<ひぐらしのなく頃に 祭囃し編>

2011・9・21

 「ひぐらしのなく頃に 祭囃し編」は、ガンガンパワードで2008年8月号から開始された連載で、ガンガンJOKER2011年5月号をもって完結しました。途中、ガンガンパワードは2011年4月号をもって休刊したため、代わって創刊されたガンガンJOKERで、創刊号にあたる2009年5月号より連載再開された形となっています。ガンガンパワードの休刊は、同時期に休刊されたガンガンWINGと合わせて、新雑誌のガンガンJOKERとウェブ雑誌のガンガンONLINEへと統合された趣が強く、このマンガもまたパワードからJOKERへと移籍する形となりました。他にも多くの作品がパワードやWINGから移籍される中で、この「祭囃し編」は当初から新雑誌の看板クラスの作品として大きく扱われ、創刊1号では付録の小冊子という形で特別に掲載されたこともありました。

 この作品は、タイトルのとおり、PCゲーム「ひぐらしのなく頃に」のシリーズの一編で、その完結編にあたります。これまでの各編も、すべてスクエニの雑誌でコミカライズされ、いずれも高いクオリティで好評を博してきました。そして、後半の各編にさしかかると、ストーリーの分量が非常に大きくなり、コミックスの巻数も増えていきました。最初の4編「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」がいずれも2巻で完結だったのに対して、その後に来た「目明し編」「罪滅し編」が4巻、そして「皆殺し編」が6巻となり、最後に来るこの完結編の「祭囃し編」は、ついにコミックス8巻の膨大な分量になりました。これは、原作PCゲームの「祭囃し編」の分量が非常に大きかったことも大きな理由で、その原作のほぼすべてを余すことなく再現していることが大きな特長と言えます。

 作者は、原作は竜騎士07、作画は鈴羅木かりんが担当。鈴羅木さんは、「鬼隠し編」「罪滅し編」の各編も担当しており、そちらでも大いに好評を博し、ついにこの完結編の担当にも抜擢されました。このシリーズの作画を担当した作家は、他にも4名ほどいますが、3つの編を担当したのは鈴羅木さんだけです。しかも、シリーズで重要な導入部である「鬼隠し編」、作中の重要な転換点とされる「罪滅し編」、そして最重要とも言える完結編の「祭囃し編」と、重要な編ばかりを担当しています。まさに、ひぐらしの各作家の中でも、最も大きな成功を収めた作家だと言えるでしょう。それも、執筆を重ねるごとに構成も作画も顕著な上達が感じられ、この「祭囃し編」は、作者のひとつの頂点とも言える一作となっています。


・完結編において作画も最高レベルに到達。
 この鈴羅木さんは、スクエニで「ひぐらし」のコミカライズを担当するまでは、他社で活動して始めたばかりのまだ新人作家だったようです。しかし、最初の「鬼隠し編」からして高い完成度を示し、その実力には確かなものがありました。

 しかし、その「鬼隠し編」では、まだ作画にまれにあやふやな描線が見られるところがちょっとした欠点で、まだ少しだけ未熟な点が残っていました。また、同時期に連載された「綿流し編」「祟殺し編」のコミカライズが、この「鬼隠し編」よりもさらに上回る力作となっていたこともあって、こちらの方が比較されて若干劣って見られる評価もいくつか目にした記憶があります。

 それが、続いて担当した「罪滅し編」では、作画のレベルが一気に上がり、「鬼隠し編」で見られたあやふやな描写はなくなり、線が太く硬質になって、迫力・凄みが一気に増すことになりました。それに伴って、「ひぐらし」特有の残虐描写も、この「罪滅し編」はショッキングなほどのレベルとなり、そんなシーンに登場するキャラクターの怖さも相当なものがありました。

 そしてこの「祭囃し編」も、「罪滅し編」で見られたハイレベルな作画を、さらに突き詰めたものとなっています。さらに絵柄は太く濃くなった印象で、残虐シーンのえぐさ・グロさも非常なまでの域に達しています。もちろん、キャラクターの描写・アクションシーンの迫力・残虐なシーンをより強く見せる黒い濃い背景描写なども申し分ありません。ひぐらしのコミカライズは、他の作家の作画レベルも軒並み高いのですが、最終的には3つの編を担当してレベルアップを重ねたこの鈴羅木さんの絵が、その中でも最も印象的なものとなったような気がします。


・田無美代子=鷹野三四の過去のエピソードがあまりに印象的。
 さて、肝心の内容ですが、この「祭囃し編」の最大の特徴は、敵役、あるいは脇役のキャラクターに大きなスポットが当たっていることでしょう。これまでも、散々その個性を見せてくれたものの、あくまで主役格からは一歩下がった扱いだったキャラクターたちが、この完結編で一気に表舞台に出てくるのです。

 そんな中でも、まず最初に過去の詳細なエピソードが語られるのが、シリーズで最大の敵役となった鷹野三四です。一つ前の編の「皆殺し編」では、最後に黒幕として最大の強敵として主人公の前にたちはだかり、その凶悪ぶりを存分に見せてくれました。しかし、そんな憎むべきはずの鷹野も、過去には熾烈なエピソードを抱えていたのです。

