<トンネル抜けたら三宅坂>

2004・6・20
全面的に改訂・画像追加2006・9・7

 「トンネル抜けたら三宅坂」は、かの伝説の廃刊雑誌「コミックバウンド」の連載マンガで、(当時は)無名の新人作家が作画担当に当たったにもかかわらず、当初からかなりの人気と注目を集めた作品です。その作家とは、原作担当の方は森高夕次(コージィ城倉)で、こちらの作家は、青年誌で原作を担当した「おさなづま」や、のちに週刊少年マガジンで連載した「おれはキャプテン」などの作品で、かなり名の知れたベテラン作家なのですが、作画担当の方が藤代健という、これがデビュー作となる無名の新人作家を起用した点が大きな特徴です。

 この藤代健、のちにスクエニの中心雑誌である少年ガンガンで「ながされて藍蘭島」を連載開始し、これが大きな人気を呼ぶことになるのですが、この「トンネル抜けたら三宅坂」に関しては、コミックバウンドが早々と廃刊したことが大きく、ほとんどの人に知られないままで消え去ってしまった感があります。雑誌連載中はかなりの人気と評価を得ていたのですが、廃刊されるや否やあっという間に話題は消えてしまいました。このページでは、この消え去った名作である「三宅坂」のスバラシイ魅力を徹底的に紹介していきたいと思います。


・コミックバウンドでほぼ唯一の生え抜き新人。
 「コミックバウンド」は、かつて2000年9月にエニックスより新創刊された青年誌です。しかし、創刊直後のわずか5号にしていきなり廃刊となってしまい、その早すぎる廃刊には多数の失笑の声が聞かれました。コミックバウンドは、一部には独特の連載ラインナップを評価する声もありましたが、それ以上に、あまりにもアクの強い、「下品」と言い切ってもよい誌面構成は、多くの読者にとっては(特に穏やかな内容を期待するエニックス系読者にとっては)あまりにも抵抗の強いもので、大きな人気が出ないのも明白でした。そんな雑誌だったがゆえに、廃刊になった時も、「この内容なら仕方ない、当然」と考える読者が多かったのも頷けます。

 しかし、そのコミックバウンドの中で、新人の作品ながらもかなりの評価を集めたものがありました。それがこの「トンネル抜けたら三宅坂」です。
 そもそも、コミックバウンドという雑誌は、外部から引っ張ってきた大物作家による目玉企画が中心の雑誌でした。まず、あの福井晴敏原作の大ヒット小説のコミック化「亡国のイージス」、ピエール瀧+漫☆画太郎という異色のコラボレーションが話題を呼んだ「虐殺!ハートフルカンパニー」、編集王で有名な土田世紀による「吉祥寺モホ面」あたりが目玉タイトルで、それ以外にもみやすのんきや太田垣康男のマンガもありました。一方で、エニックスからの生え抜き作家の作品は非常に少なく、せいぜい金田一蓮十郎とくぼたまことの連載がある程度でした。そんな誌面の中で、エニックスからの新人による作品となると、もうこの「三宅坂」がほぼ唯一の作品となるのです。

 もちろん、原作の森高夕次の方は、他誌で活躍していた作家なので、純粋に新人なのは作画担当の藤代健のみに過ぎません。しかし、このマンガは、その作画担当のカラーがかなり強く出た内容となっており、雑誌の他のマンガとは異質の印象がありました。そして、そんなほぼ唯一の新人作品を応援したいという編集部の意図もあったのか、連載当初から雑誌前半の早い順の掲載で、かなり強く推されていた感もありました。そして、それに応えて肝心の内容も実に面白いもので、唯一の生え抜き新人作品としてとても優秀だったと記憶しています。このマンガが無ければ、バウンドという雑誌をエニックスから出した意味はなかったかもしれません。


