<マジナル>

2006・2・27

 「マジナル」は、かつて2002年よりガンガンパワードで連載された中編作品です。作者はだいらくまさひこですが、これは、かつて1998〜1999年のガンガン誌上で、非常にレベルの高い読み切りである「水辺の物語」「コウノトリの仕事」を掲載したMINAMOさんの別ペンネームであり、かつての期待の新人がパワード誌上でようやく連載を開始したという形になっています。
 ガンガンパワードは、ガンガンの増刊という扱いの季刊誌で、主に新人の読み切り作品を掲載する場としての雑誌です。そして、創刊初期(2001年)の頃には、掲載されるのは新人の読み切り作品と、主にガンガンの人気作品の外伝(短編のサイドストーリー)のみで、連載と言えるものはほとんどありませんでした。しかし、時が経つにつれて、次第にオリジナルの連載作品も載せるようになりますが、その最初の連載作品としてスタートしたのが、この「マジナル」なのです。
 その点に於いて、この「マジナル」は、のちのガンガンパワードの連載作品の先駆けとも言える存在です。季刊誌のペースで全4回、つまり1年間ほど連載され、のちにパワードの連載作品として最初に単行本化されました。単行本として一冊にまとめるにあたって、少しページ数が足りなかったのか、作者の投稿受賞作である「水辺の物語」が巻末に同時掲載されています。


・圧倒的な画力と世界観。
 だいらくまさひこ(MINAMO)さんは、かつての読み切り作品からして、新人とは思えぬ完成された画力と、その画力から繰り出される圧倒的な世界観が素晴らしいものがありました。そして、この連載作品でも、その画力と世界観の完成度は全く衰えておらず、さらに高いレベルに達しています。

 だいらくまさひこさんの絵の特に優れた点は、やはり空間描写の巧みさ鮮烈な色彩感覚です。このふたつに関しては、読み切り作品の時と変わらぬ完成度を見せています。
 そして、今回の「マジナル」では、かつての作品と比べて随分と「黒」が目立つ色調の作品となっており、さらにその色彩の鮮烈さが際立つ作品となっています。かつての読み切りでは、白を基調とした落ち着いた画面が非常に美しく、そこにピンポイントの形で効果的に入る黒い画面が印象深いものでした。しかし、今作品では、作中の人物、服装、建造物、乗り物、アクションシーンの効果、そして夜の空と、多くの要素において黒の色彩が取り入れられています。そのため、作品全般に渡って白と黒のコントラストが実に鮮烈な画面を生み出しており、見た目からして独特のイメージを持つ作品となっています。

 そしてもうひとつ、今作品で追加されたビジュアル上の特徴として、独特の造形デザインがあります。作品の鍵となる「マジナ石」と呼ばれる魔力を秘めた石を筆頭に、人々の服装、乗り物や建造物など、作中の各種オブジェのフォルムが特徴的で、これがまたこの作品の独特のイメージをさらに推進させています。特に、それら乗り物や建造物(巨大なビル)が入り乱れる都市の光景は、この作品の世界観を最も特徴的に表していると言えるでしょう。読み切り作品では、全般に広い空間が多く開放的なイメージでしたが、今回は様々なフォルムのガジェット(小道具)や乗り物、建造物が画面を埋めていくかのような、賑やかで雑多なイメージとなっています。


・臨場感溢れる迫真の演出。
 そして、この絵の持つもうひとつの魅力として、臨場感溢れる演出があります。元々、だいらくまさひこ(MINAMO)さんは、単に世界観の構築技術が優れているのみならず、動きのあるアクションシーンを描かせてもトップレベルの画力を持ち合わせており、まるで物語を間近で見ているかのような、抜群の臨場感を存分に味わうことが出来ます。
 「マジナル」で、それを象徴する場面は、主人公たちが操る乗り物である「シャドーシップ」の航行シーンでしょう。冒頭第一話では、主人公とライバルたちの乗るシャドーシップ(空中を異空間を駆ける乗り物)が、都市のビル街を異空間を駆け抜ける「シャドーシップレース」のスピード感溢れる駆け引きが見られ、さらに、物語後半では主人公とヒロインが追っ手から逃れるために再びシャドーシップが活躍します。今作品では、このシャドーシップによる航行アクションが物語最大の見せ場と言っても過言ではないでしょう。
 シャドーシップの航行シーン以外でも、黒いエフェクトをふんだんに使ったアクションシーンや、巨大な物体が大迫力で迫ってくるシーンもふんだんに見られ、その迫真の演出には大いに引き込まれるところがあります。


・ストーリーは定番ではあるが・・・。
 このように、この「マジナル」の持つ世界観や演出面での力は素晴らしく、ビジュアル的には非常にレベルの高い作品です。それでは、次に肝心の内容・・・ストーリーやテーマについての出来はどうでしょうか。
 こちらの方は、意外にもオーソドックスで、シンプルとも言えるストーリーです。「黒マジナ」という、物語の鍵を握る強力な魔法石を持って逃げ出したマジナル(魔法使い)の少女(リータ)が、主人公である少年(オルカ)と出会って助けられ、少女を狙う追っ手から一緒に逃げていくというもので、ファンタジー世界での少年少女の物語としては、むしろ王道、定番中の定番と言えるかもしれません。

 しかし、大枠はシンプルな王道で定番とはいえ、個々の要素ではかなりの工夫が感じられる力作ではあります。個人的には、主人公の少年もヒロインの少女も、あるいは敵役である魔法使いたちも、それぞれが明確な信念を持ち、それぞれがそれなりの大義を持って行動している点が良いですね。実は、この作品は勧善懲悪ではなく、敵である魔法使いたちの行動信念にも一理あり、必ずしも明確な悪というものが存在しません。必ずしも「ヒロイン=善、敵=悪」とは言い切れず、むしろどちらにも善悪の部分が入り混じっている印象で、一概にどちらがいいとは決められない深い物語になっています。主人公の少年も、最初はヒロインとは異なる考え方を持っており、最初からヒロインの少女に協力するわけではなく、自分の思いをぶつけるシーンもあります。このあたりの心理描写、登場人物たちの信念の葛藤が、物語のひとつのキーポイントと見てよいでしょう。

 キャラクター一人一人の作りこみもいいですね。主人公のオルカは、単に熱血のみが強調されたヒーローではなく、地に足をつけて考える力を持ち、いざという時には毅然と行動を起こす優れた人物ですし、ヒロインのリータも非常に強い信念を持ち、主人公に反発されてもなおそれを貫こうとします。ふたりの回りを彩るサブキャラクターたちもいい味を出しています。主人公の妹で名サポーターであるマーロ、主人公のライバル2人組で、強面の大男ながら気のいいピカード兄弟と、どれも個性的なキャラクターばかり。個人的には、陽気で気さくな大男で、最後まで主人公をバックアップするピカード兄弟がかなり好きでしたね。
主人公のオルカ(右)とヒロインのリータ(左)ピカード兄弟と主人公の妹マーロ
 ただ、その一方で、主人公に対抗する敵役にあまり個性が見られなかったのは少々残念でありました。敵役として表に出るのは、魔法使いたちのリーダー(マジナルマスター)くらいで、しかも彼はいつも仮面を被って素顔も見えないため、いまひとつ印象に残りません。それ以外の魔法使いたちも「その他大勢」程度の描き方しかなされておらず、少々物足りません。主人公の敵役に誰か一人でも個性的なキャラクターがいれば、さらに面白くなったと思うのですが・・・。


・とはいえ、全体的にはいまひとつの印象か。
 上記のように、この「マジナル」の物語は、基本がオーソドックスで定番なストーリーではありながら、個々の要素ではかなりの工夫が感じられる力作です。しかし、個人的な印象としては、やはり「この作者の作品にしては今ひとつか」と感じています。
 まず、如何せんあまりにも物語が定番すぎることへの不満があります。この作者の最大の持ち味は、圧倒的な画力と世界観にあることは間違いなく、そちらの方では素晴らしい個性が感じられるのですが、しかし、その個性的なビジュアル面での出来栄えに対して、肝心の物語があまりにも定番、王道すぎて、作品全体の面白みがスポイルされていることは否定できません。ビジュアル面での素晴らしい完成度を、ありきたりすぎるストーリーが打ち消してしまっているわけです。
 そもそも、作者のかつての読み切りである「水辺の物語」「コウノトリの仕事」では、その画力、世界観もさることながら、ストーリー、内容面でのオリジナリティも卓越したものがありました。ビジュアルと、物語と、その双方が優れていたからこそ、読み切りながらあれだけの名作になれたのです。しかし、この「マジナル」では、ビジュアルは良くても内容がいまいちと、正直片手落ちの感があります。
 もちろん、前述の通り、物語の大枠は定番ながら、個々の要素ではかなりの工夫は感じられます。しかし、この作品は全4回で完結し、単行本一巻にも満たない程度の中編作品です。となると、作品のほとんどが物語の本筋で占められてしまい、それ以外の個々の工夫の部分にはさほどのページが割けていないのが現状なのです。これが、もう少し長期の連載を見越した分量のある作品だったならば、まだまだ様々な描写にページを割いた深みのある物語になったかもしれません。しかし、残念ながら、この作品は季刊誌という連載ペースの遅い媒体で、しかも全4回という少ない連載回数で終わってしまっており、物語の大枠を提示しただけで終わってしまっています。

 もうひとつ言えば、「物語に純粋な悪が存在しない」というのも、考えようによっては難点かもしれません。もちろん、この要素がより深みのある物語を生み出しているのは確かなのですが、しかし、「純粋な悪役が存在しない」ということは、「悪を倒す」というカタルシスが存在しないということでもあります。「悪い奴をスカッと爽快に倒す」という、王道ファンタジー、王道少年マンガ的なカタルシスを求める読者には、正直物足りないかもしれないのです。加えて前述のように、敵役のキャラクターに個性的な人物が存在しないのも少々残念なところです。


・季刊の短期連載で本来の実力が出し切れなかった惜作か。
 このように、この作品は「節々に作者の努力は感じられ、悪くはない出来には仕上がっているものの、全体的には定番で王道の物語を提示するのみに終わった、少々物足りない作品」というのが個人的な感想です。正直なところ、「逃げ出したヒロインが主人公と出会い、共に大逃走活劇を繰り広げるというストーリーで、しかも物語のキーアイテムが魔力を持つ石である」という時点で、「『天空の城ラピュタ』の焼き直し」だと言って言えないこともない作品だと思います。もちろん「純粋な悪役が存在しない」といったオリジナリティを感じられる部分もあるにはありますが、作品全体を覆う定番物の印象を覆すには至っていないと感じました。

 さらには、この作品の連載がガンガン増刊のパワードという季刊誌で行われ、しかも全4回という短期で終了した点が、作品の完成度に影を落としている印象があります。
 そもそも、季刊というあまりにも発刊ペースの遅い雑誌で、しかも全4回で終了する短期連載では、中々作品を盛り上げるのは難しいのではないか、という疑問があります。事実、この「マジナル」を発端に、これまでにもいくつものマンガがパワードで連載してきましたが、連載が盛り上がったケースは今のところ極少数です。しかも、「マジナル」はたった4回の連載で、単行本一巻にも満たない分量で終了しました。これでは、物語の大筋を追いかけるのに精一杯で、それ以上の作品は中々生まれないのではないでしょうか。

 そして、この「パワード」という雑誌が、主にエニックス(スクウェア・エニックス)の新人の読み切り作品を掲載する場であり、そのため発行部数が極端に少なく、コアなエニックス読者以外にはほとんど読まれていない雑誌であったことも、作品の盛り上がり多大な影響を及ぼしています。正直、この作品は、「パワード」という非常にマイナーな雑誌で、しかもわずか4回の連載ということで、ほとんど誰にも知られないままで終わってしまった感が強いのです。
 作者のだいらくまさひこ(MINAMO)さんは、かつてガンガン誌上で珠玉とも言える高い完成度の読み切りを残した作家です。それならば、より多くの読者に読まれる、注目度の高い本誌(月刊少年ガンガン)で連載させるべきだったのではないかとも思えます。月刊での長期連載ならば、作品の印象は大いに変わったのではないでしょうか。
 しかし、残念ながらそれは無理な状況でした。当時のガンガンは、かつてだいらくまさひこ(MINAMO)さんが読み切りを残した時代のガンガンとは路線を変更しており、だいらくさんのような個性的な作品が載る余地は無くなっていたのです。いや、そもそも、だいらくさんが増刊のパワードの方での連載を余儀なくされたのも、このようなガンガン本誌の事情によるところが大きかったのです。

 そして、この連載を最後に、以後だいらくさんは新作を発表することはなく、結局そのまま消えてしまった感があります。あれだけの超実力派の新人が、季刊誌での短期連載のみを最後に、ほとんど人に知られることなく消えていったというのはあまりにも不遇でした。「マジナル」連載時代以降も、ガンガンの路線変更はまだまだ続いており、ガンガン本誌での連載は相変わらず難しい状況でしたが、何とか他の雑誌で新たなる本格連載は出来なかったものか。そのあたりが非常に悔やまれます。


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