が多く、毎回多いページ数で初期の頃は一挙2話掲載が珍しくなかったのも、大いに好感が持てました。できれば、「月彩のノエル」よりもこの「ハザマノウタ」の方を優先して継続してほしかったところです。
 打ち切りの最終回は、主人公とヒロイン、仲間たちのその後のハッピーエンドな結末が描かれていて、一応のエピローグにはなっていましたが、魔族であるアマンドと対立する天使ロッシェとの対立の行方や、その中で主人公が取る選択などは結局描かれておらず、もし連載が続いていたらこの後どんな展開を迎えたのか、非常に気になるところでした。こういうシリアスな展開もひどく面白かっただけに、やはり打ち切りはひどく惜しいと思ってしまいました。


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