<ひぐらしのなく頃に解 目明し編>

2008・5・15

 「ひぐらしのなく頃に解 目明し編」は、ガンガンWINGで2006年8月号より開始された連載で、2008年4月号をもって完結しました。タイトルからも分かる通り、あの大ヒットした同人ゲーム「ひぐらしのなく頃に」のコミック化作品のひとつであり、直前まで連載されていた「綿流し編」の続編的な内容となっています。コミック化の作者は、「綿流し編」から引き続いて方條ゆとりが担当しています。原作者はもちろん原作ゲームの執筆者である竜騎士07

 原作となるゲームは、全部で8つのシリーズ、具体的には「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」「目明し編」「罪滅し編」「皆殺し編」「祭囃し編」からなっていますが、このうち前半の4つが「出題編」と呼ばれ、なんらかの謎を読者に提示するコンセプトとなっており、そして後半の4つが「解答編」と呼ばれ、前半の出題編に対応する謎解きが明かされる、という構成になっています。そして、この「目明し編」は、シリーズ2番目の話である「綿流し編」に対応する解答編ですが、解答編の中ではこれが他のどの編よりも最初に発表されています(シリーズ全体では5番目ということになります)。他の解答編よりも、よりストレートな謎解きが明かされるのが特徴的で、最も標準的なミステリーに近い作品かもしれません。

 「綿流し編」以外の出題各編「鬼隠し編」「祟殺し編」「暇潰し編」も、すべてスクエニの雑誌でコミック化され、どれも非常に高いクオリティを維持しており、高い人気と評価を獲得しました。それに続く解答編であるこの「目明し編」も、出題編より引き続き担当する作者の実力には確かなものがあり、やはり高いクオリティを維持しています。個人的には、前作と比べるとほんの少し絵のクオリティにばらつきを感じましたが、それでも終始安定した連載を重ね、一個の作品としても非常に優秀なマンガとなっているようです。

 そして、「綿流し編」よりも明らかに量的なボリュームでも増大しており、2倍程度の分量となっています。その分、連載期間も長くなっており、「綿流し編」が約1年で終了したのに対して、この「目明し編」は2年の連載期間となっており、一個のゲームコミックとしても遜色ない分量となりました。かつ、この連載は、ガンガンWINGで2006年に行われた「1年間連続新連載」の中の一作品としての側面も持っており、他の新連載の中でも群を抜いて人気と実力を兼ね備えた連載として、大量の新連載で不安定となった雑誌の中でも、非常に安定した作品として雑誌を支え続けました。2年の連載の終了後、現在のところは作者の次回作は予定されていないようですが、それでもここまで優れた良作をきっちりこなしたことは高く評価されるべきでしょう。


・「綿流し編」から「目明し編」へと至る流れ。
 元々、原作の出題編である「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」が連載化されたのは、2005年の6月です。この3つの作品は、スクエニの3つの雑誌(パワード・WING・Gファンタジー)で完全にペースを合わせて連載され、半年後にはコミックスの1巻が同時に発売されます。このコミックスが大人気で、どこでも売り切れるほどの盛況となり、以後スクエニでも最大の人気作品として、各雑誌を引っ張っていくことになりました。さらに半年後には完結となるコミックス2巻が発売され、これも高い評価を得て終了を迎えます。それと前後してガンガンで、出題編最後の一編である「暇潰し編」も連載されます。

 そして、出題編の連載が終わった直後から、対応する解答編の連載が始まります。始まったのは、「鬼隠し編」に対応する「罪滅し編」、及び「綿流し編」に対応する「目明し編」のふたつです。残りのふたつの解答編は、ストーリー上の都合ですぐには連載化することが出来ず、この2つのみが直後から連載することができました。

 そして、WINGで連載が始まったこの「目明し編」ですが、この連載が始まった当時のWINGは、前年以来「まほらば」を始めとする主要連載の多くが終了を迎えており、その穴埋めとして2006年を通して「1年間連続新連載」なる大々的な企画を立ち上げ、新連載が数多く立ち上がる中で、この「目明し編」もその中のひとつとして始まりました。しかし、この「目明し編」、実際には直前まで連載されていた「綿流し編」の続編的な要素の非常に強いもので、これを完全に新規の新連載として数えるのは、少々疑問でした。
  実は、この「1年間連続新連載」、予想以上にぱっとしない企画で、実際にはあっという間に終わる短期連載が数多くを占めており、あるいはこの「目明し編」のようにとりあえず新連載の数に加えただけのような作品もあり、とにかく「毎号新連載を始める」という体裁のみを整えただけの、まさに見掛け倒しの企画でした。そして、短期連載のほとんどがぱっとしない作品ばかりで、わずかに長期連載で成功したのが3作品程度という低調な結果に終わります。

