<逆転イッポン!>

2007・8・13

 「逆転イッポン!」は、月刊少年ギャグ王において「1999年3月号」から開始された連載で、「1999年4月号」で終了した連載です(・・・)。内容は、高校の女子柔道部を舞台にしたスポーツものですが、ギャグ、コメディの要素が非常に強く、ライト感覚で楽しめる作品となっていました。

 この作品が連載を開始した当時のギャグ王は、極度の不振が長らく続いており、そこから脱却しようとする試みも一部に見られるものの、全体的には奮わない状態でした。そんな状況を打破するために、1999年に入ってすぐに誌面全体を大きくリニューアルし、雑誌のデザインが完全に刷新され、タイトルロゴも「ギャグ王」から「GagOh!」へと変更されます。このリニューアル1号にあたるのが、1999年2月号です。もちろん内容面でも大幅なリニューアルが行われ、目玉となる新連載も大量に投入されます。この「逆転イッポン!」も、そんな新連載のひとつであり、リニューアル第2号から大々的な告知と共に連載が開始されました。

 しかし、なんと、こともあろうに、これがリニューアル3号目をもって、ギャグ王の休刊(廃刊)が決定してしまいます。そのため、この「逆転イッポン!」 も、わずか連載第2話目にして打ち切りとなり、なんとも強引な終わり方で無理矢理最終回となってしまいました。それ以外の新連載陣もことごとく終了となり、枕を並べて強引な最終回を迎えてしまいました。こんな悲惨な例はあまり見ることもないでしょう。

 作者は、岬下部せすな(みかべせすな)。エニックスでは、主にゲーム4コマやアンソロジーを執筆していた作家で、この作品こそが作者初のオリジナル連載となります。しかし、これがわずか2回で終了してしまった後は、再びオリジナルの連載を雑誌に掲載するような機会はなく、再びゲーム4コマ、アンソロジーでの執筆に留まる結果となりました。これは、非常に惜しいことだったと言えます。そして現在では、エニックスを離れ、芳文社のきらら系雑誌を中心に執筆するようになっています。


・ここに至るまでのギャグ王の経緯。
 さて、この当時のギャグ王の切羽詰った状況について、ここでもう一度詳細に説明しなければなりません。
 ギャグ王(月刊少年ギャグ王)は、1994年に創刊された雑誌ですが、当初はドラクエ4コマで活躍していた作家を中心にしたギャグマンガ雑誌として、かなりの低年齢向けの雑誌として創刊しました。しかし、実際には、コアなマニアに人気を誇るマンガも多く、当初の目論見とは裏腹に、かなりの高年齢層を中心読者とするコアな雑誌となります。中心読者は中学生から高校生、果ては大学生から社会人に至るまで幅広く、他のガンガン系雑誌と比べてもさほど読者層の違いは見られませんでした。ガンガンを買っていた読者が、そのままギャグ王を買っているような感じで、とりたてて低年齢層に特化した雑誌とはならなかったのです。

 そして、これはこれで充実したいい雑誌だったのですが、雑誌中期の1996年末期から1997年にかけて、大々的な路線の変更を行い、ひどく低年齢向けの誌面へと強引に方針を転換してしまいます。編集部に、当初の低年齢向け雑誌のコンセプトに対するこだわりがあったのか、このような雑誌こそが本来の「ギャグ王」だと考えたのか、それはよく分かりません。しかし、いずれにせよ、極端なまでの低年齢向け路線を敷いて、「ポケットモンスター」や「星のカービィ」などの小学生向けのゲームコミックも大量に採り入れました。

 しかし、これが大失敗だったのです。コアな人気を誇ったそれまでの人気連載はことごとく終了し、代わりに入った低年齢向けのマンガたちは、どれもこれも稚拙なものばかりで、ほとんどの読者がこの雑誌を見放してしまいます。それまでの読者はもちろん、想定されるべき小学生の読者にもまったく見向きもされず、雑誌の発行部数の落ち込みは傍目にも明らかで、完全な泡沫雑誌へと転落してしまいます。

 その後、一部にかつてのギャグ王連載に近い作品も見られるようになり、なんとか少しずつ誌面を立ち直らせる努力もありましたが、大勢では雑誌の落ち込みを回復することが出来ませんでした。そして、ついに最後の起死回生の手段として、前述のような大幅なリニューアルを行い、一気に雑誌の回復を試みたのです。
 その後の経緯は、上で記したとおりです。リニューアルわずか3号にしていきなりの休刊(廃刊)。これには、多くの読者が激しい衝撃を受け、その後もギャグ王の終わりを惜しむ声は後を絶たなくなります。なぜこんなに早い時期(リニューアルの結果が確認できないような早い時期)に廃刊されたのかは謎であり、一部の推測では、この時期のエニックスが一時的にかなりの経営不振に陥っており、そのために不良部署であったギャグ王をあっさり切り捨てたという説も聞かれました。


