<イグナイト>

2008・5・24
一部改訂・画像追加2009・3・14

 「イグナイト」は、ガンガンWINGで2007年6月号より始まった連載で、この時期以降WINGが積極的に採り入れていくことになる、異世界バトルファンタジーの1本にあたる作品となっていました。作者は、ひいろ莎々で、少し前に「マビノ×スタイル」のゲームコミックを一年ほど連載していた新人作家です。前回はゲーム原作のコミックでしたので、これが作者初のオリジナル連載となります。「マビノ×スタイル」の連載は、一年以上前の2006年2月には終わっていたため、それから一年以上のブランクを経ての再登場となりました。もう長らく登場しなかったので、消えてしまったのかと危惧していた矢先だったので、これは非常に嬉しくもありました。

 2007年以降のWINGは、かつての「ゆる萌え」路線から若干ながら路線を変更したのか、このような「剣と魔法の異世界バトルファンタジー」的な作品が数本見られるようになりました。この2007年の新連載が特に顕著であり、この作品以外でも「ネクロマンシア」「磨道」の2本はこれに該当するのではないでしょうか。今までとは異なるタイプの作品を意欲的に採り入れることは、決して悪いことではありませんが、しかしどの作品も突出した成果を挙げることはできず、最後まで成功することなく終了してしまいました。

 この「イグナイト」もそのひとつであり、全体的に見て絵的にも内容的にも平凡な感が強く、悪い作品ではないもののひどく印象に乏しいものに留まっているように思えます。「ネクロマンシア」「磨道」の方がまだ見るべきところが多く、それらと比べてもさらに印象は薄い作品でしかありませんでした。絵はいかにもWING的で中性的なものですが、肝心のアクションシーンの緊迫感が今ひとつで、全体的な見た目でもおとなしすぎて人目を引きつけるところがありません。内容的に見てもさらに今ひとつで、ストーリーの見せ方にかなりの難があるように思え、ぎこちない会話シーンと淡白な展開で大いに盛り上がりに欠けてしまいました。

 これならば、かつてのゲームコミック「マビノ×スタイル」の方が面白かったと思いますし、今回のオリジナル連載には期待していただけに、ひどく落胆した感は否めませんでした。最終的には2009年3月号で2年近くの連載期間をもって終了することになりましたが、最後まで印象に残らない作品となったようで、これはひどく残念な結果になってしまいました。


・「マビノ×スタイル」のコミック版は確かな良作だった。
 作者の前作「マビノ×スタイル」は、今はなきKIDのアドベンチャーゲームであり、このメーカーのゲームの中では相当な力が入っていた作品で、発売前から様々な企画が行われました。このWINGでのコミック版の連載も、その企画の一環であり、ゲームの発売前から連載を開始するという、盛り上がりの上ではまったく申し分のない連載企画でした。なお、この企画の中には、「バナー応援企画」というものもあり、これはこの作品を応援したいというファンサイトを募り、そこにメーカーが用意したバナーを貼って宣伝活動の一環を担うというものでした。これには、このサイトも参加した記憶があり、当時は参加サイト同士で大いに盛り上がったものです(この企画は、のちに他のメーカーにも波及し、一気に広まります)。

 しかし、そこまで大々的な企画を経て発売されたゲーム本編は、あまりにもいまいちな出来に終始してしまい、プレイヤーの評判もひどく悪く、完全な失敗に終わってしまいます。失敗の理由は様々ですが、肝心のシステム・ストーリー両面の出来がどちらもつまらなかったのだからどうしようもありませんでした。特にストーリーについては、完全一本道で面白みに欠ける上、最後の最後で新世紀エヴァンゲリオンを思わせるような意味不明な展開に突入し、多くのプレイヤーを呆れさせるに十分でした。

 しかし、ゲームに先駆けて始まったこのコミック版は、ゲームよりも明らかに面白い良作だったのです。作者のひいろさんの絵柄は、中性的で実に可愛らしいもので、原作ゲームのキャラクターデザインよりも好印象なくらいでした。こちらをゲームで採用してほしいとおもったくらいです。また、原作ゲームのストーリーは、主人公の性格にも難があり、ことあるごとにエロを求める展開は、多くのプレイヤーに極めて不評でした。しかし、このコミック版の主人公は、作者のひいろさんの 性格に合わせてか、ひどく優しく穏やかな性格になっており、この点でもゲームを上回っていたように思います。また、ストーリーそのものも面白く、原作にないほのぼのしたエピソードがひどく好印象でした。また、ラストも原作ほど意味不明な展開ではなくなり、こちらの方がうまくアレンジされています。

