<小松くん日和>

2010・3・16

 「小松くん日和」は、ガンガンパワードで2007年No.6から始まった連載で、休刊となる2009年4月号まで続き、その後ウェブ雑誌であるガンガンONLINEへと移籍、こちらでは2009年10月まで掲載されて無事終了しました。全部合わせて15話ほど描かれ、コミックスではこれに描き下ろしが加わって全1巻で完結しています。毎回のページ数が少ない、雑誌の片隅で連載されるような小規模の作品でしたが、それでも無事コミックスの発売まで漕ぎ着けたのは、大きな僥倖だったと言えるでしょう。

 作者は椿あす。かつて、同じガンガンパワード誌上で、アニメ化もされた「これが私の御主人様」の作画を担当していた作家です。この作品は、原作を椿あすの夫であるまっつーが手がけており、夫婦での合作という独特のスタイルのマンガとなっていました。しかし、その後、椿あすが単独でも漫画を描くようになり、この「小松くん日和」もその一つに入ります。

 その内容は、「小松くん」という、作者自身が飼っていたフェレットとの楽しい交流の毎日を描いたマンガとなっており、いわゆる実話系のペットマンガと言えます。スクエニでは、ペットを題材とした人気マンガとして、ガンガンWINGの人気連載だった「ちょこっとヒメ」があります。こちらの方も、ペットたちとの楽しい交流を描いた作品として、双方には共通点があります。ただ、「ちょこっとヒメ」の方は、ペットのネコやイヌを人間の姿として描き、キャラクターたちも架空の人物であるなど、あくまでフィクションの物語となっているのに対して、この「小松くん日和」は、作者自身がマンガに登場し、実際に飼っていたフェレットとの交流を描いた、リアリティのある一種の「エッセイマンガ」となっています。フェレットの描き方には、作者の想像も少し入っていると思いますが、それ以上に、リアルなフェレットの生態と実際に体験した楽しい毎日をきめ細かく描いており、感心させられることもしばしばです。

 連載の途中でその小松くんが死んでしまうという悲しい出来事に見舞われましたが、その後もかつての思い出を語るという形で連載は続き、あるいは作者が以前飼っていたハムスターや、小松くんと同時に飼っていた「てんき」という名前のグレートデン犬の話も一部に含まれており、作者のペットへの尽きない愛着を感じるほほえましい作品になっています。コミックス表紙のイラストも、作者と小松くんとてんきが、のんびりと一緒に寝ている穏やかなシーンとなっています。


・「御主人様」以降の椿あすの変遷。
 かつて、椿あすが作画を担当していた「これが私の御主人様」は、非常に悪ノリの要素の強い作品で、極端な萌え要素とオタクをネタにした過激なギャグも数多く含まれていました。しかし、これは、夫で原作者だったまっつーの作り上げた作風であり、妻で作画担当の椿あすは、そのような趣味は持っていなかったようです。さらに、まっつーは、現実でも2ちゃんねるにたびたび入り浸り、自身のサイトでも暴走した言動を繰り返しており、それに椿あすの方が抵抗を覚える向きも強かったようです。

 その影響もあって、当初はふたりでの共同制作のマンガを手がけていたのが、次第に椿あすの方が離れ、単独で作品を執筆するようになります。この「小松くん日和」がその代表作であり、かつてのまっつーとの共同制作の時のような悪ノリやオタクネタなどは一切なく、彼女の素直な性格と日々の穏やかな生活が描かれています。まっつーの影響から離れ、少ないページ数ながら雑誌の片隅で細々と執筆を続けるその姿には、今までのしがらみから解放されて、本当に自分の描きたいこと、楽しいことを描こうという思いが強く感じられ、大いに好感が持てました。

 さらに、この「小松くん日和」以外にも、スクエニの萌えアンソロジーでいくつか読み切りを執筆したり、他社では「コミック百合姫S」や「comicリリィ」などの百合系雑誌で百合作品を手がけるなどの活動も顕著で、特に百合作品はかなりの好評を得ているようです。まとまった大型の連載こそないものの、各所で優れた作品を執筆するようになり、単独の作家としても申し分のない作品作りを見せるようになったのです。

 その後、最終的には、2008年になって、まっつーと椿あすのふたりは離婚することになりました。「これが私の御主人様」は、この時点では連載が長く立ち消えになって久しく、 さらに以後椿あすが作画を担当しないことがここで決まり、作品は未完のままで終わることになりました。元から問題の多かった作品だけに、これは仕方のない最後だったかもしれません。以後、まっつーの新作はほとんど出ておらず、今では椿あすの単独作品のみが雑誌で活躍することになっています。


