<清村くんと杉小路くんと(よ)(ろ)>

2001・11・8
全面的に改訂2012・4・4

 「清村くんと杉小路くんと」は、少年ガンガンで2000年9月号から開始された連載で、2002年1月号まで連載されました。ガンガンでの連載は比較的短いものでしたが、直後にガンガンパワードで続編と言える「清村くんと杉小路くんよ」の連載が開始され、2002年秋季号から2005年夏季号まで続きました。それで完全に終わったかと思いましたが、2008年になってガンガンで突如として復活、「清村くんと杉小路くんろ」として現在まで連載が続いています。今では、この「清村くんと杉小路くんろ」がシリーズでも最長の連載になっています。

 作者は、土塚理弘(とつかまさひろ)。のちに「マテリアル・パズル」や「BAMBOO BLADE」で知られる作家ですが、これが初めての連載作品でした。元々は、第8回エニックス21世紀マンガ大賞で準大賞を受賞した読み切りが原点となっており、その時のタイトルは、「清村くんと杉小路くん」。これは、少年ギャグ王の1999年2月号に掲載されており、この時からすぐに連載化する予定はあったようです。しかし、掲載先のギャグ王が直後に休刊となり、掲載場所を失ってしまったため、それは適いませんでした。結局、約1年後にガンガンの方でようやく連載が決まったようです。

 作品の内容ですが、とりごや高校なるサッカー部に所属する「清村くん」と「杉小路くん」の2人を中心とした、極めて破天荒なネタに満ちたギャグマンガとなっています。清村は、中学時代はサッカー部の全国レベルの実力を持っていたものの、監督と揉めて長くサッカーから離れていました。そんな彼が、杉小路に誘われてサッカー部に入ってサッカーへの情熱を取り戻す・・・という話かと思いきや、肝心の部員は5人しかおらず、まともなサッカーをやる話はほとんどなく、実際には杉小路が清村を度を越えていじりまくるネタが、ギャグの中心となっています。その過激な展開とオチの爆笑度から大きな人気を博し、ガンガンを代表するギャグマンガとなっています。

 最近では、特に「清村くんと杉小路くんろ」以降は、さらに破天荒なネタが増え、作者が身の上話を語ったり、他の土塚作品のキャラクターや設定が登場したり、あらすじを延々と語って本編がわずか2ページだったり、清村が自分の好きなスイーツへの異様なこだわりを見せたりと、極めてフリーダムな作風となっています。


・長編ファンタジーを描きたかった作者のデビュー作。
 土塚さんは、まず何よりも、ガンガンで2002年以来続く長編ファンタジー少年マンガ「マテリアル・パズル」が代表作だと思いますが、最初の連載であるこの「清杉」は、それとは全く異なるシュールなギャグマンガでした。なぜ、同一の作者で、こんなに作風が異なるのでしょうか?

 本人が雑誌やコミックスなどで書いた逸話によれば、どうも土塚さんは、最初から「マテリアル・パズル」のような大長編ファンタジーを描きたかったようです。しかし、そのような大長編作品は、マンガ賞に投稿することが出来ません。そこで、ページ数の限られたマンガ賞への投稿作として、このようなギャグマンガを代わりに用意したようです。

 そういうわけで、土塚さんが「最も描きたかったマンガ」とはまた異なるマンガではあるのですが、しかしだからといってこの「清杉」が、手を抜いているとか決してそんなことはありません。むしろ、作者のギャグセンスが存分に生きていて、新人の描くギャグマンガとしては十分すぎる面白さと、破天荒すぎる個性を持っていました。ギャグ王の読み切りの時から強烈な異彩を放っていましたし、それがガンガンで連載することになってひどくうれしかった記憶があります。

 また、「清杉」が開始された当時のガンガンは、のちのお家騒動へと続く路線変更の真っ最中で、混乱の中打ち出されたマンガの多くは、総じてクオリティが低く成功はしませんでした。しかし、この「清杉」は、例外的に1年前のマンガ賞から連載の準備が進められていただけあって、確かな面白さを持つ数少ない作品のひとつとなっていました。そのため、お家騒動を超えて、タイトルを少しずつ変えつつ続いていく、息の長いロングヒット作品となったのです。


