<みかにハラスメント>

2006・2・4

表紙 これは、かつてガンガンパワードに連載された作品で、連載当初から大問題作として話題にのぼってしまった作品です。作者は新人の水兵きき

ガンガンパワードからの新人単行本第一弾。
 前述の通り、このマンガは、少年ガンガンの増刊である季刊誌「ガンガンパワード」で連載された作品です。計3回連載され、一応完結(?)しています。
 このマンガの作者・水兵きき氏は、この連載を始める前に「魔法少女るかなー」と「かすみ♂(かすみおとこのこ)」という2つの読み切りを掲載しました(どちらも「みかにハラスメント」の単行本に掲載されています)。このうち、最初の読み切りである「魔法少女るかなー」はごく普通のコメディで、可もなく不可もなく、特に印象には残らなかったのですが、2番目の読み切りである「かすみ♂」が大問題。これがガンガンパワードの読者に大変な衝撃を与えてしまい、「なんだこれは?」という疑問が読者の間を駆け巡りました。
 そして、その次の号から、この「みかにハラスメント」の連載が始まるわけですが、これが「かすみ♂」の路線を忠実に引き継ぐばかりか、さらに問題をパワーアップさせたかのような凄まじい連載で、読者の頭を金属バットでぶん殴るかのような凄まじい衝撃を与えてしまい、作者はもちろん、これを掲載したガンガンパワードの編集者の神経をも疑わずにはいられない状況に陥ってしまいました。

 しかし、この当時は、まだ少数のガンガンパワード読者の間で話題になるだけで、さほど作品の知名度は高くありませんでした。ガンガンパワードは、ガンガンの増刊という扱いで、新人作家の読み切り作品を載せる場としての側面が強い雑誌であり(集英社で言う「赤マルジャンプ」に該当する雑誌です)、熱心なスクエニ読者以外にはさほど読まれないため、実際に読んでいる人はかなり少なかったのです。
 しかし、驚いたことに、このマンガがコミックスになることが決定していまいます。それも、このガンガンパワード発の新人作品としては初のコミックス化作品のひとつとしてラインナップされ、その記念すべき初コミックスになぜこのマンガが選ばれるのか、熱心なスクエニ読者の誰もが疑問を発せずにはいられませんでした。
 そして、ついにこのコミックスが発売されますが、発売されるや否や、 と ん で も な い 事 態 を巻き起こしてしまいます。


・「すげーなスクエニ! よく掲載したよ!」
 実は、発売する直前から、ネットのオタク系ニュースサイト/ブログの間でこの作品がかなり話題になっており、非常にやばい予感がしたのですが、その予感が的中。ネット上の話題に完全に引きずられる形で、ネットを巡回するオタクたちがこのマンガに大挙して押し寄せ、オタク系書店で一瞬で売り切れるという大フィーバーが発生。オタク系の書店の店員の間でも盛り上がりまくり、どこでも平積みでポップに大興奮の紹介文を書いてすすめまくるという、(局地的な)大フィーバーぶりでした。
 この当時のネットや書店での紹介文としては、「スクエニ初の成年誌!?」「中途半端なエロマンガよりずっとエロいよ」あたりがかなり有名ですが、わたしが見かけた中では、地元(広島)のメロンブックスでの「すげーなスクエニ! よく掲載したよ!」という煽り文が最も印象に残っています。
 ちなみに、このフィーバーはあくまで局地的なものであり、それ以外の場所では何の盛り上がりもありませんでした。例えば、わたしの地元の書店(マンガも充実したかなりの大型書店)では、発売日に入荷されたのはわずか一冊、しかもその一冊が売り切れるのに数日を要するという状態でした。こちらが普通の反応でしょう。


