<リアリスの私写真>

2007・2・24

 「リアリスの私写真」は、ガンガンWING2006年4月号より連載された作品で、2006年8月号にて全5回の短期連載で終わり、コミックスも一巻のみで完結しています。作者は新人の和泉なぎさ。連載以前に、ガンガンWINGで何度か読み切りや挿絵イラストを残しており、この作品が初の連載作品にあたります。

 そして、この作品は、ガンガンWINGが2006年を通して企画した「1年間連続新連載」のひとつであり、その中でも短期連載で終了してしまった作品のひとつです。実は、この「1年間連続新連載」、このように短期で終了する作品が非常に多く、その結果には物足りなさが残りました。そのような作品の中には、確かに短期で終了しても仕方のない、完成度の低い作品も多かったのですが、しかしこの「リアリスの私写真」については比較的良作であり、短期で終わらせるにはかなり惜しい作品でした。この作品自体も、最後は駆け足で終了して、無理に短期連載としてまとめてしまった感があり、その点でも少々残念に思いました。


・ほのぼのとしたノスタルジックな世界観。
 このマンガがまず印象に残るのは、田舎の風景を描いたノスタルジックな世界観ですね。広々とした風景の描写には、心やすらぐものがあります。地平線が丸く描かれている遠景が頻繁に見られ、広々とした草原にまばらな木々、空に雲がたなびくその光景には、なんともいえない居心地のよさが感じられます。絵を見て和むという、癒し系作品としても十分に楽しめます。

 そして、ポップな絵柄で描かれた建物や木々の描写にも見るべきところがあり、童話的なイメージが色濃く出ています。元々、読み切り作品や、作者のサイトの作品でも、このようなノスタルジックで童話的な世界観が顕著に見られたのですが、それはこの連載作品でも全く変わっていませんでした。作者の和泉さんの持ち味が存分に出た作品であると言えます。

 さらに、和泉さんは、カラーイラストの出来が素晴らしく、鮮やかな色彩で描かれた風景には惹かれるものがあります。田舎の光景が多いだけあって、特に自然の緑が映えるイラストになっており、植物の描写にも細かな気配りが感じられます。


・写真がつなぐ記憶。
 しかし、この作品は、単に風景や世界観で癒されるだけの話ではありません。主人公の少女にまつわる、ちょっと切ない設定の物語が心に残ります。
 主人公は、リアリスというぜんまいで動く機械(ロボット)の少女ですが、見た目は人間とまったく変わらず、普段はごく普通の少女として過ごしています。しかし、機械である彼女は、ぜんまいを取り替えるたびに記憶が消去され、今日一日の記憶を残すことが出来ません。そのため、持ち歩いているカメラで写真を撮りまくり、それをアルバムに残すことで、記憶の補完としています。リアリス自身も、そんな自分の記憶のことを知っており、自分が撮った写真のアルバムを見て記憶をつなぎ、それを手がかりにして行動することもあり、そのあたりの行動パターンには知的な面白さも感じられます。

 しかし、それ以上に、この「記憶が消える(残らない)」という設定はひどく切ない。過去の世界というものが、もう物理的にこの世に存在しない以上、わたしたちはそれを「記憶」か「記録」か、そのいずれかで残すよりないわけです。が、このような記憶が残せない状態では、何らかの記録に頼って、それを自身の記憶とするよりない。このマンガの「写真」とは、まさにこの「記録」の象徴であり、ひいては少女リアリスの持つ「記憶」そのものであるとも言えます。

 実は、このような記憶が消去してしまう話は、SF小説などでは頻繁に見られ、最近では認知症を扱った現代ドラマでもこれに近いものが見られます。わたしの知っているところでは、消えてしまう記憶をテープレコーダーに録音してのちの自分に残すSF物や、あるいはこれは映画にもなった「博士の愛した数式」などがあります。
 そして、この「リアリスの私写真」は、短編で終了したささやかな小品ではありますが、同系の他の作品同様、その切なさはやはり心に残るものがあり、穏やかで心地よい世界観とあいまって、なんとも言えない余韻を残す作品へと昇華されています。