・フェレットとの楽しい毎日をきめ細やかに描く。
 このマンガは、元々は読み切り扱いとして始まったと記憶しているのですが、その後連載となり、パワードで毎号連載されることになりました。しかし、毎回のページ数は6〜10ページ程度で、小さな読み切りから昇格した形での小規模な連載に終始しました。しかし、その短いページ数のなかで、作者の飼うフェレット「小松くん」との楽しい毎日の生活が、実に活き活きときめ細やかに描かれているのです。

 フェレットは、イタチ科の愛玩動物で、のびやかに動き回るおおらかさが魅力的な小動物です。作者の椿さんがかまうたびに、小松くんもいろんな反応をしてくれます。お手やお座りを覚えさせようとして奮闘したところ、すっくと立ったりゴロンと寝転がる動作を覚え、それがたまらなくかわいい動作であると描かれています。部屋の中ではあちこちに動き回り、狭いところが好きなのかいつの間にか隙間に入り込もうとしたり、箱や筒の中に居座ったりします。それでいて、ケージ(檻)の中に入っているときは逆にずっとおとなしく、幸せそうな顔で安らかに眠っている。あるいは、遊んでいたり手の中でかまっていたりしても、なにかのきっかけでトロンと寝てしまう。そんな小松くんの穏やかな姿も、またたまらなくいとおしく描かれています。

 そんなフェレットの姿を描く作者の姿勢には、小松くんに対する惜しみない愛、思い入れが強く感じられます。小松くんと生活して感じたことを、まさにそのままで、もう見たままと言っていいほど素直に描き切っているのです。毎回10ページにも満たない小さな連載ながら、その中には作者の愛情が精一杯詰まっている。いや、最初から読み切りレベルの小さな作品だったからこそ、その範囲内で自分の描きたいことを詰め込んだのかもしれません。大作連載ではない、雑誌の片隅に載る小規模な連載だったことで、余計な気負いや重圧がなく、のびやかにマンガを描いているように思えるのです。


・フェレットに対するいろんな知識が楽しめる。
 また、そんな毎回の連載では、単に小松くんとの楽しい交流が描かれているのみならず、フェレットというペットに対するいろんな知識が、ごく自然に語られていることもポイントです。

 例えば、「フェレットは身体が柔らかいので、丸まって自分のお腹を枕にしたりする」という話。丸まって寝ている姿もいとおしく描かれています。嬉しい時にピョンピョンと力強く飛び跳ねる「フェレットダンス」と呼ばれる行動も、またかわいらしい。
 さらには「臭腺を除去していないフェレットは鼻が曲がるほどくさい」「フェレットは普段あまり(ほとんど)鳴かないが、楽しい時にはクックッと小さな声で鳴く」「よほど痛い時でないと声を立てない」「鼻はよく、においで飼い主を見分けることもあるが、反面目はさほどよくない」など、なるほどなあと思える知識が、毎回必ず何か入っています。

 さらには、フェレットをペットとして飼うための知識もいろいろと描かれています。「人間用の食事は健康によくないので、あまり与えてはいけない」「狭いところが好きなので、危ないところには入らないように気をつける」「大人のフェレットでもよく懐いてくれるので、初心者は大人から飼い始めてもいい」など、なるほどなあと思えることもいろいろと語られています。

 これらの知識は、毎回ごく自然にページの中で語られていて、読者に強引に知識を押し付けるようなところはまったくありません。フェレットという愛すべき動物の生態、ペットとしての飼い方などが、作者の素直な体験として気負いなく語られています。ひとつのフェレットマンガ、ペットマンガとしても楽しめる優秀なマンガになっているのではないでしょうか。


・小松くんとの出会いから悲しい別れまで、そのすべてを丹念に描き切った。
 さらには、日々の日常の姿のみならず、小松くんを飼い始めた時の出会いのエピソードから、そして最後に息を引き取る時の悲しい別れまで、そのすべてを強く描き切ったところにも、このマンガの大きな魅力があります。

 まず、小松くんと作者とのペットショップでの出会い。連載第2話で語られるこのエピソードでは、ショップのケージの中に入っているときにはおとなしかった小松くんが、家で飼い始めると急に活発になり、やたら暴れるし噛み付くのを体験して、「ああこれはしつけが必要なんだ」と痛感することになります。しかし、ケージに入っているときにはおとなしくて寝姿もとてもかわいい。そのことに感動した作者は、「いつか部屋の中でも一緒のフトンで寝ようね」と目標を立てて、やがて来るであろう小松くんとのもっと楽しい生活にときめき、ペットとの新生活を始めることになるのです。