 まだずっと以前の子供時代。鷹野の昔の名前は田無美代子といい、両親とつつましくも幸せな生活を送っていました。しかし、その両親が交通事故で帰らぬ人となり、一気に不幸のどん底に落とされてしまいます。さらに、孤児となって収容された施設が極悪で、日々そこの職員から虐待を受けることになります。この時の描写が凄まじいもので、「水を飲めないアヒルの刑」「手足をもがれた豚の刑」「潰れた芋虫の刑」など、原作では文字だけで直接は描かれなかった残酷な仕打ちの数々が、大ゴマで徹底的に描かれているシーンが、ひどくショッキングなものとなっています。このような残虐描写は、「ひぐらし」の原作からの最大の売りのひとつとなっていますが、コミック版では絵で直接描かれている分、原作よりもずっと印象に残るものとなっています。

 その後、辛くも父の恩師である高野一二三という先生に助けられた美代子は、優しい先生のもとで、ようやくつかの間の幸せな日々を送ることになりますが、それでもまだ試練は終わっていませんでした。高野は、雛見沢という村特有の病気「雛見沢症候群」に関する研究を日々苦労を重ねて行っていました。しかし、それは学会に認められることなく、逆に苦労して描いた論文を踏みにじられるという屈辱に満ちた結果を迎えます。それを見た美代子は、このおじいちゃんの名誉を取り戻すため、必死に努力を重ねて、ついに学会のトップにまで上り詰め、名前も父を引き継ぐという意味で「三四」に変え、ついに雛見沢に来て父の研究を受け継ぐことになるのですが・・・。


・脇役だった大石刑事のエピソードも見逃せない。
 このように、最大の敵役である鷹野の詳細な過去を語ることで、その行動の意味は非常に深いものとなりました。「皆殺し編」「祭囃し編」の鷹野は、目的のためには手段を選ばない残虐な行動を取るようになっていますが、それは過去に熾烈な出来事を体験し、「おじいちゃんの名誉をなんとしても取り戻す」目的があるからに他なりません。残虐な行いは確かに許せないけれども、その裏には悲痛なまでの願いがある。そう考えれば、彼女のその執拗なまでの行動もよく理解出来ます。この物語は、最終的には「誰も不幸にならないエンディング、その後の幸せな世界」を目指しているのですが、その対象となるのは主人公たちだけではありません。最大の悪役である鷹野ですら、その裏には事情があり、不幸から救われるべきだと言っているのです。

 こうした裏の事情は、他のキャラクターでも次々と明かされます。これまでは、個性的で面白いキャラクターではあるけれども、あくまで脇役に甘んじていたキャラクターたちも、その掘り下げが逐次詳細に語られていくのです。

 そんな中でも、個人的に最も印象に残ったのが、大石刑事(大石蔵人)です。彼は、年配のくわせものの刑事で、この物語では他のキャラクターにはない独特の渋さ、味わいを持っています。しかし、そんな彼は、雛見沢の殺人事件で殺されたダム工事の監督と、過去に印象的な出会いをしていて、彼の敵討ちのために奮闘していた事実が明るみに出ます。

 それは、まだ戦後まもない時代。戦争で父をなくして心に空虚なものを抱えていた大石は、その頃はまだ若い警官であり、闇米の売買を摘発する仕事についていました。その日も闇米を買って逃げようとする婦人を追いかけていたのですが、生きるためには仕方のない行為を摘発しなければならない嫌な仕事で、「捕まえたくない」と内心ではひどく苦しんでいたのです。
 そんな時、彼の前に現れたのが、のちにダム工事の現場監督となるおやっさんでした。彼は、たまたま大石の亡くなった父にそっくりで、大石は大いに驚きます。彼は、「見逃してやれ」と大石を一喝、力強く説教を重ねます。大石は、目の前のおやっさんに亡き父の面影そのままを思い出し、喜んで説教を聞くことになるのです。その縁で二人は付き合い始め、年長のおやっさんに大石は人生の何もかもを教わり、最大の恩人として感謝することになります。このエピソードは、個人的には非常に感動してしまい、特におやっさんが「見逃してやれ」と大石を一喝するシーンは涙が出るほどでした(笑)。どんな人にも過去には何かしら印象的なエピソードがあると思いますが、この大石とおやっさんの出会いはとりわけ素晴らしい。

 その後の現代で、大石が刑事職を捨てる覚悟で主人公たちに協力することを決断するシーン、長い間おやっさんを殺したと思っていた園崎家に対する誤解が解け、和解するシーンもいい。長い人生を重ねてきた年配の男性こそ見せる、年期を感じさせる名シーンの数々は、他のキャラクターにはない魅力がありました。


・入江、富竹、そして赤坂らの活躍も見逃せない。
 大石以外にも、診療所の所長である入江、雛見沢を訪れる写真家の富竹、そして東京の刑事である赤坂らの奮闘ぶりも見逃せません。

