<月彩のノエル/メテオエンブレム>

2009・9・25

 「月彩のノエル(東京幻想学園勇者科 月彩のノエル)」は、少年ガンガンで2008年6月号から、「メテオエンブレム」は、少年ガンガンで2008年7月号から連載が始まり、 どちらも約1年ほど連載されました。「月彩のノエル」の方がわずかに連載期間が長く、こちらは2009年9月号まで続き、一方で「メテオエンブレム」は、2009年5月号で終了していますが、どちらも短期間の連載で終わってしまったことには変わりありません。

 この時期のガンガンは、2004〜2006年ごろの一時期比べれば、大きく連載の本数は回復し、新連載もかなりの本数を積極的に採り入れいますが、反面成功した作品は多くなく、このように比較的早期で終了してしまう作品もかなり見られるようになりました。これは、ひとつには典型的な少年マンガ作品を、それも深い内容よりも勢いを重視した作品ばかりを取り入れようとする雑誌作りの方向性が、大きな原因になっているように思われます。お家騒動以後、ガンガンの雑誌作りの方向性は、その時の流行に合わせて微妙に変化しているようですが、根本的なところではさほど変わっておらず、むしろ近年はかつてよりさらに劣った作品作りが目立つようになったように思えます。

 そしてもうひとつの理由は、ひどく安易な企画や作者頼みのマンガ制作です。「月彩のノエル」」の作者は介錯、「メテオエンブレム」の作者は朴晟佑(パクソンウ)ですが、前者はつい先日まで「円盤皇女ワるきゅーレ」を連載し、以前は他社でもアニメ化作品やメディアミックスを多数手がけてきた人気作家、そして朴晟佑は、こちらはヤングガンガンで創刊号から人気を得ている「黒神」の作者(作画担当)です。どちらも、作家の力に頼った連載、特に後者においては、ヤングガンガンで人気を得た作家をそのまま持ってきて、もう一度ヒットを狙おうという安易な連載企画に思えてしまいました。

 そして、安易な企画が災いしたのか、やはり実際にどちらも成功することなく、1年程度の連載で終了することになったのです。「メテオエンブレム」の方は、誰が見てもそれと分かる完全な打ち切り、「月彩のノエル」の方はそこまで判然としませんが、短い連載期間と終盤の展開の速さからして、やはり早期での打ち切り的な終了に思えてなりませんでした。せっかくいい作家を持ってきたのに、このような結果に終わったのでは、あまりにも残念だったと言えます。


・どちらも作家依存の感は否めない。
 上でも記述したとおり、このふたつの作品を手がける作家は、すでに長らくスクエニで連載を受け持ってきた作家であり、実力のある作家による新規連載ということで、それだけならば別に問題はありません。ベテランの作家に安定したレベルの作品を描かせる、ここ最近のガンガンでは、新人だけでなくベテランの作家でもさほどいいマンガが見られないので、このあたりで新戦力を投入するという試みも妥当かもしれません。

 しかし、このふたりの作家の投入に関しては、疑問の方が先に立ちます。それは、どちらの作家も既に他誌でマンガの連載真っ最中であり、そんな中でわざわざガンガンで同時に連載させる意義が、あまり見当たらなかったからです。
 これは、特に朴晟佑の方が顕著で、ヤングガンガンでの「黒神」の連載はまだまだ勢いは衰えておらず、しばらく後にはアニメ化まで達成しています。それに、ヤングガンガン自体月2回の刊行で制作ペースが速く、そんな中であえてもうひとつ連載させなくてもいいのではないか。そんな風に感じてしまいました。実際、この連載決定は、単にヤングガンガンで人気・実力のある作家を安易に引っ張ってきて、このガンガンの方でももう一度ヒットを狙うという、そんな意図の方がより強く感じられたと思います。これでは、まず成功はおぼつかないのではなかったか。

