<今印>

2008・5・25

 「今印(こんじるし)」は、ガンガンWINGで2007年2月号より始まった連載で、オムニバス形式のショートギャグマンガとなっています。約一年半ほど掲載され、2008年9月号終了しました。ガンガンWINGは、前よりこのようなギャグマンガを1、2本程度ラインナップに加えるようになっており、これもその一環ではないかと思われます。

 作者は新人の今豊太郎(こん とよたろう)。タイトルの「今印」は、この作者の名前から取ったものだと思われます。「今という作者の印」のついた珠玉ギャグ集、という意味なのでしょう。現在のところ、ガンガンWINGで誌面の後半ながらコンスタントに連載を重ねており、連載ラインナップに定着したのではないかと思われます。

 しかし、この「今印」、ギャグマンガとしてはあまりレベルが高いとは言えないところがあり、ギャグの質においてかなりの問題があります。奇抜な設定を打ち出してそれを中心にギャグを仕立てるような作風ですが、少々痛々しいネタが多く、読者の好みが相当割れるマンガになっていると思います。
 読者の間でも、あまり注目されなかったようで、コミックスの発行部数も少なく、それ以上にこのマンガの話題をほとんど聞きませんでした。ここ最近のガンガンWINGの誌面の特徴である「ゆる萌え」系のマンガではなく、かといってギャグマンガとして特筆すべきところもなく、あまり多くの読者の目を引かなかったのが正直なところでしょう。

 しかも、このマンガの場合、作者と編集者の悪ノリが過度に渡っており、作風をネタにした自虐的な企画が多数目立ちます。企画の一環で応募者全員企画なるものも行っており、それは一部の読者の反応を集めたようですが、その一方で多くの読者をひどくしらけさせたところもあり、さらに痛さが目立つマンガになったような気がします。正直、真っ当なギャグマンガとしては面白いとは言い難く、ネタ的な作風で連載を維持しているところが多く、ひどく質に疑問符が付く内容となっています。


・ガンガンWINGの定番と言えるギャグ連載。
 実は、ガンガンWINGでは、昔からこのようなギャグマンガを1、2本ほど連載ラインナップに入れており、雑誌の定番のひとつとなっています。ここ最近のWINGは、中性的な「ゆる萌え」作品が誌面の中心でしたが、そんな中でも必ずギャグマンガの連載がありました。

 その起源を辿れば、かつてお家騒動以前に連載していた「御意見無用っ!!」(よしむらなつき)と「ハイパーレストラン」(たかなし霧香)に辿り着くかもしれません。このふたつの連載は、元々はギャグ王に連載されていたのですが、雑誌の廃刊に伴い99年にWINGへと移籍してきたのです。加えて、同じたかなし霧香の作品「ワンダフルワールド」は、WINGで98年という非常に早い時期から連載されており、これもギャグマンガの起源と見てよいでしょう。
 その後、「御意見無用っ!!」はあのお家騒動で打ち切りとなり、作者のよしむらさんは他社へと移籍して行きました。一方でたかなしさんの二作品はそのまま残り、「ハイパーレストラン」はまもなく最終回を迎えましたが、「ワンダフルワールド」は、その後も長く続く超長期連載となりました。

 そして、お家騒動後には、あの中村光による「中村工房」というギャグマンガが連載を開始します。今でこそ、ヤングガンガンの「荒川アンダーザブリッジ」や、モーニング2連載の「聖☆おにいさん」で有名になってしまいましたが、その原点とも言えるこの作者処女作も十分に面白いもので、のちの作品へのつながりも感じさせる良質のギャグマンガでした。

 しかし、この作品は、約一年半という比較的短い連載期間で終了し、その後は「ワンダフルワールド」のみが唯一のギャグとして長くWINGの巻末に残り続けます。その「ワンダフルワールド」も、2006年についに終了、その後を受けて同作者による「ロビング・スコンク大逆転!」というマンガも始まりますが、これはこの作者にしては面白くなく、1年ほどの連載期間で終了してしまいます。

 そして、この「ロビング・スコンク大逆転!」の不振ぶりを穴埋めするためなのか、2007年に入ってすぐにこの「今印」が始まります。これが、WINGの良作ギャグマンガの後を継ぐ良質な作品ならば良かったのですが、残念ながら成功しているとは言い難い作品となっていました。


