<銀のクルースニク>

2009・4・11
一部改訂・画像追加2009・11・17

 「銀のクルースニク」は、Gファンタジーで2007年7月号から開始された連載で、少し前まで同誌で「阿佐ヶ谷Zippy」を連載していた岩佐あきらこによる新しい連載作品です。Gファンタジーは、おそらくはスクエニの雑誌の中で最もラインナップが安定しており、昔からの定番の連載作家がいまだに多く健在で、この作品も長期連載だった「阿佐ヶ谷Zippy」同様に、Gファンタジー読者には見慣れた作風となっています。また、岩佐さんは、この「阿佐ヶ谷」以前にもGファンタジーで幾度となく連載を行っており、あのエニックスお家騒動のはるか以前から執筆を続けてきた作家として、ほぼ同誌の最古参とも言える作家となっています。

 そして、今回の連載も、この作家らしい作風となっており、前作である「阿佐ヶ谷Zippy」と近いところもがります。主人公が悪い人外の者(この作品では吸血鬼)を退治する役どころで、主人公たちにいわゆる美形の男子が多い点(Gファンタジーらしい女性向けの要素が強い点)、要所要所で頻繁にギャグが入るコミカルな雰囲気、主人公に対立する組織が存在する点など、さまざまな点で共通点が多く見られます。
 その一方で、前回の作品の舞台が現代日本の阿佐ヶ谷だったのに対して、今回の舞台は「スニェグラード帝国」というロシア(帝政ロシア時代)をモチーフにしたファンタジー世界である点で大きく異なり、いわゆる西洋風のファンタジー作品になっています。ロシアをモチーフにしているだけあって、作中の設定や用語にロシア語から直接採用された語句が頻繁に見られ、ロシアの民間伝承や政治・社会体制から採り入れた要素も作品全面に渡って見られるようです。これが、今回の作品で最も目立つ特徴かもしれません。

 しかし、このような個性的な設定を持つ作品ではあるのですが、いまいちそれが面白さに結びつかなかったようで、雑誌の中堅作品として安定した人気を獲得した前作と異なり、あまり注目を集められなかったようです。ギャグはそれなりに面白くはあるのですが、一方でシリアスなストーリー・設定との間でギャップを感じるところもあり、ギャグ・コメディ主体で素直に楽しめた前作に比べると、やや微妙な作品になってしまったと感じました。前作より美形キャラクターが強調され、女性向けの印象が強まったのも気になるところで、ここでも最近の女性向け要素を強くするGファンタジーの方針を感じてしまいました。

 最終的には、2009年11月号をもって連載終了し、それなりの連載期間と一応まとまったストーリーの完結を見ましたが、やはり最後まで盛り上がりには欠けた連載になったと思います。同作者の作品の中では、微妙な完成度に終始した作品と言えるでしょう。


・Gファンタジーで執筆を続ける、今では最古参の作家のひとり。
 前述のように、岩佐あきらこさんは、お家騒動のはるか以前よりGファンタジーで執筆を続ける、今となってはベテランとも言える作家ですが、かつて雑誌に登場した初期の頃は、「ミスティックアーク」や「REBUS」などのゲーム原作のコミカライズ作品を主に手がけていました。また、女神転生シリーズなどのゲームアンソロジーの執筆も盛んで、主にゲーム関連のコミックを中心に活躍していた作家と言えます。この当時からギャグ中心のコミカルな話と、シリアスなストーリー中心の話と、その双方を描き分ける器用さが特徴的な作家でした。

