<マビノ×スタイル>

2006・12・9

 「マビノ×スタイル」は、KIDから発売された同名タイトルのゲームのコミック化作品で、ガンガンWINGにて2005年2月号より1年間ほど連載されました。作者はWING生え抜きの新人であるひいろ莎々で、これがデビュー作でした。完全な新人にいきなりゲームコミックを担当させるとは、随分と思い切った採用だと感じましたが、肝心の内容は卒なくまとめられた良作でした。

 そして、この作品は、通常のゲームコミックとは異なり、ゲームの発売に先駆けて連載が始まり、いわばゲームとの「連動企画」としての連載でした(もっとも、最近は、このような形でのゲームコミックはよく見られますが)。ゲームの流行に合わせたのか、最初から1年間と連載期間が決まっていたようで、全12話、単行本にして2巻で完結しています。

 さらに、これは原作ゲーム付きのコミックでありながら、原作とは異なる部分も多く、ストーリーから作画面まで、かなり印象の異なる作品となった感があります。ゲームの方は決して手放しで評価できない作品だったのですが、コミックの方はむしろ原作よりもうまく構成されており、こちらの方が確実に良作といってよいと思われます。大きな知名度こそ得られませんでしたが、雑誌内での評判もおおむねよく、ゲームとの連動にこだわらず、もっと長く連載が続いて欲しかったとも思いました。


・なぜガンガンWINGでのコミック化が企画されたのか。
 さて、このコミックの原作となるゲーム「マビノ×スタイル」ですが、これはKIDから発売されたノベルタイプのアドベンチャーゲーム(いわゆるギャルゲー、美少女ゲーム)です(原作ゲームのレビューについてはこちらを参照してください)。しかし、同社のゲームとしてはかなり大々的な企画のもとに製作されており、その様々な連動企画の一環として、このWINGでの連載が決定したようです。しかし、WING(もしくはスクエニ)においてこのようなタイプのゲームのコミック化が行われることは稀であり、なぜWINGに白羽の矢が立ったのか、一見して不思議でした。

 これは、おそらく、当時原作ゲームがタイアップしたアニメ制作会社からのつながりであると思われます。この「マビノ×スタイル」というゲーム、ゲーム内でアニメ的な演出を取り入れており、そのアニメシーンやCGを採用したのが、「J.C.STAFF」という制作会社でした。
 そして、その「J.C.STAFF」が、このゲームとまったく同時期に制作していたのが「まほらば〜Heartful Days〜」というTVアニメであり、これはもちろんガンガンWINGの連載作品にして最大の人気作品だった「まほらば」のアニメ化作品に他なりません。おそらくは、この「まほらば」アニメの制作によるつながりから、「まほらば」の連載雑誌であるガンガンWINGに、このゲームのコミック化作品を掲載することが決まったのではないか?と推測できるのです。つまり、このマンガは、ゲーム発売元のKIDと、ガンガンWINGとの間との、「J.C.STAFFつながり」によって企画されたものであり、あるいは別の言い方をすれば「まほらば」つながりで企画されたとも言えます。


・原作ゲームとはまったく雰囲気の異なる作画。
 以上のように、かなり意外なつながりで始まったこのマンガですが、当初からゲームとはかなり異なる雰囲気の作画が特徴的でした。
 原作ゲームの作画は、キャラクターデザイナーによるものと、アニメスタッフによるものがありますが、どちらもいかにも美少女ゲーム(ギャルゲー)然としたものであり、いわば男性向けの萌え、時にはエロを感じさせるような微妙な作風であり、人によってはかなり抵抗がありました。また、アニメスタッフの作画については、その出来自体も安定せず、ゲーム中で最も重要な汎用グラフィック(立ち絵)のデッサンが明らかに狂っていたりと、その点でもいい印象は得られませんでした。

 しかし、このコミック版担当のひいろさんの絵柄は、原作のそれとは明らかに方向性が異なっており、露骨に萌えやエロを感じさせる要素はなくなっています。むしろ、ガンガンWING、もしくはエニックス系マンガに特有の「中性的」な作風となっており、心地よいやわらかさ、涼やかさを感じさせるもので、その点で非常に好印象でした。ガンガンWINGという掲載誌の方向性を考えれば、このような作画となるのは当然と言えるでしょうし、そして、このような絵の方が、原作よりもはるかに印象が良かった点は間違いないでしょう。はっきりいって、このひいろさんの絵の方をゲームに採用して欲しかったくらいです。
 作風だけでなく、作画のレベルもおしなべて良好で、その点でも評価できました。決して描き込まれた絵ではありませんが、シンプルな描線で過不足なく描かれており、一個のマンガ作品として申し分のないレベルでした。背景も凝ったものではありませんが、要所要所で原作の世界観を感じさせるシーンはきっちりと描いています。一部アクションシーン、特に銃の描写には不満もありましたが、これはストーリーの方向性を考えれば仕方ないところでしょう。全体として、新人のデビュー作として十分に合格点を与えられる作画レベルだったと思います。


・原作よりもはるかに好感度の高い主人公(笑)。
 原作との違いは作画だけにとどまりません。内容面でも異なる点が非常に多いものでした。
 最も顕著だったのは、主人公の描かれ方でしょう。
 「マビノ×スタイル」の大まかなストーリーは、「なぜか異世界の魔法学院に飛ばされてしまった記憶消失の少年・御神楽圭(みかぐらけい)が、魔法学院の生徒である女の子たちと共に、元の世界に戻るため魔法の修行に励む」というものです。で、この主人公である少年・御神楽圭の描かれ方が、原作とは大いに異なるのです。