・とにかく絵がかわいいことが最大の魅力。
 さて、ギャグ王に関する説明はこのくらいにして、この無残にも2号で強制終了した「逆転イッポン!」の紹介に移ります。
 まず、作者の岬下部せすなさんですが、ゲームアンソロジーの時から絵が非常にかわいらしいことが印象的な作家で、もちろんこのマンガでもそのかわいい絵柄は健在でした。柔道というスポーツものとは思えないような、ライト感覚の中性的な可愛い絵柄で、それがギャグ王のイメージにも合っていました。

 とはいえ、作者の初期の頃の作品のため、最近の作品と比較すると絵が古いのが難点ですが、それでも今見てもこの絵のかわいさはかなりのものです。シンプルな絵でありながら、これほどストレートに萌える作家は多くありません。

 とりわけ、メインヒロインである柔道少女の藤沢岬さんが素晴らしいですね。他の女性キャラクターたちが、見た目的にも性格的にもかなり色モノ的な極端な設定になっているために、(比較的)素直な性格と容姿のこの少女に対する萌えが一身に集まります。それでいて、時には校長の弱みを握って露骨に脅しをかけるような某ひよのちんばりのお茶目なところも見逃せません(おい)。柔道の腕前もかなりのものがあり、制服でパンチラ全開で大男を投げ飛ばすシーンは、この作者にしては(あるいは当時のエニックスの作品にしては)かなり珍しいパンチラまであるということで、なぜかいまだに印象に残っています。もし、このマンガの連載が無事に続いていれば、相当な人気キャラクターになっていたと思うのですが・・・。



・スポーツものでありながら、楽しく笑えるドタバタコメディとしてポイントが高い。
 そして、内容、ストーリーも良く出来ていて、実に楽しい連載に仕上がっていました。岬下部せすな独特の、かわいい絵柄で微妙に黒い内容はこの当時から健在であり、男の主人公がとてつもなくひどい目に遭わされるという点で、昨今の連載とかなりの共通する部分があります。一応は柔道もの、スポーツものでもあるのですが、ギャグ王の連載らしくギャグ、コメディが全面に出ており、楽しく気軽に読むことができました。かわいい絵柄の萌え要素も加わって、一般的なスポーツものとは一線を画する出来であったと言えるでしょう。

 肝心のストーリーですが、いきなりカラーページで主人公の家が大爆発するシーンから始まります。大富豪の息子で勉強もスポーツも見た目も抜群な主人公・玉条新之助ですが、ある日突然父親の作った借金で無一文となり、家を放り出され、不幸のどん底に叩き落されてしまいます。その上学園の校長から退学まで言い渡され、追い出されようとした時に、ヒロインの藤沢岬によって辛くも救われ、彼女が所属する女子柔道部を団体戦で全国大会で優勝させることが出来れば、学校に残れるということになります。しかし、もしできなければ、学校のハト時計として一生を捧げるという約束を負わされ(笑)、そのためになんとしても柔道部を優勝させるべく、日々コーチとして奮闘することになります。しかし、当面の部員は3名しかおらず、まずは団体戦に必要な5名を集めることから始めることになってしまいます。


 というわけで、なにか「ハヤテのごとく!」と「BAMBOO BLADE」を足して2で割ったようなこのマンガ、当初からノリのいいギャグが冴え渡っており、不幸な目に遭いまくる主人公のリアクションも最高で、とにかく笑いに満ちたギャグマンガとして読めることが最大の魅力でした。ギャグ王の新連載としては十分な作品だったと言えます。
 その上、かわいい絵柄で描かれる女の子の萌え要素も非常にポイントが高かった。個性的すぎる柔道部員たちが繰り広げるドタバタ騒ぎがとても面白かったのです。女子柔道部という、あまりスポーツマンガでは見ないようなジャンルでしたが、このようなライト感覚のギャグ中心、萌え中心の作品ならば、十分に見映えのするもので、オリジナリティも高かったように思います。

 逆に、あまりにも早く終わりすぎたために、詳しい柔道の描写がほとんど見られなかったのは残念でした。このまま連載が続いていれば、そのあたりの要素も見られたかもしれなかったのですが、今となっては雑誌の廃刊を惜しむばかりです。


