<解錠ジャンキー・ロック>

2006・10・28

 「解錠ジャンキー・ロック」は、ヤングガンガンで2006年初頭から2007年中期まで連載された、一話完結形式の連載マンガです。雑誌自体は隔週刊行ですが、これは月1回のペースでの連載が行われました。
 作者は山田秋太郎。彼は、すでにベテランの領域に入る作家ですが、ここ最近はまとまった連載作品を残しておらず、この「解錠ジャンキーロック」が久々の連載となりました。とはいえ、今回の作品は、全体を通して卒なくまとまっています。

 内容的には、主人公の「鍵師」である日輪錠九(ひわじょうく)という男が、依頼に応えて開錠困難な扉や金庫を次々と開けていくというもので、主人公のヒーロー的な活躍が楽しめる「少年マンガ」的なテイストが強いマンガです。掲載誌のヤングガンガンは青年誌であり、話の内容にもある程度青年誌的なモチーフ(暴力や性)を扱ったところも見られますが、それ以上に爽快感を重視した少年マンガ的な作りが全面に出ています。マニア向けの作品が多いヤングガンガンの中でも、広く一般読者にも受け入れやすい方向性を取っていると言えます。

 ただ、その一方で、これといって突出した部分がなく、平凡な印象しか残らないところもあります。最近では珍しい一話完結形式のマンガですが、続き物のストーリーを期待する読者には物足りないところもあり、かつ毎回の話がシリアスからギャグへとかなり方向性が異なったり、肝心の鍵を扱う描写がまちまちだったりと、少々ふらつきが見られるのが不安要因かもしれません。


・山田秋太郎と言えば・・・。
 この、山田秋太郎という作家は、かれこれ10年近く商業誌で活動しており、すでにベテランの作家とも言えます。様々な作品を残していますが、比較的原作持ちの作品が多く、中でもアニメ脚本家の倉田英之と組んだ作品がよく見られます。
 有名なところでは、あのTVアニメでかなりの人気を呼んだ「R・O・D」のコミック版(ウルトラジャンプで連載)があります。こちらは、アニメ版のヒットのおかげで、コミック版の方もかなりの知名度があり、山田秋太郎の作品の中でも、最も有名なマンガではないかと思われます。その後、今度は意外にも少年誌のチャンピオンに場を移し、「サムライジ」という少年マンガも手がけていたようです。

 一方で、山田秋太郎単体での作品としては、ヤングキングアワーズで連載した「LOAN WOLF」というマンガがあります。ヤングキングアワーズでは、平野耕太の「Hellsing」という作品が有名ですが、山田秋太郎は、その平野耕太の同人での相方でもありました。作風で似ているところもあり、そのあたりでアワーズの連載に抜擢されたと思われます。

 しかし、上記のマンガはどれもさほどの話題にはならず、最後の連載だった「サムライジ」からやや間をおいて、この「解錠ジャンキー・ロック」をヤングガンガンで連載開始します。過去の経歴からして、正直スクエニ系での連載は意外な作家でもあり、ヤングガンガンの読者の間でも、さほど知られていない存在だと思われます。なぜ、ヤングガンガンの編集部が彼を招いたのかは謎ですが、果たして肝心の連載内容はどうだったのでしょうか。


・熱い鍵開けのテンションは中々。
 過去にも、このような解錠を扱ったマンガは少し見られたようですが、それでも中々に珍しい設定であることは確かで、目の付け所はよいかもしれません。主人公の鍵師である 日輪錠九は、解錠困難な鍵を開けることに異様な快感を示し、夢中になって目の前の鍵開けに没頭します。その、自らの使命のみに賭ける熱い姿には、確かに少年マンガ的な、あるいはヒーローもの独特の爽快感があります。これがこのマンガ最大の見所であると言えるでしょう。

 小さな小道具ひとつで小さな鍵穴に挑戦する姿は、描かれ方によっては少々スケールが小さくなってしまう可能性もありますが、山田秋太郎の丁寧な作画で、細かいところまで割りと几帳面に描かれている上に、一方でそのような繊細な描写からは解放された、大ゴマではったりをきって威勢良く解錠するシーンもあり、バランスよく魅力的に描かれていると思います。

 ただ、連載がしばらく経ってからの話では、解錠のシーンが適当に省略され、あまり描かれていないエピソードが目立ちます。このあたりは爽快感に欠け、少々不満ですね。「爽快に鍵をバラす」という、読者に最大のカタルシスを与えるシーンなのですから、ここだけは毎回丁寧に描いてほしいと思うのですが・・・。


・祖父である日輪錠弾との対決がストーリーの肝。
 さらには、連載の3話・4話の前後編で語られた、自らの祖父で既に死去した天才鍵師・日輪錠弾との「解錠対決」が、ストーリー上でも最も盛り上がる鍵開けシーンでした。
 圧倒的な技術を持つ天才鍵師が作りだした、絶対に解錠は不可能と言われる錠「日輪錠」に、孫の解錠師が全力をもって挑みかかる。「超えるべき存在(師匠)を超える」というのは、ヒーローものでは定番中の定番のストーリーとも言えますが、それでもこの日輪錠弾という独善的なキャラクターの存在は魅力的で、その圧倒的な存在感の前に気おされながらも対抗する主人公の姿には、かなり惹かれるものがあります。これこそがストーリーの肝だと言えるでしょう。