 原作ゲームの主人公は、ゲームのシナリオライターが男性だからか、端々でエロさが強調されており、ことあるごとにエロを求めるエピソードに事欠きませんでした。これは、原作のプレイヤーの間でもかなりの不評で、この主人公のあり方に不満を抱く人は少なくありませんでした。わたし個人も、このようなエロをやたら採り入れるシナリオはひどく不満であり、「このゲームのシナリオライターは一体何を考えているのか」とかなりの憤りを覚えました。

 しかし、このコミック版の主人公はまるで異なりました。さすがに、掲載誌のWINGのカラーからして、そのようなエロを強調するような話が読者に嫌われることは明白であり、そのあたりを配慮してか、このコミック版にはそのような描写はまったく見られません。主人公の性格も極めて穏やかで優しいものとなり、不快感はまったくなくなりました。加えて、前述のように、作画面でも中性的な絵柄となり、女性でも受け入れやすい外見になっており、その好感度は非常に高いものとなりました。はっきりいって、原作とコミック版の主人公は「まるで別人」と言ってもいいほど印象は異なり、もちろんコミック版の主人公の方が優れていることは言うまでもありません。正直なところ、原作ゲームでも不要なエロ要素はなくし、このような好感度の高い主人公にしてほしかったものです。


・原作よりも面白く分かりやすいストーリー。
 そして、肝心のストーリー自体も、原作からはかなりの部分で再構成され、大きく異なります。そして、こちらでも原作よりコミック版の方が優れているのです。
 原作のストーリーは、基本的に完全な一本道で、この手のゲームでは基本スタイルであるシナリオ分岐というものがなく、まずその点で不満でした。その上、肝心のストーリーもさほど面白いとは言えない平凡なエピソードが多く、決して満足度は高くありませんでした。
 中でも最も不満だったのが、ラストのクライマックスとその後に続くエンディングです。はっきりいって、今までのストーリーを完全に崩壊させるような意味不明の展開が続き、エンディングも説明不足で読者に解釈をゆだねるかのような投げっぱなしの終わり方で、あまりにも印象は最悪でした。いろいろな意味で「新世紀エヴァンゲリオン」を思わせるような不可解極まりないシナリオであり、「このゲームのシナリオライターはエヴァがやりたかっただけじゃないのか」と思わずにはいられない有り様でした。

 しかし、コミック版ではこのあたりもかなりの点で改善され、原作よりはるかに楽しめるようになっています。
 基本的なストーリーラインこそ原作とほぼ同じかもしれませんが、個々のエピソードは大きくアレンジされており、コミック版オリジナルのエピソードも多く、原作からは大きく変更されています。原作とは異なる、コミック版独自のストーリーであると考えてもよいでしょう。そして、このコミック版の方が個々のエピソードが面白く、読める作りになっているのがまず最大のポイントです。ストーリー展開にも原作ほどの無理がなく、より自然に進むように構成されています。
 そして、原作では最大の問題だった、ラストの展開も、コミック版の方がはるかに分かりやすくなっています。物語の基本的な設定は原作と同じものですが、原作のような意味不明の展開はなくなり、分かりやすい自然なストーリーになりました。これならば多くの読者に受け入れられるでしょう。エンディングは原作とは異なるコミック版オリジナルの終わり方ですが、こちらも納得感の強いものでした。

 総じて、原作のストーリーよりも面白く、かつはるかにうまくまとまっており、単行本2巻で終了という短さで少々物足りない点を除けば、こちらの方が満足度の高いものだったと思われます。


・この内容にして1年間で終了は惜しい。もっと長く続けてほしかった。
 以上のように、このコミック版「マビノ×スタイル」は、原作よりもはるかによく出来た作品であり、原作の低い評価とは異なり、かなりの良作に仕上がっている感があります。決して派手な人気はなかったものの、読者の評判はよく、かつ作風もWINGの誌面によく合ったもので、WINGの連載陣の一角を占めるには申し分ないものでした。

 しかし、元からゲームとの連動で1年間の連載と決まっていたらしく、連載の半分(半年)に差し掛かったあたりからラストに向けての展開が始まり、そのままきっかり1年間で終了してしまいました。しかし、正直なところ1年で終わらせるには惜しいものがあり、この内容ならそのまま長く続けてもよかったのではないかと思ってしまいました。特に、連載前半で見られた単発のエピソードが面白く、非常に穏やかで優しいイメージの話が多く、そういったほのぼのしたエピソードをもっと読みたかったというのが本音でした。ゲームの方があまりにも楽しめないものだったので、余計にそう思わざるを得ません。

 また、単純にWINGの連載のひとつとして、雑誌の連載ラインアップをひとつ確保するという目的でも、これを続ける意味はありました。このマンガの終了に前後して、WINGは「まほらば」を始めとする雑誌の中心作品の多くが終了を迎え、それに合わせて始まった大量の新連載企画(一年間連続新連載)も意外なほど成果が上がらず、結果として連載ラインナップが大きく乱れ、誌面が安定しなくなった感があります。このような状態が想定されるならば、安定した連載をひとつでも多く残しておくのも手だったのではないでしょうか。

 そして、この連載が終了した後、作者のひいろさんの次回作が長く登場していないのも残念なところです。デビュー作で任されたゲームコミックの製作を、ここまで卒なくこなしたのだから、その後にオリジナルの連載を持たせても、十分に良質な作品が期待できるのではないでしょうか。今の不安定なWINGの誌面で、彼女の連載をスタートさせれば、安定した連載ラインナップがひとつ確保できるのではないか。なんにせよ、たった1年間のゲームコミックの連載だけで消えてしまうには惜しい作家だと思われます。


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