・すべてを超越したエロマンガ。
 さて、ようやく内容に触れます。
 このマンガは、エロマンガだと思われます。萌えもありますが、実際には萌えをはるかに超越して完全なエロマンガと化しており、これがガンガン増刊パワードで掲載されたというのは信じられないことでした。
 スクエニ系でエロい作品となると、ラブコメ系の「ながされて藍蘭島」や「これが私の御主人様」などはエロ描写は結構ありますし、WING連載の「機工魔術師-enchanter-」などはかなりエロ要素全開の作品です。さらには、青年誌のヤングガンガンでは、露骨に青年向けのエロ系マンガはかなり連載されました。
 しかし、この「みかにハラスメント」は、それらの作品をはるかに超越しており、もはや18禁マンガをも超越したエロさを完備しており、読者に与えた衝撃は凄まじいものでした。
飲んだのはミルクです(念のため)新手の触手プレイか?
 何がそんなにエロいのか。
 世の中にエロいマンガはいくらでもあるわけですが、この「みかにハラスメント」の場合、主人公の女の子をエロい目に合わせるためだけに、わざわざそのための設定とストーリーを作り出している点が凄まじい。平凡なエロマンガの場合、強引な展開でエロに移行したり、お約束の展開で女の子がエロい目にあったりと、そういった粗雑な作品も多いわけですが、このマンガはそうではない。「女の子をいかに恥ずかしい目に合わせるか」というその一点の目的のために、わざわざそれを合理化するための世界設定を作り出し、あまつさえひとつひとつ羞恥全開のエピソードと丹念に作り出していく。この、エロに注がれる作者のあくなき創作精神が素晴らしい。ストーリーの中にエロがあるのではなく、エロのために設定とストーリーを作る。この絶妙な設定とストーリーには脱帽せざるを得ません。

 扱うエロの内容も凄まじい。このマニアックなエロネタこそが、最初にガンガンパワードの読者を悶絶させ、目を疑わせるには十分なものでした。
 具体的には、第一話の「上半身裸&超ミニノーパン露出プレイ」、第二話の「公開犬調教プレイ」、第三話の「おむつ一枚幼児プレイ」と、もう訳が分かりません。これに、同時掲載の読み切り作品である「かすみ♂」の「フタナリトップレス百合」を加えて、水兵式エロプレイ完成です。
パンツは脱ぎなさい!これが公開首輪犬調教だ!
幼児プレイですべてをさらせ!フタナリトップレス百合の世界!
 どれも凄まじいんですが、これらの激しいエロプレイを作中で合理化するために、様々な設定が巧みに練られています。個人的には、「二プレス」という設定がありえないほど衝撃でした。乳首を描くためにわざわざそれを合理化するアイテムを作り出す作者の精神にはほんと脱帽です。そして、そのような合理的な(笑)設定を盾にみかにおしよせる羞恥プレイの嵐。そのエロいシチュエーションの数々は驚嘆すべきもので、少年誌の壁を完全に超越した凄まじいものでした。「さすが水兵! 他の少年誌にはできないことを平然とやってのける!」という感じでしたね。


・これぞまさに「水兵危機」。
 このように、凄まじいエロネタでオタクたちを熱狂させた「みかにハラスメント」ですが、このようなあからさまにふざけたマンガが人気を得るというのは、冷静に考えれば相当ひどいものがあります。
 前述のとおり、このマンガは、ガンガンパワード発の新人作品による初コミックスのひとつでした。そして、この「みかに」と同時に、他に3つの新人作品がコミックス化されています。具体的には「君と僕。」「シューピアリア」「仕立屋工房 Artelier Collection」の3つです。これらの作品は、どれも小粒ながら作者の個性が感じられる良作であり、コミックスの発売でもっと評価されてもよかったはずなのですが、実際には「みかに」を巡るバカ騒ぎで、その存在が大宇宙の彼方にふっ飛ばされてしまった感があります。「みかにハラスメント」のようなネタマンガを巡るバカ騒ぎによって、真の良作がかき消されてしまうというのは、マンガ界にとって本当によいことなのでしょうか?(それとも、オモシロければなんでもいいのか? オモシロさはすべてに優先するのか?)

 そもそも、このようなネタ偏重のマンガをここまで連載して、その上コミックス化までして良かったのか、という問題もあります。ただでさえ最近のスクエニではこのような低俗な作品が目立ち、さらに極めつけとしてこのような作品が現れたのでは、それはスクエニマンガにとって本当によいことだったのか真剣に考える必要があります。大手のブログの中には、このマンガ以降、「スクエニ=エロ」という固定観念を抱いてレビューを繰り返しているところすら存在します。これは正しい認識と言えるのか。
 確かに、このマンガは本年度で随一とも言えるほどの話題となり、コミックスも売れに売れました。しかし、その影で失われたものも多かったのではないか? 単なる人気や知名度、金銭的な利益だけで評価していい作品なのか。様々な点で疑問符をつけざるを得ない作品であることは間違いないところであり、むしろ今まで培ってきたスクエニマンガの土台を根底から崩壊させる存在になってしまった感すらあります。その点で、このマンガはまさに水兵危機とでも言える存在であり、知名度と経済的利益を代償にスクエニは多くのものを失ってしまったとすら言えるのではないでしょうか。


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