<ひぐらしのなく頃に 皆殺し編>

2011・9・16

 「ひぐらしのなく頃に 皆殺し編」は、Gファンタジーで2008年7月号から開始された連載で、2010年7月号まで続きました。約2年ほど連載されたことになります。
 タイトルどおり、スクエニが進めてきた「ひぐらしのなく頃に」のコミカライズ作品のひとつで、これは第7作にあたります。ここに来て、ストーリーの分量が飛躍的に増大し、前作よりもはるかにコミックスの巻数も増えました。初期の「出題編」たる4編「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」はコミックス2巻、その後「回答編」に入った「目明し編」「罪滅し編」がコミックス4巻で完結したのに対して、この「皆殺し編」はなんと6冊に及ぶ長編となりました。

 作者は、原作はもちろん竜騎士07、そして作画担当に桃山ひなせが抜擢されています。元々は、Gファンタジーの作家ではなく、ガンガンWINGの方でいくつか読み切りを残してきた新人作家で、それがGファンタジーの方でこの「ひぐらし」の連載を行うと決まった時は、かなり意外な印象を持ちました。以前のGファンタジーで連載された「祟殺し編」は鈴木次郎の作画でしたが、彼女は今回採用されず、また、それ以外の編の作画を担当した鈴羅木かりん・方條ゆとり・外海良基らも採用されず、まったく新しい作家を起用したことになります。この桃山ひなせさんが、ひぐらしシリーズを担当する5番目の、そして最後の作家となりました。

 肝心の内容ですが、これまでどおり雛見沢という辺境の村で起こる陰惨な事件を綴ったホラー・ミステリー物語の一角にして、以前のシリーズの謎が一気に明かされ、事態が最終段階へと向かう集大成的な内容となっており、非常に読み応えのあるものとなっています。その分、これまでのひぐらしシリーズを体験していないと理解することは難しいですが、逆に、ここまでじっくりとシリーズを読み進めてきた読者ならば、「ついにここまで来たか」と大きな感慨を覚える一編となっています。
 さらには、「皆殺し編」というタイトルどおり、この物語は悲劇的な最後を迎えますが、それがこの後に来る完結編「祭囃し編」へと直接つながる終わり方となっており、完結の一歩前にこれまでの物語をすべてまとめた形の、非常に重要な一編ともなっています。


・意外な作画担当者の採用。
 上述のように、このマンガの作画担当に抜擢された桃山ひなせさんは、元はWINGで読み切りを何度か掲載していた新人作家でした。古くは、「相賀」というペンネームでガンガンパワードに読み切りを掲載したこともありますが(こちらが初掲載作品)、今のペンネームに変えてからは、長らくWINGで活動を続けていました。WINGで最初に掲載されたのは、2006年3月号の「コマちわ」という作品。その後、2006年9月号に「ぴゅありてぃ」という読み切りを掲載、好評だったのか2007年1月号にも掲載されます。

 この「ぴゅありてぃ」、WINGでは珍しく百合要素の強い百合マンガとなっていて、作画も丁寧でかわいらしいものとなっていて、好評なのも頷ける作品でした。一応ラブコメ的な作品ではあるものの、当時のWINGの「ゆる萌え」な雰囲気にも合っていて、読者の人気は高かったと思います。また、当時WINGが主導していたスクウェア・エニックス小説大賞の入選作品である、「emeth 〜人形遣いの島〜」(月島総記)の挿画を担当し、さらにはWINGでコミック版の読み切りを掲載するなど、WING初の新人としての活発な活動が見られました。

 このように、WINGでの活動がほぼすべてであり、かつWINGの雰囲気に良くあったシンプルでかわいらしいキャラクターや作画の雰囲気から、やがてはこのままWINGで連載を持つものだと考えていました。それが、まさかのGファンタジーでこの「皆殺し編」のコミカライズを担当することになります。これは本当に意外な採用でした。
 また、この採用に関して、一抹以上に不安に感じていたことがあります。それは、桃山さんのシンプルでかわいい作画で、果たして「ひぐらし」の重々しいストーリーを再現できるかということ。これまでのシリーズの作画担当者だった鈴羅木さんや方條さん、鈴木さんの重厚な作画と比較すると、どうしても劣って見えたのです。彼女の絵は、ライト感覚のラブコメの作画としてはふさわしいものがありましたが、ひぐらしの重厚感を再現することは難しいのではないかと思われました。


・しかし、十分すぎるほど文句のない作画だった。
 しかし、いざ連載が始まってみると、想像以上に力強い作画となっていて、まったく申し分のないコミカライズとなっていました。わたしは、連載開始直前に、「桃山さんのひぐらしの作画は大いに不安だ」といった内容の日記を書いたのですが、その予想はいい意味で裏切られることになりました。まったくもって申し訳ない気持ちでいっぱいです(笑)。

