<ひぐらしのなく頃に 暇潰し編>

2007・1・3

 「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」は、少年ガンガンで2006年3月号より開始された連載で、同名のPCゲームのコミック化作品にあたります。この「ひぐらしのなく頃に」の原作ゲームは、全8編(+α)からなる一連のシリーズ作品で、この「暇潰し編」は4番目の作品にあたります。作者は、原作は(他の編同様)竜騎士07、そして作画をガンガン生え抜きの新人である外海良基(とのがいよしき)が担当しています。

 この「暇潰し編」の前の3つのシリーズ作品、「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」は、それぞれガンガンの姉妹誌であるパワード・WING・Gファンタジーで、完全に同時期に連載され、コミックスも全く同時に刊行されました。しかし、この「暇潰し編」は、これのみどういうわけかかなり遅いタイミングで連載が始まり、コミックスも単独での刊行になりました。このあたりは少々不可解な連載形式であり、それもこのスクエニの中心雑誌であるガンガンでの連載のみが、他のシリーズから孤立した状態で連載されたことも、その印象をさらに強くしています。

 また、作品のイメージや方向性も、他の3編とは随所で異なっており、その点でも他とは若干異なる印象を受けます。特に、絵柄のイメージがかなり異なっており、やや少年マンガ的な絵になっていることが最大の特徴と言えます。それには、作者である外海さんが男性作家であることも関係しているのでしょう。他の「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」の作家、さらにはコミックオリジナルのストーリーである「鬼曝し編」「宵越し編」の作家も、すべて女性であり、男性作家はこの「暇潰し編」の外海さんのみなのです。


・なぜこの「暇潰し編」の連載のみが孤立しているのか。
 しかし、なぜこの「暇潰し編」のみが、ひとつだけ遅れて連載されることになったのか。
 考えられる理由としては、やはり、この編のみが、先行する3編とはかなり異質で、やや離れた位置づけにあるシリーズだからでしょうか。原作者自身も「番外編」と言っていますし、他の3編とは時代設定が大幅に異なり、無論出てくる登場人物にも大きな違いがあります。ストーリーの内容、とりわけホラーやミステリーの要素についても、他とは大きくニュアンスが異なるものとなっています。
 このような作品ならば、あえて他の3編と同列にせずに、単独で後から連載した方が、他とは離れた位置づけにある一編であることをよく主張できる。そういう配慮があったのかもしれません。また、この「暇潰し編」が、4つの編の中では最も後発の作品であるために、あまり早い時期でのコミック化はふさわしくないとの判断があったのかもしれません。この一連の「ひぐらし」コミックの開始時点では、原作のPCゲームもまだ完結しておらず、そんな原作のペースに合わせる形で、連載時期を調整した可能性は高いのではないでしょうか。

 しかし、上記のように、この「暇潰し編」が孤立した理由は納得できても、それがガンガンで連載される理由はよく分かりませんでした。ガンガンはまぎれもなくスクエニでは中心雑誌であり、最も多くの読者の目に触れる雑誌です。そんな雑誌で、あえて番外編とも言える、離れた位置づけの孤立した連載を行う意図が判然としませんでした。むしろ、そんなガンガンでの連載ならば、シリーズ最初の作品で、その意味で最も重要とも言える「鬼隠し編」を連載するのが筋ではなかったか。そして、この「暇潰し編」の方を、スクエニで最も傍流にあたるパワードで連載した方がふさわしかったように思います。
 実は、このような連載雑誌の決定には、多くの読者からの疑問の声を多数目にしており、「なぜ『鬼隠し編』をガンガンで連載しないのか」「なぜ後になってガンガンで『暇潰し編』をやるのか」という意見をかなり頻繁に目にすることになりました。


・明らかに他の編とは異なる絵柄。
 異なるのは連載時期だけではありません。肝心の内容についても、他のコミック化作品とは明らかに異なる点が多数見られます。
 真っ先に誰もが気づくのが、絵柄の違いでしょう。明らかに他の3作品とは絵柄の方向性が異なります。

