<ジン 〜アニメ『精霊の守り人』外伝〜>

2008・10・11

 「ジン 〜アニメ『精霊の守り人』外伝〜」は、ヤングガンガンで2007年9号から17号まで掲載された連載作品で、タイトルどおり、あのファンタジー小説でアニメ化作品「精霊の守り人」の外伝作品に当たります。最初から8回の短期連載と決まっており、それは第1話の連載開始時にも明記されており、予定通り8回の掲載を経て無事に終了することとなりました。

 作者は、作画担当に麻生我等、脚本に中江美紀の名前が挙がっていますが、彼らは二人ともNHKで放映されたアニメ版「精霊の守り人」のスタッフであり、特に作画の麻生さんの方は、キャラクターデザインを担当された方のようで、新連載時にもそのことが大々的に打ち出されました。

 スクウェア・エニックスでは、このアニメ版「精霊の守り人」との連動企画が盛んで、少年ガンガンの方では、藤原カムイの手によりコミック化され、1年ほどに渡って連載されました。そして、このヤングガンガンの方でも、コミック化などの企画は長らくなかったものの、カラーページでの紹介記事はかなり力が入っていて、コミック版が連載されていた少年ガンガンよりも、むしろこちらの方が多いくらいでした。なぜ、ヤングガンガンの方が、そこまで「精霊の守り人」に力を入れているのか、当時から少々不思議に思っていましたが、アニメや原作がそもそも大人向けの要素が強い作品なので、青年誌の方が紹介するにふさわしいとの考えがあったのかもしれません。

 そして、ガンガンでのコミック化連載が、もう終盤に差し掛かったあたりになって、ついにヤングガンガンの方でもこの作品が掲載されます。しかも、アニメ版のスタッフの手によるオリジナルストーリー。元々、アニメ作品自体、原作にはないオリジナルのエピソードがかなり多いのですが、このヤングガンガンでの連載も、その一環に当たるものなのかもしれません。アニメ版のスタッフは、この作品に少なからぬ思い入れを抱いているようで、それはこの外伝作品の掲載にもよく表れています。


・突然「狩人」にされたジンの過酷な日々を描く。
 この物語は、原作では「狩人」と呼ばれる皇帝直属の暗殺者部隊の一人「ジン」の少年期を描く、いわゆるスピンオフと言える作品となっています。 原作(この場合、アニメ版も含みます)では、狩人たちは、主人公である短槍遣い・バルサと激しい闘いを繰り広げる重要な敵役で、その個性的な面々には主人公同様に高い人気が集まりました。中でも、この「ジン」は、リーダーである「モン」に次ぐ実力者で、その整った顔立ちから特に人気が高く、そんな彼がこの作品で主役に選ばれたのもよく分かります。

 少年期のジンは、最初から狩人として養成されていたわけではなく、その弟(末弟)のトウジの方が、次期の狩人として密かに厳しすぎる訓練を受けていました。トウジは、そのことで時折疲れたような顔をも見せるのですが、ジンはまったくその理由に気づかず、弟として素直に大切に思う一方、自分の幼馴染で許婚だったマユナとの関係から、彼女とよく仲良くしているトウジには嫉妬に近い微妙な感情をも抱いていました。
 しかし、ある日トウジは突然の病で倒れ、そのまま帰らぬ人となります。そのことに激しいショックを受けたジンですが、さらに追い討ちをかけるかのように、彼が実は狩人候補で日々激しい訓練を受けていたこと、そして彼がいなくなった今、今度は自分が候補となって激しい訓練を受ける身であることを知らされます。ジンに対して屈託なく日々笑顔を向けていたトウジが、実はそんな苦労を追っていたことを知り、何も知らなかった自分に激しい自責の念を向け、苦しみます。

 そして、その後に待ち受けていた訓練は、かつてのトウジが受けたもの同様に過酷なものでした。しかも、遅れて訓練を始めたわけで、もう狩人の後継者となるまでの時間も少なく、訓練はさらに過酷なものになります。加えて、同じく狩人「ヒョク」の候補者で、トウジと仲が良かったらしいスヨウが、執拗にジンをライバル視してことあるごとに彼に挑んでくるようになります。この時点では、長らく訓練を受けていたスヨウに敵うべくもなく、さらに自分の未熟さを痛感することにもなります。


・宮廷内の陰謀に巻き込まれる。
 そんなジンが過酷な日々を送る一方で、その許婚であるマユナは、皇帝に仕える一貴族に使えることになり、そこで期せずして陰謀に巻き込まれることになります。そこの主人は、自分の娘を皇帝の妃にしようと様々な画策を企て、妹を通じてライバルとなる他の貴族家に圧力を加えようとします。しかし、ある時、マユナがお使いに出た際、ジンとの出会いであるアクシデントが起き、図らずも陰謀の一端が露見してしまいます。

 このあたりのくだりは、最近の韓流歴史ドラマあたりでよく見られる構図とも思え、実際にこのマンガのイメージもよく似ているような気がします。この物語自体はややありきたりとも思えますが、それに自分の近しいものであるマユナが巻き込まれ、主人公たちが苦闘することになるという展開は中々惹かれるものがあります。狩人との関係もこの時に語られ、貴族間での陰謀をある程度察知しながら、根拠不十分でうかつに動くことが出来ずに、結果として悲劇を招いてしまうあたりは、屈強の狩人ですら万能ではないこともよく示しています。