・藤代健の「異質な」絵柄。
 まず、このマンガを雑誌で読むと、誰もがあることに気づきます。それは、このマンガの絵柄だけが、雑誌の他のマンガの絵とは明らかに方向性が異なること。
 コミックバウンドという雑誌は、青年誌の中でも特にアクの強いラインナップが並んでおり、絵柄的にも非常に濃い、劇画調の絵の作品が大半を占めていました。しかし、この藤代健の作品だけは、なにか劇画調とは異なるライト感覚の絵柄で、しかも中性的な萌え系の作風まで感じられ、雑誌の中では明らかに異質でした。いや、これは従来のエニックス作品の中では異質ではありません。むしろ、そのような中性的な作風は、従来のエニックス系雑誌の中ではむしろ主流であって、別に異質でもなんでもない絵柄なのです。

 しかし、この「コミックバウンド」という雑誌は違いました。この雑誌は、それまでのエニックス雑誌とは方向性が全く異なる雑誌で、下品とも言えるほどアクの強い誌面が最大の特徴でした。おそらく、大半の女性読者にはまともに読めないほど抵抗が強いもので、男性読者ですら、ともすれば不快感を感じるような作風のマンガばかりでした。そんな中で、この「三宅坂」のライト感覚で中性的な絵柄はあまりにも異質であって、「なんでこの雑誌の中にひとつだけエニックスっぽいマンガが混じってるの?」と、当時は非常に不思議に思ったものでした。
 そして、従来のエニックス雑誌のファンだったわたしにとっても、このマンガの絵柄は大変親しみやすいもので、あまりにも不快感の強い誌面の中で、一服の清涼剤のように思って読みことができました。とにかく女の子がかわいい。一言で言えば萌え系の絵柄なわけですが、このコミックバウンドの中で、およそ萌えを感じることの出来たのは、このマンガだけでした。その点でもこの雑誌の中では極めて異質だったと言えます。

 そして、このマンガの絵柄に好感を持ったわたしは、「この絵ならば、エニックスのほかの雑誌でやっていけるんじゃないか」と密かに思っていたのですが、のちにそれは見事に現実のものとなります(笑)。そう、少年ガンガン連載の「ながされて藍蘭島」です。そして、このマンガの方は見事にヒットするわけですが、その一方で、この「トンネル抜けたら三宅坂」の存在は完全に忘れられ、ほとんど知る人もいない状況になっています。


・絵柄とは正反対の過激すぎる内容。
 しかし、そのようなライト感覚の絵柄とは正反対に、このマンガの内容は非常に過激です。
 このマンガの内容とはどんなものか。それは、常人の10倍の性欲を持つ小学生・三宅坂登(みやけざかのぼる)が、ひたすらエロ行為を繰り返して暴走しまくるという、それだけの内容です。エロい主人公が暴走するエロマンガなど、枚挙に暇がありませんが、このマンガの場合、「主人公が小学生」というのが最大のポイントです。「小学生がエロ全開」というギャップが、実はとてつもなく面白い。このオリジナリティ溢れる設定こそが、このマンガ最大の肝だと言えるでしょう。


 まず、この小学生は、とりあえず朝っぱらからパンツ一丁で仁王勃ち、そのまま黒パン一丁で街中を走り回り、車の中に寝そべって潜入するという異常行為。もうこの時点で完全な変態です。

 そして、もちろんそれだけではなく、数々のエロ・変態行為を繰り広げます。
 同級生の女の子の笛につばをつけ、ブルマや上履きの匂いを嗅ぎまくり、挙句の果てにパンツ一丁で襲い掛かり、もちろんエロ本を学校で読みまくり、自分の部屋では日々エロマンガを描きまくり、ついには変装してエロビデオを借りて家で大興奮と、もはややりたい放題です。この畳み掛けるかのようなエロ行為の連発が非常に小気味いい。

 特に笑えるのが、自分のエロ本を盗み見た同級生の女の子を責めまくり、恥ずかしいエロ用語の意味を言えと迫りまくり、挙句の果てに朝っぱらから「シックスナインは!」「フィストファックは!」「クンニリングスはーー!」「Gスポットって何だーー??」などと大絶叫しまくる有り様。このバカバカしさはもう必見だと言えるでしょう。

