<まいんどりーむ>

2005・5・28

 「まいんどりーむ」は、1998年にガンガンWINGで掲載された藤野もやむの連載作品です。作者の初連載作品であり、完全な新人の作品でありながら、連載最初期から高い人気を獲得し、一躍雑誌の中でも中核的な存在に成長します。わずか4話(+α)で完結した短期のシリーズ連載でしたが、その極めて高い人気を受けて、直後に同誌で長期連載作品(「ナイトメア・チルドレン」)の掲載を開始するなど、その後の藤野もやむの原点となった作品として、非常に重要な作品と言えます。

 「まいんどりーむ」が連載された当時のガンガンWINGは、新人作家の読み切り雑誌から、通常のマンガ雑誌へと新装刊(新創刊ではない)したばかりの時代でした。そんな中で、この作品は、新スタートを切ったWINGの中でも最も面白かった新人作品として、鮮烈な印象を残しました。デビュー当時の藤野さんはなんと15歳ということで、その点でも驚きでした。新装刊したWINGは、浅野りんや箱田真紀、桜野みねねといったエニックスの既存人気作家の連載を中核として始まったのですが、それらの連載と比べてもこのマンガは全く見劣りせず、以後の藤野さんはガンガンWINGで看板作家として活躍することになります。

 なお、このマンガは、読み切りで掲載された「すとれんじどりーむ」という作品が原点であり、このマンガがほぼそのままの内容で連載化されました。コミックスでも「まいんどりーむ」に先行する形で、「すとれんじどりーむ」が最初のページに収録されています。実質的には、この「すとれんじどりーむ」が、「まいんどりーむ」の第1話だと考えてもよいでしょう。なお、この読み切りは、新装刊される直前のガンガンWING(当時は新人のための読み切り雑誌)で掲載されており、そこでの新人が新装刊後のガンガンWINGに継承された形となっています。


・重いテーマと心理描写が最大の魅力。
 「まいんどりーむ」は、人間の夢の世界を舞台とした、ファンタジー要素の強い作品です。主人公は、夢の世界の案内人のミリートという女の子。人は、夢の世界で「扉」を見つけることで現実の世界に戻り、夢から覚めることが出来ます。しかし、何か大きな悩みを抱えている人は、それが夢の世界で障害となって立ちはだかり、自分の扉を見つけることが出来なくなります。そんな人の元へ現れて、一緒に扉探しの手伝いをしてくれるのがミリートなのです。

 このように、幻想的なファンタジー要素の強い作品でありながら、そのテーマ、ストーリーは重くシビアです。自分自身の持つ深い悩みが相手ですから、ミリートの助けを借りつつも、結局は自身の心で解決して扉を見つけなくてはならない。中には、非常に重く絶望的ともとれる深い悩みを抱え、ぎりぎりまで追い詰められながらようやく夢の世界から脱出するという話もありました。
 そして、このような重い話を、わずか15歳の新人作家が執筆したということが非常な驚きでした。このような、人の心の闇を正面から見据えた重厚な話を志向するというのは、15歳という若い年代ではかなり珍しいことだと思いました。当時のエニックスに集まった新人作家の中でも、若いながら最も実力派の作家だったと言えるでしょう。

 とはいえ、このマンガはわずか4話(+いくつかの番外編)で連載終了を迎え、いわゆるシリーズ連載で終了してしまったのが少々残念でした。最後の第4話は、単なる扉探しの話ではなく、夢の案内人であるミリートの存在意義をも問う話で、連載の最後を飾るにふさわしいものでした。


・夢を舞台にした幻想的で優しいイメージ。
 しかし、このマンガは単に重いだけの作品ではありません。むしろ、作品から受ける雰囲気は、夢の世界の幻想的な光景と、藤野さん自身の中性的な優しい絵柄によって、とても心地よい印象を受けるのです。むしろ、このほんわかとした雰囲気の絵柄と世界観が、このマンガのもうひとつの魅力といっても過言ではありません。この優しい絵柄は、当時の読者にも非常に好評であり、このあたりでも高い人気を集めました。のちに、コミックス発売の時に、いきなり売り切れてどこにも見当たらないほど売れてしまったのも(後述)、この絵柄から来るイメージの良さも大いに関係しているのでしょう。

 ただ、当時の藤野さんは、まだ新人としてデビューしたばかりの頃で、絵的に拙い部分が多かったのは残念なところです。キャラクター・背景ともに、まだまだ描き切れていないところが散見され、やや粗雑な印象を受けます。加えて、この当時の絵柄は、先行する人気作家(夜麻みゆき)の影響を強く残しており、オリジナリティの点でも今一歩のところもあります。ただ、これは、先行する読み切り作品だった「すとれんじどりーむ」でのみ特に顕著であり、その後の「まいんどりーむ」の連載では改善されていっており、作者の成長が窺える内容にもなっています。


・キャラクターの魅力が素晴らしい。
 そして、このマンガの最大の魅力は、なんといっても「萌え」。藤野さんの描く小さな女の子はとんでもなくかわいいのです。特に、主人公のミリートは素晴らしい。大きな杖を振り回して戦う姿に特に萌えです(笑)。当時アニメ放映されていた某カードキャプターを思い出した人も多かったようですね。そして、作者の最初期のマンガでありながら、このミリートが最も好きだという人は、いまだに多いようです。このミリートは、藤野もやむ作品では「ナイトメア☆チルドレン」の主人公カカオと並ぶ2大最萌えキャラクターであることは間違いありません。(「あの日見た桜」の大姫や、最近では「はこぶね白書」のフネやみぃ子もあなどれないところですが。)

 さらに、このマンガの第一話のゲストキャラクターである坂下舞子も見逃せません。あまりのかわいさに、最初はミリートではなく舞子の方が主人公だと思ってました(笑)。第一話だけのキャラクターでありながらも非常に人気が高く、ファンサイトのイラストでは頻繁に見かけました。個人的には、その後の話でも登場させてほしかったくらいです。ベレー帽萌え。


・数ある短編連載の中でも、珠玉の作品のひとつ。
 このように、この「まいんどりーむ」は、人間の心の悩みを見据えた本格的なストーリー、夢の世界を描いた幻想的で優しい雰囲気と絵柄、そしてかわいいキャラクターの魅力と、どれを取っても素晴らしく、わずか4話という短い連載で終わったにも関わらず、藤野もやむの初連載作品として鮮烈な印象を残しました。

 わずか4話で終了ということで、単行本も一巻のみで完結でした。エニックスでは、新連載の第一巻や、もしくは一巻での完結作品は、発行部数がかなり少ないのが通例なのですが、この「まいんどりーむ」はあまりにも大評判・大人気だったため、発行部数が少なすぎて瞬く間に書店から消えてしまい、一部のエニックスファンの間で「『まいんどりーむ』がどこに行ってもない」という騒ぎを引き起こました。単行本の発売が、他のエニックス作品とはずれており(当時のエニックスコミックは、発売が3月と9月に集中していましたが、「まいんどりーむ」は4月発売でした)、その月の発売コミックが非常に少なかったこともあって、この「まいんどりーむ」に人気が集中したことも一因です。

 しかし、そんな事情以上に、藤野もやむさんの作風が、中性的なマンガを好むエニックス読者にとっては最高に魅力的なものだったことが最大の理由でした。実際、この藤野さんは、当時から非常にコアな人気を獲得し、エニックスのイメージを象徴する作家になった感もありました。そして、この「まいんどりーむ」の連載に前後して、エニックスコミックは全盛時代に入り、その後も様々な連載マンガで、単行本一巻が瞬く間になくなるというケースが、よく見られるようになります。しかし、その中でも、この「まいんどりーむ」の圧倒的な人気が、やはり最も強く印象に残っており、それがのちのエニックスの全盛期の先駆けとなった感もありました。かつての、古き良き時代のエニックスを象徴する作品だったと言えるでしょう。


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