 しかし、他の新連載が全体的にぱっとしない中で、この「目明し編」だけは、前作「綿流し編」同様の高いクオリティを確保し、連載の入れ替えでドタバタした雑誌内の数少ない安定作品として、そのまま看板的な人気を維持し続けました。この時期以降、WINGの質はまったく安定しなくなってしまうのですが、そんな中で連載終了までコンスタントに雑誌を支え続けた功績は、実に見るべきものがありました。


・「綿流し編」の謎が明らかになる展開に惹かれる。
 前述の通り、この「目明し編」は、「綿流し編」で提出された謎が解き明かされる過程が克明に描かれており、原作ゲームでもそれが最大の話題となりました。ちょうど「綿流し編」とほぼ等しい舞台設定の下、異なる視点からストーリーを描き出すというコンセプトで、「なるほど、『綿流し編』のあのシーンの実情はこうだったのか」と読み進めるたびに納得していく構成になっています。

 具体的には、「綿流し編」の主人公だった都会からの転校生・前原圭一に代わり、「目明し編」では、舞台となる雛見沢を仕切る園崎家の令嬢のひとり、園崎詩音が主人公となっており、いわば彼女の視点で「綿流し編」を再構成したようなストーリーとなっています。外部からの転校生だった圭一と異なり、園崎家のひとりとして事件の渦中により近い存在の詩音は、やはり彼女自身事件に大きく関わっており、彼女の視点で事件の真相が次々と明らかになっていきます。
 「綿流し編」とまったく同じ場面で、まったく同じセリフが放たれるシーンでも、視点が違えばすべてが明らかになるその構成は、読者に大きな謎解きの快感を与えるもので、一個のミステリー作品として非常によく出来たものとなっています。

 そして、実はこの「目明し編」(「綿流し編」)こそが、シリーズの中で随一、このような推理・謎解きミステリーの面白さが最も楽しめる一編ではないかと考えられます。というか、個人的な意見ではありますが、「ひぐらし」のシリーズ全編の中で、真っ当な推理ミステリーとして楽しめるのは、この「綿流し編」と「目明し編」だけだと考えています。シリーズの中で唯一、ミステリーとして極めてオーソドックスな構成となっており、他の編のようにそこから外れるような突飛な展開がありません。最も手堅い構成になっており、誰もが(特にミステリーファンが)納得して読める作品になっていると言えます。


・詩音と悟史の恋愛・ラブコメ描写が顕著に見られる。
 そして、この作品の最大の特徴として、前作「綿流し編」から引き続いて、主要キャラクター同士の恋愛描写が非常に強く描かれていることが挙げられます。「綿流し編」では、主人公の圭一と魅音・詩音姉妹との恋愛ラブコメな描写が前半の日常描写の大きな部分を占め、しかもそれがのちのストーリーに大きく関わってきました。そして、今回の「目明し編」では、新たに主人公として登場する詩音と、そして「綿流し編」では(あるいは他の出題編でも)登場しなかった北条悟史との間の恋愛描写が顕著です。

 物語の冒頭で、詩音は実家から離れた全寮制の高校から抜け出し、故郷の雛見沢に帰って潜伏し、姉の魅音のふりをして外出するようになります。そんな不安定な日々の、周りに誰も頼るものがいない中で出会った悟史は、自分の心の支えとなるに十分でした。悟史の方も、日々家で虐待を受ける日々を送っており、そんな中で出会った詩音と邂逅は、彼の心に束の間の安堵の時間をもたらしてくれました。特に、ふたりが共に地元の野球チームで活動を行う時間は、どちらが日々の不安を忘れて楽しめる最も楽しい時間であり、不穏な日々を送るふたりにとって素晴らしい時間となりました。このふたりは、詩音はそ雛見沢を仕切る園崎家、一方で悟史は村で疎まれる存在の北条家の者で、本来は合うことははばかられるような間柄でしたが、そんなしがらみがあってもなお本当に楽しい日々を送ります。

 そんなふたりのつつましい恋愛模様は、見るものの心をも和ませます。この「ひぐらし」シリーズでは、様々なキャラクターの間で恋愛的な描写が見られますが、中でもこの詩音と悟史のカップリング、いわゆるサトシオンと呼ばれるカップリングは、まさに最高のものだと言えるでしょう。中でも、 悟史が詩音の頭をなでなでするあのシーンこそ、まさに究極の萌え恋愛シーンではなかろうか(笑)。特に、このマンガ版ひぐらしでは、方條さんの手によって描かれる詩音と悟史が、ビジュアル的にも本当に魅力的なものになっており、さらに感情移入度は高まります。やはり方條さんの絵は素晴らしいですね。これほど萌える恋愛シーンもそう多くはないでしょう!