 総じて、エロギャグの連発でどんどんマンガのテンションがエスカレートして盛り上がっていくところが、このマンガの最大の売りです。原作者の森高夕次さんは、他の作品でも、このようにひたすら際限なく盛り上がっていく作風が見られるのですが、その原作者の持ち味がこの作品でも存分に表れています。はっきりいって、ここまでギャグ連発で盛り上がると、読んでいて非常に気持ちいいですね。このカタルシスは実際に読んでみないと分かりません。これ以上ないほど際限なく大爆笑できるマンガなのです。


・美女木先生との攻防。
 そんな三宅坂の行動の中でも特に面白いのが、担任の美人教師である美女木先生(美女木光子)との激しい攻防でしょう。
 性欲全開の三宅坂は、同級生の女の子では満足できず、抜群の胸を持つ美女木先生に目を付け、学校の更衣室に忍び込んで着替えをのぞくのですが、実は彼女の胸は貧乳でブラジャーに詰め物をしていただけという事実に驚愕して挙句の果てに大激怒、彼女の婚約者が胸に注目していることに目を付けて「結婚サギ」呼ばわりの上、世にはびこる不正が許せんとばかりに激怒の胸揉み行為を行い、最後には「この詰め物がッ───!!」の大絶叫。このバカバカしさは本当に必見です。


・代官町との攻防も熱い。
 そして、美女木先生の婚約者にして、大手AVプロダクションの御曹司である代官町芳樹との攻防も見逃せません。
 美女木先生が詰め物であることを知った三宅坂は、それをネタに婚約者の代官町を脅しにかかり、その秘密を知りたければAVの撮影現場を見せろと交渉を持ちかけます。そして、その攻防の最中に、代官町が浜崎橋栗子というAV女優とデートしていた現場に遭遇し、初対面のAV女優にいきなり「潮吹く人?」とこの質問。この小学生、もはやただものではありません。
 その後、今度は代官町が浜崎橋栗子とデートしていたことを脅しのネタに、またしてもAVの撮影現場を見せろと強要します。そして今度こそ代官町を屈服させ、見事にAVの撮影現場へと到達するのですが、そこで意外な出来事が起こります。


・なぜか大の犬好き。
 しかし、その撮影現場に犬(ポメラニアン)がいたことで事態は一変します。
 実は、三宅坂は、これだけの性欲全開の変態でありながら、なぜか無類の犬好きで、特にポメラニアンには目が無い小学生だったのです。このあたりのギャップがまた最高で、「ポ、ポメラニアン・・・」とかつぶやいて犬を愛でる様がひどく笑えるのです。こんなマンガが他にあったでしょうか?
 そして、これが単なるギャグの一要素としてだけでなく、実は面白い効果を生んでいます。このマンガは、エロネタがメインの過激なギャグが信条で、人によってはあまりにも過激な作風についていけず、不快感・嫌悪感を覚える人も出てくるような作風です。しかし、ここで「実は大の犬好きという、小学生らしい純真な側面」を見せることで、マンガの過激さが和らげられ、バランスのよい作風となっているのです。ここまで変態的で凶悪な悪行の限りを尽くす小学生が、時にかわいらしい一面を見せることで、ほっと安心できる読者もいるのではないでしょうか。


・実はバランスのよい良作だ。
 そう、実はこのマンガは、実にバランスの取れた極めて優秀な作品なのです。ただ単にエロネタ全開の過激ギャグだけではここまで人気は出ません。
 もちろん、作中で最も面白いのが、凶悪小学生・三宅坂の過激エロギャグであることは間違いありません。この畳み掛けるようなギャグの連発で徹底的に盛り上げる作風はすばらしいの一言です。しかし、それと同時に、過激なネタばかりを求める読者だけでなく、意外にも多くの読者に読まれるであろうバランスの良さも感じられるのです。