 ただ、欲を言えば、「日輪錠」の解錠シーンは、もっともっと長く引っ張ってもよかったと思います。「108の解錠手順がある」という設定の割には、主人公が瞬く間にすべてを解錠してしまい、あっさりしすぎて盛り上がりに欠けます。もっとページ数をとって、できれば複数話にわたる続き物のストーリーにしてもよいから、押し寄せる難解な錠をひとつひとつ丹念に解き明かしていくストーリーにすれば、もっと盛り上がったのではないでしょうか。
 今後の連載でも、おそらくはまた日輪錠が主人公の前に立ちはだかると予想されますが、その時はもっと本格的に、あらゆる解錠テクニックをひとつひとつ見せるような形で、大いに盛り上げてほしいものです。


・いまいち散漫で盛り上がりに欠ける印象は否定できない。
 以上のように、鍵開けシーンを中心に熱い描写はかなり見られ、「超えるべき祖父との対決」という最高に盛り上がる設定まで用意されているにもかかわらず、作品全体を通してみれば、少々散漫で盛り上がりに欠ける内容に収まっている点も否定できません。

こういった鍵の薀蓄がもっと欲しかった。  まず、一話完結形式の連載スタイルが、実は最大の不安定要因です。これが即悪いというわけではありませんが、しかし、連続したストーリーで読者を引っ張る力にはあまりにも欠けています。一話完結の連載形式にするからには、毎回毎回の話をそれだけで読ませるほどの話作りのうまさが求められますが、このマンガは、よく言えば王道ヒーローものの作りで、そこまで凝った話ではないのが残念なところです。はっきりいって、このような少年マンガ的な作風ならば、素直に続き物のストーリーにした方が良かったようにも思えます。

 毎回の話が、シリアスなものからあまりにギャグに偏重したものまで、かなりばらつきが激しいのも難点で、これが散漫な印象を与えています。基本的にはシリアスな話なのですが、たまに気の抜けたようなエピソードもあり、例えば第6話で見られた、セックスをするために貞操帯の鍵を開ける仕事などは、設定的にもバカバカしく、ラストのオチも思いっきりギャグで終わるもので、あまりの脱力ぶりに呆れてしまいました。
 それと、鍵をモチーフにしたマンガということで、鍵や錠の知識、薀蓄を扱った描写があるのはよいのですが、それが実はかなり中途半端で、不定期にしか見られないのも残念です。もっと本格的に鍵の薀蓄を、毎回毎回ページを割いてみせてくれれば、大いに印象も変わったでしょう。

 これらの要因に加えて、前述のように、肝心の解錠シーンが省略されたり、特に最大に盛り上がるシーンである日輪錠の解錠シーンもあっさりと終わってしまったりと、そのあたりでも散漫な印象は否めません。全体的に見れば無難にまとまっているものの、個々の部分で読者を引きつける力が弱いと感じるのです。


・決して悪い作品ではなかった。しかし・・・。
 単行本の後書きによれば、作者の山田さんは一話完結形式を好んでいるようで、毎回ゼロからアイデアを模索することに、苦労しつつも楽しみを見出す作家のようです。そのような作家の姿勢、努力は十分に評価したいと思いますが、実際の内容は力不足のように思えます。

 作者のポリシーには反するかもしれませんが、単純に続き物のストーリーで読者を引っ張っていった方が良かったのではないでしょうか。特に、主人公の最大の敵とも言える、日輪錠弾との対決を全面に押し出したストーリーにすれば、かなりの盛り上がりも見せたはずです。
 あるいは、一話完結のストーリーでも、毎回シリアスなストーリーできっちりと解錠シーンも見せる演出で固める、あるいは、鍵や錠の薀蓄をより本格的に投入する、などの方向性で行けば、かなり締まった連載になったとも考えられます。今のような、シリアスとギャグの入り混じった散漫なエピソード作りや、肝心の解錠シーンや鍵の薀蓄がそれなりの描写、分量で済まされている状態では、読者を引きつけるのは難しいでしょう。

 個人的には、このような少年誌的な熱いストーリーのマンガは好きですし、解錠という珍しい設定を扱ったオリジナリティも評価しています。決して悪い作品ではないでしょう。しかし、このクオリティでは、正直多くの読者を引きつけるには弱かったな、という気もします。実際、コミックス2巻というかなり短い連載で終了してしまいましたし、連載中も話題になることはほとんどありませんでした。ヤングガンガンの中でも平凡な連載の一角にとどまったままで終了したと言えるでしょう。作者の努力が認められる内容だけに、これは少々残念な結果だったと思います。


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