「まほらば」

2005・8・3
一部改訂・画像追加2006・5・30

 名実ともにガンガンWINGの一時代を支えた看板作品にして、今のWING作品の方向性を決定した非常に重要な作品です。数あるエニックスマンガの中でも、屈指の良作と見てよいでしょう。


・前世代から続くほぼ唯一のマンガ。
 「まほらば」の作者の小島あきらさんは、元々はゲーム系アンソロジーで活躍し、ガンガンWING誌上では99年頃から読み切り作品をいくつか掲載していました。そして、それらの作品が好評を博したことで、ついに2000年11月号から連載作品をスタートさせます。それがこの「まほらば」です。

 ところが、「まほらば」の連載開始まもなくして、かの「エニックスお家騒動」が起き、エニックス雑誌の編集者が多数出版社を離脱して新会社を立ち上げ、それに合わせてWINGの主要作家のほとんどが雑誌を抜けてしまいます。そして、残ったWINGの連載は「まほらば」をはじめほんの数作品のみという状況に陥ってしまい、その中でも最も有力だった「まほらば」がそのまま昇格していきなり雑誌の看板になってしまうという、なんとも数奇な運命を辿ることになってしまいました。その後もWINGは危機的な状況を迎えつつもなんとか存続し、今では安定した状態まで回復していますが、それには常に看板作品としてWINGを支えた「まほらば」の存在抜きには不可能なことでした。「まほらば」が雑誌ひとつを救ったと言っても過言ではありません。


・バランスの取れた良作。
 このように、当時のWINGでは、連載開始してまもない作品が、いきなり雑誌の看板にならざるを得ない状況だったわけです。したがって、もしこの作品が面白くなければ、たちどころに雑誌の中核が崩れてしまいかねない状況でした。が、しかし、幸いなことに「まほらば」は大変な良作でした。
 「まほらば」は、都会のアパートである「鳴滝荘」の個性的な住人たちのゆるやかな日常を描く物語ですが、このゆったりまったりした日常の描写を見て心をなごませるという「癒し系」の要素が非常に大きい作品です。このようなマンガのことを専門用語で「ゆる萌え」と言うらしいですが(笑)、当時のWINGでは、この「まほらば」と共に、騒動直後に始まった「dear」「天正やおよろず」も同様のタイプの「ゆる萌え」なマンガであり、この3作品が人気を博して雑誌の中心となったことで、以後のWINGの誌面の方向性が決まった感がありました。そう、これ以後、WINGは次第に「ゆる萌え」な誌面へと路線を定め、徐々に新しいイメージを確立していくのです。

 ・・・しかし、「まほらば」の場合、それは単なる癒し系のマンガではありません。確かに「まほらば」はゆるやかな日常の描写が中心の作品で、それが最大の魅力であることは間違いありませんが、しかし決してそれだけではないのです。実は、「まほらば」は、それ以外にも様々な個性的な魅力が混ざり合った、バランスの良い良作なのです。


・小島あきらの「毒」(笑)。
 「まほらば」が単なる癒し系でない最大の特徴・・・それは、このマンガが明らかに「毒」を有していることでしょう。
 「毒」とは何か? これは「毒舌」の延長とも言えるもので、マンガの中のキャラクターが作者によっていじられまくる現象を指します。この「毒」があるからこそ「まほらば」は面白いのです。もちろん、あまりにも「毒」が有りすぎても不快なだけですし、あまりに意地の悪い悪意のこもったネタではダメです。「まほらば」の場合、毒を有しながらも、それが嫌味にならない範囲で、癒し系の優しい雰囲気とバランスが取れている点が大きいのです。なお、「まほらば」の毒は、マンガ本編のみならず、マンガの番外編である「脇役天国」や「ドクピンとブラブラのあらすじ劇場」「ピクチャーゲームブック」などでも顕著で、むしろこちらの方が毒が強い傾向にあります。これは、作者が本編でできないようなネタで遊んでいるためだと思われます(笑)。

(*「毒」の一例↓)

 ・・・このように、読者を微妙に笑わせる「毒」と、ゆったりまったりと優しくなごむ「癒し」と、そのふたつがバランスよく存在している点が大きいのです。このふたつが混じり合うことで作品にメリハリが効いている。まさに「毒」と「癒し」の超絶コラボレーション。だから「まほらば」は面白いのです。