 確かに、キャラクターの造型には、以前のようなかわいらしさが残ってはいましたが、画面から受ける重厚な雰囲気は本物。黒い鮮やかなベタで描かれた残虐な惨劇のシーンもよく描けていて、全く不足はありませんでした。また、キャラクターの描き方も、以前より描線が太くはっきりしたものとなり、シリアスなシーンでの凄みが増していました。これならば、他の作画担当者と比較しても全く遜色なく、結局この「ひぐらし」のコミカライズに抜擢された5人の作画担当者は、そのすべてがいい仕事を残してくれることになりました。

 中でも、この桃山さんの絵は、最もシンプルでくせのないタイプの作画で、WING時代からのキャラクターの素直なかわいさも見られ、最もとっつきやすいものになっていると思います。その上で、年配の渋いキャラクターや、残虐で陰惨な恐怖・虐殺シーンも過不足なく描かれ、ひぐらしの作画としても最後までハイレベルでした。

 その後の桃山さんは、ひぐらしの次回作である「うみねこのなく頃に」の6作目の作画担当にも抜擢され、こちらでもさらに優れた作画を見せています。結果として、このひぐらしの作画担当によって、作者の真の実力が大きく発揮されることとなりました。


・ついに「ひぐらし」の世界の全貌が判明。
 この「皆殺し編」が、このシリーズの集大成と言える最大の理由は、やはりこの物語世界の全貌が、冒頭においていきなり判明することでしょう。

 今回の主人公は梨花。ひぐらしの主要キャラクターのひとりではありますが、これまでの編では、圭一やレナ、詩音などに主役の座を譲り、唯一中心的な扱いだった「暇潰し編」でも、主人公は東京から来た刑事・赤坂という設定でした。しかし、そんな中でも、「実はこの物語の鍵を握っているのでは」と思わせるような言動が随所に見られ、その実態がついにこの「皆殺し編」で明かされることになります。

 梨花は、言うなればこれまでの物語すべてを上から見下ろす「上位世界」の存在を認知できる存在であり、これまで辿ってきたストーリーすべてを把握していることが判明します。個々のストーリー世界は、「欠片(カケラ)」と呼ばれ、いわばパラレルワールドとなっており、梨花は、そんな世界を繰り返し繰り返し幾度となく体験してきたというのです。

 もっとも、これまでのストーリーからも、各編がパラレル世界となっていることは、ある程度分かっていたことではありました。シリーズ初期の「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」あたりを読んだ時点で、多くの読者が、ほぼ同一の設定で異なる展開を繰り返す作品であることは気付いていたと思います。さらには、作中のキャラクターの言動からも、それを思わせる描写はいくつかありました。例えば「罪滅し編」で、圭一が一瞬異なる世界にいた自分のことを思い出したり、梨花が「同一だが異なる世界のキャラクター」の存在を匂わせる発言をしたり、とそういったことから、はっきりとパラレル世界の存在に気付いた読者は多かったのではないでしょうか。この「皆殺し編」は、そんな読者の気付きに対して、明確な形で解答を用意した一編であり、ここでついに世界の全貌が正式に判明することになりました。

 そして、そんな世界を見下ろす梨花は、これまで何回も繰り返し悲劇に見舞われていたことが判明します。大抵の場合、誰かが暴走したり殺されたり悲惨な事件が巻き起こり、そして毎回必ず最後には自分が殺されてしまう。そして、殺されるたびに、再び時間を巻き戻してまた別の世界を体験する。この繰り返しでした。
 ここで、梨花のパートナーとして、このシリーズ最後の主要キャラクターと言える羽入(はにゅう)が登場します。彼女は、いわば神のような存在で、これまで何度も雛見沢の守り神として登場してきた「オヤシロサマ」に相当する存在。ここで、ついに最後の黒幕のひとりとも言えるキャラクターが登場し、物語は集大成から完結へと向かう流れとなります。

 さて、今回の「皆殺し編」の世界ですが、これまでのような暴走や殺人などの悲惨な事件は起こらず、みんながみんなよい方向へと進んでいる、梨花にとっては奇跡のような世界でした。疑心暗鬼に囚われて凶行へと向かうような人物は見当たらず、みんな仲良く暮らしている。その様子を見て、梨花は信じられない思いに捕らわれつつも喜び、今度こそハッピーエンドを迎えて、この悲劇の繰り返しの世界から解放されると思ったのですが・・・。


・全員が一致協力して沙都子を救うエピソードは感涙もの。
 しかし、そんな幸運に見舞われた梨花の下に、唯一とも言える恐るべき事態が待っていました。共に暮らす親友である沙都子の叔父・鉄平が帰ってきたのです。
 過去の物語でも、この鉄平は極悪なチンピラとして登場し、特に「崇殺し編」では、沙都子を執拗に虐待し続け、それに怒った主人公の圭一が暴走し、この鉄平を虐殺するという最悪の結末を迎えてしまいます。沙都子を救おうと思い詰めた圭一は、他には誰も助けになる者はいないと思い込み、自分一人だけで暴力的な解決を求めてしまったのです。

