<魔探偵ロキ>

2001・11・8
全面的に改訂2012・2・4

 「魔探偵ロキ」は、少年ガンガンで1999年2月号から始まった連載で、2001年12月号まで連載されました。この連載終了は、あの「エニックスお家騒動」によるもので、この騒動で中断を余儀なくされた代表的な作品のひとつとなっています。連載中断後、ガンガンから離脱した編集者たちが立ち上げた新雑誌「コミックブレイド」で連載が再開され、そちらでは、「魔探偵ロキ RAGNAROK」とタイトルを代え、こちらは2002年5月号から2004年10月号まで連載されました。この時期には、このタイトルでテレビアニメ化もされています。ここでは、主にエニックスの少年ガンガン時代の連載を扱っていきます。

 作者は、木下さくら。この連載以前に、角川系の少女誌でいくつか短期連載や読み切りの経歴があったようですが、それを知る人はあまり多くなかったようで、このガンガンでの連載が、ほとんど実質的なデビュー作となったと見てもよいでしょう。ガンガン以前の仕事は少女誌ということで、このガンガンでの連載が、初の少年誌での仕事となりました。それゆえに、作風が女性的、あるいは少女マンガ的とも感じられるところがあり、それはこの当時のガンガン、エニックスの他の連載のいくつかに共通して見られた傾向でもありました。その点において、この「魔探偵ロキ」は、当時のガンガン、エニックスを象徴する作品と見ていいかもしれません。

 作品の内容ですが、北欧神話の神々がキャラクターとして登場するミステリーもので、さらにはオカルト的な要素も随所に散見されるなど、その独特の設定、雰囲気が魅力の作品でした。初期の頃は、とりわけミステリー色が強く、探偵もの・事件ものとしてストーリーがよく練られ、非常に読めるものがありました。かつ、個性的なキャラクターや作者の遊び心満載のサービスも楽しく、ほぼ無名だった新人の作品にもかかわらず、あっという間にガンガンの人気連載の一角、それもトップクラスの人気マンガとなりました。

 しかし、連載中盤以降、初期の頃のミステリー色が薄れ、北欧神話絡みの話が主体となり、しかしこれがいまひとつ奮わず、若干面白さが薄れてしまったように感じました。これは、お家騒動で中断してのちに再開した「RAGNAROK」でも同じような傾向で、初期の頃に比べるといまひとつ評価は高くないようです。また、やはりお家騒動自体が連載に大きな影響を与えた点も否めず、他の同じように中断した数多くの作品と同様、残念な経過を辿ってしまった作品となっています。



・最も当時のエニックスのマンガを体現する作品だった。
 この「魔探偵ロキ」が連載を開始した当時の99年のガンガンは、前年以前からの人気連載が一通り揃い、その誌面がひとつの形として完成していました。創刊当時からの看板作品だった「ロトの紋章」こそ97年に終了していたものの、同じく初期の頃からの定番人気連載「ハーメルンのバイオリン弾き」や「魔法陣グルグル」「ツインシグナル」などは健在でした。
 さらに、96・97年の月2回刊時代に始まった連載で、雑誌に定着した人気作品が数多く、これが当時のガンガンの中心となっていました。「まもって守護月天!」「刻の大地」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「PON!とキマイラ」「東京アンダーグラウンド」「里見☆八犬伝」「GOGO!ぷりん帝国」などなど、これらのタイトルだけでも非常に充実していたことが分かります。

 そして、98年から99年にかけて、さらに強力な連載陣が加わり、その多くがガンガンでもトップクラスの人気連載へと加わりました。この「魔探偵ロキ」がそのひとつで、他には「スターオーシャン セカンドストーリー」「新撰組異聞PEACEMAKER」「スパイラル〜推理の絆〜」が挙げられます。
 これらの連載のうち、「新撰組異聞PEACEMAKER」のみ、やや女性向けの耽美的な傾向が強く、若干雰囲気が違うような感覚もありますが、それ以外の多くは極めて共通した作風、具体的には「中性的な雰囲気、絵柄、キャラクター」を持ち合わせ、これが当時のガンガン、エニックスを代表する作品群となったのです。

 その中でも、この「魔探偵ロキ」、その絵柄やキャラクター、あるいはストーリー作りにおいても、この中性的な作風を最も強く体現した作品だったと思うのです。かわいらしいキャラクターやポップな絵柄、ミステリーながらファンタジー(北欧神話)やオカルト要素をバランスよく織り込まれたストーリーは、男女問わず幅広い読者に親しまれ、まさにこの時期のエニックスのイメージを象徴する作品となりました。