 そして、その後本当に楽しい日々が毎回の連載で描かれるのですが、しかしその連載途中の第9話において、ついに小松くんが息を引き取ってしまいます。小松くんが重い病気にかかったことを知った作者は、今まであまりかまってやれず、病気に気付けなかったことを心の底から悔やみ、最初に行った獣医には「もう助からない」という話をされてさらに悩み、様々な思いが頭の中を駆け巡ります。それでも最善のできる限りのことをしようと気を取り直し、信頼できる別の獣医を見つけ、彼の強力な助けの元で一身に介護を続けます。その甲斐あって、一時は症状もよくなったかと思われた小松くんですが、やはり数日だけでまた病状は悪化、あとは息を引き取るのを看取る状態になってしまいます。この時にもまた作者の思いが爆発、小松くんに精一杯のはげましの言葉を切々と語りますが、やはり最後には息を引き取ってしまいます。

 この悲しい別れの話は、それまでの楽しい日常の交流からは一変、作者の小松くんへの切なる思いがありったけ語られた、非常に重い話になっています。しかし最後には、「「今まで幸せだった、ありがとう小松くん」と感謝の言葉を発して終わる、悲しい中にも幸せを見出した終わり方となっていて、ここに救いを見たような気がします。

 なお、この第9話の後も連載は続き、生前の小松くんの思い出や、またフェレットを飼いたい、今度は大きなフェレットを育てたいという希望、あるいは他に作者が飼っていたペットの話などが描かれています。小松くんの死を乗り越えたためか、その後のエピソードは、さらに深みのあるいい話が多くなっているように思われます。


・作者によるかけがえのないパートナーへの愛が感じられる作品
 このように、この「小松くん日和」、作者自身の手によるペットとの楽しい交流と、出会いから悲しい別れまでを丹念に描いたその内容で、小さな連載ながらきらりと光る作品になっています。ペットをテーマにした作品は数多くありますが、このマンガはその中でも特にいい作品になっているのではないでしょうか。

 このマンガのいいところは、いわゆる奇を衒った演出・話を面白くするための創作のような部分がまったくなく、本当に掛け値なく、素直に自分と小松くんとの日常の出来事を丹念に拾い上げていることです。一応、フェレットのかわいらしいデフォルメされた姿だけは、作者による創作だと思いますが、それ以外は実際に体験した出来事を、余すことなく本当にそのままで描いているのではないかと思うのです。

 このような素直なマンガ作りが可能になった理由は、おそらくは、このマンガが雑誌の片隅で連載された小さな作品だったからだと思います。雑誌の看板となるような人気作品、長期連載が予定されている雑誌の中心作品のように、周囲からかけられる期待がさほど大きくなく、そのためにまったくしがらみのない状態での連載だった。だからこそ、このような本当に自由な作品作りが出来たのではないでしょうか。あまり注目されない小さな連載であったため、連載中はこのマンガをあえて楽しみにしていた読者は多くなかったと思いますし、それはガンガンONLINEに移籍した後も変わらなかったと思います。いや、ウェブ雑誌であるONLINEに入ってから後は、さらに注目度は下がってしまったかもしれません。しかし、幸いにも、それが作品つくりにおいていい効果を生んだところもあったのではないかと思います。

 コミックスになるまでにも多大な時間がかかり、いやそもそも当初から極端に少ないページ数での連載で、しかも隔月誌のパワードでの掲載だったため、コミックスが出るかどうかも分からないような作品でした。それが、こうして1冊にまとまって刊行できたことは、それ自体が大変な成果だと思います。2007年の連載開始から、ほぼ丸3年の年月を経てのコミックス化。ページ数の少ない4コママンガの連載では、連載開始から2年近くたってようやくコミックスが出るケースが数多く見られますが、このマンガはそれすら上回る年月がかかりましたし、わたしなどは、このマンガのコミックスが出たことに本当に驚いてしまいました。

 そして、作者の椿あすさんの、単独執筆でのコミックスという点でも、大いに意義があると思います。椿さん単独のコミックスとしては、一迅社の百合姫Sで連載していた「HONEY CRUSH」の単行本が既に出ていますが、スクエニからはこれが初めてになります。個人的には、全1巻で完結というのは少々残念で、もっと末永く続いてほしかったのですが、元々長く続くタイプの大作連載ではなかったですし、それは仕方ないところかもしれません。この幸せな作品が1冊にまとまっただけでも、それを素直に喜びたいと思います。


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