・写真を撮ることの楽しさ。
 そして、上記のようなテーマと並んでもうひとつ、写真を作品の中心たるモチーフとして採り上げていることで、「写真を撮る楽しさ」がよく描かれているのも良い点です。
 リアリスは、記憶を失うという障害を抱えているからか、あるいは写真撮影が純粋に好きだからなのか、行く先々で写真を撮り続けます。普通ならば撮らないであろう、何気ない場所の写真もよく撮影し、それをアルバムに一枚一枚大切にしまっています。これは、構えずにただ「純粋に写真を撮ることの楽しさ」を伝えているのではと思われ、その素朴な姿勢にはひどく好感が持てます。

 この写真の楽しさをよく表した話が、連載第2話、プロの新聞記者である女性が訪ねてくるエピソードですね。プロとしての優れた写真を求められる彼女が、いつしかプロとしての評価のみを追い求めてしまい、半ば忘れてしまっていた「写真を撮る楽しさ」を、リアリスと触れることで取り戻すというエピソードです。大枠ではありがちとも言える話かもしれませんが、このマンガの持つ自然描写の美しさが手伝って、リアリスの撮る何気ない自然の風景の面白さや純粋さが強調された、優れたエピソードに仕上がっていたように思います。

 ただ、作品全体としては、全5話というあまりにも短い短編で終了したせいで、こういった優れたエピソードがあまり見られないうちに終わってしまったのが、ひどく残念でした。もっとこうした「写真というモチーフの面白さ」を出した話を読みたかったところですが・・・。


・この作品は長く連載してほしかった。
 このように、この「リアリスの私写真」、全5回という小品ではあるものの、絵的には居心地の良い牧歌的な世界観、内容的には写真撮影の楽しさや写真と記憶を絡めた切ないエピソードと、かなりの良作に仕上がっていたように思います。
 しかし、残念ながら、どうも最初から5回の短期連載と決まっていたようで、多くのエピソードを楽しめる前に、あっさりと連載が終了してしまいました。特に、連載最終回にあたる第5回は、無理に内容を詰め込んで駆け足で終わらせた感は否めず、随分と物足りなさも残りました。これは、ひどく残念な結果であり、他の「1年間連続新連載」の作品の多くが、同様に次々と短期連載で終わる中で、この作品もその中に紛れてしまい、ほとんど注目されずに消えてしまった感すらあります。

 そして、この「1年間連続新連載」、年間を通して毎号新連載を出し続ける、という企画だったのですが、思った以上にふるわず、ここから出た成功作品は多くありません。今のところ、せいぜい2〜3作品程度が定着したに留まっており、それ以外の多くは短期連載で終了してしまっています。
 しかし、この「リアリスの私写真」は、別に短期で終了するような作品ではなく、コンスタントに長期連載させても問題なかったように思えます。おだやかな「ゆる萌え」な作風も、ガンガンWINGの誌面には完璧にマッチしており、その点でも雑誌の連載作品にふさわしいものでした。今のガンガンWINGは、「1年間連続新連載」の不成功から、少なからず連載ラインナップが乱れてきたところがあります。そんな中でこの「リアリス」を続けさせていれば、少なくとも雑誌のラインナップの一助になったはずです。

 つまり、このマンガは、他の短期で終了した新連載陣とは異なり、実は数少ない成功作品のひとつでありながら、惜しくも短期で終了してしまった作品であると言えるのです。作者の和泉さん自身も、読み切り時代から中々の良作を残し、この作品も初連載ながら絵的にも内容的にも卒なくまとめており、将来性を感じさせる作家でした。ならば、もう少し頑張って連載を続けさせる選択肢もあったように思います。あるいは、今からでも遅くはないので、もう一度連載を持たせてほしい作家ですね。


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