・ミステリー・オカルト・北欧神話がうまくミックスされ、よく出来たストーリー。
 特に、初期のミステリーの要素がまだ強かった頃は、ストーリーもずば抜けて面白く、毎回読ませるエピソードが出来上がっていました。また、この当時は毎回のページ数がとても多く、コミックス1巻、2巻も速いペースで刊行され、これで早い時期から一気に人気を高める要因となりました。

 ミステリーとして考えると、本格推理と言えるほどの本格的なトリックや犯人探しの要素は、さほど多くはなかったと思います。しかし、探偵もの・事件ものとしての雰囲気はとてもよく出来ていて、ポップでかわいい絵柄からは意外なほど残酷な殺人事件を扱い、サイコホラー的な雰囲気すら強く感じました。ロキの探偵としての活躍も見事なものがあり、ちょっとした手がかりから犯人を探し当てる流れは、推理ものとしてもとても面白いものがあったと思います。

 また、事件にオカルト的な設定をふんだんに盛り込んだのも、このマンガの大きなオリジナリティとなりました。「魔王モレク」とか「カバラ」とか「エメラルド・タブレット」とか「吸血鬼伝説」とか、そういったマニアックなオカルトや神話の知識がたくさん出てきて、実に怪しげな雰囲気をかもし出している。さらには、ロキ自身、人に取り憑く魔を払う力を持ち、魔に取り憑かれた犯人に恐ろしい幻覚を見せて罰を与えるくだりが、毎回のクライマックスとなっていて、このシーンもとてもいい。そんな風に、現実的なミステリーと幻想的なオカルトとがうまくミックスされ、オカルトミステリーとも言える独特の作風を生んでいました。

 また、北欧神話のエピソードを元ネタにした物語も頻繁に登場しますし、これがまたこの「ロキ」ならではのエピソードとなっています。あの有名なニーベルンゲンの指環をモチーフにした話もありますし、個人的に最も面白いと感じたのが、ロキの息子で正体は巨大な蛇(ミドガルズオルム)である闇野くん(後述)が、囚われのロキを助ける時に、魔法が解けて元の姿に戻り、その巨大な蛇の頭が扉から飛び込んでくるシーンですね。これは視覚的にも非常に面白いエピソードで、普段はただの人間に見えて、本当は強大な存在である神々の力を垣間見られる、まさに「ロキ」ならではのストーリーだったと思いました。


・突出したキャラクターの魅力。
 そして、なんといっても個性的なキャラクターたちの魅力、これも非常に大きい。そして、これこそが、当時のガンガンの連載を代表する特徴だったと言っても過言ではありません。この作品もまた、絶大なほどのキャラクター人気を獲得していたのです。

 まず、なんと言っても主人公のロキ。ロキ様とも呼ばれるこの少年は、北欧神話の邪神・ロキが下界に下りて人間となった姿であり、姿は小さな少年ながら抜け目なく頭は切れ、さらにはイタズラ好きで遊び心にも溢れているという、神話のトリックスターをうまく再現した名キャラクターとなっていました。初期のミステリー色が強かった頃は、当時から既に人気だったサンデーの連載「名探偵コナン」の少年探偵コナン君と比較されることもよくありました。見た目は小さな子供ながら抜け目ない性格のあたり、確かに似たところはありますね。
 探偵として働くロキに仕えるのが、闇野竜介と呼ばれる青年です。一見して人当たりのよい優しい青年ですが、その正体はロキの息子であり、巨大な大蛇であるミドガルズオルム。父であるロキとは強い心のつながりで結ばれていて、単なる父と子という関係だけでなく、探偵と助手、主人と執事のような関係も垣間見られ、ロキをしっかりとサポートする信頼すべきパートナー的な存在となっています。

 さらには、ロキと同じく北欧神話の神として、トールが下界に下りた姿として登場するのが、鳴神くんという高校生。鉄腕アルバイターと呼ばれるほど人間世界に溶け込み、ロキとは違って猪突猛進で単純とも言える性格ですが、ロキとは相性がよく、彼もまたロキを助けて共に事件を解決する頼もしい仲間となっています。
 そして、ロキの元に何度も押しかけるのが、人間の高校生の女の子でミステリーマニアの大堂寺まゆら。好奇心旺盛で、自分からはあまり動かないロキを引っ張って事件へと連れて行く活発な性格で、明るいムードメーカー的な存在でした。そして、このまゆらのヒロインとしての人気が非常に高かったのも印象深い。

 彼らメインキャラクターに加え、サブキャラクターにも魅力的なキャラが多かった。中でも、そのまゆらの父親の大堂寺操(みさお)は、まゆらを溺愛する親バカぶりと、オカルトが苦手でロキに翻弄される姿で、「まゆらパパ」と呼ばれて一躍人気キャラクターとなりました。

