<ハイパーレストラン>

2009・3・8

 「ハイパーレストラン」は、月刊少年ギャグ王で1997年3月号から始まった連載で、同誌の後期における数少ない優良なギャグマンガとして一斉を風靡した快作と言える作品です。後期、具体的には97年以降のギャグ王は、強引な低年齢化の方針転換が完全に失敗し、連載マンガの質が目に見えて低下し、低年齢の小学生にもまったく人気を得られず、部数も極端に減少するという末期的な状態を迎えていました。そんな中で、この「ハイパーレストラン」は、数少ない読める良作ギャグマンガとして大いに人気を集め、高年齢のコアな読者でも読める作品として、数多くのファンを集めました。

 作者は、霧香&聖娜。ふたり組みのマンガ家で、昔からの親友同士が共同で作業するマンガ家となったようです。ドラクエ4コマへの投稿でも何度も見かけた作家でしたが、初の連載となるこのギャグマンガで、いきなりの快作を見せてくれたことになりました。
 また、「ハイパーレストラン」のタイトルどおり、このマンガはレストランを舞台にして個性的な店員たちが活躍するものとなっていますが、それにはこのふたりのレストランのアルバイト経験が大いに活かされているようです。そのため、ひどく過激なギャグが繰り返される賑やかな作風ながら、要所で織り込まれるレストランの仕事の描写、客との触れ合いの描写には、意外にも優れたリアリティも感じられました。
 そのためなのか、このマンガは、普段エニックスを読まない一般の読者にも評価が高く、何度か書評にのぼったこともあります。独特のイメージのファンタジー作品が多く、一般の読者には抵抗があり敬遠する人も見られた当時のエニックスのマンガの中でも、このマンガは、「レストラン」という現実の世界を舞台にした作品であり、かつギャグの面白さにも汎用性があったため、読者を問わず大勢の人に受け入れられたようです。当時のエニックスのマンガでは、浅野りんや金田一蓮十郎の作品も一般層の支持が大きかったのですが、その中にこの「ハイパーレストラン」を加えてもよいでしょう。

 しかし、じきにこのコンビは解消され、私的な事情で聖娜の方が執筆活動から抜け、以後は霧香の方がたかなし霧香と名乗り、単独で執筆を行うことになりました。しかし、単独での連載以降もクオリティにはまったく変化はなく、やはり良作ぶりを長く維持しました。同時期には、姉妹誌のガンガンでも「ワルサースルー」という連載を始め、こちらも好評を得るなど、この時期がたかなし霧香の絶頂期だったと見てもよいでしょう。

 だが、掲載誌のギャグ王はふるわず、1999年をもって休刊を余儀なくされてしまいます。休刊後の「ハイパーレストラン」は、ガンガンWINGへと籍を移して連載を継続され、そちらの方でも変わらぬ連載ぶりを発揮、2001年のエニックスお家騒動をも越えて続く数少ない連載となり、2002年に無事に最終回を迎えることになりました。たかなし霧香は、その後も同誌で「ワンダフルワールド」という4コマを長く連載し、エニックス(スクエニ)でも屈指の息の長い活動を続けた作家となりました。


・当時は珍しかった「レストラン」をモチーフにしたマンガ。
 当時の読者に大きく評価された最大の理由は、やはり「レストラン」を舞台にしたマンガであり、しかも作者自身がレストランで働いていたことが作品に反映されていることでしょう。そのため、過激なギャグ連発の相当凄まじい内容でありながらも、多くの読者にとって意外にも抵抗が少なく、むしろ新感覚のマンガとして好意的に受け止められたようです。当時のマンガレビュー誌でも、小さな枠内での紹介ながら、このマンガのコミックスが、数多い新刊の中でピックアップされて紹介されており、当時は一般向けのマンガレビューではほとんど採り上げられることのなかったエニックスのマンガの中でも、数少ない例外的な存在となっていました。

 特に、当時はまだ「レストラン」をモチーフにしたマンガが、ほとんど見られなかったことも、このマンガが新鮮に感じられ、評価された大きな一因ではないかと思われます。その当時、いやそれよりもはるか以前から、「料理」を題材にした「料理マンガ」は数多く見られました。少年誌での料理対決ものや、青年誌でのグルメ要素を押し出した作品など、ひとつの定番ジャンルだったことは間違いありません。しかし、「料理」ではなく「レストラン」(レストランの仕事や接客の様子)を描いたマンガとなるとどうでしょう。これが、当時はまるで見当たらず、この「ハイパーレストラン」がほぼ唯一と言ってもいいくらいのマンガだったのです。これが、このマンガが好意的に注目される大きな一因となったようです。