 まず、主人公以外のキャラクターが、みな「いい人」であること。主人公の三宅坂だけは、悪行の限りを尽くす変態小学生なのですが、その周りを固める人々は、どれもみな常識的で良心的な人ばかりで、三宅坂の暴走の歯止めをする役目を果たしているのです。そのために、これだけの過激なネタでありながら、そればかりを肯定する話にはなっておらず、作中で適度な良心が保たれています。
 そして、三宅坂自身も、「実は大の犬好き」という、小学生らしい純真な側面を持っていることも大きい。先ほども記述したとおり、これが作品のバランスを保つ大きな役割を果たしています。

 それに加えて、何といっても藤代健のライト感覚のとっつきやすい絵柄が大きいですね。ポップでキャラクターにかわいらしさを感じる絵柄であるからこそ、過激な内容にもかかわらずカラッと明るい雰囲気になっています。これが、エロを強調するような濃い青年誌調の絵柄だったならば、作品から受ける印象は大きく変わったのではないでしょうか。

 そう、このマンガは、決してエロばかりを強調した「エロマンガ」ではありません。むしろ、「エロをネタにした過激ギャグマンガ」といったところが正しい認識で、しかも、その過激すぎるギャグを中和するような要素も適所に取り込まれており、実はバランスのよい作風に落ち着いているのです。このあたり、原作者の森高夕次のストーリー作りのうまさが感じられると同時に、作画担当の藤代健の絵柄も存分に活きていることが大きい。このふたりを選んだ企画自体が成功だったと言えます。


・なんとしてもこのマンガをコミックス化すべきだ。
 以上のように、過激なエロ全開のネタという読者を選ぶモチーフでありながら、実はギャグの圧倒的な面白さとバランスの良い構成で、コミックバウンドの連載陣の中でも、かなりの良作だったと記憶しています。実際に人気も高かったようで、常時雑誌の中でかなり早い掲載位置を確保しており、最終号となる5号ではついに巻頭カラーを獲得する人気ぶり。ネット上のデビューを見渡しても軒並み高評価ばかりで、「このマンガだけは終わらせたくなかった」という声が各所で聞かれました。
 そして、わたし自身もこのマンガを高く評価しています。とにかく何度読んでも面白い、笑える。エロはあくまでネタの一環であり、純粋にギャグマンガとして最高に面白い。わたしは、「D線上のアリス」や「みかにハラスメント」のようなエロメインの作品は決して評価していませんが、この「トンネル抜けたら三宅坂」については、惜しげもなく評価いたします。これは本当にいい。

 しかし、これだけの面白いマンガでありながら、雑誌がわずか5号で廃刊となったことでそのまま打ち切りとなり、中途半端に話数も溜まらないうちに中断されたことで、いまだにコミックス化すらされていません。こんな面白いマンガをコミックス化しないとは、あまりにももったいない。なんでも、原作者の森高氏によれば、廃刊された時点でまだまだ話のストックを持っていたようで、それを加筆すればコミックス化するだけの分量を確保することは難しくないのでは、と思います。
 そして、作画担当者が「ながされて藍蘭島」でヒットを飛ばしているのも、コミックス化に際しての好条件です。「あの『藍蘭島』の作者の幻のデビュー作」「これがあの藤代健の黒歴史」として大々的にキャッチコピーを押し出せば、かなりの注目が集まるのではないでしょうか? そして、内容的にもエロ全開の大爆笑ギャグに仕上がっており、その手のオタクには絶対に受けると保証できる代物です。はっきりいって、このマンガならば「ユリア100式」に勝てる。そして、もちろんスクエニ内では「みかにハラスメント」ともタメをはり、あるいはそれ以上にヒットも期待できる作品だと思われます。これこそが、今のスクエニで最もコミックス化が待たれる作品なのではないでしょうか?

 トンネル抜けたら三宅坂・復刊リクエスト投票


 あと、すごくどうでもいい話ですが、このマンガのキャラクター名は、ほとんどが東京の地名から採られています。三宅坂・美女木・代官町・浜崎橋と、ジャンクションやインターチェンジの名前ですかね。


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