<磨道>

2008・8・26
一部改訂・画像追加2009・5・4

 「磨道」は、ガンガンWINGで2007年11月号から開始された連載で、ネット上の個人サイトで制作・発表されるいわゆる「ウェブコミック」の人気作品を 、紙媒体の雑誌で連載化したものです。ウェブ上での原作のタイトルは「魔道」で、これを原作とは別の作画者によってコミック化しています。作者は、ウェブ上での原作者がパーダ、雑誌連載での作画を担当しているのが五十嵐洋平となっています。

 スクエニでは、これまでもこのようなウェブコミックからの作家登用を何度も行っており、特にヤングガンガンでは非常に盛んです。雑誌上での連載が成功した作家・作品も多く、中でもウェブ時代から実力派として定評の高かった筒井哲也の作品(「ダズハント」「リセット」など)は、紙媒体でも高い評価を獲得し、それ以上に何といっても高津カリノ(がはこ)の「WORKING!!」は、元々ウェブ上でも非常に人気が高かったのですが、雑誌上でもそれに劣らぬ大人気マンガとなりました。
 この「磨道」も、それらの作品に継ぐ同種の企画であることは間違いありませんが、しかし、原作のウェブコミックとは別の作画者が描いているという点で、大きく異なっています。これまでのウェブからの登用作品が、雑誌でもそのまま同一の作者が描いており、基本的にはまったく同じ感覚で楽しめるのに対して、この「磨道」は、まず作画の雰囲気が大きく異なる上に、肝心の内容面でもかなり大きなアレンジが加えられた「リメイク作品」となっており、相当に異なるイメージのマンガとなっているようです。

 そして、この作品は、2007年以降のガンガンWINGが積極的に採り入れようとしていた「王道バトルファンタジー」の要素が非常に強く、同系の作品の中でも特にその傾向が強いものとなっていました。少し前までのガンガンWINGでは特徴的だった「ゆる萌え」系の作品とはまったく雰囲気が異なっていて、むしろ、ガンガンの方の連載である「マテリアル・パズル」(土塚理弘)と非常によく似ているところもありました。。

 しかし、残念ながらこの「マテリアル・パズル」とは違い、最後まで大きな人気を得ることはかなわず、雑誌内では地味な作品に留まってしまいました。これは、絵柄的にあまり華がなく、地味な作画に終始していることに加え、ストーリー面でも面白さが伝わりにくい作風になっている点が大きな理由だったと思われます。あるいは、WINGの読者の好みとも、結局相性が合わなかったのかもしれません。結局、2009年のWINGの休刊に伴い、最後には完全な打ち切りで終了してしまいましたが、決して悪いとは言えない作品でもありましたので、少々惜しいと思ってしまいました。


・原作のウェブコミック「魔道」とは。
 このマンガの原作にあたるウェブコミック「魔道」も、王道バトル系ファンタジーとして非常に高い人気を誇り、サイトは数百万ヒットに及ぶアクセス数を(この連載が始まる前から)獲得しており、数あるウェブコミックの中でも、特に有名な作品となっていました。
 この作品の最大の魅力は、作者の圧倒的な創作意欲、これに尽きると思います。単なるアマチュアの無報酬の創作でありながら、毎週必ず多大なページを更新し続け、それを数年間続けました。先日ようやく終了したようですが、その総ページ数は数千ページに及び、まさに一大大河ファンタジーと呼ぶにふさわしい作品となりました。ウェブコミックには、このように旺盛な創作意欲で描いた長大な作品は珍しくないですが、その中でもこの「魔道」はトップクラスの作品ではないかと思われます。

 このマンガ、絵は決して綺麗とは言えません。むしろ、非常に雑にも見える絵柄であり、これをそのまま商業誌で掲載できるかどうかも微妙なところです。しかし、絵から感じる「勢い」「躍動感」には凄まじいものがあり、読者を強引に作品に引きずりこむ強烈なパワーを持っています。それに、雑に見えるとはいえ絵そのものが下手というわけでもなく、マンガの絵としてはむしろ技巧的でうまいと感じる部分も多々あり、決して劣っているわけではありませんでした。

 その上で、ストーリーや設定の上でも読者を引き込む大きな力があり、独特の魅力溢れるファンタジー設定(特に魔法に関する設定)と、テンポ良く進むストーリーとバトルの応酬は、一度読み始めた読者を止まらなくさせるほどの力を感じます。気が付いたらウェブページを100も200もクリックし続けて読みふけっていた・・・そういうマンガなのです。

 そして、このようなマンガの特徴が、あのガンガンの「マテリアル・パズル」とよく似ているのです。「マテリアル・パズル」も、月刊連載ながら毎回非常に多いページ数の連載を続け、読者を飽きさせませんでした。絵柄も決して上手い絵とは言えませんが、独特の勢いのある作画、「マンガとしてうまい」と言える見せ方のうまさがあり、そして壮大なファンタジー設定、独特の魔法設定と、テンポよく進むストーリーとバトルの面白さで、読者を魅了してきました。このように、作品の多くの点で、ふたつの作品はよく似ており、このような王道バトルファンタジー、王道少年マンガを好む読者には、どちらも非常におすすめできるマンガとなっているようです。


・作画は確かに綺麗にまとまったものになったが・・・。
 では、このガンガンWINGで連載することになった「磨道」はどうなのか。
 まず、明らかに異なるのは絵柄です。作画担当が異なるのだから当然ですが、これで作品の印象が大きく変わりました。180度変わったと言っても過言ではありません。

 まず、このマンガ、連載の前に一度前後編の読み切りで掲載されています。これは、ガンガンWINGの2007年2・3月号の掲載された中編で、本編ではメインキャラクターのひとりである魔道士メッシュと、その友人でこの話で命を落としてしまうカサギという剣士の話で、本編に繋がるプレストーリーのような一編となっていました。この時点で、すでに「大人気ウェブコミックの商業誌初掲載」であることを大きく宣伝文句にしていました。が、この時から既にいまいち地味な印象は否めないものだったのです。
 基本となる設定とキャラクターこそウェブコミックと共通していますが、その絵柄から受ける印象は正反対で、むしろ、非常に落ち着いた、動きの少ない「静的」なものすら感じる絵柄でした。これからは、原作ウェブコミックの躍動感が感じられず、作品から受ける印象は非常に薄いものだったと記憶しています。そのため、わたしは、あらすじ程度しかこの読み切りのことを記憶していません。

 そして、連載化された後もまったく同じ印象は続きます。作画自体は非常に丁寧なもので、比較的綺麗なものにまとまっており、作画担当者の真面目な仕事ぶりが感じられます。また、かなりくせも強かった原作の絵柄と比べて、ひどくくせの少ない作画となっており、その点で万人向けと言えるかもしれません。WING作品、スクエニ作品に独特の「中性的」な雰囲気もある程度感じられるもので、実際にスクエニ系の中性的なマンガと見る人もいるようです。

 しかし、確かに丁寧な作画かもしれませんが、読者を惹きつける魅力には乏しいと言わざるをえません。読み切り版同様に、受ける印象はとにかく地味で、全体的に動きがあまり感じられない静的な作風であり、ある種「ぎこちなさ」まで感じてしまいます。これには、動きの感じられないシーンが全体的に多いことに加えて(アクションシーンでさえ「止め絵」に近い感覚がある)、全体的に筆致が薄くてインパクトに欠け、背景もいまいち印象に残らないことが原因でしょう。背景は、場所によっては確かに丁寧にうまく描けているのですが、それ以上に筆致が薄いせいか、原稿全体が白っぽく感じられ鮮烈さに欠けるのが、大きなマイナスとなっています。黒い「ベタ」の部分が少ないのも、鮮烈さに欠ける大きな原因でしょう。

 加えて、スクエニマンガ独特の「中性的」な魅力があるかどうかも少々疑問です。一応、中性的と言って言えなくもない作画なのですが、他のスクエニマンガのような人を惹きつける力には乏しいようで、特にキャラクターで人を惹きつける要素が低い点は否めないでしょう。キャラクターの作画にいまいち張りがなく、見た目のケレン味に欠ける点が大きかったのです。

 以上のような点から、どうにも見た目の印象があまりにも弱く、地味な作風に終始してしまったのが最大の欠点です。雑誌をたまたま手にとってこのページを目にした人でも、あえてこのマンガに注目する人は、決して多くなかったのではないでしょうか。