 一方で、介錯の方は、ガンガンでの「円盤皇女ワるきゅーレ」はしばらく前に終了していましたが、今度は隔月誌のガンガンパワードの方で「ハザマノウタ」という新連載を始めたばかりで、しかもこちらの方はかなりの好感触の出だしでした。わたしとしては、むしろこちらの方の連載にこそ力を入れてほしかったのですが、しかし、ほどなくしてガンガンの方でもこの「月彩のノエル」の連載が始まってしまいます。そして、このガンガンの方の連載は、好感触だった「ハザマノウタ」よりもやはり劣っているように見えたため、どうしても評価することが出来ませんでした。これならば、最初から「ハザマノウタ」の方をガンガンで連載してもよかったと思います。


・内容も見所に乏しかった「メテオエンブレム」。
 連載の企画そのものだけでなく、肝心の内容も決して芳しくありませんでした。特に、「メテオエンブレム」の方は、残念ながら極めて平凡な作品に陥ってしまったと言えます。

 いわゆるバトル中心のファンタジー作品、特に韓国や中国では定番のジャンルである「武侠もの」の設定に程近いものがあり、連載当初からありがちでインパクトには欠けた感がありました。ヤングガンガンの「黒神」の方も、バトル+ファンタジーという点では共通していますが、こちらの方は現代の世界が舞台で、そこに新鮮味がありました。また、現代の日本、東京や沖縄が舞台で、日本人を中心とするキャラクター、あるいは日本をそのまま再現した街並みもよく見られ、日本の読者には親しみやすいものとなっていたのも大きかったと思います。
 それが、この「メテオエンブレム」の場合、典型的なファンタジー世界(現代文明が滅んでしまった後の世界)であり、それも武侠もの、すなわち昔の中国的な世界を舞台にした東洋風ファンタジーとなっており(スクエニでは他に「獣神演武」の世界観に近いものがあります)、設定的にありがちでとりたてて印象には乏しかったのです。

 そして、ストーリーもまた定番中の定番で、こちらも芳しくありませんでした。「ノヴァー」という星の力を受け継いだ能力者が闘い合う物語で、主人公たちは特に強い「守護星」なる力を所持した強者という設定で、対立する能力者の組織と激しい闘いを繰り広げるというストーリーにも、特に引きつけられるものはありませんでした。朴晟佑の作画だけは、「黒神」同様に非常に安定したレベルの高いもので、バトルシーンの出来栄えも申し分なかったのですが、肝心の内容では「黒神」に大きく劣っていました。見た目の作画だけなら似たような作品に見えますし、「黒神」からの読者でこちらの作品にも注目した人もわずかながらにいたようですが、彼らもこちらの作品には引かれなかったようです。
 そのため、最後は完全な打ち切りで終わり、ロングヒットを続ける「黒神」とは正反対の、わずか1年にも満たない短期連載で終了してしまいました。


・「月彩のノエル」はある程度の作品になっているが・・・。
 そしてもうひとつの作品「月彩のノエル」ですが、こちらはそこそこ読める作品にはなっていたと思いますが、やはり全体的に突出したところがなく、読者の反応もあまり見られなかったと思います。

 現代の日本で、RPG的な職業を育成するファンタジー学園があるという設定で、そこで勇者を目指す主人公の少年と、彼を勇者様と慕うノエルという女の子(実は魔王)、そして楽しい学園の仲間たちとの間で繰り広げられるコメディ調の作品でした。学園コメディとして中々楽しく、同時に勇者と魔王の絆の強さ、そして両者の運命を巡るシリアスな展開も見られるなど、それなりにまとまった作品になっていたと思います。また、作画面でも優れていて、介錯のガンガンでの前作だった「円盤皇女ワるきゅーレ」の時と比べると、描線がくっきりして黒いベタもはっきりした読みやすい絵柄となり、こちらも好印象でした。総じて見ると、決して悪い作品ではありません。