 しかし、その後、「阿佐ヶ谷Zippy」というオリジナルの作品を読み切りで何度か掲載し、好評を得て連載を開始することになります。これは、奇しくもエニックスお家騒動の真っ最中とも言える、2001年10月号からの連載開始となりました。当時のGファンタジーは、ほかの雑誌に比べれば騒動の影響は少なく、このように新規の連載を始める余力もあったのです。そして、この「阿佐ヶ谷Zippy」、雑誌の表に出る看板作品とまではなりませんでしたが、それでも雑誌内では安定した人気を得た長期連載となり、コミックスも11巻を数える息の長い作品になりました。
 内容としては、現代日本を舞台にした「退魔師もの」と言える作品なのですが、ギャグ・コメディ主体でシリアスなストーリーも平行して進む形となっており、やはり自身の作風がよく出た作品になっています。オカルト的な設定や、阿佐ヶ谷を舞台にしたコミカルで庶民的な雰囲気もよく活きており、最後にはシリアスなストーリーもかなりの盛り上がりを見せ、総じてよくまとまった秀作だったと思います。

 そして、晴れてその長期連載を終えた後、しばらくしてこの「銀のクルースニク」を開始。今のGファンタジーは、作家の入れ替わりが少なく、ベテラン作家が息を長くして連載を続けるケースが多いようですが、これもそのケースのひとつに数えられるでしょう。今回の作風も前作と共通するところが多いようで、その点では予想通り、期待通りとも言えますが、しかし肝心の面白さでは前作より劣るのでは?と思えるところも多く、いまひとつ前作ほどの評価を与えるのは難しかったようです。


・ギャグとシリアスの間のギャップが大きくなった?
 今回の「銀のクルースニク」も、主人公たちが吸血鬼を退治する役割にいる、という点で、退魔師ものだった前作に共通したものもあるのですが、作品の舞台がロシア的なファンタジー世界となり、のっけから吸血鬼退治や、主人公の出生やこの世界の謎を巡るストーリーがコンスタントに進んでいることから、やや雰囲気の異なる作品になっています。

 しかし、要所要所でギャグが入るコミカルな作風は従来どおりで、これはいかにもこの作者らしいところではあるのですが、しかし今回は、連続したストーリー性が強くなったこともあって、ギャグシーンとストーリーの間で少々ギャップが大きくなったと思えます。
 前作「阿佐ヶ谷Zippy」でも、ギャグとストーリーの平行という点では同じですが、よりギャグに置かれる比重が大きく、かつストーリーの連続性もさほど強くなく、単発の1話完結で終わるコミカルなエピソードもかなり多い作品でした。そのため、半ばギャグマンガに近い作品ともなっていて、しかもギャグがやたら面白く、毎回コンスタントに笑える優れたコメディとなっていました。反面、背後に流れるシリアスなストーリーもそれはそれで面白く、終盤からラストに向けての展開でもひどく盛り上がりました。総じて、ギャグ主体でストーリーも楽しめるバランスの良さが魅力でした。

 それが今回、連続したストーリー、それもかなりシリアス色の強い話が表に出てくる頻度が高くなり、途中で出てくるギャグと少々ギャップが強くなったように感じます。そのためか、いまいちギャグにはまれない。あるいは、本格的なファンタジー設定の存在も、これに大きく関係しているかもしれません。厳しいはずのロシア(的世界)を舞台にした世界観と、突如入ってくるギャグシーンがいまいち合わない。これが前作だと、「阿佐ヶ谷」という庶民的で個性的、マイペースな街が舞台だったため、グダグダなギャグ展開もいかにも作品の雰囲気に合っており、実に好印象だったのですが・・・。


・ロシア的な世界観・設定があまり活きていないように感じる。
 さらには、このマンガで最大の特徴とも言える、ロシアをモチーフにした世界観・設定の数々にも、いまいち思ったほどの魅力が感じられません。あまりロシア的世界の雰囲気が強く感じられないのです。

 これは、この作者の絵柄がコミカルでライト感覚な作風で、重厚な世界観を再現するタイプのものではないことと、そしてかなりの頻度でギャグが入ってくることが大きな要因かもしれません。ロシア的な気候・風土、政治・社会体制についての描写や説明は随所に見られるものの、それがあまり作品の雰囲気に反映していないように感じます。この点でも、親しみやすい阿佐ヶ谷という魅力的な街を舞台にしていた前作に軍配が上がります。