・ストーリーも原作ほどの勢いが感じられない。
 そして、そんな絵柄の地味さに影響を受けてしまったのか、肝心の内容面、特にストーリーでも躍動感が大きく減じてしまったようです。
 設定やストーリーの細部でかなりのアレンジが加えられているとはいえ、基本的には原作の流れを踏襲しているはずなのに、そのストーリーには、原作のような「次々と先を読みたくなる」ような感覚に乏しいのです。

 なぜか。やはり、第一に作画の違いが大きく影響しています。丁寧な作画で静的にシーンを区切る作画スタイルでは、次々とページをめくって読むような読書法は合っておらず、むしろひとつひとつのシーンをじっくりと噛み砕いて読み進めるような、正反対の読み方のマンガになったような気がします。これで、ストーリーをテンポよく読み進める面白さが大きく減じてしまった感は否めないでしょう。いや、実はこの雑誌版でも、ネーム(マンガの立ち割り)は原作者のパーダが担当しており、コマ割りのセンスなどはウェブ版とさして変わっていないはずなのですが、それでも作画者の違いからここまで受ける印象が異なってしまうのです。

 加えて、ストーリーそのものの構成においても、読者を引き付ける力にやや乏しい。序盤のうちが特にそうで、王道ファンタジーらしくまずは主要キャラクターの顔見せ的な紹介と、見るからに悪人のザコ敵を倒すエピソードから始まりますが、そこからしてどうしてもありがちで印象に欠けてしまいます。その後、キャラクターが揃ってきて本格的なバトルが始まり、独特の魔法設定が明かされるあたりから、ようやくある程度盛り上がってきますが、それでも基本的にはオーソドックスなファンタジーものの域を出ない展開です。原作だと、このあたりは有無を言わさぬ勢いで読者を引っ張っていくので気にならないのですが、このWING連載版にはそこまでの力を感じないのです。

 肝心のバトルシーンがぱっとしないのも、もうひとつの大きな原因かもしれません。大いに盛り上がる魔法戦においても、爆発のようなエフェクト表現で済ませている箇所が非常に多く、面白みに欠けます。最初の頃から、もう少し駆け引きの描写が見られれば面白さも変わるのですが、1巻のあたりだと、単に「魔力の強さ」で勝敗が決まっているシーンがほとんどで、今ひとつ面白さに乏しい感は否めないと思います。


・キャラクターの個性、掘り下げには見るべき点がある。
 しかし、決して悪い点ばかりではありません。原作ゆずりのキャラクターの個性と、その掘り下げには見るべきものがあり、キャラクターの深い言動を味わうことは存分に出来ます。(これも、同じくキャラクターの掘り下げで定評のある「マテリアル・パズル」との共通点と言えます。)
 特に、序盤から登場する3人のメインキャラクター、ブラウン・メッシュ・リントの三人がいずれも面白い。

 ブラウンは、国家に仕える磨道士として、今は日々辺境で魔物や盗賊を退治する任務についています。基本的には温厚でバランスの取れた性格をしていますが、任務には非常に冷徹なところものぞかせ、悪人を倒す(殺す)ことにも容赦しない側面があります。これは、正反対の思想を持つリンツとは対立するところであり、リントからそのやり方はひどい、悪人は改心させるべきだと反論された時も、「悪人を改心させるのは息の根を止めるよりもはるかに手間がかかる そんな悠長なことは辺境ではやっていられない」と答え、「でも世の中が悪いから悪人になった人もいる」と言われた時にも、「しかし悪人にならなかった者の方が多い。わたしはそっちの味方をする(ために悪人は殺す)」とよどみなく答えます。この思想自体は読者によって賛否両論ありそうですが、しかし、最初からこのようにキャラクターの根幹となる思想をしっかりと読者に示すことで、キャラクターの人となりがはっきりと理解され、あやふやな言動で読者が迷うようなことはなくなっています。最初からキャラクターの基本となる性格・思想がきっちりと設定されてゆらぎがないことが、このマンガの大きな魅力かもしれません。

 メッシュは、読み切り版から登場するキャラクターで、かつて任務で過酷な目に合い、相棒で無二の親友だったカサギという男を失い、そのため国家に仕える気を失い離脱、今では辺境で磨道士としての力を勝手に使い、自らの目的のためだけに行動しています。彼は、その点では悪人とも言えるかもしれませんし、言動にも粗雑な面が見られますが、しかし心底悪人というわけではなく、自らの目的のために手段を選ばず行動するアクティブな性格には、堅物であるブラウンとは真逆の魅力があります。

 そして、このふたり以上に、独特の個性を持つのが、リントというまだ小さな少女です。彼女は、一見して男の子にしか見えないなりをした年端もいかない少女であり、しゃべる言葉も一見して無邪気そのものです。しかし、実は貧困で苦しみひどい目に遭ってきたという過去を持ち、そのためか無邪気に見える行動もひどく計算された狡猾さを帯びており、偶然出会ったブラウンを自分を養ってくれそうな男だと見るや、巧みに立ち回って結局付いていくことに成功してしまいます。
 その一方で、悪人や魔物をも殺すことを嫌い、戦いを避けるような優しい思想を持ち合わせており、その点でブラウンとは対立しているわけですが、そんな彼女が実は大きな力の素質を持っていることが発覚し、今度はその力を使って、磨道士や魔物たちの間でも臆せず飄々と立ち回るようになるのです。このつかみ所のない独特の性格は、他のキャラクター以上に大きな魅力を持っています。


・しかし、最後まで地味な連載にとどまってしまった感は否めなかった。
 このように、確かに面白いところもありますし、基本的には決して悪い作品ではありません。作画担当者である五十嵐さんの丁寧な仕事ぶりには好感が持てますし、王道ファンタジーを強く意識した魅力な設定・ストーリーには、それ自体に大きな魅力があります。一旦腰を据えてじっくりと読み始めれば、すっと読み進められる面白さを持っています。

 しかし、決して悪いマンガではないものの、それ以上に読者を惹きつけるだけの作品になっていなかったのも事実でした。とにかく、受ける印象が地味すぎました。作画があまりにも静的で躍動感に欠け、色合いも薄さを感じるようなもので、そのためかぱっと見た時の印象があまりにも薄く、初見で読者を引き付けることが出来ませんでした。その上、ストーリーにおいても、序盤のうちは王道的でさほど目立たない始まり方で、こちらでもあまり多くの読者の注目を集めることが出来なかったようです。原作はウェブ上で大人気を誇る作品なのですが、作画担当者を変えただけでここまで印象が薄くなってしまうのか・・・と思わずにはいられませんでした。そのため、雑誌内でもひどく存在感の薄い作品に留まってしまったようなのです。
 のちに発売されたコミックスも、大きな扱いにはなれなかったようで、書店への入荷冊数も低いレベルにとどまってしまいました。スクエニでは、売れ線のコミックスとそうでないコミックスとの差が激しいのですが(他の出版社でもそうかも)、このマンガは最初から入荷冊数は非常に低い推移を辿ってしまい、これではコミックス派の読者の目に留まることも少なかったでしょう。

 とはいえ、雑誌では熱心な読者にはきっちりとチェックされていたようで、読み込めば面白い雑誌の中堅的な作品として、最終的には一定の評価を確立したのは間違いないようです。WINGの他の同系のバトルファンタジー連載と比べても、このマンガが最も本格的で深みのある内容を感じさせます。ウェブコミックを手がける原作者がネームを切っているようでもあり、その点でも悪い構成の作品ではありません。また、連載が進むにつれ、絵にも進歩が見られるようになり、初期の頃より筆致が濃くなり、背景の描き込みもより目立つようになり、少しずつ見た目の印象も強くなってきたように思えました。これも今後に向けたいい材料だと思ったのですが・・・。

 しかし、結局のところまとまった人気は得られなかったようで、2009年5月号でのWINGの休刊に伴い、他の人気連載の多くが雑誌を移籍して連載を継続していくのに対して、こちらは完全な打ち切り仕様での終了を余儀なくされました。人気の点で劣ることは明白だったので、これは妥当な決定だったとは思いますが、それでも決して悪い作品ではなかっただけに、少々惜しい終わり方だったと思います。もしWINGが休刊しなければ、そのまま連載は継続したのではないでしょうか。
 また、WINGにおいて、同系の王道ファンタジー路線の作品が、ほとんど失敗に終わったところを見ても、このマンガの終了は惜しいところがありました。結局のところ、本来のWING読者との相性が悪かったのではないか・・・。そう思わずにはいられませんでした。もしかすれば、スクエニの他の雑誌での掲載ならば、より注目された可能性もあったかもしれません。その点でも残念な作品でありました。


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