 ただ、定番RPG的なファンタジー設定、その上で定番の学園ものコメディということで、新鮮味にはやや乏しく、最初からこのマンガに特に注目していた読者は、かなり少なかったように思えます。その後、作品がシリアスな展開に入ってからも、さほど注目度に変化はなく、結果としてかなりの短期間で終了することになりました。最後まで、ガンガンでこのマンガを特に楽しみにしていた読者は、あまりいなかったのではないかと思います。「メテオエンブレム」ほど面白みに欠ける作品とは思えませんでしたが、やはり平凡な作品の域を出なかった、といったところでしょうか。

 むしろ、同時期の介錯の作品としては、前述のガンガンパワードの連載「ハザマノウタ」の方がよかったように思えます。こちらも、現代を舞台にしたファンタジー要素ありの学園ものといったところですが、露骨にRPG的な設定ではなく、人間の中の異種族として、自らの忌まわしい血と闘いながら生きる主人公の少年の姿に好感が持てる、よりシリアス色の強い作品になっていたのがよかったと思います。残念ながらこちらもパワードの休刊に際して打ち切り的な終了を余儀なくされてしまったのですが、むしろこちらの連載を重視してほしかったと思いました。


・ガンガンのおざなりな雑誌作りを感じてしまった2作。
 以上のように、この「メテオエンブレム」と「月彩のノエル」、どちらも実力をもつはずのベテラン作家を起用した割には、内容的にあまり奮わず、早期での終了を余儀なくされてしました。これでは、まったくもってガンガンの戦力にはならなかったと言えます。特に、「黒神」の朴晟佑のこちらでの不振は、特に目立つものがあり、「ヤングガンガンの『黒神』の方はあれだけ面白いのになあ・・・」と残念に思わずにはいられませんでした。

 このふたつの作品の失敗は、単純に双方の作家が、今回はたまたま実力を発揮できなかったという側面もあるのですが、それ以上に、やはりガンガン編集部による安易な「人気作家を引っ張ってこよう」という安易な方針に、真の原因があるような気がします。ただ単に人気のありそうな作家を引っ張ってきて描かせるだけでは、うまくいくとは限らない。もっと企画を練り上げるべきではなかったか。いや、ひょっとするとこれらの作品も、連載として出すまでにいろいろと調整の苦労をしていたのかもしれませんが、実際に作品の質に反映されていない以上、やはり評価することは難しい。

 これは、ヤングガンガン編集部の企画の巧みさと比べても、ガンガン編集部の劣っている点が目に付きます。ヤングガンガンも、様々な大物と言える作家を呼んできて連載させていますが、ずっと練られた柔軟な企画を組んでいて、特に「実力のある原作者と作画担当者を組み合わせて良作を生み出す」企画の成功が顕著です。実は、ここで挙げた朴晟佑の「黒神」も、原作者が別に存在しており(林達永)、ふたりが力を合わせて良作になったとも考えられます。それが、この「メテオエンブレム」は、あくまで朴晟佑のみの単体作品。「黒神」では、作画担当だった作者のみでいい話が作れるとは限らないわけで、これでは成功するかどうか最初から微妙なところでした。
 ここ最近も、ヤングガンガンの「良質の原作者+作画担当者」による作品作りはますます顕著であり、今では新連載の多くで主流となっている感すらあります。その一方で、単独で招いた作家の作品も、きっちりと結果を出している作品が多い。これを考えてみるに、ガンガンとヤングガンガンの編集部の質の違いは、近年ますます明白になってきたような気がします。そしてガンガンは、そのヤングガンガンから「黒神」の作者という成果をもらってくるような形で連載を企画するという状態。ガンガンは、スクエニ雑誌の中でも中心的な雑誌のはずですが、今では他誌の方がずっと健闘しているように思われます。この2作品の失敗は、そんな今のスクエニ雑誌の現状を、色濃く映したものに見えるのです。


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