・絵は悪くはないものの・・・。
 まず、このマンガの絵についてなのですが、決していい絵ではないでしょう。ギャグマンガというものは、ストーリーマンガに比べればさほど絵のレベルを必要としないケースが多いようですが、それを考慮してもこの絵はいまいちです。

 絵そのもののレベルはともかく、今ひとつ雑に描かれているように見えるのが気がかりです。丁寧に描かれている箇所もありますが、コマごとの差異が激しく、かなり崩れた絵の箇所も散見されます。そのため、見た目のイメージで今ひとつ魅力に欠けます。そして、このマンガならではの特徴にも乏しく、どこにでも見られるような雑な絵のマンガに見えてしまいます。

 他のガンガン系の定番ギャグマンガならば、絵のレベルはさほどでもなくとも、その作者ならではの「持ち味」というものがよく出ています。金田一蓮十郎・くぼたまこと・氷川へきる、そして前述のWING連載作家であるたかなし霧香や中村光など、どの作家も作画レベル自体はさほどでもないかもしれませんが、それぞれの絵に独特の個性があり、それが作品の魅力につながっています。しかし、この「今印」の今豊太郎さんの絵は、まだそこまでの持ち味がでていないようなのです。

 それだけでなく、絵によっては少々抵抗の強い箇所もあります。これは、マンガの内容にも関係しているのでしょうが、読んでいて微妙に気分の悪い、気持ち悪いとも感じるような時折見られるのです。キャラクターの描き方が少々卑屈に感じられる作風が関係しているのだと思われますが、読んでいてあまりいい気持ちにはなれないマンガになっているようです。

 とはいえ、かつてのガンガンの低俗ギャグマンガ群「タケピロ」「地獄ゆき」「堀田和哉」などに比べれば、さすがにまったくましな方であり、不快とまではいかずに普通に読めるレベルにはなっています。その点では合格なのですが、しかしそれ以上の魅力は感じられないのがつらいところです。


・ギャグの方向性に大いに疑問。
 そして、それ以上に問題なのは、やはりギャグマンガとしてのネタの面白さでしょう。正直、ギャグネタそのものはあまり面白いとは言えず、何か、奇抜な設定とそこに関わるキャラクターの痛い言動で笑いを取っているように思われます。

 とにかく、何か「脱力系のバカバカしい設定」をまず最初に設定し、それに巻き込まれるキャラクターたちのツッコミで構成される内容で、とにかく設定で笑わせようという意図が強く感じられます。どんな設定かというと、

  • プリンの容器とティッシュの箱で出来た巨大ロボット(「プリッシュ号」)が悪と戦う話。
  • 女言葉でしゃべるデコトラが子供たちの前で暴走する話。
  • 対人恐怖症の陰陽師が正義の味方に仕立てられて戦う話。
  • おっさんのキューピット天使が失態続きで神の足に踏まれまくる話。
  • 男子高校生がなぜか美少女戦士(美少年戦士)にされて悪と戦う話。
  • 江戸時代に瓦版屋が相方のバカな行動に振り回される話。
・・・などなど。なにか正義のヒーローものがやたら多いような気がしますが、それが作者の趣味なのかもしれません。しかし、こういったバカバカしい設定は、面白いと言えば面白いのかもしれませんが、それ以上にまず奇をてらいすぎた感が強く、まずこの時点で読者によっては抵抗を感じる人がいるかもしれません。 特に、やはり絵的に見て抵抗を感じるような設定が多く、特にプリン+ティッシュのプリッシュ号の姿や、天使としては気持ち悪いおっさんの姿、そして高校生の女装美少女戦士(美少年戦士)の姿など、どれもアクが強すぎてなんとも言えない作品になっています。

 そして、最大の問題は、肝心のギャグがまったく面白くないという点に尽きます。バカバカしい設定の中で、妙なキャラクターたちがやたら登場し、真面目なツッコミ役のキャラがひどい目に遭わされるネタが大半なのですが、肝心のネタが面白くなく、ひどく空回っているように思えてならないのです。というか、完全に空回っているように感じられます。そのため、余計にバカバカしい設定と妙なキャラクターのアクの強さだけが頭に残ってしまうのです。

