<紅墨少女>

2007・11・28

 「紅墨少女」は、Gファンタジーで2007年4月号から連載された短期連載で、僅か3回の掲載を経て、6月号には終了した作品です。作者は、新人の高木かな子

 Gファンタジーは、2006年において、ひどく新連載に消極的で、そのため連載本数が大幅に低下し、雑誌の厚さもひどく薄くなってきた感は否めませんでした。そこで、2007年に入ってからのGファンタジーは、盛んに新連載攻勢を行うようになり、それも、新人作家による短期連載を多く打ち出してきます。具体的には、1月号から「憑かれて候」(茶鳥木明代)、2月号から「テイルズオブブレイカー」(金谷和子)、4月号からこの「紅墨少女」、5月号から「春期限定いちごタルト事件」(米澤穂信・饅頭屋餡子)、6月号から「Diabolic Garden」(白木苺)といった布陣です。しかし、これらの連載の多くは、短期連載でいずれもひどく短い期間で終了する上に、さして突出した面白さも感じられないものが多く、少々失望する結果となりました。

 しかし、その中で、この「紅墨少女」は、僅か3回の短期連載で終了してしまったものの、その内容はかなり充実しており、安定した面白さを提供してくれました。「血を墨代わりにして字を書く」という魅惑的な設定や、思わぬ意外性を見せるストーリー、くせの少ない安定した作画と、どれも十分に合格レベルを与えられる連載となっており、3回で終わるには惜しい作品でした。この魅力的な設定だけでも、十分長期連載に耐えるものであり、短期連載にこだわる必要はなかったのではないかと思いました。あるいは、作者である高木さんの実力にも確かなものがあると感じられ、この作品ならずとも、また連載を読んでみたいとも思いました。


・「血書」という魅力的な設定。
 このマンガは、中華風世界を舞台にしたファンタジー作品ですが、そのファンタジー要素の中核を成す「血書」という設定に惹かれます。

 「血書」とは、現実世界でも「血で書いた文字、文書」のことを表しますが、このマンガにおいてもそのイメージ通りの設定で、「血、もしくは血を混ぜた墨」によって字を書き、その文字を実体化させる魔法的な術のことを指します。血で書かれた文字から、その意味が具現化して幻像のように目の前に浮かび上がる光景が印象的で、その光景は、偶然にも幻燈師シリーズのそれを思わせるところもあります。中でも、血書を使う術師同士が競技会を行うシーンでは、凄腕の血書師たちが繰り出すきらびやかで壮大な幻想が、人々を大いに魅了する光景が描かれ、これは絵的にもひどく魅力的なシーンとなっています。

 ただ、この「紅墨少女」におけるこの術は、単なる幻にとどまらず、実際に具現化して何らかの魔法的な効果を及ぼすという点が、いかにもファンタジー作品らしいところです。これは、大規模な戦闘魔法としても使われ、クライマックスにおける血書でのバトルシーンは、その壮大な規模の術のぶつかり合いが大いに盛り上がりました。また、照明や冷暖房、郵便などで日常的にも使われるのですが、たった3回の短期連載で、ストーリーの多くが競技会とバトルシーンに費やされたために、そういった日常で使われるシーンが、ほんの少しの断片的にしか見られないうちに終わってしまったのは残念でした。もう少し本格的な連載で、より日常の風景に血書がありふれて溶け込んでいるシーンを見てみたかったような気がします。

 それともうひとつ、この「血書」を書くという行為が、そのまま書道のそれであるというところも、いかにも知性的な文化が感じられる設定で、これにも好感が持てます。精神を集中して漢字を書き記すことで、それが効果を表すという、いかにもその者の精神的な高みを見せられるような設定には、個人的にひどく惹かれてしまいました。