 さらには、このマンガは、ギャグマンガとして面白かったことも大きく、これ以前からエニックス(ガンガン)で、「南国少年パプワくん」や「魔法陣グルグル」のような良作ギャグが広く一般に認知されていたことで、それと同じような感覚で接する読者も多かったようです(これは、金田一蓮十郎の「ジャングルはいつもハレのちグゥ」が、「魔法陣グルグル」と同じようなテイストのギャグマンガとして人気を得たことと通じるものがあります)。「レストラン」という新鮮かつ現実的で一般にも受け入れやすいモチーフ、以前からよく知られたエニックスのギャグマンガと同じテイストを持つマンガだったこと、このあたりがこのマンガが一般にも広く評価された最大の理由だと思われます。


・とにかく過激な変態ギャグがこの作者の持ち味。
 しかし、いくら舞台がレストランといっても、このマンガは決してまともなマンガではありません。青年誌ではよく見られる、いわゆる「職業もの」などでは断じてありえず、むしろこの作者ならではの、変態を全面に押し出した過激で凄まじいノリのマンガになっています。

 特に、このマンガは、主人公たる林田ベランメルジェの異様な変態ぶりが、まずどこまでも目に付きます。なんでも、「レストランを救う勇者」であるらしく、ウェイトレスだったヒロインのメルルーサをさらって無理矢理同行させ、レストランを救う旅と称して行く先々で過激な奇行を繰り広げます。のちに旅をやめて一箇所にレストラン(「ハイパーレストラン」)を開店して活動するようになりますが、その後も変態的な奇行は収まるところを知らず、その変態ぶりは宇宙規模にまで発展することになります。

 彼の奇行の最たるものは、数々の変体(変身)行為であり、特にモモンガに変身して「モモンガ林田」と名乗り、独特のポーズで空を飛び回るその姿は、読者に言い知れない素晴らしいまでの衝撃を残しました。こんな勇者はまずどこにも見られないでしょう。その変態的な身体能力は凄まじく、常人にはありえない速度で動き回り飛び回り、完全に人間離れした奇態を見せることになります。
 その後も、終盤になると、今度は「ユニバーサル林田」を名乗ってエイリアンのような凄まじい姿となり、宇宙にまで活動の規模を拡大させ宇宙人と交渉するなど、ありえない展開まで見せるようになります。どうみてもまともなレストランマンガではありません(笑)。しかし、これこそがたかなし霧香最大の持ち味であり、このような変態ギャグは、彼女のほかのマンガすべてに共通する最大の特長となります。これには、作者自身が実際に変態であることも大きく影響を与えているようです(笑)。

 しかし、このような奇行ぶりを発揮する凄まじい主人公でありながら、読者人気は圧倒的なものがあり、特に女性読者にはこの林田は本当に大人気でした。なにげに美形なルックスであることに加え、その素敵すぎる破天荒な言動が、女性読者の支持すら大いに集めたようです。当時のエニックスマンガならではの人気だったと言えるでしょう。


・さらに過激な変態キャラのオンパレード。
 しかし、変態なのは主人公の林田だけではありません。他のキャラクターたちもことごとく変態で、その個性的な変態キャラたちのバカバカしい挙動を見ている だけでも楽しめるマンガとなっています。
 一応、ヒロインでウェイトレスであるメルルーサ(増井メルルーサ)だけは、まともな常識人で、このマンガでほぼ唯一のツッコミ役となっているのですが、それ以外のキャラクターが、敵味方そろいも揃ってことごとく変態なのです。

 まずは、主人公の仲間たちの変態ぶりも目に付きます。林田をライバル視する湖蘭ヴァンという男は、最初のうちは比較的美形なルックス重視のキャラクターとして登場したように見えましたが(「湖蘭ヴァン」という名前も、あるマンガに出てくるキャラクター名がモチーフになっています)、いつの間にか情けなさ過ぎる完全なヘタレキャラと化してしまいます。ヴァンを慕うウェイトレスの木崎マイラというキャラは、女に見えて元男でプロレスラーで、今は性転換しているという異様にがたいのでかいキャラクターで、時に男に返って大暴れするという、ビジュアル的にも凄まじくえげつないキャラクターとなっています。林田の姉である林田シーラ は、なぜか吸血鬼で、当初は美人のセクシーキャラだったのですが、のちに黒魔術を使ったことで林田に負けないような異様な姿になってしまいます。そして、終盤に仲間に加わった魔法使井ザリィは、よりによってザリガニのキャラクターで、そのザリガニそのものの姿と時に脱皮する異様な生態が、これ以上ないほど笑えるキャラクターとなっています。