・残虐シーン、恐怖シーンは凄まじいの一言。
 しかし、そんなつつましい恋愛シーンは、束の間の前半のうちに終了してしまい、物語は核心に迫るにつれ陰惨の限りを尽くすようになります。
 まず、園崎家の詩音が、仇敵とも言える北条家の悟史と合っていたことをとがめられ、けじめとして三枚の爪を剥がされるシーン。このシーンの痛々しさはあまりにもえげつないもので、剥がされそうな爪を真正面から描いた場面などは、もう目をそむけて見たくないと思うほどでした。ここがまず前半のハイライトと言えるかもしれません。

 しかし、これはこの後に続く残虐シーンの序の口に過ぎません。爪剥がし事件の直後、愛する悟史が失踪し、しかもそれが園崎家を始めとする雛見沢を仕切る者達のしわざだと思い込んだ詩音は、もはや狂気に陥り、犯人だと思われる人々を次々と拷問にかけ、あるいは虐殺していくことになります。その時の人が完全に変わってしまった詩音の姿は、前半の恋愛シーンでみせたかわいらしさとは対極にある恐ろしい姿で、極端なまでのギャップを見せてくれます。「綿流し編」でも、同じように前半と後半とで内容に大きなギャップがありましたが、今回のそれは輪をかけて凄まじいものとなっています。
 特に、○○や○○を拷問にかけるシーン、○○や○○を残虐なやり方で殺してしまうシーンなどは、被害に遭う側もあまりにも痛ましい姿を見せてくれます。これ以前の出題編でも、誰かが傷つけられ殺されるシーンは多々ありました。しかし、この「目明し編」のそれは、これまで以上に徹底的に踏み込んだ残虐描写が見られます。

 そしてもうひとつ、「ひぐらし」ならではの恐怖シーンもやはり健在です。「綿流し編」でも、死体の描写がかなり恐ろしく、特に最後の最後で恐ろしい恐怖シーンを見せてくれましたが、今回もやはりその手の恐怖シーンは健在でした。最後の最後で○○の亡霊が詩音に付きまとってくるシーンなどは、死人の持つ根源的な恐怖まで描かれているようで、そのおぞましさは圧倒的です。


・重厚な原作を描き切った名作。「ひぐらし」のコミック化作品でも最高レベルの一作。
 以上のように、この「ひぐらしのなく頃に解 目明し編」、前作に引き続き安定した高レベルにある作者の画力、「綿流し編」の謎が次々に明らかになる推理ミステリーとしての面白さ、微笑ましいカップルの恋愛描写と、シリーズ中でも群を抜く凄まじい残虐・恐怖シーンの数々と、どれをとっても非常にハイレベルな優れた作品となっています。「綿流し編」も十分すぎるほどの良作だったのですが、今回はそれをもはるかに上回る衝撃的な一作となっており、「ひぐらし」コミックの全シリーズの中でも特に鮮烈な印象を残す作品となっています。コミックスも4巻を数え、量的にも前作をはるかに超え、他のシリーズ以上に読み応えのある作品となりました。現時点では、同時期に連載された同じ解答編のひとつ「罪滅し編」の方がこれをもさらに上回る出来だと思いますが、この「目明し編」、もまた、それに匹敵するほどの極めて優秀な作品であることは間違いありません。

 そして、ガンガンWINGという雑誌においても非常に重要でした。主要な人気連載が多数抜け、そのあとを受けて始まった「1年間連続新連載」のラインナップもまるでぱっとせず、質の落ち込みが否定できなくなった誌面の中で、前作「綿流し編」からの実質的な続編として、変わらぬクオリティで雑誌最大の人気作品のひとつであり続けました。表紙になることも非常に多く、いかに雑誌に頼りにされていたかが分かります。雑誌の数少ない安定連載のひとつとして、雑誌を支えた功績はまったくあなどれないものがあります。同時期の「罪滅し編」も、同じく掲載誌のパワードで何度も表紙になり雑誌を支えたのと同じく、こちらも雑誌の最大の力となった。やはり、「ひぐらし」という原作の力と、それを余すことなくコミック化した作者たちの実力は、予想以上に大きなものがありました。

 そして、無事に連載を終了した今、残る「ひぐらし」解答編の2編は、別の作者が担当することが決まったため、おそらくは今回で方條さんの「ひぐらし」の執筆は終了したのではないかと思われます。しかし、「綿流し編」から引き続いて長く連載を続け、極めて高いクオリティで原作の魅力を描き切ったその功績は、高く評価されるべきでしょう。この「ひぐらし」のコミック化において、複数の編を任されて執筆したのは、この方條さんと、「鬼隠し編」「罪滅し編」(「祭囃し編」)を担当した鈴羅木さんのみ。まさに、「ひぐらし」コミックの中核作家のひとりだったことは間違いなく、これまでほとんど注目されなかった作家が、この「ひぐらし」の仕事を契機に完全に開花し、その極めて高い実力を如何なく発揮したと言えそうです。


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