 入江は、鷹野らと共に雛見沢の診療所で密かに「雛見沢症候群」の研究をしている医師なのですが、彼にもまた過去にいまわしいとも言えるつらい出来事がありました。仲良く暮らしていた両親が、ある時を境に父が荒れて母に暴力を奮うようになって一変、最終的に父は荒れ狂ってヤクザに喧嘩を売って撲殺され、母は最後まで父を恨んで死んでいきました。あれほど仲良く幸せだった家族の悲惨な最後を体験し、そしてその原因が父の脳の疾患であるかもしれないと知った入江は、医師となってその治療に向けて全力で取り組むことになります。しかし、自分の研究していた治療法は世間に認められず、失意のうちに雛見沢に来たという過去を持ち合わせていたのです。この過去の境遇は、鷹野と似たところがありますが、彼の場合、鷹野ほど結果優先の残虐な行為には最後まで抵抗し、みなを救おうとする善き医師として描かれています。

 富竹は、表向きは写真家ですが、本当の姿は、東京の組織の元で動く諜報員。彼は、鷹野とは最も親しい間柄で、最後まで良心的に彼女に接し、その暴走を止めようと努力します。普段は飄々とした性格ですが、いざという時にはかっこいい勇姿を見せる彼の行動と、意外にも簡単に敵に捕まってしまうおちゃめな展開(笑)は、彼の最大の見せ場となっています。

 最も顕著な活躍を見せるのが赤坂です。かつて「暇潰し編」で登場した時の赤坂は、ヒロインである梨花の懇願に応じられず、彼女を死の運命から救い出すことは出来ませんでした。しかし、ついにこの世界では、かつての別の世界での悔いの残る結末を思い出し、梨花を助けるべく雛見沢にかけつけ、敵の部隊を圧倒的な力でなぎ倒す爽快な活躍を見せるのです。敵のボス・小此木に対して「給料いくらだ」と言い放つシーンは、全シリーズを通しても屈指の名シーンとして知られています。

 こうした、今までは脇役として扱われていたキャラクターたちひとりひとりが、この「祭囃し編」では、それぞれ主役級の扱いで活躍を見せます。主人公たちだけでなく、物語にかかわる全員がひとつの目的に向かって前進し、ついには誰も不幸にならない幸せな世界に到達する。それこそがこの完結編最大のテーマとなっています。


・主人公たちもすべてが活躍し、最高の結末を迎える。
 もちろん、主人公たちの活躍も見逃せません。「皆殺し編」では、特に先頭に立つ圭一の活躍が目立ちましたが、今回は主人公たち部活メンバーひとりひとりの活躍がクローズアップされ、特に部長である魅音の活躍が際立ちます。みなのリーダーとして全員を引っ張り、的確な指示を出す有能な指揮官として敵を翻弄、最後には敵組織のボスである小此木と一対一の闘いでも圧倒的な実力を見せる。そして、この学校の部活の部長こそが最高と言い切るその姿。最後に、主人公たち部活メンバーひとりひとりが、彼女の言葉でクローズアップされる形となっています。

 そうして最後には、鷹野とその仲間たちの行動は打ち破られ、今度こそ惨劇の起こらない幸せな結末を迎えます。ここでは、先に述べたとおり、主人公たちだけでなく、ひとりひとりの今までは脇役だったものたち、そして最大の敵である鷹野も例外ではありません。鷹野は確かに大きな罪を背負いましたが、そこから立ち直るであろう希望の感じられる後日譚が挿入されています。他の者たちもみな幸せな日々が描かれ、それは過去の編で悲惨な結末を遂げた人たちも含まれます。エンディングの最後まで、何かしら不安や含みを感じさせるような要素は全くなく、完全なハッピーエンドとなっています。これまでの各編で散々ひどい末路を迎えていますので、これは当然の配慮だと言えるでしょう。

 最後まで物語を終えて、この「ひぐらし」のテーマのひとつは、「どんな人でも幸せになる権利がある」ということだと気付きました。そして、それを達成するのは、「ひとりひとりみんなが力を合わせること」であり、そのために「何かあったらまずは助けを求めてみる」ことだと。そういったごく普遍的なテーマを、あえて壮大な8編の長編で繰り返し見せてくれたことに、大きな意義があると思うのです。

 これで、長く続いたスクエニの「ひぐらし」コミカライズも、ここでついに完結を迎えることになりました。原作のPCゲームの完結編は、すでに2006年に発表されていて、原作のブームも随分と過去のものとなっていた中だったので、この完結は大いに僥倖だったと思います。終盤の編に差し掛かるにつれ、話がどんどん長くなっていきましたが、途中で緩むことなく終了まで辿り着くことが出来ました。

 しかし、まだスクエニのコミカライズが、完全に終わったわけではありません。現在、同じガンガンJOKERで、しかも同じく鈴羅木さんの作画で、本編のエンディング後の物語を描く「ひぐらしのなく頃に礼 賽殺し編」が始まっています。また、竜騎士07の次作である「うみねこのなく頃に」の各編のコミカライズもたけなわ。こちらはまだまだ終わりそうにありません。新創刊されるヤングガンガンでも、まだ未発表だったひぐらしの一編が連載開始されるようです。本編は完結しても、まだまだこのコミカライズは終わりそうにありませんね。


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