 しかし、仲間キャラクター以上に変態的なのが、個性的すぎる敵キャラクターです。彼らは、「レストランキラーズ」を名乗り、どういうわけかすべてのレストランを滅ぼすために活動を続けているのですが、その姿と能力、実際の活動内容があまりにも特異です。

 まずは、連載の序盤から登場し続けた最大のライバルキャラであるブリード呉樹なる男がひどすぎます。林田同様に美形なキャラクターなのに、なぜかゴキブリが大好きで、自分もゴキブリのような能力をもってガサガザと動き回り、背中から羽を出して空を飛ぶという、まさにこのマンガならではの変態キャラクターになっています。同じくレストランキラーズの構成員のドラゴンマミーなるキャラクターは、強面の顔をしたアフロヘアの中年女性で、そのいでたちからしてインパクト抜群ですが、その上でとてつもなく臭い粉末「足臭いパウダー」や「ワキ・ギガ臭いパウダー」を食品に混入するという荒業を演じてレストラン活動を妨害するという、あまりにも嫌過ぎるキャラクターとなっています。

 しかし、彼ら以上に凄まじいインパクトを残したキャラクターと言えば、やはりヤナモン☆イレルディーでしょう。ブリーフを穿いた異様ないでたちからしてどうかと思いますが、その名前の通り趣味は毒物混入で、料理に毒物を仕込むことでレストラン活動を妨害するという、本当にこんなキャラクターを出して大丈夫だったのか?と読者の方が心配になってしまうような衝撃的なキャラクターだったことを、今でもはっきりと覚えています。


・レストランのあり方をも真剣に描く姿勢が実はこのマンガもうひとつの魅力。
 しかし、このような過激な変態ギャグが全編を覆うその一方で、実は決してそれだけのマンガにはなっていません。要所要所で実はレストランのあり方を真面目に語る、真剣に描く箇所が随所に見られ、それがまさにこの「ハイパーレストラン」のもうひとつの重要な要素となっているのです。この、まったく正反対の要素が自然と同居しているのが、このマンガの実に面白く優れたポイントです。

 まず、意外にも毎回レストランの仕事のあり方、調理や接客など日々の店員の姿を描く箇所が目立ちます。特に、ヒロインにして語り役のメルルーサがウェイトレスなので、フロアでの日々の仕事ぶりやお客さんとの対応、触れ合いを描くシーンも多くなっています。ここでは、やはり作者が実際にアルバイトをしていた経験がよく活きており、なるほどと思わず納得、感心するような話も数多く見られます。私的には、不肖ながらこのマンガで「アイドルタイム」という言葉をはじめて知りました。(*アイドルタイム・・・飲食店の営業時間中、客数の少ない時間帯のこと。作中では、ランチタイムが終わってしばらく暇になったウェイトレスに、デザートを求める客が大勢押し寄せて対処に苦しむ様子が描かれる箇所がある。)

 それだけではありません。より大きく、レストランそのもののあり方、レストランの存在意義について語る箇所もあります。ここでは、過激なギャグとは正反対に、実に真剣にレストランへの思い入れ、愛を語っており、時にひどく感嘆、感動するようなシーンも見られるのです。
 例えば、林田がハイパーレストランを開店して初めて客が入ったシーンなどは、いきなり汚らしい老人が這うように店に入ってきて、皆が驚きマイラなどは嫌がって追い出そうとする中、林田だけはひとり丁寧に客に誠意を尽くして歓待します。この林田の対応に皆も共感し、お客様に対して誠意あふれる最上のおもてなしをするようになり、そんな対応に客の方も涙を流して喜ぶ。このような感動するシーンが、過激ギャグの連発の中に突然放り込まれるかのように存在しているのが、このマンガの本当の魅力だと言えるのです。