 さらには、ロシア語(あるいはスラブ語圏の言語)から直接採用された用語も頻繁に見られ、タイトルにもなっている「クルースニク」もそうですし(本来は吸血鬼を退治する特殊な生まれのもの、このマンガでは吸血鬼退治を職業とする人間のハンター)、あるいは吸血鬼と書いて「プルーテニク」と読ませ、敵対する組織「第六天国」を「シストーイ・ラーイ」と読ませるなど、各種の設定の多くにロシア語由来のものが採り入れられています。登場するキャラクターも、ほとんどがロシア人に見られる名前が付けられているようです。
 しかし、これらのロシア語由来の用語も、あまり作品の雰囲気作りには貢献していないようで、個人的にも単に読みづらく意味が掴みづらいだけで、あまり強く印象に残ることはありませんでした。作者の岩佐さんは、この作品を執筆するに当たって相当な資料を当たって設定作りに尽力されたようですが、それがあまり作品の面白さに活きていないのは、ひどく残念なことに思えます。


・女性向けの要素が増えたように感じるのも気になる。
 そしてもうひとつ、昨今のGファンタジーの新規連載の例に漏れず、このマンガもまた女性向けの雰囲気が増したように感じるのも気になるところです。

 元々、創刊当時から、この雑誌はある程度女性に人気のある雑誌ではありました。女性に好まれやすい繊細な感性のファンタジー作品、あるいは女性に人気の出やすいキャラクターの登場する作品が多く見られていました。しかし、それでもかつては、必ずしも女性読者に向けた作品ばかりではなく、男性向け、もしくは男女共に幅広く楽しめる作品も一定以上存在しており、バランスが取れていたように思えるのです。
 それが、ここ最近のGファンタジーでは、以前よりも明らかに女性向けと思える絵柄・キャラクター・設定の作品が増え、明確に女性読者を中心に置くことを意識してきたようで、これがひどく心配です。

 この「銀のクルースニク」の場合もそうで、明らかに美形を強調したキャラクターが目立つようになり、昔よりも抵抗を感じる読者が増えたのではないかと思えるのです。特に気になるのが、主人公に同行する女性キャラクターであるミレナで、なぜかオヤジ好きで主人公のひとりであるオヤジキャラのレオンにセクハラ的な言動をたびたび行うキャラクターになっています。こういった設定のキャラクターは、いかにも女性の目線から見た美形好きのキャラクターとも思えるところがあり、やはり多くの読者が抵抗を感じるのではないでしょうか。

 前作である「阿佐ヶ谷Zippy」も、確かに主人公たちを中心に美形と言えるキャラクターは多く見られました。しかし、特にそれを強調した作風ではなく、むしろギャグコメディ主体でとっつきやすい作風であり、キャラクターも個性的で特に女性読者だけに好まれるような者は多くなく、ストーリー自体も考えられていて面白かったこともあり、さほど強い抵抗を感じることはありませんでした。それが、今回は作品自体もいまいちはまれない要素が増えたことも手伝って、こういった女性向けの要素がより目立つようになってしまったのではないかと思うのです。


・最終的にはそこそこまとまったものの、面白いとまでは言えなかった。
 ただ、それでも2年以上の連載を続けることができ、前半のうちから提示された伏線や謎はほぼすべて終盤の展開で解決され、なんとかまとまったストーリーにはなったようです。

 最大の功績は、作品の舞台となるスニェグラード帝国を取り巻く「イスア(世界の果て)」の謎が、終盤になって明かされ、世界の果ての外側の世界まで舞台が広がったことでしょう。これで、ようやくストーリーに新たなる展開が生まれ、その先への興味が湧いてきました。謎自体が完全に明かされたことも大きく、これまでかなり長い間それで完結していたと思われたロシア的な閉じた世界観に、新しい世界が加わってようやく面白くなったと思います。

 それに加えて、主人公の最大の敵対組織だった「第六天国」(「シストーイ・ラーイ」)の真の思惑、そして主人公キリーの出生と彼に語りかける「グリシア」と名乗る少年の謎など、これまで長い間引っ張ってきた謎が、終盤の同時期になってやはり一気に明かされ、ここでようやくすっきりした形でラストを迎えることになりました。そして、ラストでは第六天国と帝国との激しい戦いと、それに加勢して最後には世界を救うことになる主人公の奮闘ぶりもよく描かれ、晴れて勝利した後のエピローグまできれいに描かれていて、最終的にはストーリーはかなりのまとまりを見せて終わることができました。これは評価されるべきところでしょう。