・清村のいじられ方がすごい。すべてがオチに向かって収斂する爆発力にも注目。
 さて、肝心のギャグの内容ですが、基本的に清村が突っ込み役となり、杉小路を始めとする部員たちの非常識な行動に怒りを露にしていく展開が、その多くを占めています。そして、小悪魔的な言動を取る杉小路が、ことあるごとに清村をいじりまくり、車でひきまくったり高いところから転落させたり、常人なら確実に死ぬような過激な攻撃を繰り返す展開が、このマンガ最大の定番となっています。そんなことを繰り返すうちに、いつしか清村も常人を超える耐久力を持つ超人へと進化してしまいました。
 清村が、強面の性格ながらスイーツが好きで、ことあるごとに菓子屋から好きなスイーツを買ってきて食べようとする展開も、ひとつのパターン。この場合も、杉小路に邪魔されて無残にもスイーツが破壊され、食べられなくなるといういじり展開も、ひとつの定番です。

 清村と杉小路以外では、安井というキャラクターも面白い。こちらも、清村と同等に肉体的ダメージを受けるボケを担当しており、そのとぼけた坊主頭でどこか抜けた言動で、ひときわ笑いを誘う存在となっています。

 そして、このようなギャグが、オチに向かってひたすらテンションを上げていき、最後のページのオチで大爆発するという、その爆発力がこのマンガ最大の特徴ともなっています。オチ以外にまったくギャグらしいギャグがなく、すべてがオチに向かって収斂していく一発ネタなパターンも珍しくありません。そんなオチの爆笑度ならば、数あるギャグマンガの中でもトップクラスでしょう。ツボにはまった場合、数分間くらい平気で笑い続けるだけの力があります。過激ないじり展開や、一発ネタを毎回のように連発する作風から、ギャグが外れた時のハズレ感も半端ないのですが(笑)、逆に一旦ギャグがツボにはまった場合、どこまでも爆笑できるマンガになっていると思います。


・まさかの復活でさらにフリーダムに!
 そんな爆笑ギャグをのっけから連発していたこのマンガですが、最初の連載はわずか1年足らずで終了します。かねてから作者が描きたかった長編ファンタジーである「マテリアル・パズル」の連載を行うことが決まり、それに合わせてこちらの連載は終了することになったのです。しかし、ここで終わらせるのももったいないと思ったのか、掲載誌を季刊誌のガンガンパワードへと変えて、ほんの少しだけタイトルを変えて(「清村くんと杉小路くんよ」)続編が開始されます。続編とはいえほとんど内容は同じで、こちらは季刊でマイペースで連載が進んでいたのですが、しかしこれも2005年には終了。この当時、今度はヤングガンガンの方で、土塚さんが原作を担当する「BAMBOO BLADE」が始まり、こちらの連載が忙しくなったためではないかと思われます。

 こうして、土塚さんのほかの連載が堅調に始まっていく中、この「清杉」はもう役目を終えたのかと思っていたのですが、これが2008年というかなり遅い時期になって、突如としてガンガンで復活します(「清村くんと杉小路くんろ」)。作者が本当に描きたかったという長編ファンタジーを長く続けてきて、もう清杉を描くこともないだろうと思っていたので、これにはかなり驚いた記憶があります。土塚さんのこのマンガに対する思い入れは、相当なものがあったと言うことでしょうか。

 こうして復活した「清村くんと杉小路くんろ」ですが、これまで以上に遊び心に満ちていて、破天荒に過ぎるネタがさらにたくさん見られるようになっています。清村が自分の好きなスイーツへのこだわりを延々と主張しまくるとか、そのようなネタはまだまともな方で、しまいにはもはやまともな設定からも逸脱し、作者が自分のマンガ家デビュー後の身の上話を延々と語りまくったり、「BAMBOO BLADE」の劇中劇である「バトルヒーローシリーズ」の企画会議を延々と進めたり、作者が全力でふざけているネタが盛んに登場するようになりました。連載デビュー当時の緊張感から解放され、好きに描きたいことを描きまくる、完全にフリーダムな内容になったと言えるでしょう(笑)。