 別に設定やキャラクター重視のギャグがダメというわけではありません。前述のたかなし霧香の作品でも、作者独特の変人・変態キャラは多数登場します。しかし、彼女の作品は、ギャグのネタそのものも面白いことが、最大の違いです。「ワンダフルワールド」などは、作者自身の経験から採られたような実話ネタが非常に面白く、それがギャグの根幹を成しています。設定だけでなく、ギャグネタそのものが面白い。しかし、この「今印」の場合、そのギャグネタが面白くないという、ギャグマンガとしては大いに問題のある作品になっています。


・編集者と作者の悪ノリも面白いとは言えない。
 そしてもうひとつ、何度も行われる悪ノリ全開の企画も、決して面白いとは言えません。

 特に、コミックス2巻発売時の「捨て身の応募者全員企画」が、あまりにも脱力全開の企画でした。応募ハガキで読者からツッコミを募集するというものでしたが、送られてきたハガキの内容が微妙なものばかりで、いまいち盛り上がりに欠け、ここでも空回りが目立つ結果に終始したように思えます。また、この「今印」自体、一部の読者の応募を集めるのがやっとで、それ以外の読者にはあまり注目を集めていないマンガなので、余計にそう感じます。なにか、「雑誌全体の中ではさほど人気もないのに、編集者と作者だけで盛り上がっている」ように思えてならないのです。

 加えて、この企画で同時に行われた、「プリッシュ号の実写(?)化表紙」も、あまりにもバカバカしすぎる企画で、その表紙を見てまた脱力してしまいました。このような企画は、マンガそのものが面白ければ盛り上がるのかもしれませんが、マンガそのものがさして面白くない以上、単に「無理に盛り上げよう」と思って頑張っているだけのように思えてならないのです。また、コミックス発売と連動して企画を行っているようですが、コミックス自体があまりにも発行部数が少なく、ほとんど話題になっていない状態なので、ここでも盛り上げるのは無理があるように思えます。


・「これはいくらなんでも違う」と言いたい。
 以上のようにこの「今印」、ギャグマンガとしてはいまいち面白いとは言い難いもので、特に肝心のギャグネタが面白くなく、かなりの部分ですべって空回りしているところに疑問を感じます。ギャグマンガとしてのレベルはさほどでもないでしょう。

 その上で、とにかくバカバカしい設定と妙なキャラクターたちを出しまくり、それで笑いを取ろうとしている方向性が、かなりの問題です。つまり、このマンガは、読者をネタで笑わせるのではなく、読者に変な設定とキャラが笑われているのが現状ではないか。このマンガの笑いは、「笑う」ではなく、むしろ「嗤う」ではないのか。わたしとしても、このマンガを読んで、心の底から笑うことはほとんどなく、単に「苦笑」せざるを得ないケースがほとんどなのです。これは決して気分のいいマンガではありません。なんというか、このマンガを読んでいると、「笑えない裸芸人が延々とギャグをすべりまくっている」のを見せられるような気分に陥ります。

 もっとも、こんな風に設定とキャラを笑われる作風も、実はひとつのギャグの方向性なのかもしれません。あの爆笑問題などは、「笑わせるよりも笑われる方がいい」とまで言っていますし、そういうタイプのギャグネタがあってもいいのかもしれない。
 しかし、このマンガについては、「いくらなんでもそれは違うだろ」と言いたいところです。とにかく、このマンガの場合、笑わせる笑われる以前に、ギャグそのものがまったく笑えないので、その時点で大いに問題です。笑われる系のギャグでもそれが面白ければ問題ないのですが、このマンガでは、そのギャグ自体がまず笑えず、単に苦笑せざるを得ない段階に留まっている。これが最大の問題なのです。まあ、毎回毎回苦笑するのを楽しみにする読み方もありだとは思いますし、そう考えると「ある意味面白い」マンガとも言えますが、果たしてそれでいいと言えるかはまた別問題でしょう。

 そして、連載中に読者の反応があまり見られなかったのも厳しいところです。悪ノリな企画の時だけはさすがに反応があるのですが、それ以外でこのマンガに対する話題を聞いたことがないような気がします。ガンガンWING読者の間でもほとんど話題にならず、ましてコミックス派の読者の存在もほとんど聞きません。コミックス自体ひどく発行部数が低いようで、あまりにも薄い注目度に終始しました。これまでのWINGギャグマンガと比較してもいまいちで、たかなし霧香や中村光作品と比べると随分見劣りがします。そして、約1年半の連載を経て終了。正直、よくもったほうだと思いますが、しかし最後まで決して面白いとは言えない内容だったと思います。


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