・血書によって人を救うという、定番ながら心暖まるストーリー。
 このマンガのストーリーは、血書術師の少女である主人公の神樹(しんじゅ)が、妹を溺愛する銀細工師の兄・篠(しの)とともに、血書を使った依頼をこなしていくというもの。といっても、そのようなストーリーは最初の1話のみで、2話・3話は血書術師同士の競技会の話へと発展するため、やはりこの連載は短すぎた感があります。いくら短期連載とはいえ、もう少し数本のエピソードを読みたかったというのが本音でしょう。

 しかし、その1話が中々良かったので、この物語の冒頭のつかみとしては十分でした。主人公・神樹が教える生徒の六弦(ろくげん)が、不死の病に冒され、その死に際に激しい負の感情のあまりに血書が暴走し、一時的に魂を取り込まれそうになるという話で、理不尽にも死を目の前にした人間が織り成すさまざまな負の感情がよく現れていました。そして、神樹は、そんな六弦を最後まで見捨てず、血書によってつかの間の理想郷を見せ、穏やかな死へと導きます。血書によって人の心を救うという、割とありがちなストーリーとも言えますが、神樹の穏やかな諭しの言葉と、血書で見せる花に満ちた幻の光景が実に効果的で、そこに確かな暖かさを感じられるものとなっています。

 そしてもうひとつ、この主人公を溺愛する兄が、妹を救いたいあまりに、極めて強引な行動を取り、無理矢理解決のための書物を奪おうとする姿も、また印象に残ります。この兄の異常な執着ぶりが、のちに意外な展開へと結びつくことになるのですが・・・。


・最後の最後で意外な展開を見せる。
 そして、続く第2話では、王宮の広間に自らの血書を掲げる栄誉を巡り、各流派の血書師たちが競技会を行う話になります。個性的な術師たちが、それぞれの流派に合った幻想的な光景を繰り広げるシーンが非常に魅力的で、一気に盛り上がってきます。
 面白いのは、そんな血書の光景を見立てる国の官僚たちの評論に妥当性があり、納得できてしまうこと。こういう話だと、大抵の場合、さして鋭い見立てをしない凡庸な審査員たちが、一見しただけで優れて見える作品を選んでしまい、表面的でつまらない評価をするエピソードが多いような気がするのですが、この作品はそうではない。ひとつひとつの血書の見立てに妥当性があり、読者としてもその言葉を理解できてしまいます。神樹も個性的な血書で善戦するものの、それ以上に優れた血書師(泉馬老師)の前には及ばずに敗れるのですが、妥当性の高いコメントがなされている以上、この展開にも十分に納得できます。

 しかし、最優秀として選ばれた泉馬老師は、兄の告発によって実は盗作を使っていたことが暴かれます。そして、窮地に陥り開き直って血書で暴れようとする 老師と、それを押さえようとする神樹との間で、血書を使ったバトルに突入します(第3話)。このバトルが連載で最も盛り上がったところで、双方が壮大で強大な血書を使い、攻撃魔法の応酬のように攻撃を繰り返すシーンは見ごたえがありました。ここでも兄である篠が、妹を無理にかばって血まみれになるという、異常な活躍を披露します。

 そして、最後には見事に神樹が勝利を収めて、めでたしめでたし・・・で普通なら終わってしまうところなのですが、最後の最後でストーリーは意外な展開を見せます。兄である篠は、溺愛する妹への想いのあまりに、国宝の血書を盗み、それを使って牢に囚われていた泉馬老師をもあっさり殺してしまい、それで神樹を書術会の最上位へとのし上げようとするのです。この兄の妹への執着ぶりはあまりに異常で、これで本当にこの兄妹は幸せになれるのか、ひどく暗澹とした余韻を持って物語は終わっています。

 正直、この展開がなければ、この作品は、「主人公の少女が活躍するちょっといい話」という程度のもので終わっていたかもしれません。しかし、このような異様な終わり方をすることで、この作品は、読者の心に強烈に印象に残る、実に優れた逸品になったように思えるのです。