 その後のマユナは、陰謀の一端を見てしまったものとして、車に乗せられ人気のないところに連れて行かれ、密かに殺されようとします。が、ジンとスヨウの報告で狩人の手にそれが知れ、最後には狩人たちとともに救出に向かい、暗殺者たちをほとんど制圧することに成功します。しかし、最後の最後でマユナは刺されてしまい、そのままジンの手の中で息絶えてしまいます。

 ジンはこれで再び激しいショックを受けますが、厳しい訓練で鍛えた暗殺術を手に、今では信頼できる仲間となったスヨウと共に、狩人に任命される前の最後の自由として、陰謀の首謀者である貴族の主人を倒すべく、覚悟を決めて屋敷に乗り込みます。激闘の末に、権力のみを欲するおろかな主人を倒したジンは、その後晴れて狩人の一員となり、亡くなったマユナを思いつつ、日々狩人の任務へと奔走する身となっていきます・・・。この最後は、ジンの少年期からの過酷な出来事と、その後の狩人になってからのこれまた過酷な日々と、その双方をつなげる優れたエンディングになっていたと思います。


・最初はやや不安だったが、全体的にはうまくまとまった作画レベル。
 そして、絵の雰囲気、迫力もこのマンガの完成度を高めています。
 アニメの仕事が本職の人が作画を担当するということで、最初のうちはマンガとしての出来にかなり不安な予想も抱いてしました。そして、実際に連載の最初の頃は、いまひとつ仕上がりが粗雑に感じられる作画が見られ、やや覚束なさを感じたのも事実で、その不安さが露呈してしまったようにも感じました。

 しかし、しばらくのちの回には、早くも作画ペースに慣れてきたようで、安定した作画が常時見られるようになりました。彼の作画は、はっきりした迫力のある太めの描線と、それとは対照的なにじみでるような雰囲気の作画が印象的で、どちらも作品の重厚な世界観をよく表していると思います。アニメ版のキャラクターデザインを担当していることもあって、キャラクターのイメージなどはまさに原作どおりで、その点でもまったく申し分ありませんでした。主人公のジンやライバルのスヨウ、ヒロインのマユナなどは、比較的低年齢の少年読者にも受け入れやすい、分かりやすい造形も感じられ、魅力的な顔立ちに仕上がっていると思います。

 アクションシーンの動きのある作画も、迫力面で大いに貢献しており、特に連載第1話冒頭のカラーページ、大人の狩人になったジンとヒョクが、馬で逃げる武人を追い詰めるシーンは、そのスピード感が素晴らしく、こういった作画レベルはさすがに現役のアニメ制作者ならではのものがあると思いました。その上で、コマ割やふきだしなどのマンガ独特の表現も、全体を通して卒なくこなしており、一個のマンガ作品として申し分のない出来に仕上がっていました。当初こそやや不安な立ち上がりも見られましたが、総じて見ればまったく問題ない作画だったと思います。


・制作者の原作に対する愛が感じられる一作。
 以上のように、この「ジン外伝」、全8話でコミックス1巻で完結する短期連載ではあったものの、内容的にも作画的にも高クオリティを有する作品で、秀作に仕上がっていたと思います。スピンオフ元の「精霊の守り人」自体、通好みの作品であまり目立った人気がなく、このマンガもかなり渋めの厳しい内容であることから、さすがに大きな人気が出るようなマンガではありませんでしたが、それでもこのようなしっかりした連載が見られたのは、中々の成果だったように思います。今のヤングガンガンでは、このように売れ線でない、意外な作品でも面白い作品が多いのが、大きな魅力のひとつだと思いますし、アニメ化するような人気作品だけでなく、こういった地味ながら面白い作品にも目を留める読者が増えてくれればいいなと思います。

 それと同時に、アニメ「精霊の守り人」のスピンオフ作品としても、中々に興味深いものがあると思います。このマンガを手がけているアニメ版スタッフの、原作に対する強烈な思い入れ、愛のようなものを感じるのです。アニメ版そのものも、原作小説にはないオリジナルのエピソードが非常に多いのですが、この作品もそれに連なるものと言えますし、アニメのみならずマンガにおいても、制作者のこの作品に対する意気込みを感じることが出来たと思います。

 ただ、このガンガン系においての「精霊の守り人」の企画は、ガンガンでの藤原カムイの連載もそうなのですが、総じてマイナーなものに留まっているのは残念です。原作自体も通好みの作品であることは、先ほど書いたとおりですが、これらスクエニでのコミック化作品は、原作以上に日の当たらない扱いに終始しており、原作やアニメのファンの間でさえ、あまり大きく知られていないようなのです。藤原カムイのマンガでさえそのような扱いで、ましてこの「ジン」などは、それ以上に誰も知らないのではと思えるほどのマイナーな扱いになってしまいました。コミックスの扱いも小さく、コミックスが出たこと自体、ほとんどの人が知らないのではないかとも思えます。これは、ガンガンやヤングガンガンの方向性との関係もあるのでしょうし、この「精霊の守り人」自体、本来ならもっと通好みのマンガ読みに読まれる雑誌での連載が適切かもしれませんが、それにしてももう少し注目を集める方法があればと悔やまれます。


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