・他の土塚作品との絡みも見逃せない?
 今も少し書きましたが、この「清杉ろ」では、他の土塚作品と絡んで、例えば清杉のキャラクターが他の作品に登場したり、逆に他の作品のキャラクターが清杉に登場したり、そのようなコラボレーションが積極的に見られます。このあたり、土塚ファンならばより楽しめる作品となっています。

 清杉のキャラクターが他の作品に登場する例としては、まず「マテリアル・パズル」のキャラクターのゲスト出演があります。そちらでは敵側の組織に属する「女神の三十指」のひとりであるダークアイ・Qあたりがその代表でしょう。他にもいくつかの三十指が姿を変えて登場したことがあります。また、キャラクターが作中で着ているシャツの文字が、ほとんど「マテリアル・パズル」の用語になっているのも、知っている人ならばにやりと笑ってしまうところです。
 さらには、「BAMBOO BLADE」のキャラクターが登場したこともあります。こちらの方がより世界観に深く関わっていて、「BAMBOO BLADE」の舞台である室江高校は、清杉のとりごや高校と同一の世界にあるようで、交流なども行われているようです。さらには、先ほど書いたとおり、「BAMBOO BLADE」の劇中劇である「バトルヒーローシリーズ」の企画会議を丸々1話使って行うという、大々的なお遊びの回があり、しかも「この続きは『BAMBOO BLADE』でやる」と作者が明言、ほんとうにそっちでやってしまいました(笑)。

 逆に、清杉のキャラクターが他の作品に登場する例としては、アニメ版の「BAMBOO BLADE」があります。アニメのスタッフも遊び心に満ちていて、この清杉を積極的に採用、第16話にて清村と杉小路が本当に登場し、次回予告までやってしまいました。元々土塚ファンやガンガン読者には人気の高い清杉のキャラクターだけに、これは当時大きな話題となりました。


・これからもマイペースで自由に続けてほしい連載。土塚理弘の原点にしてガンガンを代表するギャグマンガの一角。
 とこのように、この「清村くんと杉小路くんと(よ)(ろ)」、土塚理弘のデビュー作にして、彼の原点であるギャグマンガであり、しかも今でも続編が続いている息の長い連載でもあります。今現在、ガンガンで「マテリアル・パズル」が休載中のため、こちらの方がむしろ彼のガンガンでの主要連載ともなっています。元々は投稿作品のために描いたというマンガでありながら、まさかこれが10年以上経った今でも連載しているとは、当時は誰一人夢にも思わなかったでしょう。

 ガンガンは、昔から「ギャグマンガが面白い」というのがひとつの定番でした。黎明期のガンガンなら「南国少年パプワくん」や「突撃!パッパラ隊」という名作が存在しますし、90年代の後半には「ジャングルはいつもハレのちグゥ」というこれまた傑作があります。そんなガンガンにおいて、この「清村くんと杉小路くんと(よ)(ろ)」もまた、彼らを受け継ぐ、雑誌を代表するギャグマンガだと言えるのではないでしょうか。とりわけ、お家騒動後のガンガンは、以前ほど名作・傑作たるギャグマンガが少なくなっていると感じますし、この「清杉」が、数少ない良作ギャグマンガのひとつとなっていると思います。

 そして今では、他に連載をいろいろと抱える土塚さんにとって、一種の「息抜き」のようなマンガにもなっていると感じます。ここでは本当に自分の好き放題にやっている(笑)。まさにフリーダムの極致のようなマンガで、ある種ガンガンにとっても治外法権的な場所ではないかと。このマンガが、例えば「BAMBOO BLADE」のようにアニメ化するようなことはまずないと思いますが(もし実現したらとんでもない怪作になりそうです)、これからもガンガンの一角でその破天荒かつ自由なギャグを見せてほしいものです。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります