<まじぴこる>

2008・8・15
一部改訂・画像追加2009・3・14

 「まじぴこる」は、ガンガンWINGで2008年4月号から開始された連載で、同誌で少し前まで「天正やおよろず」を連載していた稀捺かのとによる新連載でした。かつての人気作家による新しい連載ということで、開始当初からかなり大きな扱いを受けており、連載第1回は巻頭カラー、そののちもよくセンターカラーになっていました。

 内容的には、ライト感覚のファンタジーコメディ、といった感じの作品で、ドタバタのアクションやラブコメがこの作者ならではのかわいらしい絵柄で存分に描かれていました。前作「天正やおよろず」が、和風世界でのコメディ作品で、どこまでもまったりほのぼのした作風だったのに対して、今回はある程度その雰囲気は残しつつ、よりドタバタのアクション要素が強くなっており、随分とアクティブな印象を受けます。また、絵柄自体も昔に比べれば大きく描き方が変わっており、こちらでも昔より動的な印象を受けます。

 このマンガの開始当時のガンガンWINGは、かねてよりの長期連載が次々と終了を迎え、人気作家たちが次々と連載を終了して誌面からいなくなっており、ほとんどの作家が帰ってこないという状態だったのですが、稀捺さんは、その中でも真っ先に誌面に復帰した作家であり、その点においてひどく貴重な存在でした。「天正やおよろず」の連載が終了したのが2007年の1月号で、その後1年余りでの復帰となりました。これより前に連載を終了した人気作家も何人かいるのですが、彼らのほとんどが誰も復帰しなかったことを考えると、これでもまだ早い復帰だと言えました。

 このように、人気作家の復活ということで、かつてと同様の面白い作品が期待されていたのですが、残念ながら今ひとつ前作ほども面白さには至ることができなかったようです。これには、今回から導入されたアクティブな作風がぱっとせず、ラブコメ的な設定もありきたりな感があり、絵的にも雑に思えるところが多いなど、全体的にこれといった突出した要素がないためだと思われました。それでも、決して悪い連載とまでは思いませんでしたが、しかし「そこそこ」の連載といったレベルにとどまってしまったようで、物足りない感は否めませんでした。

 しかも、その上、連載開始から1年も経たない2009年2月号において、明らかに打ち切りと思える終了を迎えてしまったのです。確かに、今ひとつの連載とも思えましたが、それでも人気作家の連載として誌面ではかなり大きな扱いで始まりましたし、こんなに早く終了するのはあまりにも意外で、大いに落胆してしまいました。そして、しばらくのちにWINGそのものまで休刊してしまったところを見ると、このマンガもそれに合わせて終了したのではないかと思わせる節もありました。WING自体がもはや末期的な落ち込みを示していた時期でもあり、このマンガもその中で本来の活躍が出来なかったのではないかと思わずにはいられませんでした。


・看板作品の一歩後ろで活躍した前回の連載。
 前作である「天正やおよろず」は、あの「エニックスお家騒動」の際に、抜けた大量の連載の穴を埋めるために急遽開始された連載で、その後のWINGを支える人気連載の一角として、非常に長い連載となりました。これ以外のお家騒動時の新連載が、ことごとく成功せず短期で終了する中、ほぼ唯一の成功作となり、同じくお家騒動前後から連載を開始した「まほらば」「dear」と並んで、当時の雑誌の三大連載だったと言っても過言ではありませんでした。

 しかし、この2作品に比べると、一歩下がったようなところもあり、特に連載がある程度進んだ後は、どちらかと言えば雑誌の中堅的存在へと変わっていきました。少し後に連載を開始する人気作品群「機工魔術士」「瀬戸の花嫁」「ショショリカ」と比べても、やはり雑誌の表に出ることは少ない存在で、連載中期以降は特にその傾向が強くなります。

 理由としては、このマンガは、とにかく「まったり」感全開の雰囲気で、どこまでもほのぼのと出来る反面、ややインパクトに乏しい感があるためだと思われました。中でも、他の人気連載が、ことごとく「恋愛」「ラブコメ」的な要素を持っているのに対し、この「天正やおよろず」には、恋愛と言える要素が非常に乏しく、どちらかと言えばキャラクター同士の「家族」的な付き合い、ほのぼのした親密な関係を描くことに終始したことも大きな理由かも知れません。あるいは、中盤以降シリアスな展開に入って以降、連載ペースが不安定になりページ数が安定せず、勢いが持続しなかったこともあるでしょう。

 同時期に開始した「まほらば」「dear」と比べても、アニメ化した「まほらば」ほどの人気にはもちろん及びませんでしたし、「dear」に比べても熱心な愛好者の数は少なかったと思います。
 しかし、その一方で、かなり幅広い読者に長く親しまれたことも事実で、WINGの中でも極めて安定した中堅連載として活躍しました。最後までシリアスながらほのぼのした作風のままで終了しましたが、もうちょっと長く続いても良かったなと思いました。


・全体的に今回の作風はいまひとつ。
 しかし、今回の新規連載である「まじぴこる」は、前作ほどの安定感に乏しく、今のところこれといった見所にも乏しいように思われます。

 今回の主役は、魔法使いになるための試験に挑む高校生・東条ゆま。同じく魔法使いを目指す高校生・伝明寺艶子と共に、日々先生から出される課題のクリアに励み、魔法使いとしてのレベルを上げていく、というようなお話です。

 試験の内容は、アクティブな体力系がほとんどで、なぜか逃げ出した動物を捕まえたり、なぜかゴムボールで遊んだりといった野外活動的なイベントが多く、ゆまたちが魔法を使って試験クリアに挑む賑やかなドタバタ系アクションが、このマンガの最大のポイントとなっていると見てよいでしょう。
 これはこれで中々楽しくもあるのですが、今ひとつ緊張感に欠ける脱力的な展開も多く、使う魔法も割と力押し系(?)の攻撃魔法がほとんどで、戦闘ものアクションとしてこれといった突出した面白さが、あまり感じられなかったのです。ドタバタの展開で主人公たちが笑えるリアクションを示すあたりは、中々にノリの良さはあり、決して悪いマンガではないと思うのですが、これといったオリジナリティには乏しく、割とよく見かけるドタバタアクションコメディに留まってしまったように思えました。

 そしてもうひとつ、前作「天正やおよろず」と異なり、ラブコメ的な要素が入っているのも、見方によってはいまいちかもしれません。東条ゆまは、同級生の要(かなめ)くんに片思いしており、魔法アレルギーで魔法使いを避けがちな彼に対して、前途多難な恋に励むというのが、もうひとつの見所にはなっているのですが、これもありきたりと言えなくはない設定で、さほど印象に残る部分がありません。

 わたしは、「天正やおよろず」の最大の魅力のひとつが、この恋愛要素がほとんどなかったことだと思っています。恋愛要素なしで、ひたすらほのぼのまったりした雰囲気だけでも、あそこまで萌えるマンガを描けることを証明した(笑)。そして、これこそが、他のWINGの人気連載にはなかった最大のオリジナリティだったと思っています。同時期の人気マンガは「まほらば」にしろ「dear」にしろ「機工魔術士」にしろ「瀬戸の花嫁」にしろ「ショショリカ」にしろ、すべて恋愛やラブコメが作品の中心のひとつを成していますが、「天正やおよろず」だけがまったく違っており、それが他にはない熱心なファンを獲得したの大きな理由だったと思っています。

 それが、今回は比較的オーソドックスなラブコメマンガとなってしまったことで、著しく独創性が減って「普通の」マンガになってしまったような気がするのです。このような「ドタバタアクション+ラブコメ」といったマンガなら、似たようなマンガがいくらでもあると思いますし、今回はこのマンガならではの設定に乏しいように思われます。


・絵がいまいち雑に感じられるのも目立つ欠点。
 そしてもうひとつ、作画に関しても、悪くはないものの今ひとつ雑に感じられるところが多く、ぱっとしませんでした。どうも、この連載の前あたりから、作画の方法を大きく変えたようで、明らかに前作とは異なる作画スタイルに変わっています。これはこれでいい面もあるのですが、今のところ魅力に欠ける部分の方が上回っているように感じます。

 「天正やおよろず」では、初期の頃の作画が非常にかわいらしく、実にほのぼのした作風を絵柄でも再現していました。特に、小さなキャラクターの子供らしいかわいさが良く出ていました。それが、連載の中期以降、次第に作画の傾向が変わっていき、キャラクターの頭身が若干伸び、大人びた雰囲気を帯びてくるようになったのです。個人的には、初期の頃のかわいさ全開の作画の方が好きだったのですが、中期以降もこれはこれで悪いわけではなく、全体を通してよく描けていました。

 それが、この「まじぴこる」では、「天正」中期以降の大人びた作画傾向ががさらに進化していったようで、しかもよりアクティブな(動的な)作画方針を採り入れたようで、キャラクターのほのぼのしたかわいさよりも、むしろ元気で伸びやかな動きが見られる作画が非常に顕著になりました。
 で、この作画方針自体は悪くはないはずですが、実際にはアクションシーンなどで雑に感じられる部分が多く、大雑把な作画と描き込みが少ない白い背景に今ひとつ魅力が感じられないのです。「天正」初期の頃の方が、丁寧な描き込みではむしろ上回っていたとも思えますし、今回の大雑把に感じられる作画はちょっといただけない。すべてが悪いわけではなく、キャラクターが大きく描かれた1枚絵のカラーイラストなどは、昔よりも見映えのする良いものとなっており、こちらは非常に好感が持てるのですが、肝心の本編の作画で少々見劣りがする(ように感じる)のが残念なところです。


・前作ほどの切れがないままで、打ち切りになってしまったのは極めて残念な一作。
 以上のように、この「まじぴこる」、WINGを支える人気作家の復帰作として、かなりの期待を込めて始まったのですが、初見の内容が今ひとつで、ドタバタアクション+ラブコメという設定にオリジナリティが乏しく、アクションシーンの出来もさほどでもありませんでした。しかも、作画面でも大雑把に感じられるところが多く、こちらでも魅力を減じてしまっています。残念ながらこれといった特筆すべき作品にはなっていなかったようで、読者の間でも大きな動きはなかったようです。最初の印象でいまいち期待ほどではなかったのがひどく悔やまれます。

 個人的にも、作者の前作「天正やおよろず」をひどく気に入っていただけに、今回の「まじぴこる」が今ひとつだったのは残念でした。「まじぴこる」の主人公・東条ゆまは、「天正やおよろず」のメインキャラクターにして個人的最萌えキャラ(笑)のマリエッタによく似た外見と性格をしており、第一印象ではひどく気に入ってしまい、マンガそのものにもかなりの期待を込めていたのですが、それが今ひとつの出来に終始してしまったのは、なんともやるせなく感じます。作者の稀捺さんも、かなり好きな作家ですし、連載復帰をこれ以上ないほど喜んでいたのですが・・・。

 しかし、連載序盤の頃こそいまいちだったものの、その後の展開次第では化ける可能性はまだまだありました。作者の新しい試み自体は好感を持てましたし、少しずつ絵柄もこなれてきていい線行くのではないかとも思っていました。かつ、待望のコミックス第1巻も、装丁にあの里見英樹を採用し、その思いきったデザインのイラスト表紙にもかなりの力の入れようを感じました。それゆえに、あまりにも短い連載期間で、唐突に打ち切り終了してしまったのは、驚くほど意外な結末であり、ひどく惜しいことだと思ってしまいました。

 しかも、その直後に、ついにWINGは休刊してしまいます。この最後の数年のWINGは、ひどく誌面が落ち込んだ状態が続いており、それを埋めるべく2008年にはこれ以外にも多くの新連載が始まりましたが、良いと断言できたのは「戦国ストレイズ」程度で、それ以外は今ひとつ微妙なラインに終始していました。この「まじぴこる」も、その中のひとつになってしまったようで、しかもかつての人気作家の復帰作で他の作品よりも期待度は高かっただけに、さらに惜しまれます。かつて、WINGがお家騒動で多数の人気作家が抜け、穴埋めのための連載が大量に始まった時、その中で唯一成功したのが「天正やおよろず」でした。そして時は過ぎ、今度は「まじぴこる」の連載打ち切りと共にWINGが休刊してしまったのも、何かの因果のように感じてしまったのです。


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