・完成度はさほど高くないが、作画の好感度も高い。
 そして、スクエニならではの中性的な作画も、万人に素直に受け入れられる好感度の高いもので、こちらでも優秀でした。
 昨今のGファンタジーは、かつてよりもさらに女性向けの誌面へと方向性を固定してしまったのか、あるいは廃刊した少女誌・ステンシルからの連載を多く採り入れた影響からか、女性向けで耽美的な作風の絵柄も目立つようになったように思えます。

 これは、個人的には少々疑問の方針なのですが、しかしこの高木さんの絵柄に関しては、若干女性作家的な作風も感じるところこそあれ、基本的にはシンプルで素直な作画で、誰でも抵抗なく読める作風を確立しています。姉妹誌であるWINGの作風に近いところもありますが、それよりはまだGファンタジー寄りとも言える作画で、うまく読者層にマッチしたバランスの取れたものになっていると感じます。

 シンプルな作画ではあるものの、たまに見られる黒いベタの表現は印象に残り、血書による幻想シーンの演出も綺麗に卒なくまとめています。バトルシーンはまだいまひとつかも知れませんが、それも悪いと言えるほどの欠点ではない。このまま連載を持たせてもよさそうなレベルだと感じます。
 このところのGファンタジーの新人では、この高木さんに加え、同時期の短期連載作品(現在はシリーズ連載化)「春期限定いちごタルト事件」の饅頭屋餡子の作画も、同じくシンプルで素直な作画で、好感が持てます。このような絵の作家が、Gファンタジーのラインナップに本格的に加わるとよいと思うのですが・・・。


・3カ月の短期連載で終わらせるには惜しすぎた作品。
 このように、非常に短い連載でありながら、かなりの充実ぶりを見せてくれたこのマンガ、正直3か月で終わるにはあまりにももったいない作品でした。いくら当初から短期連載予定だったとしても、僅か3カ月は短すぎます。最低でも5カ月程度は連載した方が良かった。それならば、まだ複数のエピソードを掲載できる余裕がありました。3カ月では、新連載の次の号でいきなりクライマックスへの展開(競技会とその後のバトルシーン)に入ってしまい、作品の世界を楽しむ余裕すらなかったように思います。

 あるいは、そもそも短期連載にこだわらずに、通常連載の形でもまったく問題ありませんでした。これだけきっちりと読める作品なのだから、最初から通常の連載にして様子を見た方がよかったように思います。連載がうまくいかなければ途中で打ち切りにすればいいだけですし、出来る限り連載を続ける方向性で行った方が、作品に発展性が生まれたことは間違いありません。

 また、このマンガに限らず、この時期のGファンタジーの短期連載攻勢は、少々疑問とも思える方針で、結局のところほとんどの作品が短期で終了してしまい、雑誌に定着することが出来ませんでした(同じことは、前年のWINGの「1年間連続新連載」でも言えています)。連載に不慣れな新人作家への配慮なのか、それとも他に理由があるのかは定かではありませんが、最初から短期連載と決まっているのでは、読者の方としても期待度は半減してしまいます。何か短期連載に理由があるのならばともかく(メディアミックス作品で最初から短期で終了が決まっているなど)、そうでない作品ならば、たとえ新人でもあくまで通常の連載を目指した方がよいのではないか。また、このところのGファンタジーが、連載ラインナップが大幅に減少し、雑誌も薄くなっていることを考えても、良質の新人作品を積極的に通常連載し、雑誌の底上げを図るべきでもありました。

 中でも、この「紅墨少女」は、短期で終わらせるには最も惜しい作品でした。いかにもこの雑誌の掲載にふさわしい魅力的なファンタジー設定、意外性を見せてくれたストーリー展開、万人に抵抗なく受け入れられる素直な作画など、今後も安定した作品作りが期待できるマンガだったと思います。特に瑕疵の見当たらない良作だっただけに、短すぎる連載期間が実に惜しまれます。


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