 このような良作だったので、出来れば長く続けてほしかったものですが、残念ながらゲームに合わせて最初から1年間と連載期間は決まっていたようで、そのまま予定通りに1年間で連載終了してしまいます。これほどの良作だったのだから、ゲームとの連動にこだわらずもっと続いてほしいと思いましたし、その後のひいろさんが1年以上再登場が無かったことも、終了を惜しむ一因となりました。


・絵的にまず印象が薄い。
 そうして惜しまれつつも「マビノ×スタイル」を終了して一年余り、ようやく作者の再登場となったこの「イグナイト」だったのですが、始まってみるとどうにも印象の薄い作品で、正直期待はずれの感が否めませんでした。悪い作品とは言えませんが、それ以上にぱっとしない凡庸な作品に感じられました。

 まず、絵があまりにも印象が薄いのが、ひとつの大きな難点となっています。前作「マビノ×スタイル」と、基本的には同じ絵柄のはずですが、こちらの方はいまいちぴりっとしません。その理由を考えるに、バトルもののストーリーとして力強さが足りないのではないかと考えられます。

 前作「マビノ×スタイル」は、異世界の魔法学校で魔法を学ぶ日常を描くという、ほのぼのとしたストーリーが特徴でした。戦闘シーンもあるにはありましたし、終盤からラストにかけてのストーリーはかなりシビアでシリアスなところもありましたが、それよりも大空に浮かぶ魔法学校という独特の世界観の描写や、あるいは日常のほのぼのしたエピソードが中心で、そちらの方が印象に残る作品でした。
 しかし、この「イグナイト」は、ある程度戦闘の比重も強い王道系バトルファンタジーです。西部劇のような世界観で、剣や魔法と同時に機械文明が存在するような舞台で、いわゆるスチームパンク、ゲームの「ワイルドアームズ」のようなイメージの作品です。そのような世界を表現するのに、このひいろさんの絵は少々優しすぎて、いまひとつ力強さが足りないと思えます。
 特に問題なのは、やはり戦闘シーンでしょう。正直なところ今ひとつの出来であり、作画そのものは丁寧なものの、戦闘の緊迫感や痛さの表現が足りない。そのため、どうも肝心の戦闘が盛り上がりません。エフェクトばかりを多用したコマも目立ち、単調な爆発や衝撃派だけでごまかしたような絵も多く、戦闘の面白さでも見るべきところがありませんでした。

 戦闘以外の作画も今ひとつで、全体的にあっさりした作画だからか、今ひとつスチームパンク的な世界観が伝わってきません。あっさりとした背景描写からは、重厚な世界観が伝わってきづらいですし、機械の描写も今ひとつ印象に残らず、これといったインパクトに乏しい。これと同じような世界観の作品に、あの「鋼の錬金術師」も該当するはずですが、この作品のような圧倒的な重厚さがまるで感じられないのです。

 反面、前作同様、ほのぼのとしたシーンは割とよく描けていますが、それだけでは物足りないと思えます。これでは、読者としても初見で惹き付けられるものに乏しく、まず外見から受ける吸引力に弱い作品となっています。


・ストーリーも魅力に欠ける。
 そして、肝心のストーリー展開でも、凡庸で盛り上がりに欠ける展開が目立ち、物語に惹きつけられるものが乏しかったようです。

 物語の大筋は、主人公の少年・カイリが、オイルを飲んで生きる謎の少女・ティアと出会い、彼女の探している兄を求めて旅に出る、というものです。カイリは剣の心得もあり、やがてはブレイカーという機獣(機械と獣が融合したようなモンスター)を退治する職につき、時に戦闘を重ねつつティアと共に旅を続ける、というのが大まかなあらすじです。ボーイ・ミーツ・ガールという王道的な始まり、そして剣とモンスターという戦闘要素と、各地を転々と旅を続けるというストーリーと、一昔前の王道ファンタジー、RPGゲームを思わせるようなスタイルで、いわゆる古きよき王道ファンタジー、少年マンガ的要素も感じられる作品です。

 このこと自体は決して悪くはないのですが、肝心のストーリー展開がまったく面白みに欠けます。特に連載初期の頃は、キャラクターのセリフ回しがぎこちなくて違和感があり、唐突にシーンが切り替わる箇所も多く、ストーリー作りにかなりの拙さが感じられました。前作「マビノ×スタイル」と比べてもいまいちですが、やはり作者オリジナルの連載では勝手が違ったのかもしれません。原作付きの作品を手がけることは出来ても、オリジナルの作品を描くにはまだ力不足だったのかな・・・とも感じてしまいました。これでは読者を惹きつけるには難しく、絵の印象の薄さもあいまって、連載最初の印象が良くありません。