 しかし、そのような終盤の評価をもってしても、全体を通してこのマンガが面白いと言えたかは、正直疑問符が付きます。最後で世界が広がって少し印象が変わったとはいえ、全体を通してロシア的な世界観にいまいち魅力が感じられなかった点、ギャグとシリアスのバランスが悪く読みづらかった点、ギャグが入るせいでストーリーの進みが遅く面白みに欠けた点などが大きく、はっきり言えば面白いと言い切れる箇所は、はなはだ少なかったと思います。

 それでも終盤でまだ評価できたのは、謎が解かれるあたりからシリアスな展開が中心となり、ギャグが少なめになってストーリーのテンポがよくなった点、ロシアとは別の世界が見えて世界の魅力が増した点などがあるからです。このマンガに関しては、このようなテンポのいい展開と世界の広がりを序盤から見せていった方が、まだ興味を持って連載を追っていけたかもしれません。1話完結の読み切りでギャグ中心だった「阿佐ヶ谷Zippy」とは、異なる構成にした方がよかったのではないか。


・作者の前作よりもさまざまな点で劣り、芳しい成果を挙げることはできなかった。
 何か前作「阿佐ヶ谷Zippy」との比較ばかりになってしまいましたが、妖怪(吸血鬼)退治ものという点で作品のコンセプトが似ており、ギャグとシリアスが混在するこの作者ならではの作風、美形キャラクターが数多く見られるGファンタジー的(女性向け)要素など、様々な点で方向性に近いところがあるので、どうしてもある程度比較の対象として見てしまいます。

 その上で、今回最大の特徴であったロシア的なファンタジー世界が、いまいち作品の面白さに貢献しておらず、その点でファンタジーものとしてはひどく中途半端なものになってしまったと感じます。せっかく苦労して設定したと思われるロシア由来のモチーフの数々が、あまり印象に残らないのは如何ともしがたいものがありました。
 そして、その本格的なファンタジー設定と、頻繁にギャグが入ってくる作風との間のギャップも気になったところで、作品世界にスムーズに入り込むことが難しく、個人的にも少々戸惑ってしまいました。すんなり阿佐ヶ谷でのギャグコメディに溶け込めた前作と異なり、様々な点で抵抗が多く、読者の入り込みづらい作品になったと思います。

 抵抗が多いという点では、女性向けと言える要素が目立つのも懸念を感じました。同時期に同じく開始されたベテラン作家・真柴真の新規連載「鳥籠学級」にも同様なイメージを感じますし、ここ最近のGファンタジーの女性向けに大きく傾いてきた方針が、このような新しい連載で強く出てきているようです。これでは、今のGファンタジーの主要読者であろうマニア系の女性読者以外には、あまり読んでもらえない作品になってしまったのではないか。そのような雑誌の方針の中に、この岩佐あきらこの作品まで組み込まれてしまったようで、これは少々残念に思ってしまいました。このような方針は、読者層を狭く限定することにつながり、個人的にはあまり歓迎すべきではないと思うのですが、今後もそれが続きそうで不安です。

 そして、最終的にそれなりにまとまって完結したとはいえ、結局最後まで面白みには欠ける作品になってしまいました。前作「阿佐ヶ谷Zippy」は、岩佐あきらこの代表的作品として大いに印象に残っていますが、この「銀のクルースニク」の印象はひどく薄いものとなっています。それでもかろうじて2年以上の連載にはなったものの、連載中でさえほとんど読者の間で話題を聞くこともなかったですし、終了後はさらに早く人々の記憶から薄れてしまうような気がします。Gファンタジーで10年以上も活躍を続けるベテラン作家の作品ではありましたが、これは残念ながら失敗だったと言えるでしょう。


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