 実は、作者の外海さんは、新人のマンガ賞である「スクウェア・エニックスマンガ大賞」で大賞を受賞した作家なのですが、その受賞作を見ても、さほど絵のうまさを感じることの出来ない作家だったのです。そのため、連載開始前に、外海さんが作画担当に決まったと聞いた時にも、果たして大丈夫なのか真剣に心配してしまいました。しかし、実際に出てきた作品は、ひとつの連載作品としては十分なレベルであり、その点では安堵できるものでした。

 だが、その一方で、他のコミック化作品に比べれば劣る部分が見られるのも事実で、かつ、絵柄の方向性そのものも異質でした。他のコミック化作品の絵が、いわゆる「中性的」な絵柄で、丁寧かつ綺麗な仕上がりが特徴であるのに対して、この外海さんの絵は、いわゆる「少年マンガ」的な絵柄であり、力強さや骨太さを感じる一方で、丁寧さや綺麗さに欠けている感は否めず、その点でどうしても見劣りする感は否めないものだったのです。中でも、人物の造形にかなりの固さ・ぎこちなさを感じるもので、他の作品のキャラクターが非常に丁寧でなめらかな作画なのに対して、かなりの違和感が残る出来でした。背景の作画についてもさほど目立つものがなく、この点でも画面の物足りなさが目立ちます。
 また、この外海さんは、一枚絵のイラスト、特にカラーイラストについてはかなりのレベルの絵を描くのに(2巻表紙の梨花などは絶品)、肝心の本編の絵柄がかなり見劣りするのも特徴的です。これは、元がイラストレーターが出自の作家ではよく見られますが、最初からマンガ家である外海さんのような作家では珍しいかもしれません。

 もっとも、外海さんの絵は一個の連載マンガとしては十分に合格レベルであり、様々な人物の表情やアクションシーンなどはよく描けており、まったく問題はありません。しかし、それでも、他のコミック化作品に比べれば、1ランク劣ることもまた事実だと思うのです。


・しかし、梨花はよく描けていることは素晴らしい。
 ただ、若干劣ると思われる絵の中で、メインヒロインである梨花(梨花ちゃま)の絵がよく描けているのは評価できます。とにかく、外海さんの描く梨花の絵は非常にかわいらしい。
 それも、いわゆる萌え系の要素は薄く(一応あるにはありますが)、それよりも、幼い子供としてのかわいさが全面に出ている点が非常にほほえましく、決して明るいとは言えないストーリーの中で、ひとつの大きな救いとなっています。特に、丹念に手を洗うシーンのかわいさは絶品で、赤坂(この話の主人公)が娘にほしいと考えるのも分かるというものです(笑)。

 また、カラーイラストの梨花、それも表紙の梨花の絵は非常に素晴らしいもので、この作品のイメージの上昇に大いに貢献しています。外海さんは、カラーイラストの出来は本編よりも数段レベルが高いのですが、それが梨花の作画に最もよく表れています。


・原作からはかなり個性的なアレンジが加えられたストーリー。
 そして、ストーリー面でも異色さが目立ち、作者独自のアレンジがよく見られます。
 先行する3作品では「鬼隠し編」「綿流し編」は原作に非常に忠実で、「祟殺し編」のみかなりアレンジの工夫が見られるのですが、この「暇潰し編」のアレンジはそれ以上のものがあります。「祟殺し編」のアレンジは、原作の基本的な部分は崩れていませんが、この「暇潰し編」では、一部、原作とは異なる設定まで見られるのです。特に、ラストシーンでは原作とはかなり異なる終わり方となっており、これはかなり意外でした。これは、原作とは異なるものの、個人的には決して悪いものではなく、むしろ原作とは別の解釈で、一縷の明るさが見え、希望の持てるストーリーになっていたように思います。