・というか、これは柔道版の「BAMBOO BLADE」ではないのか。
 しかし、先ほども触れましたが、このマンガは、今のヤングガンガンで大人気の「BAMBOO BLADE」を彷彿とさせるところがあります。女子剣道部(柔道部)を舞台にした設定、ライト感覚のギャグ・コメディ中心で進むライト感覚のストーリー、男の主人公がひどい目に遭わされるという点(笑)、キャラクターの萌え要素の高さなど、作品の方向性にかなり近いものを感じます。執筆時期が大幅に離れているので、この作品がのちに影響を与えたようなことはないと思うのですが、それにしても色々な点で似た要素が多数見られるのは興味深いところです。

 そして、もしこの時ギャグ王が廃刊されず、この「逆転イッポン!」の連載が続いていたならば、ひょっとすると「BAMBOO BLADE」のような人気を獲得できていたかもしれません。今の「BAMBOO BLADE」は、アニメ化されるほどの大人気を獲得していますが、さすがにそこまでの人気には至らなくとも、雑誌の中で中核的な位置を占める人気作品になっていた可能性は十分あります。それだけの面白さと独創性が、このマンガにはあったように思います。

 また、それとは別の話として、「BAMBOO BLADE」の方の作画担当者の五十嵐あぐりさんは、かつてギャグ王で連載を行っており(当時のペンネームは「曾我あきお」)、そんな作家が長い間活躍の場に恵まれなかったのちに、この「BAMBOO BLADE」で一躍成功したのをも見るのも、また感慨深いものがあります。ギャグ王は、最終的にはついに廃刊に追い込まれ、この「逆転イッポン!」も強制的に打ち切りになってしまうのですが、そのマンガと似たコンセプトを持つ作品が、かつてのギャグ王作家の手によって執筆され、しかも大人気を獲得しているというのは、かつてのギャグ王を知るものとしては、大変に嬉しい結果であると言えるでしょう。


・これが岬下部せすなの真のオリジナル初連載だ!
 このように、ギャグ王末期の作品でありながら、かなりの面白さを持っていたこのマンガだったのですが、掲載誌の廃刊によりわずか2話というとんでもない短さで打ち切りとなり、ラストもとってつけたような失笑ものの終わり方となってしまい、これはあまりにも理不尽であったと言わざるを得ませんでした。

 しかも、このギャグ王が廃刊したことで、作者の岬下部さんの連載の場がなくなってしまい、以後のエニックスの雑誌では二度と連載することはなくなってしまい、最後までゲーム4コマ、アンソロジーの執筆にとどまってしまったのも、あまりにも残念な結果でした。個人的には、他の雑誌でも是非連載させてもよい作家だと思ったのですが、結局それが適うことはありませんでした。実は、このギャグの廃刊に伴い、彼女以外でも活躍の場を完全に失ってしまった作家はたくさんおり、中にはエニックスを離れる作家も散見されました。これは、あまりにも理不尽で悲惨な出来事でした。岬下部さんも、最終的にはエニックスを去り、芳文社のきらら系4コマ雑誌で活躍するようになりますが、エニックスにとっては、ここでもまた貴重な作家を逃してしまったと言えるでしょう。

 芳文社移籍以降の岬下部さんは、オリジナルの連載を何本も手がけることになりますが、ほぼすべてが4コママンガであり、このギャグ王連載のようなストーリーマンガでのオリジナル連載となると、2006年からの連載開始作品である「S線上のテナ」を待たなければなりません。

 しかし、この「逆転イッポン!」の存在もまた、決して忘れるべきではないと考えます。最近の作者の経緯だけを見ると、芳文社での作品が作者初のオリジナル連載であるように思ってしまいますが、実はかつて、はるか昔のギャグ王で、雑誌廃刊でたった2話で強制打ち切りという憂き目に遭ったこの「逆転イッポン!」こそが、作者初のオリジナル連載なのです。しかも、「ハヤテのごとく!」を思わせるような過激な不幸主人公いじられギャグや、主人公の家大爆発で始まる謎のオープニング、かわいい絵柄でパンチラまである萌え要素の強さ、わずか2話にして強引に打ち切らされた不自然極まりないラストなど、内容的にもまさに岬下部せすなの黒歴史と言えるこのマンガ、作者のマンガ史に残る快作(怪作)として、永久に伝えるべき作品ではないかと思われます(笑)。


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