 少し連載が進んだあともぱっとしません。ティアを狙う強敵がいて、カイリも何度も襲われて傷つけられるシーンもあるというのに、今ひとつ緊迫感がなく、ストーリーに深刻さが感じられないのです。むしろ、なんとなくのんびりと進んでいる感もあり、ストーリーの盛り上がりに乏しいことは間違いないでしょう。キャラクターのセリフ回しも相変わらず今ひとつで、ありきたりすぎて面白みに欠けます。終盤からラストへの展開もありきたりかつ性急でいまいちで、もしかすると人気不振で打ち切り的な終了だったのかもしれません。総じて、どうにも人を惹きつけるに乏しい印象の薄い展開で、最後まで連載が盛り上がらなかったのも必然と言えました。


・前作の方が良かったと言えるのが残念。WINGの企画的にも失敗だった。
 以上のように、この「イグナイト」、絵的にも内容的にも印象は薄く、最後まで優れた作品に進化することができませんでした。作者の人柄が感じられるような、優しく丁寧に描かれたマンガであり、決して悪い作品ではないと思いますが、しかし面白いとは言えるものになれなかったのはひどく残念でした。

 読者の反応もまったく芳しくありませんでした。連載当初から、このマンガに注目している人は少なく、ほとんど話題になったことがありません。コミックスの入荷部数もかなり少なく、書店でも見かけることは多くありませんでした。そして、個人的に最もショックだったのは、コミックス2巻において、早くも付属の「帯(おび)」がなくなってしまったことです。この帯というものは、コミックスの(ひいては作品の)盛り上がりには欠かせないもので、これがないということは、雑誌側でもその作品をもう強く推していないことを意味しています。この「イグナイト」の場合、1巻ではまだ帯があったのですが、2巻で早くもなくなるというのはひどく寂しいことでした。連載が始まってまださほど経っていない段階で、このような状態に陥ったのはあまりにも厳しすぎました。

 WINGの他の新連載と比べても芳しくありませんでした。前述のように、2007年にはこれと同じようなコンセプトを持つ新連載として「ネクロマンシア」や「磨道」が始まりましたが、そちらの方がいい推移を辿っています。「ネクロマンシア」も、最初のうちは今ひとつでしたが、中終盤にかけて中々の盛り上がりを見せ、最終的には秀作と言える作品になったと思います。「磨道」は、人気長編ウェブコミックの商業誌連載ということで注目度があり、堅実な描写の王道ファンタジーとして定評があります。これらの作品に比べれば、この「イグナイト」の注目度はあまりに低く、まったく印象に残りませんでした。

 そして、作者の前作「マビノ×スタイル」の方が良かったと言えてしまうのも残念なところです。かつて、このゲームコミックを連載していた頃は、「いつかこの作者のオリジナルを読みたい」と思っていましたし、オリジナルの連載が決まった時には、ひどく嬉しかったものです。しかし、実際に始まった連載は、ひどく物足りないものでしかありませんでした。
 そして、これはこの当時のWINGの不振を象徴する側面もありました。この「イグナイト」連載前後のWINGは、このような王道バトル系ファンタジーを初めとして、それまでになかった新しいタイプの連載を何本も採り入れ、雑誌の方針転換を図った節がありました。しかし、その多くはあまり成功することができず、前年以前より崩れ気味だったWINGのラインナップを立ち直らせることは出来ず、むしろさらに深刻な落ち込みとなってしまいました。そして、この「イグナイト」の終了後まもなくして、WING自体も休刊してしまいます。まさに、この当時のWINGの運営方針の失敗を象徴するような作品となったと言えます。

 やはり、かつての「マビノ×スタイル」のような、ほのぼのした作品の方が、ひいろさんには合っていたのかもしれません。このシンプルで中性的な絵柄と優しい作風は、WING的な日常系ゆる萌えマンガの方が良かったのではないか。今回のような王道系バトルファンタジーでは、今ひとつ本来の持ち味が出ていなかったような気がします。かつての「マビノ×スタイル」がかなりの良作だっただけに、あのようなストーリーを目指した方が良かったのではないか、そしてその方がWINGという雑誌にとってもよかったのではないか・・・とふと考えてしまいました。


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