 また、一部演出方法も独特です。連載の第2話では、原作ではストーリーの本筋とは関係のない部分である「麻雀のシーン」が、ほぼ1話すべてを使って異様な熱意で徹底的に描かれています。これはあまりにもインパクトの強いもので、この話だけを読めば、一体このマンガは何のマンガなのかとまで思ってしまうような有り様でした(笑)。


・恐怖や衝撃には劣るが、地に足の着いた良質な原作を再現。
 そして、これは原作そのものがそうなのですが、この「暇潰し編」のストーリーは、他の編とは明らかに方向性を異にする要素が多数見られます。
 ほかの「ひぐらし」のストーリーは、何といっても明るい日常が急激に暗転する恐怖と衝撃、そして謎に満ちたミステリーの要素が最大の持ち味でした。しかし、この「暇潰し編」は、そこまでの激しいストーリーではなく、より現実的なサスペンスの要素が強いものとなっています。これは、少々インパクトに欠ける感は否めないもので、他の編に比べればやや衝撃度では劣ってしまうのですが、しかし、その分、現実的で地に足の着いた人間ドラマになっています。

 また、この「暇潰し編」の原作自体が、他の編と比べて半分ほどの分量しかないため、その分コミック版でも原作のストーリーがダイレクトに描かれています。他の編のコミック版では、かなりの長さを持つ原作のすべてをコミック化することはできず、多かれ少なかれかなりの部分を省略せざるを得なかったのですが、この「暇潰し編」では、元々の原作の分量が少ないが故に、原作のストーリーの多くを省略することなく、原作に近い形で楽しむことが出来ました。これは大きな幸運であったと言えるでしょう。


・作画面では劣るかもしれないが、良質な作品であることは間違いない。
 以上のように、他の「ひぐらし」コミック化作品と比べれば少々異質であり、特に作画でのイメージが異なり、やや劣る点が見られるのも否定できませんが、それ以上に原作の魅力を直接的に伝えており、かつ作者独自のアレンジもうまく効果的に働き、これはこれで良質な作品に仕上がっていることは確かでしょう。他の編からかなり遅れて始まり、最初に見た作画でも少々不安を感じたこともあり、果たして大丈夫なのかかなり心配ではあったのですが、それは杞憂に終わったようです。これで、ひぐらし全8編のうち前半の4編(出題編)のコミック化が終了し、しかもそのすべてがおしなべて良質なレベルで仕上がっていました。これは、スクエニによる一連のひぐらしコミック化企画が、最後まで優れていたことの証明に他なりません。(といっても、残りの半分の4編はまだ残っていますが。)

 ただひとつ、ちょっとした問題として、やはりガンガンでの「暇潰し編」の連載が少々疑問でした。先行する他の3編が非常に盛り上がった後で、これのみ孤立した形で連載が始まったことで、中心雑誌であるガンガンでの連載にもかかわらず、思ったほどの盛り上がりが見られなかったように思うのです。これが、最初から「鬼隠し編」あたりを連載しておけば、ガンガンでの「ひぐらし」の盛り上がりもかなり変わっていたのではないでしょうか。

 そして、この「暇潰し編」の後に、これといった続編がないのも残念なところです。「鬼隠し編」「綿流し編」が、その終了直後に、それぞれ対応する「解答編」である「罪滅し編」「目明し編」が開始され、その盛り上がりを持続しているのに対し、「暇潰し編」は、これは原作の事情から、それに対応するような解答編を連載することができず、これ単独の連載で終了してしまったのです。また、もうひとつ「祟殺し編」も、それに対応する解答編を連載することは出来なかったのですが、それに代わる形で、コミック版オリジナルの「宵越し編」の連載を開始し、やはり盛り上がりを持続しています。しかし、このガンガンでは、そのような企画もなく、その後に何ら続くものがなかった。これは少々寂しい経過であり、一連のひぐらしコミックの中では、少々扱いが残念なものになってしまったと言えるでしょう。


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