・毒だけではない! 多彩な「小ネタ」の数々。
 しかし、読者を笑わせるのは毒だけではありません。「まほらば」には、随所に笑える小ネタが大量に散りばめられていて、これがまた最高に笑えるのです。小島あきらがゲーマーだけあって、特にゲーム関係のネタが非常に多く、古くからのゲームマニアには特に笑えるマンガになっています。さらには、言葉のネタだけでなく、ビジュアル的なネタとして各種のマスコットがこれまた個性的で面白い。コマのあちこちに小ネタが仕込んであって、それを見ていくのが楽しい。これもまた「まほらば」の大いなる楽しみなのです。

(*「小ネタ」の一例↓)

 このように、「毒」と「癒し」に加えて、数々の「小ネタ」の面白さを合わせ持っているのです。まさに「毒」と「癒し」と「小ネタ」の三身合体。「まほらば」は多彩な面白さを持っています。

 ところで、この「まほらば」のTVアニメは、作品自体は非常な良作でしたが、この「小ネタ」の要素があまり見られなかったのが残念でありました。同一枠の後番組 である「ぱにぽに」のTVアニメ(「ぱにぽにだっしゅ!」)がネタ満載だったのとは対照的でした。アニメ版から入った人は、実は「まほらば」が「ぱにぽに」と同じくらいネタに満ちたマンガであることを知らずに終わったかもしれません。これは少々心残りですね。


・そして「感動」のストーリー。
 そして、最後に忘れてはならないのが、読者の感動を呼ぶストーリーの数々ですね。
 「まほらば」は、ゆったりとした日常の描写が作品のメインですが、それでも要所要所でゆっくりとストーリーが進んでいきます。そこで語られるキャラクター達の物語は、普段のほのぼのした雰囲気や笑える小ネタによるギャグとは対照的にシリアスであり、読者を一気に引き込む力を持っています。

(*シリアスなストーリーの一例↓)

 元々、「まほらば」のキャラクターたちは、裏に色々と精神的な悩みや障害を抱えて集まった側面を持ち、普段はのんびりとした日常を過ごしていても、その裏には常に不安な要素が見え隠れしているわけです。そして、それが一気に表面化するシリアスなストーリーこそが、「まほらば」のもうひとつの本質であり、実は最大の魅力なのです。
 ところで、これらのシリアスなストーリーは、大体単行本にして1〜2巻に一つくらいのペースで進んでいます。日常のシーンを中心にしつつ、これらの大きなストーリーをコンスタントに進めることで、読者を飽きさせないで読ませることに成功しているのです。

 このように、日常の「毒」と「癒し」と「小ネタ」に加えて、最後に「感動」のシリアスストーリーが加わることで、単にまったりと楽しいだけの作品ではなく、一本筋の通った読み応えのある物語を作り出しています。まさに「毒」と「癒し」と「小ネタ」と「感動」の4ヒットコンボ。これこそが「まほらば」の本質だと思われます。


・きれいに完結した「まほらば」の終焉。
 その後、「まほらば」は雑誌の看板作品としての地位を最後まで堅持し、WING作品で最初にアニメ化もされて、これも大成功を治めました。エニックス全体の中でも最も成功した作品のひとつに数えられるでしょう。
 そして、アニメ終了後もさほど勢いが衰えることもなく、コンスタントにクオリティを維持し続け、そのまま息を切らすことなくクライマックスを迎え、2006年7月号にて最終回を迎えました。ラストの盛り上がりも大いに感動的でしたが、「もうこれで楽しい日常を見ることもないのか」と思うとひどく寂しくもなりました。下手に長引いて勢いが落ちる前にきれいに終了してよかったのですが、正直もう少し読んでいたかったという気持ちもありましたね。

 しかし、2000年11月号の開始から約5年半以上もの長き間、最後まで勢いを落とすことなく連載を続け、あまつさえ騒動の混乱で危機的な状況に陥ったWINGの看板として雑誌を支え続け、さらには路線変更でクオリティが大きく減退したエニックス系作品の中で、常に安定したクオリティを維持し続けた功績は素晴らしいものがありました。もはや短くもないエニックス系マンガの歴史の中でも、これは最良の作品のひとつであったと言えそうです。


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