 そんなシーンの中で最も心に響いたのは、連載後期の第36話、林田たちが他のレストランに食事に行った時の話です。そのレストランは、内装も暗く寂れていて、しかもたまたま入ってきた客も問題のある騒がしい客ばかり、そんな様子を見て、メルルーサなどは入ったことを半ば後悔し始めます。しかし、そこの店長はそんな客をも笑顔で迎え入れ、照明も明るくして最後の接客を始めます。実は、そのレストランは今日で閉店で、35年も長く続いた店の最後の日だったのです。店長は、特別に最高のメニューをお客さんみなに提供し、そして語り始めます。「時代の流れの中で客もこなくなりついに閉店となったが、わたしはやるべきことはすべてやって悔いはない。うちの料理でお客さんが笑顔になるのを見るのがとても好きで、料理を通じてお客さんと交流できたような気がして大変嬉しかった。今日も皆様に笑顔で帰っていただけるように頑張ります」・・・と。そのことを聞いて、騒がしかった客もみな笑顔になって拍手で店長に応えるのです。

 そして、わたしは、この話こそがこのマンガで最も心に残るシーンだったと思っています。過激なギャグばかりが目に付くページの中で、実に真剣にレストランのあり方を見せる素晴らしいシーンが存在し、読者に非常に強い感動を残す。あるいは、ギャグ連打のマンガだからこそ、一層こういったシリアスな話の面白さが際立つのかもしれません。もうこの話を読んで10年近く経ちますが、いまだに「ハイパーレストラン」と言えば真っ先にこのシーンを思い出してしまうことがあるのです。


・紛れもなくたかなし霧香最高の傑作。これは是非とも復活してほしい。
 以上のように、この「ハイパーレストラン」、いかにもこの作者らしい変態キャラクターによる過激ギャグの応酬が本当に楽しく、心の底から笑って楽しめる優れたギャグマンガになっている一方で、作者のアルバイト経験も存分に活きたレストランの仕事や業務の描写、時にレストランのあり方を真剣に描き、読者に感動の余韻を残す優れたエピソードも見られるなど、実に多彩な魅力を持ち合わせた素晴らしい作品になっていると思います。当時はレストランを扱ったマンガ自体希少であり、その点でも大きな価値がありました。幅広い読者に評価されたのも分かるというもので、実に汎用性の高い快作であったことは間違いないでしょう。

 そして、このマンガは、たかなし霧香(霧香&聖娜)の最高傑作であったことも間違いないところです。この当時のたかなし霧香は、ガンガンで同時期に連載していた「ワルサースルー」、WINGへの移転後に同雑誌で2作も連載するようになった「ワンダフルワールド」と、いずれも良作が多く、その活躍ぶりは顕著でしたが、その中でも最高の作品は紛れもなくこの「ハイパーレストラン」でした。当時は、他にも人気のあるエニックスのマンガは多かったので、その中では特にこれだけが目立つ存在ではありませんでしたが、しかしこのエニックス(ガンガン系)ならではのギャグマンガの持ち味はやはり健在で、実に独特の存在感を示していました。

 しかも、いかにもエニックスのマンガらしく、キャラクターにも大きな人気が集まったのも特徴的でした。主人公の林田ベランメルジェなどは、当時から本気で大人気で、よくこんな変態美形キャラに人気が集まったものです。これだけ過激なギャグマンガでありながら、エニックス的な絵柄と個性的で魅力溢れる言動で、女性読者にも大きな人気が集まったようで、これは他のたかなしマンガ、例えばガンガンの「ワルサースルー」とも共通する現象でした。

 そして、これだけの優れた作品であり、かつレストランという一般にも受け入れやすいモチーフを採用しているこのマンガを、今こそ復活させても面白いのではないかと思うのです。このところのたかなし霧香は、長く続いた「ワンダフルワールド」の連載も終了し、その後に始まった卓球マンガ「ロビング・スコンク大逆転!」もこの作者にしては面白いとは言えず、短期間で終了してしまい、それ以降の登場がありません。このままでいなくなるには惜しい作家であり、このかつての名作マンガで復活させるのも面白いのではないかと思うのです。
 食の安全が脅かされるニュースが連日のように報道され、金融危機の不況でレストラン業界の縮小・閉店が相次ぐ中、今こそレストランを救えるのは林田ベランメルジェしかいないのではないか(笑)。ちょうど今の時勢にも合ったマンガになることは間違いないでしょう。かつての名変態敵キャラ・ヤナモン☆イレルディーに続くキャラとして、サンチ☆ギソウダーとかザンパン☆ツカイマワシダーとかそういうキャラクターを出しまくってもこのマンガなら許されるような気がします(まて)。食の不祥事が相次ぐ今だからこそ、神を目指す理想のレストラン・レストランのためのレストラン「ハイパーレストラン」の復活が待たれるのではないか! せつにそう思うのです。


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