 このような個々のキャラクターの個性もさることながら、彼らが組み合わさったキャラクターの構成も見事だったと思います。よき主人と従者的存在のロキと闇野、性格的に大きく違うものの、共に事件解決に動く頼もしい仲間同士と言えるロキと鳴神、そして鷹揚な探偵とそれを積極的に引っ張っていく明るいムードメーカーという、これもある種探偵と助手的な関係と言えるロキとまゆら・・・。こういったキャラクターの楽しい組み合わせが、さらにキャラクターの人気を押し上げたのだと思います。


・しかし、中盤以降の失速感はいただけない。
 しかし、そのような北欧神話からのキャラクターが、連載が進むに連れてさらに幾人も登場し、そのキャラクターたちを中心とし、北欧神話の物語そのものをモチーフとするストーリーへと徐々に移行していきます。初期の頃のようなミステリー(事件もの)色が薄れ、神話キャラクターたちの運命を描く連続ストーリーがメインとなっていくのです。

 これはこれで、一定の面白さはあったと思うのですが、反面、いまひとつと思える話、もしくは展開が増え、初期の頃のような切れのある面白さは、影を潜めるようになってしまいます。これは、お家騒動で連載が中断し、コミックブレイドへと移って「魔探偵ロキ RAGNAROK」となって以降、とりわけ顕著になるのですが、それ以前のガンガン連載時代から、そのような傾向は既にはっきりと見えていました。お家騒動での中断が、作品の質に大きな動揺を与えたエニックスの作品は、他にもいくつもありました。しかしこの「ロキ」の場合、それ以前のガンガン時代から、既にかなり失速していた感があったのです。

 理由としては、まず肝心のストーリーの進みが遅く、あまり面白いと感じられなくなったこと。しかも、キャラクターメインのおふざけ的なエピソードも多く、作者のこのマンガ、あるいはキャラクターへの思い入れが悪い方向へと進んでしまったように思いました。以前、とある評論誌に、「エニックスのマンガは、作者が自分の作品やキャラクターへの思い入れが強すぎて、自壊してしまったものが多かったのではないか」というような発言が載っていたことがあり、この意見には必ずしも全面的には賛成できなかったのですが、しかしこの「ロキ」に関しては、ある程度これが言えているのではないかと思ってしまいました。

 また、絵柄に関しても、初期の頃の方がよかったのではないかと思えるところがあります。中期以降の絵は、全体的に丸くかわいくなりすぎた感があり、初期の頃のかわいいながらも随所に切れのある絵柄、スタイリッシュな造型が影を潜めてしまったような気がするのです。これについては、当時からネット上のファンサイトでも「初期の頃の絵の方がよかった」という意見が既に見られましたし、わたしも確かにそうだなと頷いてしまった記憶があります。


・ブレイド時代も含めて、やはりガンガンの連載初期が最も面白かった。
 やはり、この「魔探偵ロキ」、初期の頃の面白さが最も際立った作品だったなと思います。実際、わたしは、新連載の第1話が載っていたガンガンを、面白くて何度も何度も読み返した記憶があります。そして、最初の10話くらいまではすごく面白くて、毎回のミステリー展開とオカルト・北欧神話絡みの設定に魅せられていました。それと同時に、かわいらしい中性的なキャラクター、この魅力も非常に大きかった。ストーリー自体の面白さと、キャラクターの人気、その双方が両立した、まさにエニックスならではのマンガだったと思います。

 また、初期の頃は、作者の木下さんの遊び心が光る、数々のサービスにも注目していました。雑誌のページの上のスペース、普通ならタイトルが入るその空間に、描きおろしのカットを入れたり、コミックスに「燕雀探偵社内報」なるペーパーを織り込んだり、そんな活動を作者自身が手がけていました。自分の作品にとことん愛着を抱き、仕事に反映させるその姿勢に、大いに感心したものです。

 しかし、その後、その愛着が悪い方向へと進んでしまったのか、余計な遊びが増えた形となり、初期の頃の切れのある面白さが、大きく減少してしまったように思います。中期以降の、北欧神話主体の物語も、それはそれで一定の面白さはあり、ある程度評価できるものだとは思いますが、しかし独特のオカルトミステリーとして非常に面白かった頃を思い出すと、やはりちょっと残念な感は否めないところです。

 その後の木下さんは、「魔探偵ロキ RAGNAROK」終了後も、いくつも新作を手がけ、最近ではロキの第3部とも言える「魔探偵ロキRAGNAROK〜新世界の神々〜」も連載されました。お家騒動でブレイドへ移籍した作家の多くが、途中で休載してその後消えてしまったり、あるいは残ってはいるものの以前ほど精力的に活動出来なかったりする中、こうして10年近く活動を続けているのは、まだずっといい方なのかもしれません。ロキの初期の頃の抜群の面白さを思い出せば、まだまだ活躍できる実力は備わっていると思いますし、これからも活動を見守っていきたいと思っています。


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