 この「皆殺し編」でも、当初はまったく同じような経過を見せます。帰ってきた鉄平によってひどい虐待を受ける沙都子。しかし、梨花はそれを知っても何も出来ない。彼女の学校での仲間たちも、当初は誰もが戸惑い、ついには詩音が暴走して鉄平を殺そうといきがるなど、不穏な空気に包まれます。
 しかし、そんな詩音を身体を張って止めたのは、かつて「崇殺し編」で暴走した圭一でした。今度は、圭一自らが、皆を説得して最善の策を取るべく先頭に立って動き出すのです。中々動こうとしないお役所仕事の児童相談所に押しかけて必死に説得を行い、一度ではダメだとなると今度は沢山の仲間を募って押し出し、やがては雛見沢の大人たちまで巻き込んで、さらにさらに大きなアクションを起こしていきます。ついには、最後までかたくなだった雛見沢の支配者・園崎お魎の心まで動かし、彼女の支援を正式に受けたことで、ついには役所を動かして沙都子救出の対応を取らせることに成功するのです。この圭一の一連の行動は、今までのシリーズで散々見られた暴走行為とは異なり、明るく正々堂々と行動して勝利を勝ち取った行為であり、見ていてどこまでも熱く、そしてすがすがしい名エピソードとなっています。

 そして、最後に、鉄平の下に監禁状態だった沙都子の決意のシーンも熱い。今までは、ひたすら耐えることが一年前に失踪した兄への罪滅ぼしになると考え、虐待から逃れようとしませんでした。しかし、そこで電話口での梨花の必死の説得に心動かされ、ついに勇気を振り絞って鉄平から助けてほしいと訴えるのです。このシーンは、今まではひたすら沙都子が虐待に耐えるだけだった陰惨な展開が、一気に反転して鉄平に力強く明るく抵抗する様が非常に爽快で、こちらも屈指の名シーンだと言えるでしょう。

 このエピソードの大きなテーマとなっているのが、「一人で悩まず、周囲の人たちに積極的に相談する、助けを求める」ということです。これは、この「ひぐらし」シリーズ全般に渡る最大のテーマの一つとなっています。今までは、一人で悩んだ挙句に暴走して悲惨な最期を迎えていたキャラクターたちが、周囲の人に相談することできちんとした打開策を見い出す。これは、以前のシリーズでも何回か見られた光景ですが、この「皆殺し編」のそれが最も大規模なエピソードであり、ここがこのひぐらしのテーマを最も強く表現した箇所となっています。


・結末が悲劇に終わったことで、完結編へとつながっていく。
 こうして、沙都子の救出という最難のミッションを乗り越えた梨花たちですが、これで懸念される材料はすべてなくなり、あとはハッピーエンドへと向かうものだとばかり思われました。しかし、そんな梨花たちの前に、まさかの人物が黒幕として登場し、凶悪な敵として立ちはだかり、仲間たちの努力の甲斐もなく、あと一歩のところですべての希望は潰え、梨花も含めてまさにタイトル通り「皆殺し」にされることになってしまいます。あらゆる障害がなくなり、誰もが幸せな結末を迎えるであろうと思っていただけに、この結末は非常に衝撃的なものとなっています。

 しかし、最後の最後で最悪のバッドエンドで終わってしまったこの物語が、次の完結編である「祭囃し編」へとつながっているのです。今回はあと一歩のところでバッドエンドで終わってしまったが、次の完結編では、今度こそ最後の難関を打ち破って、ハッピーエンドとなるに違いない。そんな思いを読者に抱かせる結末となっているのです。あるいは、この「皆殺し編」と次の「祭囃し編」が、2つで表裏一体となっているとも考えられ、実際に「祭囃し編」は、この「皆殺し編」の結末がハッピーエンドになったものとも言えるような構造となっています。

 ただ、「祭囃し編」には、「皆殺し編」にはない大きな特徴があります。それは、「皆殺し編」では語られることのなかった、「悪役」側のストーリーが詳細に語られること。あるいは、今まではあまり語られなかった「脇役」にあたるキャラクターにも大きくスポットが当たることになっています。「皆殺し編」で主人公側の活躍を力強く語り、そして「祭囃し編」では、悪役や脇役にスポットを当てて詳しく語る。この点でも、このふたつの編が対になっていることがよく分かります。

 このような点を見ても、この「皆殺し編」が、完結編である「祭囃し編」と同等なほど重要な一編であることがよく分かります。これまでのひぐらしの集大成的な章にして、完結編と表裏一体となる重要な一編。この物語を、ここに来て抜擢された新しい作画担当の桃山さんが、ここまで描き切ったことで、スクエニによるひぐらしのコミカライズは、最後の最後まで成功を貫くものとなったのです。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります